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 こっちの夏は猛暑じゃない。いつまで経っても避暑地の夏みたいな感じでカラッとした暑さのままだ。汗ばむほどでもなく爽やかー。だから、レンくんはしょっちゅう騎士団やヴァルドさんと稽古をしにいき、一緒に素材取りに岩石ダンジョンへ足を運んでいるみたい。


 トモさんは夏と言えばエールだ、ハイボールだとお酒を納品しまくり、ジュンさんは領主の館や治癒院で治癒に勤しんだ。アルノーさんの遺産もある。結構お金も潤ってきた。こっちに来て、ちょっと息がつげるような感じ?


 わたしは騎士団のマルシェさん、冒険者ギルドの酒場の料理人のダンカンさんと領主館の料理人さんたちと、『穂草』料理の開発をしていた。この街の名物を作ってくれと領主様からのご依頼だ。おにぎり、丼物、オムライスやカレー、炊き込みご飯といろいろ作ってみた。


「いや、これはいいね。これ美味しいよ!ほんと元が『穂草』だと思えないよ!」


「確かに、美味しい。オムライスとかいうのが、わたしは好きだね。赤いご飯、ケチャップという調味料は、ダンカンが再現できるようになったんだね。」


「ああ。頑張ったよ。俺のところでホットドックというパンにソーセージを挟んで、このケチャップという赤いソースと辛子を付けて酒場で売れば、爆売れだよ。ハルにはいいソース教えてもらったよ!」


「この街はダンジョンで成り立っているダンジョンの街だ。冒険者が多い。やっぱり手軽に食べられて、肉がばーんとあるものが好まれると思うぞ。」


「え、でも、まずは食べてもらおうことが大事ですよね・・・。」


「そうだな。じゃ基本のおにぎりにするか。あれも旨い。」


「じゃ、紫蘇巻きおにぎりにしましょう!」


「紫蘇巻き?」


「街の市場で紫蘇を見かけたことがあります。あれを塩漬けしておにぎりに巻くと美味しいのです。紫蘇を巻けば手も汚れないし食べやすくなりますよ!中に焼いた魚を入れてもいいですよ。」


 鮭っぽい魚あったもの。あれを入れてもきっと美味しいはず!海苔を巻きたいけど、海苔をいちから作るのは大変だものね。紫蘇なら簡単だ。

 早速市場に紫蘇と鮭っぽい魚を買いに行き、冒険者ギルドの酒場で試作してみる。


「紫蘇って香り草のことか。塩付けにすると旨いな。おう、これはいいな。」


「さすが香り草、塩付けにしても良い香りだ。そしてこの塩加減、中の銀紅も旨い。これはいい。」


「ええ、一度食べてもらう必要はあるけど、食べれば美味しいってわかってもらえるね。」



 鮭っぽい魚は銀紅っていうんだね。紫蘇は香り草か。似たものがあるけど、ここは異世界なんだなってつくづく思う。そんな異世界で米に似た『穂草』でおにぎりを作る。おにぎりは日本人の心の友だ。これが異世界でも美味しいって言ってもらえるといいな。


 紫蘇巻紅鮭入り、こっちの世界では香り草巻銀紅入りのおにぎりを、騎士団で、冒険者ギルドの酒場で、領主館で出してみることにした。もしみんなから評判が良ければ屋台で出してみようかという話も出ている。


 『穂草』は草原ダンジョンの見習いでも行ける2階で山ほど採れる。物凄く安く手にはいるから、おにぎりも安く作れる。パン1つが1銅貨ぐらいなんだけど、おにぎりは1銅貨で2個は作れる。ギルドの見習いの仕事は半日で30銅貨ぐらい、日本円で3000円、時給1000円ぐらい。そこでパンが1個1銅貨100円。それにおかずを買うとそこそこするところを、具入りのおにぎりが2個で1銅貨。それだけで満足するのなら、お腹を空かせた子が減るということで、かなり期待をされているのだ。


 ちなみに『穂草』から米にする過程はスキルや魔法があるからこっちの世界は大丈夫なのだ。わたしも家事スキルであっという間に精米できる。ほんと便利!!もちろん、今日集まっている料理人さんたちもベテランなのであっという間に精米が出来た。ほんと凄い!


「それにしても、おにぎりは今後この街に定着しそうだな。」


「これだけ安くて美味しくて腹持ちがいいんだ。絶対食べるものが増えるな。」


「『穂草』の採取依頼を増やすしかないな。」


「草原ダンジョンの2階なら、自分でも行ける。料理ばっかりではなく時々体を動かすために行くかっていう気にもなるな。ははは。」


 領主館の料理人さんガストさんは体の大きな豪快な人だ。もういくつもレシピを売ったので、仲良くなった。


「それにしても、ハルの作る料理はどれもこれも美味しい。そのうえ見たことも食べたこともないものばかり。料理人としてこんなに心が躍ることはない。」


「ああ。ほんとハルの料理は面白い。」


「えー、褒められちゃうと嬉しいなぁ。」


「まぁ、ハルはなんて可愛いんだろうねぇ。」


 マルシェさんに頭をぐりぐりと撫でられてしまった。可愛いってわたしにとって一番の誉め言葉!によによしてしまうー。


「ああ、ハルは可愛いな。」


「おう、素直で料理が出来て、いい嫁さんになれるのにな。」


 そういって、ダンカンさんからもガストさんからも頭を撫でられる。いったいどうしよう。嬉しすぎる!!


「え、え。本当ありがとうございます。とっても嬉しいです。」


「ハルにはこれからもこの街の料理界を引っ張って行ってもらわないとな。」


「ケチャップの発見は料理界に進化をもたらしたな。あと、ハルの持っている醤油や味醂、まよねいずになどもマスターしたいところだ。」


「わたしはまよねいずはマスターしたよ。ははは。」


「え、マルシェさん!もうマスターされたんですか!」


「ああ。浄化が使え、腕が強ければ作れるよ!」


「じゃ、わしは作れるな!!」


「いや。俺だっていけるはずだ。俺は既にケチャップをマスターした男だ!」


「あ、そういえば、ハルはモランにハーブの使い方を教えてそうだな。」


「それはわたしも聞いて、少しは取り入れているよ!」


「俺も真似したい。もっと知りたい!!」


 マルシェさん、ダンカンさん、ガストさんで調味料やハーブの話で盛り上がる。今はうちの調味料はあいかわらず朝になると使った分、他の保存壺に移して減った分も元の量に戻るという無限で増え続けてはいるけれど、いつか醤油とか味噌とか味醂もこっちの世界で作れるといいなぁ。ハーブは草原ダンジョンの1階で目ぼしいのは採取できるから、皆足を運んでいると聞く。ちょっと振りかけるだけで美味しくなるんだもの。やらないと損だと思う!!


 その後も、いっぱい褒めてもらって、たくさん美味しい料理を作って、みんなであれが好きだとか、あっちの店にお勧めがあるとか、どんな食材が好きだとか、ワイワイできるのがとっても楽しかった!ちょっとだけ、この街の一員になれた気がしたよ!


 その夜、みんなに今日のこの料理人たちとの話をしたら


「ハルさんは愛されていますね。」


「ハルはいつもにこにこしているからな。」


「いや、僕は、ハルさんは大阪のおばちゃん体質じゃないかと思う。いつもすぐに新しい人にも溶け込んでいるよね。」


「え?そうかなぁ。わたしは普通にしているんですけど。」


「ハルの普通だからなぁ。」


「あ、でも、僕はそんなハルさんが好きですよ!」


「それならばわたしもハルさんのことは好きですよ。」


「俺もだな。」


 うわぁ。美青年、美人、美形から好きだって言われちゃうと照れるー。


「ハル、顔が変だ。ははは。」


「ほんと、によによしている。」


「可愛いですねー。」


 みんなに愛されている気がして幸せだった。


「わたしもみなさんが大好きですよ!!」


 トモさんのお酒は今日も美味しい。今日のおつまみは角煮とゆで卵だ。かりかりと焼いたチーズも出した。蕪に似たものを浅漬けしたもの、家庭菜園で採れたトマトのスライスやキュウリと味噌もそっと置いた。みんなの話が弾む。


 お昼間に料理人たちと話した時も楽しかったけど、このメンバーで話すのはもっと楽しい。レンくんが稽古して随分強くなったという自慢話も、トモさんが山ほどお酒を納品して荒稼ぎしているといった話も、アルノーさんと魔法の練習もしている話も、ジュンさんが今日も10人欠損患者さんを治療したと言う話もまるで自分ごとのように嬉しい。


 次元の裂け目に落ちて一緒に生活しだして2か月ちょっと。どんどん馴染んでいく。レンくんが馬鹿笑いして、トモさんがそれに反応して笑い、ジュンさんが話題をお釈迦様の話にすり替えていくのを見ていると、ああ、いつもどおりだなと思う自分がいる。そして心底安心するのだ。昼間はようやく街の一員になれたと思ったけど、夜わたしはずっとこのメンバーの一員なんだと実感できるのだ。幸せー。



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