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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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 追跡の術が標的を見失ってしまい虱潰しに捜索していた黒金は広範囲に渡る術式が展開されたことに気付いて一度足を止めた。今使われた術は黒金の主、金城がよく用いるもので鬼の術の使用を妨害する術封じだ。霊力からしても金城が術を使ったのは間違いないが、いくら広範囲の術とは言えこの場所から距離が離れている学校で使用してもここまで術が及ぶことは無いはずである。即ち、


「…主が近くまで来ている?」


 金城の一ノ鬼、白金ほどではないが黒金は三区の中でも腕の立つほうだと自負しているし信頼を得ている自信もある。わざわざ自分の増援に来るなど普段の金城であれば考えられない行動と言って良い。ならばこの術を用いたのは増援以外の目的、何か不測の事態が発生したのだろうか。

 その理由を考えようとしたところで黒金は思考を切り替えるように小さく首を振る。


「馬鹿馬鹿しい」


 主人の目的が何であれ自分は下された命令を全うするのみ。優先するべきは如月妃芽の確保、そして伴っていた討伐対象である乙級の処分。変更があれば金城から何かしらの方法で連絡が来るはずだ。変更が無いのであれば自分は追跡を続行するべきである。

 そこまで考えたところで追跡用の札に動きがあった。恐らく今まで追跡を逃れるために妨害をしていたのだろうが、先程の金城の術でそれが出来なくなったのだろう。つまり相手はまだこの近辺に潜んでいるということだ。人間を連れている以上は無理な逃走は出来ないだろうと考え捜索していたが予想通りだったようだ。

 黒金は気を引き締めるように刀を握り直し札の後を追った。


 札に導かれるままに黒金が到着したのはこの地区にある廃校になった小学校のグラウンド。その真ん中に立つ鬼は服装と角からしても如月妃芽と共に逃走した乙級に間違いない。


「遅い」


 冷めた声でそう言い放った乙級の鬼、瑠璃は自身の下に吸い寄せられるかのように飛んできた札を握りつぶし、それをびりびりと裂いていく。無意味な小さな紙片の集まりとなったそれを宙に投げ捨ててから瑠璃は漸く黒金を視界に映した。


「到着が遅すぎる。この札で三枚目だ、一枚目が来てから何分経ったと思っている。お前の到着が遅れたせいで僕が主と共に過ごす時間が削られていくと言うのに、犬侍はその罪の重さも理解出来ないのか?」


 不機嫌を隠そうともしないその表情に黒金は無表情のまま対峙する。


「一つ聞く、白金という鬼を知っているか?」

「さてな、知っていたとしても答える義務は無い」


 黒金は瑠璃の質問に答えずに質問をぶつけ、その不躾な態度ですら瑠璃は興味無さそうにキセルをくわえた。その様子を黒金は冷静に観察しながら構えを取る。

 多くの場合において武器の形状は持ち主である鬼の戦い方を反映している。目の前の鬼の武器はあのキセル、恐らくは術を多用する戦い方をする鬼なのだろう。そして金城の術封じが展開している現状においてその戦い方は不可能、であれば霊力は黒金の方が劣るものの勝算は高い。もともと金城に仕える鬼はこの術の元で戦うことを前提として白兵戦を得意としているので術を使えない術使いに遅れは取らないはずだ。


「守護四役第三席金城が鬼、黒金。参る」


 黒金は踏み込むと同時に瑠璃に切りかかる、次の瞬間。


「ああ、その刀は見覚えがある」


 ふっと、体が宙に浮いた感覚。

 景色が天地逆転し何が起きたのか理解する前に背中に衝撃が走った。


「か、っ…はっ!!」


 急激に肺から空気が押し出されたことにより体がパニックを起こして呼吸の仕方を忘れる。黒金はこの段階になってからようやく自分の体が投げ飛ばされたのだという認識が追いついてくる。


「ひょっとして白金と言うのはこれと似たような刀を持っていなかったか?」


 場違いな質問に答える前に素早く体を起こした黒金は刀が自分の手から離れて敵の手に渡ったことを理解した。


「貴様っ!」

「それならば覚えがある、名前までは記憶していなかったが…」


 瑠璃は話しながら刀を持った感覚を確認するように振ってみせる。そしてまるで世間話でもするような口調で言葉を続けた。


「先日、僕が角を折った鬼で間違いないだろう」

「………は?」


 黒金は言われた言葉の意味が理解出来なかった。

 角を折られる、それは鬼にとって死を意味する。


 白金という鬼は強い。何度か手合わせしたこともあるが黒金が勝てたことは終ぞ無かった。あの鬼が死ぬことどころか負ける姿すら黒金には想像出来ないほどだ。黒金はその強さに憧憬と羨望を抱き、目標にしていた。


「術の扱いはそこそこ上手いくせに接近戦にやたらこだわった戦い方をするから妙だとは思っていたが、なるほど、自分の主人の術中で戦う時の癖か。あれが無ければもう少し良い勝負も出来ただろうに、飼殺されるとは哀れなものだ」


 それをこの目の前の鬼は鼻先で笑い、勝手に評価を下し、哀れんでみせる。瑠璃の全てが白金という鬼を否定し黒金の神経を逆撫でした。


「っ…この、悪鬼が!!」


 冷静さを欠いて感情的になった黒金は全力で土を蹴って拳を振りあげた。一撃目、二撃目を難なく躱され、三撃目を出した腕が掴まれる。そのまま引っ張られて体勢を崩した黒金のがら空きな腹に瑠璃の膝が食い込んだ。


「がっ!!」

「僕には主より賜った名がある、三下風情が不名誉な呼び方をするな」


 骨が砕かれ臓腑が破れる感覚を味わいながら黒金はその場に膝をついて血を吐き出した。その負傷の回復を待たずに、黒金が次の行動をとるよりも先に。


「生憎と無駄な殺生を禁じられているんでね、一応角は残しておいてやる。我が主の恩情に感謝することだ」


 瑠璃は奪った刀で一閃を描き黒金の首を斬り落とす。過度の負傷により回復が追いつかなくなった黒金の意識はそこでぷつりと途絶えた。


 瑠璃は勝利に特別何かを感じることも無く用済みの刀を地面に突き立て、落とした首を軽く足で蹴り意識が無いことを確認する。首と胴が完全に離れていればそれだけ意識の回復も再生も遅くなる。

 万が一の保険として瑠璃は殺さない程度に黒金の角を折った。これで再生は更に遅くなる、今日中の復帰は無理だろう。折った角を握り込んで自らに吸収すると瑠璃は河川敷の方向を見る。


「さて、妃芽の命令だ。忌々しいが紅玉の様子を見に行くか」


 忌々しいと言う言葉の通り心底嫌そうな溜息を吐き出してから、瑠璃はもと来た道を走り出した。

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