表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
82/110

8

 結論から言うと瑠璃の案内は必要無かった。というのも私たちを呼びに来た人がそのまま案内してくれたから。そして連れて来られた広間が先程の広間とは違う部屋だったから。全部広間で呼び方を統一しているのだろうか。不便じゃなかろうか。松の間とか梅の間とか料亭みたいに部屋ごとに呼び方を変えれば良いのに。まあ、その家のことに関して部外者が余計な口出しをするべきではないか。


「よ、妃芽ちゃん。さっきは悪かったな。部屋はどうだった?」

「あ、うん。ホテルみたいにキレイだったよ」


 案内された部屋は畳に絨毯が敷かれ、その上に六人くらいが着けそうなダイニングテーブルが設置されていた。広々とした机の上には料亭で出てきそうな会席料理がずらりと並ぶ。だと言うのに椅子は二つだけ、その内の一つはハルちゃんが座っていて彼の目の前の席が一つだけ空いている。そして席が空いているのにハルちゃんの後ろに居る土岐さんは座ろうとすらしていない。

 状況的に私の席なのだろう。さっき木立さんが鬼の分の座布団を用意するのを嫌がっていたし、実際私の座布団を事前に用意していたのに鬼の分の座布団があの場には用意されていなかったし、そもそも鬼は食事が必須じゃないし。いや、確かに空腹なんだけども。どうしてもここに座らないとダメ?なんなら部屋でカップ麺とかで良いんだけど。


「気に入ったならよかった。服とかはいくつか適当に見繕って後で部屋に持って行かせるから、好きなの選んでくれや。ずっと制服のままだと肩凝るだろ?」

「ほんと、何から何まですみません」

「気にするなって。黎明の剣を貰った俺としてはこれでも釣りが足りないくらいだ」

「ハルちゃんの中で黎明の剣の比重重すぎじゃない??流石にちょっと心配になる」

「心配してくれてありがと、めちゃくちゃ嬉しい。取りあえず話は飯食いながらにしようぜ」


 そう言いながらハルちゃんが自分の目の前の席を私に勧めてくる。やっぱりそこ、私の席か。正直気は進まないけど変にごねるとさっき木立さんが怒った時みたいに気まずい思いをすることになるかもしれない。それは避けたい。

 私が渋々席に着くとハルちゃんが後ろに居る土岐さんから何かを受け取りそれをそのまま私へと差し出してくる。


「忘れねえ内に渡しとくわ。今言った釣り銭の代わりだと思ってくれ」


 手渡されたのは通帳、私名義になっている。しかし私は全く知らない口座である。

 一体何の通帳だろうと中を開いてみて、見たことないゼロの多さにすぐに通帳を閉じた。


「は、ハルちゃん、待って、何このお金?!」

「いやだから、釣り銭の代わり」

「お釣りって額じゃないから!金額間違ってない?!」

「間違ってねえよ、あってるあってる。元々繧繝衆は土地柄から鬼を使役するのが難しいから管轄内の鬼使いには金を出すシステムになってんの。妃芽ちゃんは割とえぐい鬼を二体も連れているし、黎明の剣のことも考えるとそれでも安いくらいだって」

「そこに黎明の剣を混ぜないで。話がややこしくなる」

「具体的に言うとゼロが一個足りないくらいだと思ってる」

「いや十分だよ、十分過ぎるくらいだよ、なんなら過剰だよ。金銭感覚が違い過ぎて怖い」


 どうしよう、親に説明できない大金を手に入れてしまった。もっとお年玉レベルの小金だったら素直に喜べるのに、ここまで大きい金額だと恐怖しかない。

 通帳は一旦脇に置いておこう、というかあまり当てにしない方が良いかもしれない。このお金に頼ると言うことはハルちゃんに私の生活の主導権を握らせるのと同じことだ。あくまでハルちゃんは暫定的な味方であり、彼が何を考えて守護四役とやらを裏切ってまで助けてくれたのか、そこの意図が見えないことには全幅の信頼を寄せるようなことは避けるべきだろう。ハルちゃんとはゲーム上では大切なフレンドだけど現実では両親と二人の鬼の方が大切だ、害が及ぶようならどうにか逃げ出す算段を立てないといけなくなる。


「渡すもんも渡したし、飯食おうぜ。妃芽ちゃんの好物とか分からねえから取りあえず適当に作らせたけど、好物とか逆に嫌いな物や食えない物があったら遠慮なく言ってくれ」

「いえ、大丈夫です、お構いなく。いただきます」


 取りあえず箸を取って食事を始める、だが味がしない。いや、正確に言えば味はしているのだけども。その味がとても上品な味付けで美味しいと言うこともわかるのだけど。緊張とか警戒とか許容量を超えた待遇のせいで頭が混乱していて料亭で出るような料理の数々を心から美味しいと感じることが出来ない。カップ麺か安価なお菓子を食べたい。


「黎明の剣も貰ってこっちも渡すもの渡したし、妃芽ちゃん向けのチュートリアルといこうか。まずは何から聞きたい?俺に答えられる内容なら答えるぜ。妃芽ちゃんにならスリーサイズでも教えちゃう」

「どうしよう、ハルちゃんのスリーサイズとか死ぬほど興味無い」

「妃芽ちゃん妃芽ちゃん、本音が声に出ちゃってる」


 瓶ビールを手酌で注ぐハルちゃんを視界に入れながら質問の内容を考える。

 聞きたいことは沢山ある。繧繝衆のこと、守護四役のこと、金城さんが何で私たちを狙って来たのか、ハルちゃんが何で助けてくれたのか、これからどうなるのか、そもそも鬼ってなんなのか。

 聞きたいことが沢山ある中で取りあえず私は、


「ハルちゃんはどうやって私が麦茶だって特定したの?」


 一番自分に身近なところから聞くことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ