41
「さて、と。」
朝食を終えたリビングで、トモさんが腕を組んだ。その仕草がカッコいい。何やってもトモさんってカッコいいんだよねー。
「アルノーが俺の胸のうちにいる間に魔法を教えてもらおうと思っている。」
―わしは先生になるのか?
「アルノーから、少し戸惑った照れた感情が届くが、了解してもらったようだ。」
「はいはーい!僕、豪炎魔法覚えたいでーす!!アルノーさんよろしくお願いします!」
―レンは威勢が良いな。悪くはない・・・。
「アルノーが良いって、言っている。」
「わーい!やったー!」
レンくんが飛び上がって喜んでいる。わたしはどうしよう。なんだか、大きな魔法はわたしにはどうにも合わない気がしている。ゲームをプレイしていた身にからすれば使ってみたいけど、身の丈に合わない力を手に入れるのは怖い。
「あ、アルノーさんの魔法って「転移魔法」「建築魔法」「土木魔法」「豪炎魔法」「絶対防御」「護岸魔法」「生活魔法」ですよね。生活魔法は被るので、良いとして他の魔法はなんだかわたしとは相性が合わないと思います。そんな勘がします。「転移魔法」は欲しいですが、怖いという意識が前に出てきます。今回は残念だけど、わたしは辞退します。」
―そうか。ハルは生活魔法と家事の使い手、大きな魔法は確かに合わないかもしれぬな。無理はしなくて良いと思うぞ。
「アルノーも、ハルは無理をするなって。」
トモさんが優しい笑顔でそう言ってくれてほっとした。隣でジュンさんが決意を決めたような顔をして話し出した。
「わたしは、日本で建築の仕事をしていたので、「建築魔法」と「土木魔法」「護岸魔法」は習いたいですね。」
―ああ、相性の問題もあるからな。レンやジュンとはうまく出来そうだ。
「ジュンさんも習っても良いって言っている。」
「あ、嬉しいです!よろしくお願いします!」
最初の魔法の練習は以前魔法の練習をした森の少し開けた場所にした。わたしもみんながどんな魔法になるのか興味津々。自分が覚えられなくてもみんなの魔法だもの気になるー。
まず、アルノーさんから魔力の感覚を掴むことから学ぶことになった。みんな自己流で勝手に使っていたけど、ちゃんと基礎を習うというのも有難い。
―魔法は自分の中の魔力を感じとり、何をしたいのか明確にイメージする。そのイメージに魔力を添わせれば現象を起こす。
アルノーの声はみんなに聞こえないから、トモさんが通訳している。
「ゲームや漫画と同じで、イメージが大事だっていうことだね!」
レンくんがどや顔で胸を張っている。可愛い。魔力を感じることはわたしの魔法にも共通するので、こそっとわたしもここは練習してみる。なんだか体の中を蠢くものがある。生活魔法を使う時にそれほど大きな魔法ではないからあまり意識していなかった。自分の体の中にも魔力って本当に存在しているんだって気づけた!面白かった!!
―レンは火魔法が使えるのだな。まずは小さな炎を出して見ろ。
「はい!ファイア!!」
ぽっとレンくんの指先に炎が灯った。レンくんも火魔法の練習ずっとしていたもんね。立派などや顔が微笑ましい!
「出来ました!!」
―では、炎を大きくするのではなく、炎の密度を高めてみろ。
「え?密度?高める??」
「あー。おにぎりを握るように、ぎゅっと固めてみろっていうイメージだな。」
―大きく燃やすだけなら、魔力を多く流せばいい。しかし燃費が悪い。少ない魔力でより高い熱量を生み出す。それが豪炎魔法だ。
「少ない魔力で、より高い熱量。消費魔力が少なくて威力が強くなるものだとイメージできないか?」
「ゲームにあったね。ゲームみたいにイメージしてみる!」
レンくんは静かに目を閉じると、見たことが無いぐらいの真剣な顔、レンくんの手のひらに小さな炎がぽっと灯る。それが揺らぎ、少しずつ変わっていく、赤い炎が青白くなっていく!!
凄い。レンくん凄い。ゲーム脳凄いよ!!
―なかなか筋が良い。今度は炎を押し縮めるのではなく、熱が一点に集まり、そこから力強く広がっていくイメージを。
それを聞いたレンくんは、目を開けた。炎の先端が輝いた。ぼわっという音がして、一瞬で炎が目の前に大きく広がった。うわぁ!レンくんも焦ってあわあわしていたら、炎は静かに消えた。すげー。
―レンは、このまま練習すれば豪炎魔法使えるようになるだろう。
「やったー!!」
アルノーさんからなんらかの意識がトモさんに伝わっているようだ。トモさんがその過程でふと柔らかな微笑みを浮かべた。アルノーさんとトモさんだけが共有するそれは、2人だけの想いなんだろうな。
次に、ジュンさんも習うのだけど、ジュンさんは小さい頃からゲームを嗜んできていないが、実際の建築、土木はリアルに日本の会社で監督管理という職務だが経験してきている。アルノーさんからヒントをもらい、少しずつ繰り返し続けることで、今後これらの魔法を使いこなすことが出来るだろうとお墨付きをもらった。ジュンさんの手の平には、さっき練習で作ったばかりのミニミニハウスが乗っている、これは部屋を訪れる精霊さんに使ってもらおうと喜んでいた。
最後はトモさんだ。
「俺は全部の魔法を教わるつもりだ。」
―トモには何も言わなくても、わしの知識イメージは伝わっているだろう。初めて歩くのに、道順をすべて知っているような感じだと思うんだが、どうだ。わかるだろう。
「ああ、アルノーわかる。アルノーの知恵は俺のもんだ!」
そう、トモさんが言うと、一気に炎が広がって練習場の半分を炎の柱が立ち並んだ。え?え?何?凄い!!!
「えー!!トモさん、ズルいよ!!アルノーさんの知識をまるっと貰うなんて!」
「ああ、すまん。でも、アルノーが俺の中に住み込んでいるのは俺のせいじゃないし。アルノーのイメージは俺に流れてくるが、逆に俺の私生活アルノーに駄々洩れなんだぞ。」
「あー。それは嫌かも。」
しばらくズルいズルいと言っていたレンくんだったけど、私生活が駄々洩れなのは嫌みたい、伝わると聞いた瞬間、わたしもそれはちょっと嫌かなー。
「それに、孤独を知る者として俺とアルノーは親和性もあるのだろう。」
そう答えるトモさんの少し寂しそうな笑顔は、孤独のまま亡くなったアルノーさんのことを思っているのかもしれない。
トモさんとアルノーさんが何を思い合っているのかわたしにはわからないけど、2人の寄り添うような気配に少し嫉妬する。トモさんとの出会いはアルノーさんよりわたしの方が先なのにームキー!!
「み、みなさん、練習はこれぐらいにしてお昼ご飯にしましょう!!」
アルノーさんにちょっと嫉妬したわたしは自分の得意分野に話を持っていこうとしてしまった。ちょっと大人げないかも・・・。ごめん。
「おう、そうだな。結構頑張ったな。」
「僕、これからも練習するよ!」
「わたしも楽しみが増えました!」
「「アルノーさん、ありがとうございました!」」
わたし渾身のカツカレーを堪能していただく。ふふふ。胃袋を掴んだのはわたしなのだー。と高笑いしそうになって、ふと思う。別にトモさんに対して恋愛感情なんて持っていないのに、アルノーさんと親密そうだっていう気配を感じただけで、嫉妬するなんて、わたし器が小さい?いや、違う、ちょっと寂しかったんだ。アルノーさんが来るまで、4人でぴったり仲良かったのに、他人が入ってきたことでこの4人の生活が崩れてしまいそうになったのが怖かったのかもしれない。・・・。うーん。
わたし、アルノーさんも懐に入れよう!!これから先ずっと4人だけで暮らしていくわけじゃないだろう。いろいろ変化もあるはずだ。出来ればどんな形態でも楽しく幸せに暮らしていきたい!だから、アルノーさんを受け入れよう。そうすれば寂しくも怖くもなくなるはずだ!今日もアルノーさんの陰膳を置いている。そうだよね。おばあちゃん、おばあちゃんが亡くなった人への配慮をわたしは忘れていないよ!!
わたしの料理を美味しいと言ってくれる人がいる。家を可愛く飾り立てても、可愛いですねと褒めてくれる人がいる。好きなだけ家事をしても奇異な目で見てこないし、なんならいつでも褒めてくれる。この心地いい生活をわたしは手放したくないから、ここが壊れるかもしれないと思って怖くなってしまった。でも、もう大丈夫。わたしだって、孤独のまま亡くなってしまったアルノーさんをこのままほっとけないもの。
わたしに出来ることをしよう。アルノーさんの陰膳を作り、トモさんが笑える毎日を提供しよう。それならばトモさんと繋がっているアルノーさんも一緒に笑えるだろう。そうしよう!!よし、頑張ろう!!
『ハル最近俺に近づきすぎ!あんまり近づくと火傷するぜ』と華麗にウィンク。ビゃっ!!ははは。という会話をするのは数日後。




