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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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16

 そのまま紅玉とドラマを途中から視聴した後、自分の部屋に行くとやはりそこには瑠璃が居た。勉強机の椅子に座り私の学校の教科書を読んでいた。二階に行ったと紅玉に聞いた時から想定はしていたけれど自分の部屋に来てそこに平然と見慣れない男性が居るという状態には抵抗がある。さっき風呂に入ってこようとして来たのもそうだが少しは遠慮して欲しい。だからと言って部屋から出した結果として紅玉と喧嘩を始められても困るので私は込み上げてきた諸々の不満を飲み込んで部屋に入った。

 そうして瑠璃は私が部屋に入るのを見届けると教科書を置いてキセルをくわえ、ふっと煙を吐く。どうやらまた防音の術のようだ。


「これで話して大丈夫だよ」


 別に防音の術を待って話しかけなかったのではない。


「さっき私がお風呂に入っている時、紅玉と何か言い争っていたみたいだけど何かあったの?」

「別に大したことじゃない、あの馬鹿が君の入浴を邪魔しようとしていたから止めただけだ」


 もう、こっちの鬼も平然と嘘をつく。鬼は主に嘘をつくという習性でもあるのだろうか。

 ふと、瑠璃が何かに気付いた様子でキセルをくわえると私に向かって煙を吐き出した。びっくりした、止めて欲しい。私の害になることはしないと散々口にしている瑠璃ではあるが、それでもこうして何の説明も無く術を向けられると体が恐怖で強張ってしまう。せめて何の術なのか説明が欲しい、そして同意を確認して欲しい。インフォームドコンセントって大切だと思う。

 煙はふわりと心地よい暖かさと共に通り抜け、濡れていたはずの髪がそのわずかな風になびいた。そうかと思えばさっきまで頬や首筋に感じていた濡れた感触が消えている。試しに手櫛を入れると風呂上りから放置していた生乾きの髪が完全に乾いていた。


「濡れたままだと風邪をひくよ」

「わっ、すごい!ありがとう」


 凄いし、ありがとうだし、今更なのだけど。未成年に煙草の煙を吹きかけるというのは絵面的に如何なものだろう。本物の煙草じゃないからセーフだと思っているのだろうか。いや、そもそも瑠璃は煙草を吸っているという感覚じゃなくて普通に術を掛けただけのつもりなのかもしれない。それもそれでどうかと思うけど。


「随分長風呂だったみたいだね」

「え?あ、お風呂自体はとっくに上がっていたんだけど紅玉とそのままドラマを見始めちゃって…」


 正確に言うなら長風呂したくても出来なかったんだけど、あなたたちのせいで。


「あまりあの鬼に気を許さない方が良い。縛る方法が無い以上、いつ掌を返すか分からない存在だ」


 ゲームをするために端末を操作しようとしていた手を止めて瑠璃を見る。

 それをあなたが言いますか。


「だから、それは瑠璃も一緒でしょ」

「昼間にも言ったけど僕は君の害になるようなことはしない。……それに、僕はある意味縛られていると言えるしね」


 端末の操作を再開してログインし、フレンドに挨拶をしながら首を傾げた。

 私には術の素養が無いと言ったのはまさに瑠璃である。害になることはしないと言っているのはあくまでも瑠璃の善意に依るものであり、私に瑠璃の行動を制限する力が無いことは重々承知しているはずなのだけど。そもそも鬼の行動を制限できる力があれば私は瑠璃と紅玉が喧嘩をしないようにしている。


「僕を縛るのは妃芽との信頼であり君からの信用だ。僕は君が理不尽なことを命じないと理解しているし、君からの信用を失わないように行動する。それは他の何より尊く強固な縛りであり、絆だ」


 あっぶない。

 うっかり、頼りない縛りだねって口に出してしまうところだった。だってつまりは瑠璃の気分次第であることには変わりないし、瑠璃が私との主従に興味を無くせば掌が簡単にひっくり返る。つまり紅玉と同じだ。相も変わらずこの命は風前の灯である。


「じゃあ、瑠璃が側にいれば紅玉が何をしたって問題無いね」


 そう言うと瑠璃は苦虫を噛み潰したような顔をする。多分紅玉が居るのは嫌だけど否定すれば信頼に関わると思っているのだろう。そのつもりは無いのだろうけど睨まれているようで居心地が悪い。

 とてもゲームを続ける気分になれずに端末の電源を落としてベッドに入り、部屋の電気を消す。いや、消そうとした。しかしそこで瑠璃が平然とした顔で再び教科書を開いたのが見えて思わず一時停止する。


「瑠璃、私寝るんだけど」

「ああ、電気は消しても問題無いよ。鬼は夜目が利くから窓から入る明かりがあれば本は読める」

「えっと、そうじゃなくて…ひょっとして寝ている間もずっと居るの?」

「勿論。寝所の番も一ノ鬼の務めだ。望みとあれば添い寝や夜の相手も務める所存だよ」

「頼まないし、そんな見張りが必要な生活していないから。番とかしなくていいから紅玉と喧嘩しない範囲で自由にしてて」

「十分自由にしているよ。僕は自由に選べる中で君の側に居ることを選んでいる」


 自由に不自由を選んでいるということか。それはまた随分と余裕のある者の言葉である。鬼には寿命が無いと言っていたし瑠璃の実力は多分高い方なので、実際に余裕があるからこその言葉なのだろうけど。


 それはそうと第三者に見られながら寝ることに慣れていないので、取りあえず部屋から出て行って欲しいのだけど。

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