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手の鳴る方へ  作者: 黒丑テル
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11

 一階に降りてリビングに入ると紅玉がこちらを振り返る。


「何だ、話はもう終わりか?」


 振り返った紅玉は部屋を出て行った時と同じ上機嫌のまま綺麗な笑みを浮かべ、座っているソファーの空いている場所をぽんぽんと叩いて座るように促してくる。このソファー、紅玉が来てからほとんど彼女が占領しているので我が家の人間は誰一人として座れていないのだが。どうかと思う。どうかと思うけど折角紅玉が上機嫌なのに下手に突っ込んで機嫌を損ねてまた機嫌を取ったりするのが面倒なので大人しく隣に座る。

 しかしこうして紅玉に同じソファーに座るように誘われるのは初めてかもしれない。普段はこの二人掛けのソファーを目一杯広々と使って寛いでいらっしゃるのに。一体どういう心境の変化なのだろうか。紅玉の意図を計りかねているとそのまま紅玉がゆっくりとこちらへしなだれかかってきた。びっくりして紅玉を見ればとても良い笑顔が返って来る。絶世の美貌の持ち主である紅玉がやると何かそういうお店のようで、そういうお店に行ったことすらないのに幾ら払えば良いのだろうかという焦燥感に駆られてしまう。


「ふん、あのような甲斐性の無い角欠けと話が弾むとは最初から思わなかったが。我が主はさぞかし退屈であっただろう?存分に寛ぐが良い」

 

 この突然の異常事態、寛ぐどころではない。

 そんな私の焦りなど気付かない紅玉は相も変わらず上機嫌である。鼻歌でも歌いだしそうなほどだ。下手をしたら朝ドラのあらすじと感想を言ってくる時よりも機嫌が良いかもしれない。それはそうと体格的には紅玉の方が大きいのでこうしてもたれ掛かられるのが重たいのだが、どうにか自立してくれないだろうか。


 取りあえず紅玉を呼ぶことが目的なので私は一度母に視線をやってから紅玉に視線を戻す。暗に母が居て返事が出来ないから防音の術を使ってと示したのだが、


「どうした主、何故黙っておる?」


 紅玉には伝わらなかった。そりゃそうか、紅玉だもの。

 今度は母を指差し、それから自分の口元を指す。それでも伝わらなかったようなので口パクで、お母さんが居るから声出せないの、と伝える。そこでようやく紅玉は私の意図するところを理解したらしく体を起こし扇子を広げ、私と紅玉の周りを箱のようなものが覆い周囲の音が聞こえにくくなった。それはそうと紅玉がやっと自立してくれた、肩が軽い。


「これで良いか?」

「うん、ありがとう」

「では準備も整ったのだし儂とこのままドラマを見ようではないか。今日の再放送枠は刑事ドラマでな、基本的に一話完結であるから主要登場人物の人間関係だけ把握しておれば主も楽しめるぞ」

「紅玉、待った。違うの、ドラマを見に来たんじゃないから。紅玉を呼びに来ただけだから」


 するとそれまで笑顔だった紅玉の表情が途端に拗ねたような顔になった。どうやら紅玉の上機嫌はここまでのようだ。


「呼びに来た?それは主がか?それともあの性悪に言われてか?」

「えっと、」

「待て、主が儂に用があって呼びに来たのであれば部屋に戻る必要が無い。…まさかとは思うが、角欠けが儂を呼んでいるのではあるまいな?」

「………。わあ、紅玉すごい。ドラマの刑事みたいな名推理!」


 わざとらしいくらいに明るい声で返してみたが紅玉の顔は大層渋いものになってしまっている。すごく嫌そう、目は口ほどに物を言うというがどうやら顔はその更に上を行くらしい。


「何故儂が彼奴の呼び出しに応じなければならんのだ。絶対に行かぬ。どうしてもと言うならば向こうが儂のもとに出向くのが筋であろう。角欠けにそう伝えよ」


 二人が公園で戦ったときは紅玉の方から出向いた気がするのだが、あれはカウントしないのだろうか。


「紅玉、お願い。私の顔を立てると思って?」

「……ふん、仕方あるまい。それにしても主を使い走りにするとは、随分と良い身分ではないか」


 さっき紅玉も私を使い走りにしようとしていた気がするのだが、自分のことはカウントしないのだろうか。何にせよやっと紅玉が立ち上がったので良しとしよう。


 紅玉が二階へ向かう前に私たちを覆っている術を解除しようする。そこで私は聞きたいことを思い出して制止させるために小さく手を上げて疑問を口にした。


「そういえば紅玉、イチノオニって何だか分かる?」


 紅玉は扇子を持った一度手を止めて静かに下ろす。術が消えていないので今度はちゃんと意図が伝わったようである。


「ふむ、聞いたことはあるぞ。確か一ノ鬼というのは同じ主を持つ鬼の中での序列だったか」

「序列?」

「鬼が主を持つ時、仕える鬼が自分だけとは限らぬ。故に序列を作る。序列とは言うが一番上、一ノ鬼以外は以下同列と扱うそうでな。より強く、より主を重んじ、より主に尽くし、より主を解し、より主のために動く。そのような鬼が選ばれると聞いた」


 紅玉の口ぶりからしてこの情報は他の誰かから聞いたもののようだ。つまり瑠璃の予想通り、紅玉は主を持つのが初めてなのだろう。まあ、だから何だという話だが。

 でも成り行きで指名してしまったけど一ノ鬼は瑠璃で良いような気がする。少なくと瑠璃は紅玉より強くて私を重んじている。尽くすかどうかは分からないし、私を理解しているかどうかは微妙なところだし、私のための行動が私のためになるとは限らないけれど。それでも家でソファーを占領してドラマ漬けの紅玉よりはマシだと思う。

 ふふんと、紅玉が得意げに胸を張る。


「当然、主は儂を一ノ鬼に選ぶのであろう?」

「え?ごめん。もう瑠璃にお願いしちゃった」


 紅玉の機嫌が急落した。

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