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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
57/110

15

 紅玉、と名前を呼ぶより先に、私が振り返るよりも先に、一陣の風が頬を掠めていく。


「はっ!」


 紅玉の小馬鹿にしたような笑いと共に重たい金属音が響いた。多分瑠璃が術を放ち紅玉が弾いたのだろう。轟音に体が硬直していてもそんな予想が冷静に出来てしまう辺りこの鬼たちのやり取りに慣れてきてしまっているようだ。出来れば慣れるよりも先にこのやり取りを止めて欲しいのだけれども。

 そうして硬直している私の脇を瑠璃が大股で通過して轟音が響いた方向へ歩いていく。そちらを振り返れば案の定、目が覚めるような美貌の紅玉がそこに居た。紅玉はその美貌に相応しい堂々としたる笑みを浮かべている。


「主よ、見たか?此奴は今出会い頭から攻撃を仕掛けてきたぞ」


 と、紅玉が言い終わるより早く瑠璃が紅玉の胸倉をがっと掴んだ。


「この無能!愚図がっ!妃芽を危険に晒しておきながらよくも顔を出せたな!」


 先ほどまでと違う瑠璃の物凄い剣幕に気圧される。この状況に陥っている原因が私か紅玉かでこうも態度が違うのか。ここまで露骨だと流石にどうかと思う。


「ふん、無能は一体どちらだろうな。知って居るのだぞ、貴様が護衛の役割を果たせず他の鬼から襲撃を受けたのであろう?」


 ん?と私は首を傾げる。

 

「なんで紅玉がそのことを知っているの?」


 朝の段階で彼女はいつも通りドラマを見る体勢入っていたはずだ。そう見せかけて実はこっそり後を付けてきていたとか?いや、何故今日に限ってそんなことを。そもそも瑠璃ならともかく紅玉がそんな面倒な真似をするとは思えない。

 すると紅玉は胸倉を掴まれたまま誇らしげに胸を張る。


「儂が守護を主に掛けていたからだ。家を守る結界を元にした術で術や鬼は弾くように出来ておる、そしてそれは術者である儂に筒抜けだ」


 鬼を弾くと聞いて校長室で黄金が驚いたような顔で固まっていたことを思い出した。つまりあれは黄金が何かしら私に触ろうとしてその手が弾かれた場面だったのだろう。そして紅玉にはそれが伝わっていたと。


「…でも瑠璃は私に触れたけど?」

「こんな役立たずであっても護衛が触れられなければいざという時困るであろう?だから大層癪ではあったが此奴が書き換えた後の結界を元にしたのだ」


 瑠璃が書き換えた結界?瑠璃が結界を書き換えたことがあっただろうか?

 瑠璃が紅玉の結界に何かしたのなんて最初の一度だけ、結界を消した時だけである。ひょっとしてあれは消したのではなく見えなくなるほど巧妙に隠しただけだったのだろうか。なるほど、それを元にしたのであれば見えなかったのも納得だ。


「僕が役立たずだと?自分が犯した過ちも理解出来ない無能が言ってくれるじゃないか」

「過ち?貴様、過ちと言ったか?主が襲われるという過ちを犯した貴様こそ無能であろうが」

「お前という無能が身の程を弁えず余計なやる気を出したせいで今まさに妃芽が迷惑を被っている。死んで詫びろ、愚図」

「瑠璃、待った、ストップ。ちょっと状況を整理したいから喧嘩しないで」


 目が据わった状態でキセルをくわえようとする瑠璃を制止し、今後どうするのが一番良いのか頭をひねる。

 まず、戦うのは避けたい。勝つとか負けるとかではなくて私個人の感情の話になるのだけども、瑠璃や紅玉の発言から察するに鬼たちの戦いは命の取り合いが基本だ。そんなところに間接的でも介入するのは出来るだけ最後の手段にしたい。

 じゃあ逃げるのかと言われればそれも無理だ。と言うか紅玉がここに来たことで出来なくなった。彼女がこうしてここに居ると言うことはたとえ結界が維持されていても家の守りが手薄になっていると言うことだ。とても安心して離れられる状態ではない。紅玉を置いていくという選択肢は元々無かったけれど、でも瑠璃よりも地力があるとは言っていたが紅玉にも当然限界はあるのだろうし。今こうして家から離れている状態でも通常よりは力の消耗が激しいのだろうし。

 そこでふと私の頭に疑問が浮かぶ。


「紅玉」

「なんだ、我が主よ」

「紅玉はどうやってここまで来たの?」

「この守護は所在が儂に伝わるようになっておるのでな、よほど遠くまで行かねば居場所は手に取るように分かる」


 瑠璃が舌打ちした。置いていくつもりだったことを隠すつもりも無いようだ。

 

「そうじゃなくて…なんかこう、家の周りに糸みたいな術が無かった?」


 学校で見たあの術は金城さんの仕掛けたもので間違いない。そして私は以前この二人が争った公園で似たようなものを見たことがある。あれも金城さんが仕掛けていたものだとすれば、ここのところほとんど家から出ていない紅玉がうっかり引っ掛かってしまったなんてことも十分あり得てしまう。


「ふん、あの不快で見え透いた術か」


 そう言って一笑に伏した紅玉に安堵する。良かった、紅玉のことだから興味本位でうっかり触ってしまうのではないかと思っていたけどどうやら杞憂だったようだ。


「あんなものに儂が掛かるはず無かろう、片っ端から全て燃やしてくれたからな」


 自信満々に言ってのける紅玉に私は言葉を失う。

 ついさっき、金城さんに会う前、術を消すと言うことは見えていると相手に教えるのと同じことだと瑠璃は言っていた。それは多分燃やしても同じ結果だと思われる。そして家からここまで片っ端から燃やしてきたと言うことはここまでの道のりがそのまま相手に伝わっているはず。


「ぼんくら、無能」

「紅玉の馬鹿」

「何故だ?!」


 不服そうに叫ぶ紅玉を無視して瑠璃がキセルをくわえて警戒態勢を取った。

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