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謁見の間から出た後、領主様に、
「我々は一足先に領地に戻る。そなたらは、陛下のご要望どおり魔法の指導をよろしく頼む。」
「切りのいいところで街に帰ります。」
「陛下のご不評を買わぬようにな。」
「承知いたしました。」
「騎士団長、ヴァルドさん、後はよろしくお願いします。」
「ハルの料理は何食べても旨い。王宮でもぶちまかしてこいよ!」
「い、いや、わたしはそういうキャラじゃないんで・・・。」
豪快に笑いながら騎士団長さんたちは帰宅された。わたしたちは、王宮から案内されて、陛下から下賜された館に着いた。王都の中心地から少し離れた、落ち着いた区画にあった。 それは、森の家よりは断然大きい、でもアルノーさんの館よりは断然小さい。手入れされた庭があり、門の奥に建つ建物は、知っている人はいるだろうか、建築物に詳しいジュンさんが『旧李王家東京邸』っぽいね。と呟かれた。品の良い館だと思う。
王家の馬車で入り口まで送っていただき、恐る恐る扉を開けると、執事さんとメイドさんが並んで立っていた!えー。リアル執事に、リアルメイドさん!!レンくんがはしゃぎだした!!トモさんも、ジュンさんもさすがに驚いている。
「リアルメイドさんだよ!!」
「れ、レンくん!!」
「おかえりなさいませ。王命より、こちらの館を皆さまにお使いいただくことになり、ご不便のないよう、わたしどもがお手伝いさせていただきます。」
さすがプロ、レンくんの大はしゃぎ振りに顔色も変えない!凄い!出来る!
「俺はトモだ、こっちがジュンとハルとレン、しばらく王都に滞在するのでよろしく頼む。」
「「「よろしくお願いします!!」」」
みんなで話せる場所をと聞くと応接間のような部屋に案内された。そこで4人だけにしてもらう。やっとほっとするー。
「緊張しました!!」
「ああ、びっくりしたな。ドラゴンを謁見の間に出してくるなんて凄い演出だったな。」
「万能薬がたくさん作られると聞いて安心しました。」
「謁見の間って、コスプレ会場みたいだったね!!」
わたしたちが感想を話している間、メイドさんがお茶を出してくれた。悔しいけどさすがプロめちゃくちゃ美味しかった!
「トモさんとジュンさん、レンくんは明日魔術師団ですか?」
「あー。そんな話だな。」
「ええ、3人でご一緒にって言われましたね。」
「僕が教える人、怖くなければいいなぁ。」
「ハルは料理を教えるんだな。厨房か?」
「ええ、厨房ですね。まずはラーメンと言われています。王都の王宮の厨房で最初に作るのがラーメンだっていうのに、自分でも不思議な感覚です。」
「はは。いいじゃないか。ラーメン。」
「僕、食べに行くね!!」
「ハルさんも頑張ってくださいね。」
「ええ、皆さん魔法教室が終ったら食べに来てくださいね。」
◇
そんな約束をした次の日、朝、馬車がお迎えに来た。ははは。王宮でまた違う服を着替えさせられる。え、え、え、トモさんたちは魔術師っぽい服。わたしはコック服!!
王宮の厨房だなんて、どれだけプライドの高い料理長がいるんだろうと少しドキドキして案内された厨房に顔を出すと、食べるの大好きです!というのを体現したようなふくようかでジャンボな人がバーンと目の前に立つ。
「ようこそ。厨房へ。あなたが噂のハルさんですね。わたしはボード、ここ王宮の料理長です。今日はわたし、物凄く楽しみにしていました!!」
「は、はじめまして。よろしくお願いします!!」
「ええ、最近、トスカミナ街の方から、ハーブを使うことが回ってきました。次に、ケチャップとなる調味料が高額で売られ始め、今、まよねいずが流行の先端です。全部ハルさん、あなたが関係していますね!」
「え?王都にハーブと、ケチャップとマヨネーズが?」
「はい!最初はハーブでした。肉料理にぴったりだといくつかのハーブが出回りました。乾燥していたハーブを一振りするだけで肉の臭みが消えたのです!驚きの効果!びっくりしました。
次にケチャップという新しい調味料がガラス瓶に入ったものを商人が売りにきました。是非、王宮での使ってみませんかと。わたしはすぐさま購入し、その商人に言われるがまま焼いたソーセージに付けて食べてみました。美味しくて言葉が出てきませんでした!!甘くて少しすっぱくて隠し味の香辛料!!素晴らしかったです!!
そして登場したのがまよねいず、なんですか、あの白いソース!生の野菜が極上の一品に!驚きました。そして調べました。とことん出所を調べたら、これらはトスカミナ街からの発信でハルという人が考案したとたどり着いたのです。
わかりますか?今日、わたしの興奮状態を!!」
なんだか凄い人に出会っちゃったよ!!
「あ、あのー。今日はラーメンを作って、そのレシピを提供するようにって言われてきたんですけど、ラーメン作って良いですか・・・?」
「ハーブに、ケチャップに、まよねいずに、聞いたこともない。想像もつかない料理。まったく未知の存在、でも絶賛されてかなり好評だったという噂だけ届いているんです!!!どれだけ切望したか!その存在を!!陛下がハルさんに料理の伝授を口にされた時、全身が喜びで震えましたよ!!ええ、是非、ラーメンと作って下さい!!」
おお。こんなに喜ばれているって嬉しいかな。だったら、頑張ろー。
「では、まずスープですが、トスカミナ街はダンジョンがあるので、魔物のお肉を使うことが多かったです。このスープはマックスボアの骨から取ります。これはほぼ1日煮込まないといけないので、先に煮込んできました。」
マジックバックから出したように見せて、インベントリからそっと出す。
「こ、これは骨ですよね?これからこのスープですか?」
「もちろん、骨だけではなく、香草も入れています。どうぞ、味見してください。」
ボードさんは躊躇せずに、とんこつスープを飲みほした。目がらんらんと輝いている。美味しいでしょ!!
「す、凄い!濃い、まさしく濃厚!なのに、どんどん喉を通っていく。何。これ。骨にこんなに美味しい成分があったの!?今まで捨てていたー!!何たる損失!!」
「えーっと、今から美味しく作ればいいんですよ!!」
「おお!!さすがハルさん!いいこと言いますね。そうですね。やはり大事なのは今ですね!さぁ続きをお願いします!!」
と、こんな感じで麺を作り、トッピングも作り、とんこつラーメンが完成!!じゃーん!美味しいよ!!初めて見る麺料理にちょっと戸惑っているボードさん。あ。そうか。お箸は見たことないか!
「これは箸といって、こうして食べるんですよ!あ、やっぱり美味しい!!」
わたしが食べて見せたのか、じっと見て、ずずずと食べだしたボードさん、早い早い。食べだしたら早い、あっと言う間に完食!!わーい。
「こ、これは革命ですね。こんな料理は初めてです!これはハルさんが生み出されたのですか?」
「いえ、故郷の料理ですね。」
「ハルさんの故郷ですか、わたしもそこへ行ってみたいものです。」
「んー。多分、行けないです。残念ながら、わたしももう帰られない場所なんです・・・。」
「おお、そうなんですか!非常に残念ですが、ハルさんがその故郷の味を大事に再現されているのですね。わかりました。わたしもその味を引き継ぎましょう!!」
「あ、ありがとうございます!!ラーメンも、故郷の料理も大好きなんです。広めてくれる人が増えるのは物凄く嬉しいです。ボードさん、ありがとうございます!!」
「ええ、頑張りましょう!!今日は陛下にラーメンを提供するのですよ!!」
え?陛下に?ラーメン?そ、それは??いいのー??!!
「陛下はラーメンの噂をお聞きになってから、それは楽しみにされていたのです。わたしも先ほど試食して、これはお出ししても大丈夫だと確信しました。さぁハルさん、一緒に頑張りましょう!!」
途中、レンくんや、トモさん、ジュンさんも王宮の食堂にラーメンを食べに来てくれたけど、声をかわす暇もなく、ずっとラーメン作っていた。
陛下にお出しした時は、陛下はお箸の使い方を真剣に覚え、慎重に箸を使い麺をつまみ上げ、上手に口に入れられた。次にスープを飲み、チャーシューを食べられる。
「面白い料理だ。そして旨い。スープもこの細い何かも肉もすべてが旨くて調和している。素晴らしい。ハルよ。次の料理も楽しみにしているぞ。」
という満足気なお言葉を頂いた。ボードさんが自分事のように自慢気に大きく頷いていたけど、次?次って何?ラーメンだけじゃないのー??
王宮で働く人々に出し続けたよ。いや、スープも麺も秋祭りばりに作って在庫あったんだけど、全部すっからかん。こんなに食べてもらえると思っていなかった。
美味しかったよ!上手かった。初めて食べてびっくりしたよ!またこんな美味しい料理食べさせてくれ!みなさんから喜びの言葉に胸が震える。作って良かったなって思えた。
**その頃トモさんは**
「トモ殿、本日はよろしく頼む。」
「殿はいい。トモでいい。」
「では、トモ、絶対防御魔法は伝説の魔法だ、教えられるのか?」
青いローブに白い美しい髭、50代ぐらいのシブイ顔のおやじだ、プライドは高そう。でも、俺の勘が言う、こいつは魔法オタクだ。どこの馬の骨かわからぬ若造の俺に目を輝かせて前のめりに聞いてくる。教える相手とすれば悪くねぇ。
「まどろっこしいのは面倒なんだ。行くぞ。」
「はっ?な、なんだ。」
次の瞬間、転移魔法で飛んだ。
「こ、ここは?」
深い森の中に佇む豪邸というのか城は、俺がアルノーから引き継いだ遺産、アルノーの館だ。
「ここは、俺の師匠だった人の家だ。トスカミナ地方だな。」
「転移魔法か・・・。わかっているのか?!転移魔法も伝説級の魔法だぞ!現代は出来る人はいないと言われている、失われた魔法だ・・・。」
「失われてはいない。俺の師匠の魔法だ。それより、絶対防御魔法が先だ。ほら行くぞ、絶対防御!」
館のまわりに淡い光が包む。薄い膜が張ったように見える。ドラゴンの時は街だったから限界ぎりぎりだったが、この館ぐらいなら大丈夫だ。まぁアルノーみたいに200年以上も張ってはいられないが。
「この膜に触ってみろ。」
「こ、これか、こ、ここ。触れるな。実在している。この構築された魔力の密度は・・・。」
「ああ、そういうのはいいんだ。必要なのは、心底護りたいと思うかどうかだ。だから団長にはこの館に絶対防御は張れない。団長はこの館を心底護りたいわけじゃないからな。だが、俺にとってこの館は師匠の遺産だ。絶対護りたいんだ。だから張れる。団長なら、王宮ならいけるんじゃねぇか。戻るか王宮。」
ここで転移魔法。状況についていけない団長、いや、食らいつく団長。
「さぁ、王宮に戻った。団長が心底護りたい場所だろ、絶対防御は心底護りたいと思わなければ発動しない。実物は見て触っただろう。行けるはずだ。」
絶対防御!
団長がそう叫ぶと、淡い光が煌めいた。薄いが微かな膜が存在した。さすが王宮魔術師団長。超スーパーエリート!
「絶体絶命の危機に陥った時、本気で護りたいと思えば、大丈夫だろう。」
「絶対防御は使えるようになりたいが、絶体絶命の危機には陥りたくないものだな・・・。」
「次は転移魔法か。転移魔法は魔力の消費量も多い。まぁ団長はたっぷりありそうだな。次のきっかけは、物凄く会いたい人がいるかどうか。それか今すぐ逃げ出したいぐらいの危険な目にあっているかどうかだな。危険は今じゃないが、会いたい人はいるか?」
団長が何か考えるように目を伏せると、頬が赤く染まって、小さな声で呟く。
「つ、妻、妻は非常に・・・。」
「ああ、もういい。会いたい人がいるなら、それでいい。奥さんの顔を思い出せ、鮮明に強く想いだせ、今は自宅か、じゃ、自宅にいる奥さんに会いたいと強く思え。」
魔法オタクの本気は凄い。迷いが消えたその時
「さぁ行け!!」
一瞬空気が揺れたと思ったら、次の瞬間団長が消えていた。成功したな・・・。
「さてと、ハルが今日は王宮の食堂でラーメン作っているって言っていたな。食べにいこう。今日はしっかり働いたから飯が旨いぜ。」
**その頃ジュンさんは**
「ジュン様、わたくしはソニアと申します。この度はたぐいまれなる回復魔法の使い手様に教えていただけること大変喜ばしく思います。よろしくお願いいたします。」
真剣な目が印象的な魔術師団の回復魔法の使い手はアラサーの女子、肩までのストレートのこげ茶色の髪に化粧っけもないすっぴんの顔は生真面目そうな雰囲気を漂わせていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「ジュン様の回復魔法の噂はお聴きしています。欠損をはじめ、古傷さえも治してしまえるとか。わたしは長年、回復魔法を専門に学んできましたが、どうしても超えられない壁があります。どうしても欠損を治すことは出来ないのです。」
「わかりました。まずはあなたの回復魔法はどんな感じですか?」
「わたしの現在の回復魔法は、切り傷、打撲、骨折程度なら治療できます。同年代の聖女様は重篤な病気も欠損も治せます。ですが、聖女様はこの国にお一人だけ、すべての人に手が回るわけではありません・・・。わたしはもっと治せるようになりたいのです。」
彼女の声は重く真剣だった。
「ソニアさん、あなたは、回復魔法を使う時、怪我人の体で何が起きていると考えていますか?」
「え?怪我人の体ですか?回復魔法を使う時は治れと願うだけです。」
「わたしは、回復魔法を使う時は、体の仕組みを思い出していました。骨や筋肉、血管、臓器の動き、神経など、どのように動くのか、血液の働きなど最低限ですが、知識があります。それらが回復魔法の治癒レベルを上げているのではないかと推測していました。これはまだ仮説ですが、あなたが望むなら一緒に確かめてみませんか?」
「是非、お願いします!!」
それから2人で人体について勉強した。骨格、筋肉、神経、血管、皮膚の構造、わたしが現代の日本人の知識、常識の範囲で教えていく、本職じゃないから細部のことはわからない。でも、この程度の知識で回復魔法のレベルがあがるのであれば凄いんじゃなだろうか。
ソニアさんはわたしの顔に見とれることもないし照れることもない。彼女にとって目の前にいるのは、異国の少し変わった異性ではなく、自分の回復魔法のレベルを上げてくれるかもしれない教師なのだ。
「欠損の治療ですが、わたしは傷を閉じることしか考えていませんでした。失った部分を元に戻すということがどういうことなのか理解していませんでした。」
「わたしは体の仕組みを知っていたので、欠損の場合、元の正しい形に作り直すということを無意識で考えていたのだと思います。そこにあったはずの、骨、筋肉、神経、血管、皮膚も全部、作り直すという意識です。」
「元と同じものを作り直すですね・・・。」
「ええ、ソニアさんは理解が早いです。少し気分転換も入れて、王宮騎士団の訓練場に行きませんか?軽い傷を治させてもらいましょう。」
2人で王宮騎士団の訓練場を訪れてみた。事前に回復魔法の練習をしても良いかという許可は取っている。そういう段取りは得意なのだ。
「腕を切っておられますね。ソニアさん、治してあげてください。」
ソニアさんが回復を唱えると、淡い光が団員の腕が光る。ソニアさんは今、皮膚の下に血管があることを既に知っている。今回は筋肉まで怪我は達していないこともわかった。彼女の中の新しい知識が回復魔法に明らかに影響している。
「す、凄い。以前よりも早く、美しく治っている・・・。皮膚に傷跡がひとつも残っていないなんて・・・。」
怪我を治してもらった団員は感謝の言葉を述べるとにこやかに稽古に戻っていく。ソニアの頭の中に浮かんだのは、魔術師団の先輩だ。魔物の討伐に行き、左手の指を失った。魔術師なので、仕事には影響はしないが、私生活でいろいろ不便そうにしているのをじっと見ていたソニアは魔術師団一の回復魔法の使い手だと言われていても、聖女のように欠損が治せないことを、ずっとずっと不甲斐ないと思っていた。で、でも、今なら治せる?!
ソニアさんに頼まれて騎士団から魔術師団の稽古場に移動した。こっちはこっちで魔法の稽古をしていた。遠くからたくさん人がいても、ソニアは彼のことはすぐにどこにいるのかわかった。彼だけがソニアには特別に見えた。その彼の欠損は聖女しか治せない。聖女は国にお一人様だけ、末端の魔術師のペーペーの団員までその機会は回ってこない。歯がゆかった。自分が治せないことが悔しかった。
「先輩、少しお時間いただけませんか。」
「ああ、いいよ。どうしたソニア?」
「ひ、左手を見せてください!」
「あ、そっちの彼、ジュンさんだったっけ、回復魔法の使い手さんだね。じゃあ・・・。」
「い、いえ、そ、その、わ。わたくしが!!!」
全部言い終わる前に、先輩の左手は黄金色の光に包まれた。失われた指の先を思い浮かべる、骨、関節、筋肉、神経、血管、皮膚、それらがどのように繋がっているのかを思い浮かべる。絶対に元に戻す!!
先輩は自分の左手をじっと見ていた。何度も見ていた。指を動かしてみる。以前魔物に持っていかれたはずの部分だ。そこが元に戻っている。
「そ、ソニア!欠損治療できるようになったんだね!凄いじゃないか!!」
先輩がソニアさんを思わず抱きしめる。すべてがわかったわたしは、ソニアさんの隣でついにやにやしてしまった。彼女の今の気持ちは、ぽんこつなわたしにはわからないかもしれないけど、自分の現代日本の知識で確実の回復魔法のレベルを上げられることが実感できた。わたし1人に頼らなくても、聖女がいなくても、今後は回復魔法の使い手が治療を必要とする人の手に届いていくことになるかもしれない。心からほっとした。
先輩にハグされて、真っ赤になって腰砕けているソニアさんに軽く挨拶をし、ハルさんが美味しいラーメン作るって言っていましたねと、軽やかな足取りで食堂に向かうのだった。
**その時レンくんは**
「はじめまして、カイルです!!」
年齢は二十そこそこかな、明るい赤毛は短くまだ少年の面影が残る元気いっぱいの顔だ。いかついごついおじさんじゃなくて良かったかもー。
「はじめまして、僕はレンです。」
「レンさんは、ドラゴンを倒したって本当ですか!」
「うん、僕1人だけではなく、たくさんの仲間と一緒にだけど倒したよ!」
カイルは、ドラゴンを倒した英雄だと聞いていたから、レンのことをもっとごっつい威厳のあるたくましい男性だと思っていたのに、目の前に現れたレンが、甘いマスクの繊細で美しい人だったことに動揺してしまった。こんな華奢で美しい人が本当にドラゴンを?
カイルからなんだかうっとり見られているような気がするけど、人から見惚れられることが日常茶飯事なので、カイルの動揺はほおっていく。いつものことだからねー。
「さぁ、ダンジョンへ行こう!!」
「え?ダンジョン?」
「王都の近くに小さいダンジョンあるって聞いたよ!そこだとどんな魔法ぶっぱなしても大丈夫そうじゃん。」
にっこり笑う僕に、驚きながらも、魔術師団の事務の人に、今から2人ダンジョンへ行きますと言付けして出かけることになった。
「ねぇ、王都のダンジョンって何が出るの?」
「ええっと、お化けきのことか、トレントやウッドゴーレムが出ると聞いています。」
「へー。火魔法とは相性がいいね。さぁ入ろう。」
冒険者ダグを確認されて、2人は王都のダンジョンへ入っていく。ここは森の中のようだ。これならば大丈夫。ダンジョンの中にあるものは大抵一日で再生するからここで魔法を放っても環境破壊にはならないのだ。目の前に大きなきのこが現れた!いや、きのこだ、ちょっと可愛い。でも、ここは先輩の腕の見せ所、最初から面倒だから行くぜ!
お化けきのこ相手に豪炎魔法が燃え盛る。豪炎という名前のとおり、一面火の海で広い範囲が燃え盛る。その火の勢いにカイルがびっくりしているので笑ってしまう。
「これが豪炎魔法だよ!!カイルは火魔法使えるんだろ、ちょー簡単!!」
「え!?」
「カイルは王都の魔法術団のエリートだろ、大丈夫できるよ!」
「あ、俺、エリートじゃないです!!王都から馬車で数刻離れた村の出身です。村で昔強い魔物が現れた時、もうダメだっていう時に魔法が使えるようになっただけなんです。その時使った火魔法で、後から駆け付けた王宮の役人にスカウトされたんです。君には適正があるって。でも、普通の火魔法しか使えなくて・・・。」
「いや、いいじゃん。村を救いたくて発現した魔法ってかっこいいじゃん!カイルはヒーロー体質だよ。僕と一緒一緒!!」
ドラゴンキラーのレンと同じだと言われて、カイルも少し自信が戻ってきた。村での魔物との戦いは無我夢中だったけど、スカウトされて王都に着いてからも火魔法は使えた。庶民にしては魔力も多いと言われ、少しいい気になっていたけど、同年代のレンがドラゴンと討伐したという噂が流れてきた。その時流されるように魔術師団に入団したけど、負けたくないと思ってしまった。
「俺にも豪炎魔法使えますか?!」
「大丈夫、大丈夫。今、見たでしょ!」
「あ、あれだけじゃ、無理です。」
「そう?じゃ、えっと、アルノーさんに教えられた時は、確か・・・」
レンは必死にアルノーに教えられた基本を説明する。炎の作り方、魔力の流し方など教える。カイルは理屈ではなく、野生の勘が鋭い方向だと思う。だから、本当実際の炎見た方が絶対早いと思うよ!!
「じゃ、もう一回見て、あれはトレントかな?豪炎魔法!」
ごおおおっと激しい炎が広範囲に燃え上がる。ドラゴン討伐で連発したので、少し効果が上がっているかも。周りにいる魔物が軒並みに討伐されつくす様子が好き!
「はい、次はカイルね!」
「は、はい!!」
ほら、カイルも豪炎魔法っぽい炎になりかかっている。ただの火魔法じゃない勢いがあり、炎も大きい。お化けキノコもこんがり焼けたよね。食べられるのかな。焼けたきのこの香りは美味しそうだ。料理が出来るかハルさんに聞いてみよう。
「カイルは後何回か練習すれば出来るようになるよ!」
「俺、練習します!」
「うん、僕はハルさんのラーメン食べたいから帰るねーがんばってねー。」
「いつか、レンさんのように俺もなります!」
カイルから強い思いを聞かされたけど、僕の意識はもはや既にとんこつラーメン一択だった。
◇
王都の館で4人が揃い、厨房の料理人さんにお願いして夕食を作りたいと申し出てみる。わたしが珍しい料理を作るっていう噂は王都まで届いているようで、料理人さんたちは興味津々だったので、マルシェさんやダンカンさんと一緒に料理を作るように、館の料理人さんと共に作ることにした。日本の美味しいがこっちの世界に広がるのは嬉しいもの。
ジュンさん、トモさん、レンくんに、今日の魔法教室の内容を聞いてみる。すると3人が教えた回復魔法の使い手の魔術師団随一の団長、アラサー女子、そして若い男の子は既に魔法をほぼ覚えたという!凄いさすが超スーパーエリート集団!!凄いねー、凄いねーと言えば、トモさんとレンくんからは、教えた俺(僕)が凄いからだと反論があった。
あ!そうだね!!トモさんも、ジュンさんも、レンくんも凄いんだ!なんだか自分事のように嬉しくなったよ!
「ハルは明日どうするんだ?」
「明日は『穂草』、お米の料理を作る予定です。王都では『穂草』はまだ家畜の餌という認識のままで、美味しいと言う噂は回ってきているみたいなんですけど、まだ食べていないみたいなので、美味しいって言ってもらえるものを作ろうと思っています!トモさんはどうするんですか?団長さん魔法伝授できちゃったんでしょ。」
「ああ、明日はフォローかな。完全に使えるようになったのか確認しておく。ジュンさんも、レンもか?」
「はい、わたしも今日出来たところを復習する感じですね。」
「僕はどうかな。もう出来ているんじゃね、でも、王都のダンジョンは今日初めてだったから、明日も行ってもいいかな。」
「明日も良い日になるといいですね。」
わたしたちは王都の館でふわふわのベッドに戸惑いながら寝ることになった。どこもかしこも美しく高級品で落ち着かなかったけど、どこか遠くに旅行に来ている感じがした旅先での一泊目だった。




