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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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13

 現在逃亡中。何でこんなことに。


 瑠璃に抱きかかえられながら私は頭を抱えていた。

 先程飛び出した校舎は既に遥か遠く視認することすらも難しい。それでも尚、屋上から屋根そして屋根へ、より遠くへと移動しようとする瑠璃が跳躍するたびに浮遊感が体を包み着地のたびに軽い衝撃が襲う。それでも彼は衝撃があまり私に伝わらないように配慮しているらしく移動による不快感はあまり無い。あるのはこれから先の不安ばかりである。


「妃芽、大丈夫かい?脈が速いようだけど」

「全然大丈夫じゃない」

「分かった、落ち着ける場所で少し休もう」


 瑠璃はそこから更に数回跳躍して河川敷へと着地した。あまり見覚えが無い景色からしてもかなり遠くまで来てしまったことだけが分かる。なんということでしょう。仮にこの河川が私の知っている川であれば学校から直線で考えてみても相当距離があるはずだ。

 そして鞄を教室に置いてきてしまっているので所持品はポケットに入っている物、財布に端末、ハンカチ等々の小物のみ。靴は上履きのまま。着の身着のままとはこのことだろう。


「怪我は?」


 そう尋ねながら瑠璃は私の両手を取り、手の甲を確認してから返して掌を確認する。そのまま服の上から右腕を隈なく触って確認して、右腕が終わると今度は左腕を同じように触っていく。


「それは大丈夫、瑠璃がすぐに来てくれたから」


 というか大丈夫と答えないと問答無用で身体チェックが始まりそうな気配がしたので実質返答は一択である。勘弁して欲しい、鬼と違い人間にとって性別は誤差ではない。

 私の返答を聞くと瑠璃は安心したように息を吐き出した。


「心配させないでくれ。駆け付けたら君が余所の鬼に襲われていて僕がどれだけ肝を冷やしたことか…」

「あはは…肝を冷やしたのは私も同じだよ」


 だって瑠璃、開口一番に言ったセリフが『どれを生かしておく?』だったから。余所の鬼と鬼ごっこしていたことを一瞬忘れてしまうくらい吃驚した。咄嗟に逃げることを提案したけれど、もしあの場で誰かを選んでいた時に選ばれなかった人物がどうなってしまっていたのか聞くのが怖い。いや、聞く必要も無いだろう。世の中には知らない方が幸せでいられることが多くあるのだから。


「ありがと、瑠璃。来るのすごく早くてびっくりしちゃった」

「近くで待機していたからね。探知に掛からないように遠回りにはなったけど。そしたら誰かが術を使ったから君の身に何かがあったんじゃないかと思って駆け付けたんだ」


 つまり名前を呼ぶより先に動き出していたということか、道理で早いわけだ。それに近くに待機していたと言えば聞こえは良いが要するに私が何かしらのヘマをやらかすと踏んでいたということだろう。実際にそれで助かったのだし、現在こうして逃げる羽目になっているので私からは文句も言えない。


「何かあった時は手を叩いて知らせるという話だっただろう?どうして手を叩かなかったんだい?」

「ごめん、実際に襲われそうになったらそんな余裕無くって…」


 何か変な音がして振り返ったらいつの間にか黄金がすぐ後ろに立っていて心臓が止まるかと思った。そして振り返った瞬間にばっちり目が合ってしまったので正直もうダメだと思う、見えているのがバレたと思う。だから襲われたのだろうし。むしろあの場で硬直せずにすぐ逃げ出せた私のことを褒めて欲しい。


「はあ……これからどうしよう…」


 川の対岸を眺めながら私は溜息を吐き出した。

 鬼が見えることがバレればそれなりに面倒なことになるとは思っていたけれど、まさかいきなり捕まえようとしたり攻撃してくるような強硬策に出るとは考えていなかった。もし瑠璃が助けに来なかったり来るのが遅れていたら今頃私の体には無数のガラス片が突き刺さっていたことだろう。下手をすれば死んでいたかもしれない。争いごとは避けたいのが本音だが、それでもこれでまだ話し合いの余地があるなんて脳内お花畑なことを言えるほど馬鹿ではないつもりだ。

 じゃあ、戦えるのかという話になるのだけど。正直それも無理だ、出来る気がしない。実際に戦うのは瑠璃や紅玉だとしても彼らに対して戦えと言うだけの度胸すら無い。それが選択出来るのであればそもそも学校から逃げ出したりはしていなかったに違いない。割り切りの早い人ならこういう追い込まれた場面で覚悟を決めることが出来るのだろうが残念なことに私はそうではないらしい。


「僕から提案出来る選択肢は二つある。まず一つ目、学校へ戻り奴らと戦う」

「ごめん、他の方法でお願い」

「妃芽、攻撃してきた以上情けを掛ける必要は…」

「うん、本当にごめん。この期に及んで何を言ってるんだと思うかもしれないけど、でも出来れば戦うのは最終手段にして欲しいかな」

「…分かった。正直却下されると思っていたしね、妃芽が謝る必要は無いよ。僕は主である君の選択に従うだけだ」


 私の選択に従う、その言葉にずしりと責任がのしかかる。瑠璃としては私の言葉に対して逆らう意思が無いから安心して欲しいという意味合いで言ったのだろうけど、発言が彼の行動に影響を与えてしまうのだと思うと私にとってそれは重荷でしかない。

 そもそも瑠璃はなんで私に従う気になれるのだろう。地力は紅玉の方が上だと言ってはいたけど、逆に言えば瑠璃はそれをひっくり返せるほど戦い方が上手くて強いはず。それに戦闘に特化して術を極めてきたと自分で言っていたくらいなのだから戦うことが嫌いというわけでも無いのだろう。戦うこと自体が嫌いだったら紅玉と喧嘩したりしないだろうし。私みたいな戦いに消極的な人間より、もっと好戦的な人間に仕えたいとか思わないのだろうか。


「それじゃあ自動的に二つ目の選択肢になるけれど構わないね?」

「…一応その選択肢の内容を確認しても良い?ちゃんと聞いてから決めたい」

「そんなに心配されるような内容じゃないから安心して欲しい。むしろ前者とこの選択肢であれば妃芽はこちらを選ぶと思っていたからね」


 つまり一つ目の選択肢は選ばれないと思いながら案として出しただけで二つ目の選択肢が本命ということだろうか。それとも選ばれる可能性が低いと思いながらも戦いたいという瑠璃の願望から一つ目の選択肢を出したのだろうか。

 安心して欲しいという言葉に反して肩に力が入る私に対して瑠璃は苦笑いを浮かべてキセルを一口吸う。


「簡単な話だよ。戦えないなら逃げれば良い」

「…え?」


 煙と共に吐き出された言葉が理解出来ずに私は首を傾げた。

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