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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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 ハルちゃんが呼びつけたパトカーに乗せられやって来たのは川を越えた先にある警察署。


 担当の警察の人に案内されて署内を進んでいくと会議室みたいな場所に通された。訳も分からないままその部屋に入ると中に居たのは私の両親だった。

 何故私の親がこんなところに居るのだろう。父はまだ仕事中のはずで、母も今日はパート勤務のはずである。二人とも警察署にいるはずが無い。

 母は私を見るなり駆け寄って力一杯抱きしめてきて、父は私と母の背中をさすりながらもう大丈夫だと大丈夫そうではない顔で元気付けてくる。状況に一切付いて行けずに置いてけぼりを食らっている私に、案内してくれた警察の人が今の状況を説明してくれた。


 曰わく、私の腹を切り付け瀕死の重傷を負わせた犯人に目星がついたらしい。その人物は一般人の私でも名前くらいは聞いたことがあるようなヤバい反政府組織と関わりがあるらしく警察であっても容易に手が出せないでいるそうだ。

 そしてなんと、犯人は私に顔を見られたと思い込んでいるらしく再び命を狙ってくる可能性が高いらしい。

 更には私が家族に事件の詳細を話したことを危惧して一家揃って消してしまうつもりらしい!


 いやいや、そんなバカな話があるわけが無い。


 だって犯人は私の家族を消すどころか、家庭が消灯した後もリビングで寛ぎながら堂々とテレビを占領しているんですよ?その犯人とは毎日顔を合わせてドラマの感想を聞いてたまにお握りを与えるくらいには親密なんですよ?

 犯人が鬼である以上、真面目に捜査してくれている警察の方々には申し訳ないがこの件に関して反政府組織が入る余地なんてないのである。


「反政府組織って…そんな、ドラマじゃあるまいし大袈裟な…」


 苦笑いしながらそう言った瞬間、両親に物凄い剣幕で叱られた。

 笑い事じゃない、大袈裟じゃない、腹を切られた本人なのに危機感が無さすぎる、次こそ殺されるかもしれない、その時自分たちが側に居るかどうかも分からない、何かあっても代わってやれないんだ、考えるのが嫌でも最悪の状況を想定しろ、人の話を真剣に聞く癖をつけろ、そんなんだから最近成績が下がったんだ、もっとゲームを控えろ。そういった類の内容で三十分ほど怒られた。

 結論。私の身柄は親元から離されて警察関係者の庇護の元で安全を確保することとなった。両親も念のため警察署の近辺にある父方の実家に身を寄せるらしい。


 そして今、再度パトカーで護送されて当該の警察関係者のお宅へとやって来た。私はてっきりアパートの一室で私生活を監視されながら警察の方と過ごすことになるのかと思っていたのだがどうやら様子が違うようだ。

 私の目の前にあるのは大層立派な門構え、そこから左右に大きく伸びる白塗りの塀。上に瓦が乗っているその塀の高さはコンビニの天井くらいあるので中の様子は見ることが出来ない。しかし塀の大きさから推測できる敷地面積の広さとその造りの立派さからしてかなり裕福な人のお宅だと分かる。


 警察の人、降ろす場所間違えたのではなかろうか。


 どうしよう。お世話になるお宅はこちらの邸宅で本当に合っているのだろうか。って言うか警察の人、私を置いてパトカーごとどこかに行ってしまった。せめてここの住人に挨拶を済ませるまで一緒に居て欲しかった。ただでさえ知らない人の家の呼び鈴を鳴らすのって抵抗があるのに。

 困り果てた私は自分の左右に立っている紅玉と瑠璃をそれぞれ横目で盗み見る、が、二人からの反応がまるで無い。普段であれば紅玉はともかく瑠璃だけでも私の視線に気づきそうなものなのだが、どうにも二人とも警察に行ってから様子がおかしい。

 正確に言うならば警察に行ってからではない、川を渡ると決まってからだ。川を渡ってから二人ともまるで周囲を警戒するようにピリピリとした雰囲気で、こちらに話しかけてこないしこちらから話しかけるのも何だか気が引ける。

 なんにしてもこのままこうして突っ立っていても何も進まないので気は進まないが門の端の方に設置されているインターフォンを押してマイクに向かって話しかける。


「ごめんください、私、如月妃芽と言います。警察の方からこちらにお世話になるように言われてきたのですが…」


 そこまで口に出してから私は、この住宅に住んでいる人の名前すら聞いていなかったことに今更ながら気が付いた。ヤバい、どうしよう。警察の方に一度確認したほうが良いのだろうか。待って、さっきの警察署の電話番号が分からない。取りあえず110番しておけば担当者に繋いでくれるだろうか。でも緊急性の無い内容で110番するなと学校で習ったばかりだし、軽率な110番は警察の方々に迷惑だろうし、でも今まさに危機に直面しているのは事実だし、


『おい、繧繝!まだ話は終わってないぞ!!』

『うるせえな、客だよ客。お前の話はその後だ』


 軽くパニックになりかけている私の耳に聞こえてきたのはスピーカー越しに言い争っているらしい男性二人分の音声。その内の一人の声には聞き覚えがある。この場合、聞き覚えという言葉はあまり適切ではないのかもしれないが。何故ならこの声はつい最近、と言うか今日、初めて聞いたばかりの声だから。


『妃芽ちゃん、悪い。今ちょっと喧しいのが居て手が離せねえんだわ』

『誰が喧しいだ!そもそも、お前が!守護四役を!!』

『そこの入口から中に入って道なりに一番デカい建物まで進んでくれ。俺、今そこに居るから』


 私を『妃芽ちゃん』と呼称する聞き覚えのある声。高校生になった私のことをちゃん付けで呼ぶのは父方の祖母を除くと一名しか該当者が居ない。


 ハルちゃんこと、繧繝こと、日下部実晴。

 私のオンライン上のフレンドであり、暫定的な味方である。

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