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**その時、領主は**
「迎えの夜も無事に終わったようだな。」
領主は窓の外に目を向けながら、ゆっくり息を吐いた。迎えの夜、古くからこの街に伝わる風習であったが、近年はその意味を知るものも少なくなり、いつしか形だけの行事になっていた。それを今年は改めて街の人々と大々的に行ってみたのだ。
「街の古老の方々も大変喜んでおられました。若い方々もあれほど精霊や妖精を目にすることができるとは思っていなかったようです。」
家令が穏やかな顔で報告する。
「わたしもあれほど多くの光が街を飛び交う光景は久しぶりに見ました。奥方様も、小さな光が飛んでいく姿をご覧になったようです。」
「ほう、それは良かった。」
この土地では、精霊や妖精に気に入られた畑は豊作になりやすいと伝えられている。もちろん、精霊や妖精の姿が見えたからといって、必ずしも豊作になるとは限らないが、農作物の実りを願う者たちにとって、今日の光景は吉兆だっただろう。
「来年の収穫が楽しみだな。」
「はい、街の者たちもそう話しておりました。」
「古い風習も忘れず若い世代に伝えられて良かった。」
領主は改めて、今年の迎えの夜が良い夜になったことを喜んだ。そして、その前の秋祭りの賑わいも思い出した。
「それにしても、ラーメンは素晴らしかった。骨からあんなおいしいスープが取れるとは想像もしていなかった。魚介のラーメンもこれまで食べたことはなかった。ダンジョンと海辺の我が街、魔物肉で作るとんこつラーメンに海の幸で作る魚介ラーメン、この二つは我が町を代表するものになるだろう。」
「エールもワインも評判がよろしかったようです。領主館にも納品してもらいましたが、大変美味しゅうございましたね。」
「ああ、あの4人は凄い・・・。」
4人が持ち込んだものは。どれもこの街では珍しいものばかり、食べ物も、焼き菓子も、薬もアクセサリーも目を惹く。秋祭りでは、4人の衣装にも目を惹いた。どこか異国の正装に見えた。そして歌と踊り。あれほどの素晴らしい音楽、聴いたことがない旋律に多くのものが聴き惚れた。
「来年も参加していただきたいものですね。」
「そうしてもらいたいものだ。ところでハルから礼としてもらった7つの焼き菓子だが、あれは王家にレシピともども献上すべきか。」
「ええ、マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキ、カヌレ、マカロン、サブレ、ガレット、どれもこれも大変美味しゅうございました。ガストははりきってすべて作れるようになりましたから奥方様が大変お喜びでございます。これほどのものを秘匿しておくことは無理でございましょう。ドーナツ、クッキー、おにぎり、牛丼、ラーメン、そしてこの7種の焼き菓子の献上は避けられないものでございます。」
「そうだな。手続きをしてくれ。」
「は、かしこまりました。」
「王家から、呼び出されるか?」
「わかりませぬ。」
「我が街は王都から馬車で3日の小さな街、ダンジョンはあるが、今までそう評判になるものもなく、特産もなかった。王家もこう立て続けに献上されて不審に思われているかもしれぬ。もし、王家が動いたら、出来るだけ彼らの力になろう。」
「かしこまりました。」
家令は深く一礼し、領主は窓の外に目を向けた。迎えの夜の余韻が残る街には灯火の光がちらちらと見える。時折小さな光が浮遊しているのも見える。賑やかな街になったかもしれない。異国の王子様だという噂はあくまでも噂で真実は確認できていない。彼らがこの街にどう関わっていくのか、領主としてしっかり見守っていこう。もちろん美味しい料理を一番に頂くためにも・・・。
**ヴァルドさんの独り言**
ヴァルドは冷めかけたお茶を一口飲むと窓の外へ目を向けた。秋祭りは大盛況だった。ハルのラーメンは評判どおり、いや、評判以上の出来だった。冒険者ギルドの受付嬢たちと食べにいったが、あの濃厚なスープとはじめて食べた麺といった物の組み合わせは、騒がれるだけのことはあった。慣れるまで食べづらかったがそれでも旨かった。
トモの酒は相変わらず旨い。ギルドでも納品してもらえるようになったが、祭りはワインを出してきやがった。あれは王都でしか飲めない高級酒だ。それを祭りで庶民が飲める金額で提供しやがった。無茶をする。まぁかなり旨かったからまた飲みたい。
あと、歌と踊りだ。あいつらが街の広場で時々歌っているとは聞いていたが、本当に歌っているとこは初めて聴いた。異国調の衣装をきて異国風の歌を歌う。なんとも不思議な感じだった。
最初あいつらが冒険者ギルドで登録しにきた時、やっていけるかと不安だったが、真面目に地道にレベルあげしていく姿を見てなんだか安心した。その後、討伐の合間に、露店を開き、ドーナツやクッキー、酒に、傷薬、アクセサリーまで売り出した。全部冒険者ギルドでも売りたいと思ったものだ。
ジュンには古傷も治してもらったな。あのお陰で時々冒険者に戻る事が出来た。時々レンとアンデッドダンジョン行くのが楽しみになった。レンといると宝箱に出会う確率が高いと思う。あれは強運持ちだな。
ハルには『穂草』の料理も教えてもらった。冒険者ギルドで香り草巻きのおにぎりを出すようになった。若い見習いや金のない冒険者たちが、安くて腹にたまるおにぎりを食べてひもじい思いをすることが減った。
あいつらは大したことをしていないと思ってやがるが、小さな積み重ねがこの街をすこしずつ変えている。
そして、今回の迎えの夜だ。あいつらが領主に進言したらしいと噂で回ってきた。昔はあたりまえに行われていた風習を、街の古老に聞きながら復活させた。俺たちギルドも協力した。子どもに菓子を配るというから、広場で子どもらの誘導とかを手伝った。
やってみて、どれだけ効果があるのか半信半疑だったが、静かな夜に見たことないぐらいの多くの精霊の光を見た。精霊や妖精は良き隣人だという言葉を思い出した。
あいつらが何でもないよというばかりに街に新しい風を運んでくる。それならば俺はあいつらが無茶をしないように見張っておこう。この街であいつらがどんな明日を作っていくのか見届けるのも良いだろう。明日、トモにワインもギルドに納品できるか聞いておかないとな。ヴァルドの口元にほんのわずかに笑みが浮かんだ。
**見守り隊女子たち**
「みんな秋祭り夢じゃなかったよね・・・。」
仕事帰り、カフェで王子様見守り隊の定期連絡会議を開いている。カップを手にとったリエナがしみじみ呟いた。
「夢じゃないわよ。わたしもずっとあの日のことを思い出しているもの。」
「わたしも、何度も仕事中に思い出してはにやけてしまったわ。」
「分かるわ!」
テーブルを囲んでいるのは、リエナ、キャロン、リタに、ミーナ、エステル、フィーネ、見守り隊の仲間である。
「まずはラーメンよ!!」
「ハルさんが作ったラーメンというもの、あれは見たことがない食べ物、きっと王子様の故郷のお料理だったのよ!!」
「わたしもそう思う。食べたことのない。めちゃくちゃ美味しい料理はきっと宮廷料理なのよ!ハルさんが故郷を懐かしむお2人に作ってあげていたのよ!!」
「それもそうだけど、違うの、ラーメンの素晴らしさだけではなく、兄王子様と弟王子様が給仕をされていたのよ!!お揃いのエプロンが素晴らしかったわ。」
「あのエプロン売っているなら欲しい!」
「お2人に給仕なんてと思ったけど、異国の地からの逃亡で身に付けられたのかもしれない。健気に誰の迷惑もかけずに生活されているのよ、きっと!!」
「王子様方はダンジョンで討伐もされているし、甘やかされたままではないのよ。」
「お労しい・・・。」
「で、でも、いつかお家再建されるのであれば、今は力をつける時なのかも。じっと耐えておられるのよ!!」
「指の先までお美しかったわねー。」
「そうそう、歌も、前に歌ったことがある歌ばかり歌ってくださったから、もう一度聴きたいと思った歌を聴けて嬉しかったわ!」
「あ、あの素敵な衣装も見た!ああ。異国情緒のお揃いの衣装。なんて素敵だったのでしょう。」
「眼福ものだったわ。」
「本当夢見ているみたいだった。」
「秋祭り夢じゃなかったわよねー。」




