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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
39/110

15

 日が暮れてから私は風呂に入ることでようやく二人の鬼から解放された。

 

「あーーぁ……」


 疲れた、今日はいろいろあり過ぎた。湯船に浸かりながら肺の空気を出し切るようにゆっくりと息を吐き出す。

 何でこんなことになっちゃったのだろうか。親と喧嘩してプチ家出をしたから?紅玉の封印をうっかり解いちゃったから?好奇心に負けて瑠璃に話しかけたから?切っ掛けが何であったにしろ全てが後の祭りである。

 現在浴室の外では二人の鬼がどちらが私の背中を流すかで揉めている。勘弁してほしい。紅玉は今までそんなことしていなかったじゃないか、何で無駄にやる気を出しているのか。瑠璃に至っては人間じゃないとはいえ人型の男性なのだから普通に遠慮して欲しい。一の鬼とか関係無い、本気でやめて。

 そしてこれ風呂から上がるタイミングがすごく難しい。早く上がると喧嘩している二人と遭遇しかねないし、あまりのんびりと入っているとどちらかが、或いは両方が突入してくるかもしれない。というか、風呂くらいゆっくり一人で入らせてもらえないだろうか。


『殺されなかったとしても手を叩けなければ君は無力だ。失神、拘束、正気を奪う、腕を落とす。方法はいくらでもある』


 昼間の瑠璃の言葉を思い出す。思い出してみてもあまりに物騒で現実味が無く、正直実感がわかない。

 瑠璃は心配し過ぎだとは思う。術を消す力が一体いつからあったのかは知らないが、この力が紅玉の封印を解いたのだとすれば少なくとも二人に会うより以前から備わっていたということだ。そして私はそんな身の危険を感じるようなことに遭遇していない。今まで命の危険を感じたのは主に浴室の外で騒いでいる二人からのみである。どうかと思う。


 そんなことを考えている間に浴室の外が静かになったので私は慌てて湯船から上がる。誰かが入浴に割って入ってこようとしていると思うとおちおち長風呂も出来やしない。


 そうして風呂から上がってみれば何とも拍子抜けなことにリビングには紅玉しか居なかった。母に不審に思われないように視線だけで室内を見回し、瑠璃が居ないことを確認してからいつも紅玉が座っているソファに近づいていく。


「主、湯浴みは終わったのか?」


 紅玉が自分が座っている隣を叩くので促されるままにそこに腰を下ろした。それを確認した紅玉が私たちを覆うように術を発動させる。察しが良い、学習してくれているようで何よりだ。


「瑠璃はどこに行ったの?さっきまで喧嘩していたみたいだったけど」

「あの不届き者なら主の湯浴みを邪魔しようとしていたのでな、二階へと追いやってくれたわ」


 そうか、瑠璃は二階に行ったのか。なら多分私の部屋に行ったのだろう。それはそうとさっき聞こえてきた喧嘩の内容からすると紅玉も風呂に入ってこようとしていたと思うんだけど、自分は不届き者にならないと思っているのだろうか。


「あのさ、私、鬼の主になることが大変なことだって知らなかったんだけど。どうして教えてくれなかったの?」

「何を言う。この儂が居るのだ、大変なことなど一つも無いであろう?本来ならあの愚物も要らぬくらいなのだ」


 お前が大変なことの原因であり元凶だよ。

 あと、術殺しのことに気付いていなかったのは重大な問題である。瑠璃が居なかったら今でも気付いていなかっただろうし、状況によっては瑠璃の物騒な発言が現実のものになる可能性だってゼロでは無かったのだから。


「紅玉、今後のために一つ聞いておきたいんだけど…紅玉は何で私の側に居るの?瑠璃は術殺しの力に目を付けたみたいなことを言っていたけど、紅玉はそうじゃないでしょ?」


 能力に気付いてすらいなかった紅玉がそれ目当てで側に居たとは到底思えない。現代の情報を得るという目的も最初はあったのかもしれないが、家電を使いこなしテレビを情報源としてではなく純粋に娯楽として視聴している状態からして現代の知識は十分に身に着いたと言えるだろう。つまり紅玉は私の側にこだわる理由が無い。


「最初に言っていたよね、目的があるって。それって何?言えないようなことなの?」


 黙って答えない紅玉に畳みかけるように尋ねると彼女は居心地悪そうに視線を逸らし、ちらりと横目で私の様子を伺い、それからようやく観念した様子で私と向き合った。


「別に急ぎではないのだがな、人を探しておる」

「人って、人間?」

「そうだ、儂を封印した相手だ」

「それって…」


 普通に考えて死んでいるんじゃないだろうか。どれくらい昔なのかは分からないけど、封印されていた周囲の風景が変わるほど、電柱すら無いくらい昔の話だ。生きていたとしても高齢になっているはず。

 先を言わなくても私の表情から言わんとするところを察したのか紅玉がふっと綺麗に口元を緩ませる。


「死んでは居らぬはずだ、あの封印は術者が死ねば解けるはずだからな…逆に、こちらが封印を解いたことも向こうに伝わっておるだろうが」


 紅玉が何でもないことのように大変なことを口走る。封印した相手が生きていてそれが相手に伝わっている、だと?

 大変なことは一つも無いと言った相手が大変な問題を抱えていやがった。普通に考えて封印した人物は封印が解かれた紅玉の行方を捜すことだろう。そして紅玉を封印して閉じ込めていた相手が封印を解いた私に対して好意的に接してくるとはとても思えない。最悪の最悪として瑠璃が言っていたようなことにも成り得る。どうして紅玉はそんな大事なことを今まで黙って平然とドラマ漬けの日々を送っていたのか。本当にどうかと思う。どうかしてる。


「私はあなたの主として何をすれば良いの?というか何か出来る?」

「主は何もせずともよい、儂の主としてそこに在るだけで良いのだ。鬼にとって主とはそういうものだ」


 違う、今はそういう鬼の主の心構え的な話はしていない。


「そうだな、強いて言うならば他者に莫迦にされぬよう振る舞いに気を払うことだ」

「……それは、他人に馬鹿にされるような主は嫌だってこと?」

「いや、違うぞ。我が主を虚仮にした凡愚は焼かねばならぬのでな。一つ二つなら構わぬがあまりに数が多いと流石に手間がかかる」


 一つ二つでも焼くのは止めて欲しい。あなたの主はそんなこと望んじゃいない。

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