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どういうことなのかと紅玉を見る。すると紅玉もまた信じられないものでも見るような目で私を見てくる。どうやらこの件について紅玉は何も知らないらしい。となると瑠璃から説明を受けた方が早そうだ。
「それって珍しいの?」
「少なくとも僕は他に会ったことが無い。術殺しの話自体もかなり昔に噂程度に聞いただけだったから、正直こうして君に会うまでは存在すら信じていなかったくらいだ」
鬼の言うところの昔と言うのがどの程度になるのかは知らないが少なくとも人間よりは長生きしているだろうから数が多いわけではないのだろう。つまり瑠璃は珍しい力を私が使えたから主にしたいと、そういうことだろうか。
そう納得しようとしたところで正座したままの瑠璃が床に両手を付き深く頭を下げてくる。え、何で?私の人生においてこうして他人から頭を下げられるという状況になったことが無いのでどう反応したら良いのか分からない。そもそも今頭を下げるような状況だっただろうか?
「妃芽は鬼である僕が丸一日掛かけて解けなかった術を一瞬で解除し、それによって僕は助けられた。だから妃芽のことは身命を賭して僕が守る。君にはそれだけの価値がある」
はあ、と曖昧に相槌を打ちながら私は首を傾げる。瑠璃の言い分がいまいちピンとこない。
先に能力より人格を優先したと言っていたけどこれだと結局能力で決めたようなものじゃないか。それに仮に私が術を解かなかったとしても彼は順調に解除していると言っていたのだし、術が解けるのが早いか遅いかの違いだけで別に大した問題では無かったんじゃないだろうか。それって助けたって言えるのだろうか。どうにも今までの言動とかみ合っていない。
未だに言葉を探している様子の紅玉を見る。多分瑠璃の言葉は嘘では無いが本心でもない。同じ鬼である紅玉の手前、こう言っておいた方が話が纏まりやすいという打算的な模範解答なのだろう。それで紅玉と喧嘩にならないなら私としては有り難いけれど。
「っ…待て、それだと目の説明がつかぬであろう。術を消し去る力ならば今こうして主が儂らの姿を見えることはどう説明するのだ」
紅玉がやっと口を開いた。瑠璃につられたのか術のことを呪いじゃなくて術って言っている。
でも確かに、言われてみればそうだ。私が鬼を見ることが出来るのは紅玉にそのように術を掛けられたからであって、私に術を消す力があるとしたらこうして話すことはおろか彼らの姿を見ることも出来なくなっているはずだ。自分自身には効果が無いとか?それはそれで使い勝手が悪そうだが。
姿勢を直した瑠璃は私と紅玉の疑問自体を馬鹿にするように鼻で笑った。
「お前は自分の扱う術すら理解していないのか?あの術は一時的に見えるようにしたんじゃない、認識自体を書き換えるんだ。書き換えたものが簡単に変わるわけ無いだろう。お前は術で殺された奴が術を解除した程度で生き返ると思っているのか?少しは考えて物を言え、無能が」
瑠璃の言葉が紅玉を貫通して私にダメージを与える。短慮な無能で申し訳ない。
というか私の目、術を掛けてある状態じゃなかったのか。初めて知った。眼鏡で視力を補正した状態か、手術で視力自体を直した状態かの違いみたいなものだろうか。だとすればこの鬼たちは本人の同意なく施術したことになる。どうかと思う。
「これまでの状況から考えて妃芽が手を合わせることが発動条件になっているらしい。有効範囲がどの程度なのはまだ検証していないけど、君が手を合わせると意思に関係無く発動するみたいだ」
「…何故そのように断言出来るのだ」
「お前がのうのうと妃芽の元に居座っている内からきちんと主を優先して考えていたからだろうな」
「泥棒猫がぬけぬけと…人の主に手を出していただけの話ではないかっ」
「その時妃芽はまだお前の主ではなかったから問題無いな、間抜け」
真面目に話をしているかと思えば。隙あらば喧嘩しようとする。
「瑠璃が私を選んだ理由は大体わかったけど…わざわざ紅玉を呼んでくる必要あった?」
「そこの馬鹿は君の力に気付いていないようだったからね、事実として気付いていなかったわけだし。短い間だろうが主を同じくするのだから情報は共有しておいた方が妃芽を守りやすい」
そもそも守られる必要のある生活をしていないのだけど。
瑠璃は私を何だと思っているのだろう。
「僕の封印が解けるのに時間が掛かったみたいだし、普段妃芽は食事の時に合掌していないね?」
「えっと…ごめん?」
「責めているわけじゃないよ、むしろ習慣が無い方が都合が良い。今後は日常生活で手を叩かないように意識してくれ」
「え、なんで?使い方次第で結構便利な力だと思うけど…」
「術を扱う者にとって術殺しは天敵だ、妃芽は真っ先に狙われることになる。そして大抵の鬼は術無しでも妃芽より強い」
その言葉を聞いてぞっとする。確かに二人が殺し合っているときにまともに動くことすら出来なかった身としては返す言葉も無い。そもそも相手が鬼じゃなく人間であったとしても成人男性の筋力や体力には勝てないだろう。
「殺されなかったとしても手を叩けなければ君は無力だ。失神、拘束、正気を奪う、腕を落とす。方法はいくらでもある。そうならないことが最善だけど用心するに越したことは無い」
そういう状況も怖いけどそういう状況を真っ先に思い付く瑠璃も怖い。




