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「ちょっと気になっているのですが、昔の語り継がれているお話に、この街に定期的にドラゴンが飛来するという伝承を聞きました。」
夜、みんなでいつもどおり飲みながら食べていると、ジュンさんが話だした。ドラゴンの飛来?なにそれ?!
「話によると、この街は魔力溜まりが多くて、3つもダンジョンがあるわけですが、それでも消費しきれない魔力がドラゴンを生み出しそれが飛んでくるのだとか。」
「迷惑だな。」
「ねぇねぇ、そのドラゴンはいいドラゴン?悪いドラゴンなの?」
「邪竜が多いみたいですよ。」
「邪竜か・・・。アルノーの足跡である街に邪竜が飛来した時、街を絶対防御で守ったっていうのがあった。今度の休み、ちょっと調べてくるわ。」
「トモさん、調べるって、街の図書館とか行くんですか?」
「はっ。俺には酒がある。酒場や食堂でも酒を出せば、どこいっても、いちころで皆話してくれるさ。大人のコミュニケーションだぜ。」
ダメな大人のような気もするけど、コミュニケーションが取れていて、情報が得られればそれはそれでいいのか。
「あー。それで最近休みの日は酔っぱらって帰ってきているんですね。」
「トモさん、あんまり酒強くねぇから気をつけないと。」
「・・・量には気を付ける・・・。」
トモさんはそう苦笑する。
◇
数日後、ジュンさんが持ち帰った話とトモさんが別の街で集めてきた情報が繋がった。これは領主への進言だな。そうトモさんが呟いたので、領主の前にいる。なんでー。展開が早いよー。
「この街に、定期的にドラゴンが飛来してくると?」
「ええ、以前、220年前は街の上空を横切り、そのまま遠くへ飛び去ったそうです。その前、400年以上前になりますが、その時はこの街に降り立ったと古い備忘録に残っていました。今回、ドラゴンが飛び去るのか降り立つのかまだわかりません。そもそも生まれてくるのかもわかりませんが、事前に調査はしておいた方が良いのではないかと進言させていただきました。」
「そうか、ドラゴンが降り立ったら、街は壊滅状態になるな。よし、騎士団と冒険者ギルドに調査を依頼しよう。」
緊張したけど、話はジュンさんがさくさくと終わらせた。話は大事だ。ドラゴン来るの??異世界ファンタジーならドラゴンは見たいけど、魔力溜まりから生まれるドラゴンに意志はなさそうだ。怖いなぁ。
調査はすぐに始まったようで、騎士団や冒険者ギルドで依頼された冒険者がダンジョン周辺など、魔力の多い場所を調査しはじめていたよ。どうなんだろう。どこから生まれるんだろう。
「ハル、そわそわしすぎだぞ!」
「だって、いきなり襲われたら怖いよー。」
「いきなりっていうことはないだろう、予兆とか、ほら、空気が震えるとか、遠くから唸り声が響くとか、魔力が凝縮していくとか・・・。」
「と、トモさん!」
「ねぇ、今、みんなあったよね。空気震えたし、唸り声聞こえたし、魔力がぎゅーっと縮んでいく感じがしたよ・・・。」
どーん!腹の底に響くような音がした。
「全員、街へ行くぞ!」
「「「はい!!」」」
トモさんの転移魔法で街の門まで飛んだ。ダンジョンのある方角に黒い渦が巻いているのが見えた。その渦が巻きこまれて、巨大な爪が、長い尾が、黒い鱗が見えてきて、あ、ドラゴンが今、う、生まれた?!!
遠くで、住民の叫び声が聞こえてくる。騎士団が誘導している声も聞こえる。
「行くぞ!!」
「「「はい!」」」
トモさんが、避難する住民と逆の方向へ走る。ドラゴンのいる方向に走る。それに置いて行かれないように必死に後についていく。
「レン、後ろは俺に任せろ、お前は戦ってこい!ジュンさんは負傷者が出たらお願いします。ハルは住民と一緒に避難しておけ!」
えー。わたし避難ですか?嫌ですよ。トモさんのそばにいますよ!!
「絶対防御!!」
トモさんが大きな声で叫ぶと、キーンと空に薄い膜が張った。な、なに?!あ、トモさんが、がくんと膝をついた。顔が苦しそうだ、あ、あ、どうしよー!
「何か、甘いものを食べさせろ!」
トモさんに怒鳴られる・・・えー。甘い物。甘い物、試作のチョコなんでどう?トモさんの口に直接入れる?あん、指がトモさんの唇に触れちゃったらどうしよ。ええー。どうしよ。もじもじしてしまったら、
「馬鹿なことは考えるな、甘い物をすぐに寄越せ!!」
恥ずかしい妄想を指摘され顔面真っ赤になった気もしたけど、チョコをトモさんに渡すと、雑に口の中にほりこんでがつがつ噛んで飲み込んだ。えー。めちゃくちゃ苦労して作ったチョコなのにー。
「おかわり!」
はーい。苦労したチョコだけど、今のこの状況で出し惜しみするわけにはいかない。更にチョコをトモさんに渡す。奪うようにひったくると最初と同じように雑に食べられてしまった。あ、でも、トモさんが立ちあがった。わたしの愛のチョコで立ち上がった!!
「アルノー。おまえも街を救った時、同じ気持ちだったんだろう・・・助けたくて助けたんだよな。アルノー、お前も街を守るため魔力欠乏しても辛くても立ち上がったはずだ。」
トモさんは小さな声で自分に言い聞かせるように呟いていた。近くにいたわたしだけに聞こえていたトモさんの決意。
「アルノー、お前は逃げてばかりの弱虫じゃない!逃げずに街を守ったって、俺が証明してやる!!」
そ の時、結界が強く輝いた。おおー。トモさん、凄い!!結界?ぴかぴかだよ!!
◇
**その頃レンは**
「レン、後ろは俺に任せろ、お前は戦ってこい!」
トモさんの声が耳に残っている。街の心配はもうしなくてもいい。僕は前だけを見ていく!
「レン!行きます!!」
そのまま再前線へ駆け出した。騎士団も上級冒険者もいるが、それでも僕が一番前に行く。
「レン、先走るな!」
「レン、1人で行くな!!」
ヴァルドさんの声がする。マーベルさんの声もする。
「豪炎魔法!!」
放たれた炎が、ドラゴンの翼を焼いた。ドラゴンが咆哮する。大きく体が傾く。
「効いているぞ!!」
「まだまだ、次も行くよ!!」
戦いは長引いた。ドラゴンは生まれたばかりなのに既に恐ろしい力を持っていたのかこちらの攻撃に抗い仕掛けてくる。騎士団長が隊列を整え、マーベルとダグが左右から攻める。
ヴァルドさんはドラゴンの爪をかいくぐり、確実に傷をつけていた。黄金の翼のカリンナさんは巨体を生かした一撃を叩きこみ、マスカリーノさんも仲間に指示を飛ばしながら攻撃を重ねていた。
「くそ、硬すぎる!」
「深追いするな!!」
後方では、ジュンさんが負傷者の治療にあたっている。どれだけ傷ついていても、一瞬で治療している。ドラゴンはたまったものじゃないだろう。
かつて欠損を治してもらった元団員も加わっている。そして酒好き冒険者も、トモさんの酒が飲めなくなるのは困る!と参戦しているようだ。
ドラゴンの攻撃を避け、剣を振るい、魔法の使えるものは魔法を叩きつける。その間にも時間は過ぎ、太陽が完全に沈んだ。真っ暗闇かと思ったところ、ドラゴンの鱗の隙間から仄かに光が漏れ始める。ドラゴンが闇の中にぼんやりと浮かび上がる。夜空に浮かび上がるドラゴンの姿に魅せられる。
「惑わされるな!」
そこに、豪炎魔法を放つと炸裂した。1発、2発。3発。炎が夜空を照らし、そのたびに自分の姿が赤く染まる。燃え上がる赤い火に照らされながら再び魔法を放つ。
「今だ、畳みかけろ!」
ヴァルドさんが叫ぶ。黄金の翼のメンバーが動く、騎士団が一斉攻撃を仕掛けた。カリンナさんの一撃が前脚を砕く、マスカリーノさんの指示で左右から攻撃が行く、マーベルさんとダグさんが隙を作り、騎士団長が剣を振り下ろす。
ドラゴンは傷だらけだ。僕も息があがる。そして大きく深呼吸をすると、ドラゴンの首の付け根にひと際大きな鱗に気づいた。あ、あれもしかして逆鱗!頭の中に今までみた漫画、ゲームの知識が蘇る。ドラゴンの弱点は、逆鱗だ!!
地を蹴り飛び上がる、異世界あるあるチート知識を使えることが嬉しくて仕方がないよ!まっすぐにドラゴンに向かう。ドラゴンの動きが一瞬止まった。
「これで、終わりだぁぁ!!」
剣を両手にしっかり持ち全身の力を込めて逆鱗を狙う。渾身の一撃は深く突き立った。ドラゴンの咆哮が夜空を震わせ、巨大な翼が折れ、地面に伏せた。轟音が響き、土埃が舞い上がった。そして静寂。
「・・・た、倒した?」
誰かが呟いた。僕は剣を握ったまま立っていた。ドラゴンはびくとも動かない。ヴァルドさんがドラゴンの近くに寄り、ドラゴンを鑑定しているみたいだ。
「勝利だ!!俺たちの勝利だ!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
歓声が爆発した。騎士団も冒険者も互いの肩を叩き合う。ヴァルドさんに肩を抱かれた。カリンナさんは豪快に笑い、マスカリーノさんが仲間を労う。マーベルさんとダグさんは拳を突き合わせ、騎士団長はほっと安堵の息を吐いた。
「レン!お前凄かったぞ!!」
ヴァルドさんに肩を叩かれたままで、ようやく剣を鞘に収めた。
「え?僕、凄かったですか!!へへへ。」
活躍を褒められ喜んでいた僕の前に黄金の翼の大男カリンナさんが前に立つ。
「ハルの仲間のレンだな。おまえ、なかなかやるな。暁月のレン、今夜の戦い見事だった。おまえの炎は夜を照らし、おまえを赤く染めた。それが暁月のようだった。」
「悪くない名だな。」
「暁月のレンか。確かにそうだ!」
「暁月のレン!おまえが今回の功労賞だ!!」
「いつか二つ名のつくヒーローになりたかったけど、成れたのかな・・・。」
「ああ、お前はヒーローに成れたぞ。」
ヴァルドさんが優しく微笑む。それに応えて僕は破顔した。
◇
街の人々が歓声を上げる中、トモさんは結界を解除して、その場に座り込んだ。
「だ、大丈夫、トモさん!!」
「ああ、大丈夫だ。レンもジュンさんも頑張ったみたいだな。」
トモさんは倒れたドラゴンをずっと見つめていた。
がやがやと声が聞こえて、討伐隊が戻ってきたようだ。レンくんもジュンさんも一緒にいる。みんな無事で良かったー。
「ねぇねぇ。ハルさん、ドラゴンってステーキ作れる?」
「ドラゴンステーキですか?」
「うん、漫画やゲームで出てきたよね。ドラゴンステーキ、一度食べてみたい!」
「ああ、いいですねー。わたしも作ってみたいです!!」
「じゃ!」
「お前ら、ちゃんと鑑定しろ!!」
ドラゴンステーキでテンションあがっていたらトモさんに怒られてしまった。鑑定?
「あのドラゴンは邪竜だ。食べたら腹壊すぞ!」
「えー。食べられないの??そんなぁー。」
「残念!!ドラゴンステーキ・・・。」
「ふふふ、レンくんはついさっきまで命をかけて戦っていたのに、ドラゴンステーキが食べられないと落ち込むなんて。レンくんは今日の勇者でしょ。もう少し胸張ってね。」
「はーい。」
ジュンさんがいたのもあって、誰もが無事で命を落としたものはいなかった。街も結界のお陰で被害はなかった。今回の功労者の一人はドラゴンステーキが食べられないと凹み、もう一人の功労者は、そんなヒーローを窘めながら家に帰る。そこには、もう、いつもの4人だった。




