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「ねぇねぇ聞いてください~。」
その日の家飲みは、トモさんが用意した極上のお酒、わたしが作った出汁巻卵、ポテトフライ、冷ややっこに枝豆といった定番のメニュー。いつもと同じようだったのに、ジュンさん、いつもより飲んでいる?いつもより艶めかしい口調でお願いされたら、残り3人はしゃきっと聞く体勢になってしまう。
「え、ジュンさん、どうしたんですか?」
「なんかあった?」
「変な奴に絡まれたのなら、俺が締めに行くぞ。」
「いえ、違うんです。わたし、最近欠損の方や古傷を治療しているのですが、それはその方のためになっているのか不安になってきまして。」
「へ?傷は治ればいいんじゃねぇの?」
「俺も治していいと思うが。」
「わたしもジュンさんは治療していいと思います。」
「あの、わたしは欠損も出来た傷も、その人が乗り越えるべき試練だと思うのです。生まれる前に神様と決めてきた試練です。乗り越えられるものを携えて生まれてくるのだと思っています。それをわたしごときが治しちゃっていいんでしょうか。」
あー。ジュンさん今日は結構飲んでいる。いつも以上に酔っぱらっている。でも、そんな悩みがあっただなんて。欠損も古傷も治してもらえれば喜んでもらえるだけだと思っていた。
「人は、なりたい自分になるために生きてきています。そこに至るまでに、乗り越えなければならないことがあると思うのです。乗り越えて初めて知ること、その経験込みでその人の人生となります。欠損も古傷も、苦しみながら努力して乗り越えてこられたと思うのです。それをわたしの魔法が簡単に治してしまったら、その人の人生を無視することにならないでしょうか。」
「ジュンさん、ジュンさんに欠損や古傷を治してくれって頼むのも、治して欲しいと足を運ぶのも本人の意志だろう。その人は、治して欲しいと思ったから、ジュンさんの前まで来たんだ。本人の選択と意志は本人の努力の結果ともいえないか。」
「わたしの魔法治療を受けるのも本人の努力・・・。」
「それに、治したからと言って、それまでの努力がなくなるわけじゃないだろう。失ったものを補うための技術も苦労も努力もその人を成長させただろう。無駄にはなっていないと思うぞ。」
「そもそも、ジュンさんは、全世界の人を治せないじゃん。だったら、今、この街に、この瞬間に居合わせた運のいい人だけ治せるんだよ!ジュンさんが言うように、人生に必要な試練が最初から組み込まれてきたと言うのなら、ジュンさんが治した人は、最初から治してもらえるということも組み込まれてきたんだと思うよ!!」
「運・・・治すことも組み込まれてきていた・・・。」
「試練を乗り越えるため、失い、また再生するところまでがセットだった人もいるんじゃない。治した人、みんな感動していたんじゃない。その奇跡に感謝して、失うよりももっと凄い人になったかもしれないじゃん!」
ジュンさんは少し考えるように思案顔になっていく。
「ジュンさん、わたしは難しいことはわからないけど、ジュンさんには治せる力がある。だったら、それを使うのはジュンさんの自由だと思います。治したいから治した。それでいいと思います。」
「治したいから治した・・・それでいいんでしょうか。」
「そうだよ。治して欲しい人がいて、治したいジュンさんがいたら、治しちゃっていいに決まっているよ!」
「ジュンさんは誰かを傷つけるために魔法を使っているわけじゃないんだから、もっと楽に考えていいと思う。」
「そう、そうですね。わたしが難しく考えすぎたのかもしれません。日本では出来なかった欠損や古傷を治せる力が急に怖くなってしまったのかもしれません。自分が神になったかのような万能感。ええ。でも、そうですね。治して欲しい人がいえ、治せる力があって、それを咎める人がいない場所で何を悩んでいたんでしょうね。わたしは誰かにその力を使っても大丈夫だって肯定してもらいたかったのかもしれません。トモさん、ハルさん、レンくん、ありがとうございます。」
「おう。」
「どういたしまして。」
「ぜんぜん、いいよ!!」
みんなそれぞれ返事し、笑い合った。ジュンさんが空になったグラスを見て、
「もう一杯飲みましょうか。」
「ジュンさん、大丈夫、今日は結構飲んでいるよ!」
「大丈夫です。わたしの回復魔法は二日酔いを完全に回復できますから。」
にっこり艶やかに微笑む、ジュンさんに朝まで付き合う気で乾杯をする。誰かの人生を勝手に決めてはいけないと思うけど、相手の願いを叶えることなら協力してもいいのだと思う。ジュンさんが何を選択しようとそばで見守りたいと思った夜。
―今日も良い夜だな。
アルノーさんがトモさんの心の中でそう言ったとか言わなかったとか。




