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紅玉が立ち上がり扇子を持つ腕を振りかぶる。その動きに伴って私の部屋の中に炎が一斉に沸き上がった。もうこれだけでちょっとした火災現場である。熱くはないので実際の炎ではないはずなので私の部屋自体は無事のだろうがそれにしたって心臓に悪い。
「ちょっと、紅玉!」
「ふざけた真似をしてくれるではないかっ…表へ出ろ、格の違いというものを教えてくれるわ!」
紅玉は私の声を無視して瑠璃を睨みつけ、睨まれた瑠璃は瑠璃で座ったまま小馬鹿にした様子で紅玉を見上げる。
「それはそれは、親切にどうも。だが、わざわざ教えてもらわなくてもお前の方が格下だと言うことは分かっているつもりだ」
「分かっているつもりで勘違いしているのが分からんのか?角が足りないと頭も足りなくなるらしいな?」
「角があるくせして頭が足りない奴よりはマシじゃないか?側に居るのがこんな低能では妃芽も苦労が多いだろうね」
「言わせておけば調子に乗りおってっ、よほど死にたいらしいな」
「さて、まともにやり合っても死ぬのはお前のほうだと思うが…試してみるか?」
紅玉は笑ってはいるがその表情は不機嫌そのもので扇子を持つ腕を今にも振り下ろしそうである。相対する瑠璃は平然とした様子ではあるがキセルをすぐ口元に持ってきている辺りからして臨戦態勢なのだろう。公園のときほど強烈な殺気ではないにしろ、日常生活において慣れる機会のない空気に体が命の危険を感じて肌が粟立つ。
「二人ともっ!」
殺気が渦巻く中で振り絞るように声を上げると睨み合っていた紅玉と瑠璃の視線が同時にこちらへ向く。そのまま二人を睨みつければ紅玉はすぐさま炎を消して再び腰を下ろし、瑠璃は何事も無かったかのように居住まいを正した。途端に殺気で張りつめていた空気が弛み安堵の溜息を吐き出す。
「妃芽、見ていたから言うまでも無いだろうが先に喧嘩を売ってきたのはこの馬鹿の方だ。どうやら君の言葉の意図を理解するつもりが無いらしい。もっとも低能ではそもそも理解出来ないのかもしれないが」
「主よ、騙されるな。こやつは自身の結界を張る際に儂の結界を消す呪いを同時に出したのだ。つまり先に喧嘩を売ったのはこの性悪だぞ?」
「後とか先とか関係ないから。話をしたいだけなのにいちいち喧嘩しないで」
私の言葉に二人は不満げに押し黙る。そんな顔されても。言葉の意図を理解するつもりが無かったのは瑠璃も同じだし、被害者面しているが紅玉も最初に瑠璃だけを術から外していたので私からすればどっちもどっちだ。
「なんでそんなに仲が悪いの」
「この愚物が我が主を奪おうとするからだ」
「この低能が邪魔だったから」
「分かった。一から聞かないと何も分からないことが分かった」
それと認めたくはないが、今のやりとりでこの二人の不仲の原因が私だと言うことも分かってしまった。頭が痛い。だが、それと同時に私の言うことを少しは聞く気があることも分かる。なら喧嘩をするなと言っているのだし、公園での戦いからなるべく遠い話題から話を進めて行けば少なくとも喧嘩の火種は発生しないはずだ。
「えー…それで、ごめん。どこから何の話を聞けば良いのかが分かっていないんだけど…取りあえず、鬼ってなんなの?」
とりあえず、まずは鬼について聞くことにした。そもそも私はこの鬼たちについて知らないことが多すぎるのだ。鬼について何か分かれば価値観の違いや二人の不仲の原因もある程度理解出来るかもしれないのだし。
そう思っていたのに瑠璃が紅玉を横目に鼻で笑った瞬間、嫌な予感がして頬が引きつる。
「妃芽のもとに居座っているくせにその程度のことも話していないのか。低能では過大評価だったようだな、この無能が」
「瑠璃!」
「貴様、言わせておけば…そもそも貴様の名も気に入らんのだ!主は儂に紅玉と名付けたからそれに倣い玉の名を授けたのだろうが、名前負けにもほどがあるわっ!」
「紅玉も!」
「先に名を賜ったのは僕の方だ。後付けで名を貰ったおまけのくせに、妃芽のくれた名を侮辱するな」
「いいや、名を賜ったのは儂が先で貴様の方がおまけだ、角欠け!」
火種が無いと思っていても簡単に煙が立って火が上がる。もう二人とも黙っててくれないかなあ。
紅玉がその名前の通り宝石のように美しい赤い目を怒りに燃やして私を睨んだ。正確に言うならば私を睨んだというよりは瑠璃を睨んだ表情のまま私を見たという方が正しいのかもしれないが。公園のときは命の危険を感じていたので余裕が無かったがこうして怒った表情であっても美貌が損なわれることが無いことに現実逃避をした頭で密かに感心する。
「我が主よ、この分を弁えない愚物にはっきりと言ってやれ。名を賜ったのは儂が先で、角欠けは情けで名をやっただけだと」
「情けで名を貰ったのはお前だろう?それとも僕が封印されている間に妃芽を脅したのか?恥知らずが」
「脅したのは貴様であろう?如何にも性悪がやりそうなことではないか」
名前を付けた順番としては瑠璃は私が病院に運ばれる前、紅玉がその後。つまり紅玉より瑠璃の方が先であるが、これを言うと尚更面倒なことになりそうなので黙っておく。火が無くとも勝手に火を起こして喧嘩する二人にこれ以上火種を渡して堪るか。




