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久しぶりの露店の日、騎士団で5日間稽古していたから10日ぶりぐらい?わたしのお菓子は今日の大人気、小さなお子さんからお姉さん、おばちゃんと買いに来てくれる。トモさんのお酒にも飲んだくれのおじさん冒険者が集まっている。ジュンさんの傷薬も瞬殺するぐらいに売れている。あれは手がつるつるになるとわかってから若いお姉さんも買っていくんだよね。傷の多い冒険者と取りあいになっているところ。
その中でレンくんのアクセサリーは若い女性や若い男性が照れくさそうに買いに来ている。レンくんのアクセサリーは豪快で短気っぽいレンくんが作るとは意外に、繊細なものが多い。細い金属を花びらのように曲げて作ったり、小さな光る石を合わせたり、細やかな彫りがされていたりする。
レンくん曰く師匠のグスタフさんがいろいろ教えてくれるから細工のレベルが上がっているという。細かい金具の作り方とか随分うまく出来るようになったらしい。いい人なんだ師匠と少し照れながら笑うと、お客さんが真っ赤な顔をしていたりする。罪作りなレンくんだな。
「レンくんのアクセサリーって繊細で綺麗だね。それに花とか植物とか自然なものが多い。とても美しく綺麗だと思う。」
わたしがそう言うと、
「僕、日本にいる時から、綺麗なもの、美しいものが好きなんだ。」
「あー。だからアイドルオタクですか!」
「そう!なんだか見ているだけで元気になるもの。」
そんな話をしていると、女の子が友達とこれがいいかな。あれにしようかなと選んでいる。
「君に似合うのは、こっちかな。誰かにあげるのならどんな子か教えて。」
「ええっと、気になる人に渡したいなと思って・・・。」
「ああ。異性に上げるんだ。じゃ、こっちかな。男性向けに作ったのがあるんだ。で、こっちとお揃い。ペアになっているからいいよ!」
「あ、じゃ、これ下さい。」
「ありがとう!上手くいくこと祈っているよ!」
ぱっと笑って、可愛い女の子がお金を払って、友達ときゃっきゃいいながら帰っていく。
「あ、レンくんからアクセサリーを買った女性が、レンくん本人を見ても何とも思わなかったら、その恋はうまくいくっていうジンクスがあるみたいですよ。」
くすくす笑いながらジュンさんが言う。
「えー。何?それ?どこで聞いたの?」
「治癒院ですね。怪我を治療する間、いろんな街の人がいろんな話をしてくれるんです。その中に、トモさんの話も、ハルさんの話も、レンくんの話もあるんです。レンくんのアクセサリーが恋のキューピットになるのは素敵ですね。」
「そうなんだ。そう聞いたら嬉しいかな。僕も買った人には喜んでもらいたいし、幸せになってもらいたいもの。」
トモさんがレンくんの頭をぽむぽむ撫でると、
「おまえのアクセサリーは綺麗だからそれだけで価値はあるさ。」
「えー。ほんとに、そう思ってる?」
「ああ。思っているよ。」
「なら嬉しいなぁ。」
「それにしても、レンくんのところに来るお客様は顔を赤くしたり、照れている女性多いもんね。レンくんは罪作りだよ。」
少し茶化していうと、なんだそんな当たり前のことっていう顔をする。
「日本にいる時から、モテていたよ。僕、小さい頃から顔がいいもの。でも、気の利いたことも言えないし、お金はあるだけすぐに使っちゃうからプレゼントもあげられない、彼女たちの望む王子様にはなれないから、すぐに振られちゃうから、今のままでいいや。」
「そうなんだ。モテるのが日常の人っていうのも大変だね。」
「レンくんも、ハルさんも可愛らしいですよ。2人ともいい子だからきっといつか上手くいきますよ。」
ふわふわとしたジュンさんに微笑まれ、少し嬉しくなる。わたしのことを認めてくれる人が身近にいるって心強いね。レンくんも少し照れているようだ。
そんなことを話しているうちに完売!最近完売する時間早くない?トモさんは商業ギルドにお酒の原材料を取りに行くという。わたしは冒険者ギルドに『穂草』のレシピを売りがてら作り方も教えに行く約束をしている。ジュンさんは薬師の師匠のところに卸す傷薬を持っていくようだ。レンくんは仲のいい子ども達と遊びにいってしまった。
こんな感じで、一緒だけど別々に行動したり、帰ったら一緒にご飯を食べたりする距離感が凄く楽だと思う。一緒にいて楽しい。一緒にいて楽。同じ漢字だけど、ちょっとニュアンスが違うけど、どっちも共同生活には必要だと思う。絶妙なんだよね。わたしたち。本当キセキかと思う。あの時一緒に次元に落ちたのがこの4人で本当に良かった。
あ、冒険者ギルド併設の酒場に行かないと!今日は『穂草』の炊き方と基本のおにぎりと、若い男性が大好きな牛丼とお菓子を1~2品を教える予定。調味料は合わせたものを提供する。これだけで完璧牛丼の味になるように調合してきたよ!醤油とかみりんや料理酒、砂糖まで使っているのはそのまま提供できないんだよねー。自分で作れないからどう説明していいのかわからないから、秘伝の味っていうことにしてもらおうと思う。トモさんもそれでいいっていっていたしね。
酒場は、冒険者ギルドの受付の横にあって、以前は昼からお酒を飲んでいる人が多かったけど、最近昼間は草原のダンジョンに行っているみたい。『穂草』を採取しに行っていると聞く、トモさんのお酒のファンだな。併設の酒場では日本酒、ウイスキー、ハイボール、エールと、4種類納品してくれるようになったそうだ。いつでもトモさんの酒が飲めるようになったと歓声があがったとか。
それでも、未だに自分で材料を採りに行く人はいる。材料を商業ギルドに持っていけば、酒場で飲むより安くて多く飲めるから、昼間体を動かした方が美味しく感じるからだそうだ。酒飲みの気持ちはよくわからないが健康的になったのは良かったなと思う。
「あなたがハルさんだね。わたしがここの料理を任されているダンカンだ。よろしく。」
酒場のマスターという感じの細身で黒い服が良く似合うこげ茶の髪に綺麗に刈り込まれた髭が良く似合うイケオジだ。ちょっと緊張する!
「はい!ハルです。今日はよろしくお願いします!」
「マルシェさんからも話は聞いているよ。君は物凄く料理が上手でとても美味しかったと。ヴァルドからの話は聞いているし、レシピも買わせてもらったから試作はしているよ。」
「え?騎士団の料理人のマルシェさんとお知り合いですか?」
「ああ、街の料理人はだいたいみんな知り合いだよ。」
「そうなんだ。マルシェさんにもお世話になりました。」
「いやいや、この街の料理人はみんな君に注目しているのさ。マルシェが随分吹聴したからね。」
そう言うと、軽くウィンクをひとつするダンカンさん、ひゃー、かっこいい。この世界にはイケメンとイケオジと男前と美丈夫とかしかいないのか。騎士団の皆さんもマッチョでカッコ良かったよなぁ。
「注目されるのは、ちょっと恥ずかしいですが、わたしの国で食べていた美味しい料理をこの国の皆さんにも食べてもらえると嬉しいです。」
「ああ、美味しいのは共通だからね。よろしく頼むね。」
そこから2時間ぐらい?ダンカンさんと『穂草』を炊いて、これがご飯ですと説明するところから、具たくさんのおにぎりと牛丼を作り、その後、騎士団で提供したハンバーガーにサンドイッチに、酒場に合う、フライドポテトにオニオンリング、そして禁断の唐揚げも教えた。調味料にも興味を持たれたので、これはわたしが昔住んでいた国の調味料であまりないこと(毎日元の入れ物から半分壺に移し替えて増やしてはいるけどね。)など説明はしている。こっちの調味料でなんとかなればいいんだけどね。
「こ、これは!本当に『穂草』なのか!なんて美味しい。炊くという料理方法は初めて知ったよ!!レシピを見ただけではわからなかったことも今回わかったよ。ありがとう!」
「美味しいでしょ!わたしの国ではこれが主食でした。『穂草』を炊くとご飯と呼んでいました。このご飯の上に、お肉と玉ねぎをこの合わせ調味料で味付けして、載せたら出来上がりです!これも味見してください!」
「びっくりするぐらい、簡単に作ったね。マルシェが言ったとおりだ。そしてこれが牛丼。騎士団では提供していなかったね。どれ。ん。ん。んん。美味しい。これはこんなに簡単に作ってこんなに美味しいなんて!びっくりだよ!!!」
「この料理はこの合わせ調味料を使って下さい。わたしの国の秘伝の味です。こっちの調味料はわたしの国の調味料よりちょっと少ないんですよね・・・。」
こっちの調味料は、塩と砂糖、お酢、ハチミツ、香草、胡椒、辛子、にんにくなどがあると教えてもらった。工夫すればなんとかなりそうな気もする。牛丼の合わせ調味料はしばらくはわたしが提供することになったけど、唐揚げとかは今の調味料で作れるし、ケチャップとかは市場にトマトっぽい野菜を見た覚えがあるから、ダンカンさんが頑張れば作れるかもしれないと伝えておいた。
「ケチャップも見本でひと瓶置いておきますね。これでフライドポテトを付けて食べたり、ソーセージやハンバーグにかけても美味しいのです。」
「おお。ハルさん、いいのか。秘伝の調味料じゃないのか?」
「ええ、ケチャップならこっちの世界の材料で作れそうだから、作って見てください!」
「わたしは食材の鑑定は持っているんだ。いろいろ試して作ってみるよ。ありがとう。」
「あ、ダンカンさん、お菓子もレシピ買われるんですよね。クッキー作ります?」
「ドーナツもあると聞いたが。」
「ドーナツは食用油をたくさん使うので、まずはクッキーの方が作りやすいです。」
「そ、そうか、じゃ、そうしよう。クッキーも人気だそうだな。」
「ええ、長持ちしますし、美味しいですよ。」
ダンカンさんとこねこねして、オーブンを見張る。いい匂いが酒場の中に充満して、酒飲みおっさんたちがきょろきょろしているのが面白い。
あ、ちかちか光るものが浮遊している。
「クッキーの甘い香りが好きな精霊か、妖精だね。」
「え?妖精もいるんですか?!」
「え?ああ。区別はつきにくいけど、なんかいるね。詳しくは研究している人ぐらいしかわからないけどね。」
ちかちかした光はオーブンの前を行ったり来たりしていたので、出来上がったクッキーを進呈したところ、あっと言う間にクッキーが消えた。
「今までの山ほどクッキーやドーナツ作っていたのに、気づかなかったんだろうか。」
「ハルのスキルは凄いから、一気に大量作っていたら、1枚クッキーが無くなっても気づかなかったんじゃないか。」
「ああ。そうかも。作っている時は出来上がるのが楽しくてそばでちかちかしていても、精霊も妖精も存在しているって知らなかった時は、目の錯覚とか思ったかも。街の人はみなさん信じておられるんですか?」
「ああ、自分の目で見るからな。それより、今日の料理について、まだ知りたいことがあるんだ。」
ダンカンさんもおもっきり料理好きだってわかってから、2人でどんどん楽しくなってしまっちゃった。日本の美味しい料理がこの街で増えるのは嬉しい。ダンカンさんは牛丼の合わせ調味料を結構高いお値段で買ってくれるというし、満足かな。
ダンカンさんに、ケチャップに出来たら、焼いたソーセージを長いパンに切れ目をいれてそこに挟んでケチャップと辛子を付けて食べると美味しいよと言って酒場を後にした。
この後、ダンカンさんが物凄い勢いで今日一緒に作った料理を再度1人で作って練習していたと聞いた。本当凄い料理好きな人だと思う。料理友達が増えて嬉しかったし、甘い香りの好きな精霊か妖精に会えたのも嬉しかった。




