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王都での二日目の朝、トモさん、ジュンさん、レンくんは王宮魔術師団のある方へ行き、わたしは今日もコック服を着て厨房へ顔を出す。
厨房に入るなり、待ち構えていた大きな人影に迎えられた。
「おはようございます。ハルさん!!」
「お、おはようございます。ボードさん!」
横にも縦にも大きなボードさんは満面の笑みを浮かべている。昨日からずっとにこにこされている。
「いやあ。昨日のラーメンは本当に素晴しかった!あの麺!あのスープ!あああ、本当に美味しかった!!」
料理の話になると感情豊かになるボードさん、料理の話になると泊まらないことは昨日でよくわかった。うん、でも、料理好きはわたしも同じ。一緒に楽しみたい!
「ボードさん、今日は『穂草』を使った料理を作りたいと思います。」
「おお、『穂草』料理ですね。王都にも『穂草』が実は美味しいらしいという噂は回ってきておりましたが、家畜の餌という印象が強くて、まだ食べられていません。」
「勿体ないですね。あんなに美味しいのに!」
「ハルさんが、美味しいというのであれば、美味しいのでしょうね。是非教えて下さい!」
「ふふ、じゃ、頑張りますね!」
最初に取り掛かったのは、『穂草』の精米、これは料理人であればこつを掴めば出来るようになる、ガストさんもダンカンさんもマルシェさんも何度かやり方を見せればあっという間に出来るようになった。料理人のスキルなのかもしれない。
次に、精米した『穂草』を炊いていく。ここは日本の米と同じだ。炊きあがるまでの間におかずの準備。今日はおにぎりと、牛丼と、チキンライスを作る予定。
「『穂草』は水で煮る?のですか?」
「煮るではなく、わたしの故郷では炊くと言っていました。水加減が大事ですが、慣れればちゃんとふっくら炊けますよ。」
やがて、鍋から湯気が立ち上がり、ご飯の炊ける甘い香りがする。ふふ。今日も美味しく炊きあがった!!
「どうぞ、少し味見してください。」
ボードさんにご飯を少し掬って器によそってお渡しする。つやつやのご飯だ。
「こ、これは、甘い?ふわふわで少し弾力もあり、微かに甘い。シンプルですね。」
「ええ、ご飯は単品で食べるのではなく、おかずありきなんですよ!」
紫蘇巻き焼き鮭入り、こっちの香り草巻きの焼き銀紅入りっていうところのおにぎりを作る。
「これ、食べてみてください。おにぎりっていうんです。」
恐る恐る手に取るボードさん、でも、我慢できなくてぱくっと食べる。躊躇はほんの少しだった!
「う、旨い!!香り草に焼き銀紅の塩加減と調和、なんと化ける食材なんだ。」
目をかっと開いたボードさんに、さっき作っておいたお肉と玉ねぎを甘く煮たものを乗せたものをお出しする。今度は牛丼。街の冒険者ギルドで人気になったものだ。
「こちらは牛丼です。」
「牛丼?甘辛く煮た肉と丸ねぎですね。これを炊いた『穂草』の上に!」
もう、躊躇せずに一気にかきこむボードさん、口に入れたとたん幸せそうな顔になった。
「こ、これは!これは。肉の旨味と甘辛い煮汁がご飯に染み込んで素敵な調和が!!おお。」
「気にいってもらえて良かったです。」
「これは素晴らしい。本当に家畜の餌だとは思えません!!」
次はチキンライス、ボードさんケチャップにも興味津々だから作ってみる。
「これはチキンライスといいます。ご飯にケチャップで味をつけています。丸ねぎがしゃきしゃきしてとても美味しいのです。」
「んんん。こ、これがケチャップ料理!素晴らしい。美味しい。これは人気が出るわけです。」
夢中で食べているボードさんを見ていた。満足してもらえて良かったー。すると食べ終えたボードさんが、少し真剣な目でこっちを見てきた。
「ハルさん、『穂草』は家畜の餌になるぐらい安価なものです。王都には食べることに困っている者がいます。城下にはスラムと呼ばれる地区もあり、教会や王宮で炊き出しなども行われていますが、十分とは言えません。『穂草』がこれほど美味しいのではれば、炊き出しに利用できるかもしれません。」
ボードさんは、空になったお皿をじっと見つめながら、
「『穂草』は王都から一刻ほど先の湿原地帯に普通にわさわさと生えていると聞きました。魔物もほとんどいない地帯です。今まであまり旨味の無かった場所で、訪れるものも少ないと聞きます。そこで『穂草』を採取する仕事が発生すれば。新たな仕事も生まれるでしょう。スラムの者の仕事ができるかもしれません。」
「それは、素敵ですね。『穂草』が美味しいってわかってくれる人が増えるのは嬉しいです!」
お腹がすくのは辛い。ご飯が食べられないのは辛い。そんな人がお腹いっぱい食べられるようになるのであれば、『穂草』料理を紹介しただけのことはある。日本のお米が世界を救う?ちょっと大げさかな。でもお腹が減った人が減るのであれば協力しよう!
「ええ、ハルさんの『穂草』料理はわたしが責任を持って王都で広げてみせます!!」
そう言うとボードさんがご自分の大きなお腹をぽんと叩くとふるふる震えるお腹に、つい笑ってしまいそうだ。頼もしいボードさんよろしくお願いします。
**この後厨房では**
この日の昼、王宮の厨房では料理人たちが『穂草』料理を囲んでいた。おにぎり、牛丼、チキンライスの皿を空にしていく。
「これが、あの家畜の餌だと呼ばれていた『穂草』なのか。」
「ボード料理長が絶賛していたが、半信半疑だったが、信じられないぐらい美味しい・・・。」
「この新しいケチャップという調味料を使った料理も旨い!」
「ボード料理長!これは料理界の革命です!!」
「ええ、まずは『穂草』の入手方法、安定して供給する仕組みを考えなくてはなりません。王宮だけではなく、庶民、スラム街の人にも食べてもらえるようにならなくては。」
「湿原地帯で『穂草』を採取する人を雇う必要が出てきますね。それを運ぶもの、加工するもの、料理するもの。新しい雇用が発生しますね。」
「ケチャップや、マヨネーズという新しい調味料についても教わりました。これも王都で量産してもらいましょう。これは売れます。とても美味しいのです!!」
「さぁみなさん、忙しくなりますよ!王都を美味しいものでいっぱいにしましょう!!」
大きな体に大きな声で厨房に響き渡るボード料理長の声は明るい未来を夢見ていた。
**その頃トモさんは**
「不本意だがトモの教え方が上手いのは認めよう。」
昨日の復習で絶対防御も転移もできるようになった団長に、完璧だ、もう教えることはねぇと言った返し。
「師匠が良かったんだよ。」
「トモの師匠か、どんな人だったんだ?」
「独学で魔法の真理を学んだ、凄い人だったよ。心の柔らかい部分をずっと大事に守ってきた人だ。だから守ることにかけては優秀だったんだと思う。」
「心の柔らかい部分?」
「ああ、思い込む力が魔法に現れる、そう教えてくれた、尊敬できる師匠だったよ。」
「その師の名は?」
「アルノーだ。覚えていて欲しい。」
団長は静かに頷いた。
**その頃ジュンさんは**
ジュンさんが魔術師団の訓練室に顔を出すと、少しバツの悪そうな顔をしたソニアさんが待っていた。
「おはようございます。ジュンさん、昨日は本当にありがとうございました。」
深々と頭を下げるソニアさんに驚いてしまう。頭を上げてください!!頭をあげたソニアさんは少し涙目だった。
「先輩の欠損が治って良かったですね。」
「はい。それに、わたくしが欠損を治せる回復魔法の使い手になれたこと、本当に感謝しています!!」
ソニアさんは今度はまっすぐにわたしを見つめてきた。目に力がこもっている。
「これからは、後輩たちにも、体の仕組みをきちんと教えていこうと思います。治す相手の体を知らなければならないことを、昨日知ることができました。」
「それは良いですね。是非、そうして下さい。」
回復魔法の使い手が増えるのは嬉しい。治して欲しい人がいる時に治せる人がいる未来にほっとする自分がいる。
「今日は時間が許す限り、一緒に勉強しましょう。」
「はい。よろしくお願いします。」
昨日までの悲壮な決意を持った顔ではなく、晴れやかな顔で返事をするソニアさんを見て、自分も自分に出来ることは頑張ろうと思うのだった。
**その頃レンくんは**
「もう、カイルは出来ていると思うんだけど、昨日ダンジョン楽しかったから今日も行こう!」
昨日はえ?っていう顔だったけど、今日のカイルは目が輝いている。いいことだ!
ダンジョンに入ると、すぐに大きなキノコが迫ってきた。お化けキノコだ。あれは焼けば簡単!豪炎魔法!!
辺り一面が火の海になり、歩いていたキノコは全部燃やしてしまった。気持ちいいー。
「レンさん、今度は俺にやらせてください!!」
あ、そうだ、カイルに教えているんだった。もう8割方出来ているから大丈夫だろう。僕たちを目指して歩いてくるトレントたちに、カイルが豪炎魔法を放つ。おお、結構大きな炎になっているよ!いい感じ!!
「レンさん、や、やりました!!お、俺。」
「カイル、良かったねー。もうこれでマスターしたよ!!」
物凄く感動しているカイルに悪いけど、絶妙な火加減で焼けたお化けキノコ、僕の豪炎魔法だけ焦げて崩れていくんだけど、カイルの8割方の火だといい加減に焼けるんだよねー。ハルさんこれ料理してくれるだろうか。僕の火加減も控えた方がいいんだろうか。
真剣に悩む僕の横で、懐いた猫のようなカイルが次どうするんですかっていう目で見てくるので、じゃ、いっちゃおうかってどんどん討伐してやり過ぎだと怒られたのは二日目の良い思い出。




