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秋祭りの翌日。
わたしたち4人は領主様への挨拶のため、再び領主館を訪れていた。
「このたびは、秋祭りにお招きいただき、お手伝いもしていただき、ありがとうございました。」
トモさんが代表して挨拶をしてくれたら、領主様が満足そうなお顔をして頷かれた。
「いや、礼を言うのは、こちらの方だ。君たちのお陰で、今年の秋祭りは例年以上に盛り上がった。新しい料理と酒、そして歌と踊り、街の者たちが大いに楽しんでいたぞ!」
「それなら良かったです!」
祭りの賑わいを思い出す。ラーメン作りを手伝ってくれたダンカンさん、マルシェさん、モランさんにガストさん、売り子のジュンさんとレンくん、ラーメンを食べに来てくれた冒険者や黄金の翼のメンバーや騎士団やヴァルトさんたち、トモさんの屋台の前でたむろしていたドワーフのおじさんたち。みんないい笑顔だった。準備は大変だったけど、やってよかった一日だった。
「ラーメンはガストが作り方を覚えたので、領主館でも食べられるようになった、祭りの協力の礼だという7種類の焼き菓子もガストはもう作れるようになったのだ。妻も娘も大変喜んでおる。もちろん、王家にはレシピごと献上させていただく。」
「え?焼き菓子レシピが王家に?」
「『穂草』で作る料理やラーメンも献上したぞ。」
「え?本当ですか?でも、美味しいものはみんなで食べるとより美味しいからいいですね!」
領主様も頷かれた。
「ところで、ひとつ尋ねたいことがあるのだが。昨日の衣装、黒を基調とした独特な装いは君たちの故郷の正装なのか?」
あー。あれはわたしの悪乗りなのだ。決して日本の正装じゃないと否定しなくっちゃ!!
「あ、あれは、ハロウィンというお祭りで着るような仮装なのです。正式な服装ではないです!!」
「ハロウィン?仮装?どんなお祭りなのだ?」
うわ、日本のハロウィンのお祭りはなんとなくわかるけど、正式な由来とか内容はあんまり知らない!どうしよ?!教えてジュンさん!!とジュンさんの顔を見てみる。
「わたしがご説明しますね。ハロウィンとはわたしたちが住んでいた地方ではなく違う地方での古い季節の行事ですね。秋の収穫時が終り、冬を迎える節目に、人間の世界と異界の境界が薄くなると考えられており、仮装をして子ども達にお菓子を配るという風習がありまして、それがわたしたちの地方に入り、仮装をして賑やかに過ごすという感じになっています。」
「人間の世界と、異界の境界か・・・。」
「旦那様、この街にも似たような行事があると古老から聞いたことがございます。ずいぶん昔から、精霊と妖精の世界が近づく夜があり、その日家の戸口を飾り、灯火を置き、訪れた精霊、妖精をもてなしたそうでございます。迎えの夜と聞いたことがございます。」
えー。この街にもハロウィンに似たものがあるんだ!もともとこの街には既に精霊も妖精も見かけるもんね。近づく日があってもおかしくないのか。
「あー、少し聞いたことがあるな。」
「ええ、ですが、今ではほとんど知られていないと思います。街の古老の方々が細々続けているそうでいらっしゃいますが・・・。」
「精霊や妖精は良い隣人だと聞いている。時々街で見かける精霊や妖精がそのような古老の方々の招きを受けて来ていたのかもしれぬ。失われかけた伝統は取り戻すことは街の活性化になるのではないか。」
領主様の言葉に、家令らしき人が深く頭を下げた。
「君たちの故郷の知恵を貸してくれないか。この街の古い伝統を取り戻したい。」
「はい!もちろんです!!」
精霊とか妖精とか、本当にいるんだもの、たくさんお会いしたい!!
「古い行事を調べるため、街の古老の方々や顔役さんのところにある、いくつか本を読むことをお許し下さい。」
「許可する。領主館の本はわたしも調べておく。かかる費用はこちらで負担しよう。」
「「「「ありがとうございます!」」」」
こうして、わたしたちは、迎えの夜という街の古い風習を復活させることになった。
◇
数日後、家令の紹介で街の古老たちを訪ねていくことになった。お年寄りの口に合いそうなふわふわのシュークリームを持っていく。
「昔はね、あの夜が近づくと、戸口に常緑の枝を飾ったものだよ。」
「森の葉が落ちても緑を保つ枝は、冬の間も命が続くことの印だと言われていた。赤い実や草花を飾る家もあったね。」
「精霊や妖精が迷わないように灯火を置いて、冬を迎える準備もしたね。」
「子どもたちが、簡単な仮面をかぶって、古い外套を羽織って精霊や妖精の真似をして、家々を回って、訪ねてきた子どもらに、飴や木の実を渡したものだよ。」
「それは楽しそうですね。」
「ああ、楽しかったとも。でも、いつの間にかやる家が減っていった。花を飾っても、子どもも家を訪ねてこない。ちかちかと浮遊する精霊は見ることがあるから、まだ続けているけどね。小さな精霊の訪れでも嬉しいもんだよ。」
「今年は正式なやり方を復活させてみませんか。領主様が協力して下さるのです。」
「本当に?」
「はい。」
古老のおじいちゃん、おばあちゃんたちが、なんだか泣きそうな顔をしながら頷いている。伝統を繋いでくれていてありがとう。
「そうか、じゃ、わしらも協力しよう。まだ覚えているものが何人かいる。」
その日から、街の古老の人々の間に、知らせが広がったと聞く。今年はあの風習が完全復活するらしいと。わたしたちはわくわくして準備を進めていった。
◇
子ども達に配る焼き菓子は、領主館の厨房で作ることになった。7種類の焼き菓子を極めたガストさんが指示を出す。わたしが指示しなくていいから楽ちん!ありがとうガストさん!!
小麦粉を計る者、卵を割るも者、焼きあがった菓子を冷ましてから袋に入れる者、焼き菓子は、定番のくるみのクッキーとフィナンシェにした。大量に作るので、ハントさんには型をたくさん作ってもらった。トモさんのお酒と相変わらず交換だ。
「わしの作った型で作った菓子も食べてみたい。」
と、ハントさんが言うので、その都度、お酒と型で作ったお菓子をお渡ししていたら、最近は、何を作ればいいんだと御用聞きまでしてくれるしまつ、今回の大量注文は飛び上がって喜んで作ってくれた。ありがとう。
「砂糖の手配がうまくいっていないようです。」
ガストさんからそう聞いた。うちの砂糖はあれからもずっと無限増え続けるのを増やし続けている。わたしのインベントリには砂糖が山ほど詰まった壺がたくさんある。いっぱいお菓子作ろうと思っていたからね。出すか。砂糖。でも、お高い砂糖をたくさん出すと怪しまれる?もともと持っていたっていうことにしようか。そうしよう!!
「ガストさん、砂糖ならあります。わたしたくさん持っています!」
そういって、マジックバックから出すていで、砂糖の壺を何個か出して見た。目を見張るガストさん。でも、ただなの。これ無料なの!!
「これは、大変有難いですが、よろしいんですか?」
「故郷から持ってきたんです。まだたくさんあるから大丈夫です!」
「ありがとうございます。ハルさん、あなたのご厚意決して無駄にはしません!!」
ガストさんが深々と頭を下げられる。きゃー、やめて!!大げさだよ。これただなんだもの!!
「あ、頭を上げてください。大丈夫です。ほんとうに大丈夫ですから!」
料理長に頭を下げられたら非常に恐縮してしまう。必死で阻止した。はぁ。ぜいぜい。わかってもらえただろうか。わたしたちにとって、お砂糖は無限で増えるものだ。管理人さんありがとう!ガストさんをはじめ、街の子どもたちが喜んでくれたら、それでいいよ!
◇
そうして、精霊や妖精を迎える夜が来た。街はいつもより静かだった。秋祭りのような賑やかな雰囲気はなく、家々の戸口には、常緑の枝や赤い実や草花が飾られ、家には綺麗な水かミルクも用意された。窓辺には小さな灯火が置かれ、夕闇の中で柔らかく揺れていた。
広場には古老たちが用意した飾りが並んでいる。ここにわたしたちがカボチャに似た野菜で作ったランタンを飾らせてもらった。ちょっとだけハロウィンっぽくしたかったのを領主様は許してくれたのだ。ありがとうー。
昔の風習を知っている古老たちが、街の若い世代に飾りの意味や今日の夜の意味を教えていた。街の人々はちゃんとその意味を知ろうとしてくれていた。その素直な姿勢がいいなって思った。
わたしたちは広場で子どもたちに焼き菓子を配ることにした。普段甘いお菓子がほとんどない街、露店のドーナツとクッキーが飛ぶように売れていて、急速に美味しいものという地位を築いてきた菓子に、皆わくわくしている。
「はい、どうぞ!」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
隣でガストさんも配っている。もちろん、トモさんもジュンさんもレンくんも一緒に配ってくれている。笑顔で受け取る子どもたちは自分の家に走って帰っていく。街のあちこちで笑い声が聞こえてくる。戸口に置かれた灯火が夜風に揺れていた。
ちかちか光る浮遊するものが多いんじゃない?この夜、本当に良き隣人の精霊と妖精がたくさんこっちの地に遊びにきたのかもしれない。置いていた菓子が、ミルクが朝になって無くった人が大勢いたと後で聞いた。
◇
お菓子を配り終わって、みんで街の温かい様子を見ながら広場から門までの夜道を歩いていた。
「いい夜ですね。」
「ええ、本当に。」
「忘れられかけていた行事が復活するって何かいいですね。」
「伝えた人が残っていて、本当に良かったです。」
その時、トモさんの足が止まった。
「・・・トモさん?どうしました?」
「どうかしましたか?」
トモさんは真剣な顔をしている。
―そうか、わしはこんなにも満たされていたのか。長い時を生きた。孤独を抱え誰にも理解されず自分の存在を持て余し、自暴自棄になったこともあった。逃げまくった弱虫だった。だが、トモと出会い、ジュンとハルとレンに会えた。楽しい食事時間、魔法を教え、酒を飲む。じゃれて笑って頼られそれに応えることができた。
「・・・アルノー?」
―精霊世界とこっちの世界の境界が一番薄い夜。何もかも次元も溶ける夜、今ならいけそうだ。
「あ、アルノー!」
―トモ、ありがとう。
「アルノー!!」
アルノーさんを呼ぶトモさんの声が切なく響く。あ、あ、アルノーさんが?
「あ、アルノーが・・・消えた・・・。」
そばにいたわたしにぐらいしか聞こえない呟くような声だった。
アルノーさんが消えたんだ・・・。もともと未練が多くて残ってしまった残留思念のようなものだとおっしゃっていた。未練がなくなっちゃったのか・・・。ご本人は200年前の人なのに、いつか未練がなくなったら消えるって聞いていたのに。胸が締め付けられるように辛いのは何故!
トモさんは空を見上げた。灯火の向こうに無数の星が輝いている。
「俺こそ、ありがとう。」
静かな声だった。迷子になった子どものような声だった。
「トモさん、どうしちゃったの?」
直球勝負のレンくんが聞く。
「ああ、アルノーが俺の中から消えた。」
「えー!!もっと魔法教えてもらおうと思っていたのに!」
「え、アルノーさん・・・。」
「ああ、最後は心の底から満たされた、そんなイメージが伝わってきたよ。」
「・・・良かった。」
「もっと一緒にいたかったね。」
「ああ。でも、奴は最後、自分の人生に満足したみたいだ。最後幸せだったとジュンにもハルにもレンにも感謝していた。」
「アルノーさんから教わったことはわたしの中にあります。アルノーさんは消えたけど、消えていないと思うのです。」
「ああ、そうだな。アルノーの思念は消えたが、奴が俺に残していったものは多い。」
「僕の中にもアルノーさんはいるよ!!」
「ええ、みんなの心の中にちゃんと住んでいますよ!」
トモさんは止めた足を見て、ゆっくり歩きだした。
「・・・ああ、帰ろうか。」
「今日はアルノーさんの話をしましょう。」
「奴がいろんな街を逃げ出した話をしてやろう。」
「えー。そんな話があるんですか!」
「奴からどんなところをどう通ってきてどんなことをしたのか雑なイメージで伝わってきていた。奴の膨大な孤独が押し寄せてきていたが、最近は柔らかいイメージが多くなってきていた。」
「わたしにとってのアルノーさんは昔の服を気軽に用立てしてくれたり、乞われるままに魔法を教えてくれたりした、気のいい人でした。」
「アルノーは、ジュンのことも、ハルのことも、レンのことも気にいっていて好きだったからだと思う。」
わたしたちは、これから先も、アルノーさんのことを忘れることはないだろう。4人で食卓を囲み、くだらない話をするときも、今後魔法を使う時も、大きな館で1人っきり暮らしてきた寂しがり屋のアルノーさんをきっと思い出すだろう。
「アルノーさん、幸せになれて良かった・・・。」
秋の夜空は星が輝いていた。街の灯火はまだ消えていない。精霊を迎える夜は静かに続いていく。そしてわたしたちの明日もきっといつもどおりに続いていくのだろう。




