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 こっちの世界の夏はそれほど暑くないのが嬉しい。カラッとしていて、湿気が少ない。そんな過ごしやすい夏を過ごしていると、なんだか物々しい手紙を冒険者ギルドのヴァルドさんから渡された。


「おまえたち、ちょうど良かった。これを渡しておくぞ。」


 差し出されたのは、厚手の紙の上品な封書を蝋で封をしたものだった。4人で顔を見合わせる。


「な、なんですか?これ?」


 レンくんが勢いよく聞くと、ヴァルドさんはちょっとシブイ顔をして、


「たぶん領主様からの召喚状だろう。」


「しょうかんじょう?」


「ああ、領主様から、おまえたち4人と面会したいっていうことだろう。」


「領主様?この街の?」


「この街と他の街をいくつか管理されているお方だ。悪い人ではない。どちらかといえば貴族のわりにいい人だ。」


「え、僕ら呼ばれるようなことしました?」


「トモの酒、ジュンの回復魔法、ハルの料理かな。」


「え!?僕は?!」


「ああ、レンのアクセサリーも最近人気だな。」


「そうでしょ。そうでしょ。」


「領主様に会うには何を準備すればいいんだ。」


「詳細は騎士団の方が詳しい。直接領主様にも会っているからな。俺たちは下っ端だからほぼ会ったことはない。」


「ああ、騎士団か・・・。」


「どんな服装ならいいのでしょうか。」


「普段の冒険者の服じゃ困るだろうな。ちゃんとした面会用の服装だな。仕立屋を紹介するぞ。」


「仕立屋で仕立てから高いのか?」


「金貨数十枚ってとこか。」


「1人あたりか?」


「ああ、お貴族様の前に出る服装だしな。」


―トモ、わたしの服が館に残っている。おまえなら着られると思う。


「アルノーが、館に着られる服があるらしいと言っている。」


トモさんが、ヴァルドさんに聞こえないぐらいの小さな声で言ってきた。


「ハル、お直しとか出来るか?」


「もちろん!」


 小さな声でこそこそと密談した後、トモさんは黒い笑顔でヴァルドに伝える。


「今回は仕立屋の紹介はなしでいい。当てが出来た。」


「そうか、それならいい。そんなに緊張するな。悪いことにはならんと思うぞ。」


「心配してくれて、ありがとうございます。この後騎士団行ってきます。」


「ああ、気をつけてな」


 冒険者ギルドを後にすると、


「俺とハルは館に行く。ジュンさんとレンは騎士団に話を聞きに行ってくれ。」


「ええ、礼儀作法とか面会の決まりを聞いてきましょう。」


「頼む。」


 わたしとトモさんは30分かけて家に戻り、そこから1時間かけて館に向かおうとした時、


「アルノー、転移魔法教えろ!」


―あー。人に物を頼むのに偉そう過ぎないか!


「アルノーと俺は運命共同体だろ。」


―そう言われると弱い。わかった。トモの魔力も多い方だ。多分出来るだろう。行きたいところのイメージを強く持て。ハルも連れて行くなら手を繋げ!


「ハル!転移してみるから、手を繋ぐぞ!」


 えー。トモさんと手を繋ぐの?ちょっと恥ずかしいー。でも、ここで置いていかれたら、ひとりで館まで森の中を歩くのはキツイ。少し照れながらトモさんの手を握る。


「ハル、こんなので照れている方が恥ずかしいぞ!さぁ行くぞ!」


 鋼の意志の持ち主か。トモさんは。瞬間に目の前の景色が過ぎ去るようにしゅっと移動すると、はっとしたら、館の前に居た!びっくり!本当に転移した!


「おら、ハル、いつまで呆けているんだ。中に入るぞ!」


「は、はい!」


 アルノーさんに案内されているトモさんが館の中をどんどん歩いていく。アルノーさんはこんな広い館に、本当に独りぼっちだったのかな。辿り着いた部屋の重い扉を開けると、そこは洋服部屋だった。アルノーさんは200年ほど前の人だと聞いていたけど、服はそこまで古くない。え、なんで?


「館全体に絶対防御の魔法を施していたらしい。ほんとアルノーはとんでもなく凄い魔術師だったんだな。」


「あ、これなんか、トモさんに合いそうです。この繊細な刺繍。綺麗ですねー。」


「これか、まぁ色は澄んだ青で綺麗だな。これぐらいなら我慢すれば着られるか。」


 装飾は華美ではないが、優雅で品がある。さすが200年前だけどお貴族様の服装だ。え?でもお貴族様だったのは18歳まででは?庶民の暮らしをしながらもアルノーさんっておしゃれさんだったとか?この館とか、大きな魔法が使えたりとか、遺産が残っていたりとか、結構お金持ちだったんだよね。苦労したんですね・・・。


「まぁタダだ、文句は言わない。ハル、俺以外の3人の服も探してくれ。」


「はい!!」


 ―わたしの服をみんなが着てくれるのは、不思議な気がする。わたしが人の役に立つというのが少し気恥しい。不思議な感覚だ。


「そうか、アルノーの服が役にたって、俺は嬉しいぞ。」


―・・・そうか。それは良かった・・・。


 トモさんがアルノーさんとお話していたみたいだけど、わたしはジュンさんに似合う服、レンくんに似合う服を探すのが楽しくて仕方が無かった。品のある美人顔のジュンさんには淡い紫色が似合うかも。お砂糖の国の王子様のレンくんは華やかな薄紅色が良いかも。わたしは暖かい春の新緑の色にしようかな。そんなこと考えながら選び抜き、アルノーさんの館で見つけた裁縫道具で一気に仕立て直した。


 家事スキルの出番だ。最近自分の部屋のクッションとかカーテンとか可愛いものをたくさん作ってきたから、裁縫の腕も上がっているんだよね。それにイメージする人たちが素敵すぎるもの、楽しい。白いレースを胸元にあしらう。アルノーさんから美しいブローチも貸していただく。綺麗―。


 あっと言う間に出来上がった服を手に、トモさんが今度もあっと言う間に家に戻る。あっという間に習得したトモさん、凄すぎる!トモさんは心の中にアルノーが住んでいるからこつがそのまま伝わってきたから出来たんだと思うと謙遜していたけどねー。


 家に戻ると、ジュンさんとレンくんが既に戻っていた。


「どうだった?」


「いろいろ教えてもらってきました。領主様の前では、まず呼ばれるまで待つこと。勝手に座らないこと。許可なく触らないこと。こちらから話しかけないこと。あと、武器は携帯しないことですね。」


「なるほど。」


「騎士団長は、あんまり堅苦しく考えなくていいぞって言っていた!」


「そうですね。あと、やはり冒険者の服ではなく、それなりのものを仕立てた方がいいと言われましたね。」


「それなら大丈夫だ。アルノーの館で着られそうな服をハルがお直しした。」


「え?200年前の服って大丈夫なんですか?」


「ああ、アルノーは館全体に絶対防御の魔法をかけていたから、どれもこれもさっきまで着ていたぐらい綺麗だった。」


「ハルさんは、仕立て直し出来るんだ。」


「ええ、みなさんのイメージに合わせて仕立て直しするのは大変楽しかったです。」


「これはアルノーさんにお礼を言わなくてはなりませんね。」


「「「アルノーさん、ありがとう!!」」」


 トモさんがアルノーさんが恥ずかしがっていると伝えてくれた。


「大切に着させていただきましょう。」


「うん!ねぇハルさん、どんな服装なの?見せて!」


「はい。この青いのがトモさん、淡い紫がジュンさんで、薄紅がレンくん、わたしは黄緑色です。」


「おおー。綺麗だね。本当に新品みたいだ。レースも刺繍も綺麗。はは、ちょっとコスプレ感はあるけどねー。」


「でも、本当に綺麗です。上品だし優美な感じがします。自分が着るのは少し恥ずかしいですが、領主様の前で変な服は着ることができませんからね。ここは覚悟しなくては。」


「まぁジュンさん、そこまで覚悟しなくても、領主様といっても、この街を管理している人だっていうことは、日本の市長クラスじゃないか。市長になら会ったことがある。大丈夫だ。どうにかなるさ。」


「えー。市長?!僕そんな偉い人に会ったことがないよ。学長ぐらいまで?」


「わたしも自分の会社の社長だって、遠くから見るぐらいでしたよ!」


「わたしは会社のプレゼンとかで偉い人にはお会いしていましたから大丈夫かもしれません。この服を着る方が少し勇気がいりますよ。」


 ジュンさんの服は貴公子というより、女神様かというのか、人ならざる妖艶な美しさを醸し出すような感じだものね。ある意味コスプレ。コスプレ。レンくんはノリノリだった。



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