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**アルノー**
トモと話をして確認したところ、わたしが亡くなって200年は経っているようだ。わたしは結構大きな国の侯爵家の次男として生まれた。上に兄と姉がいた。
物心ついた時にスキルとして収納、魔法は生活魔法であることを知ったが、膨大な魔力が体の中にあり、魔力が暴風のように暴れて、小さな魔法である生活魔法は一向に使えなかった。
兄は豪剣と火魔法を持っており、収納と生活魔法のわたしを下げ笑った。その生活魔法さえ満足に使うことが出来ないわたしを、家族は切り捨て、出来損ないと暴言した。
友達も出来ず、周りの同年代は魔法1つ使えないわたしを失笑するばかりだった。
それでも貴族だったので、年頃には貴族院に入れられ、貴族院でも生活魔法ですら使えない奴として、さんざん馬鹿にされた。先生は誰一人、わたしの膨大な魔力をコントロールする方法を教えてくれなかった。
みんなに馬鹿にされる日々、ここではないどこかへ行きたい。毎日そう思うようになって、貴族院卒業間近に転移魔法が出てきた。誰にも言わなかった。収納魔法で自分の部屋のものをすべて収納し、卒業式の夜、「除籍してください」のメッセージを残して転移魔法で飛んだ。
何度も何度も飛んで国を超えた。最初に売ったカフスボタン1セットで下町では1年過ごせることを知った。小さな魔法も使えないので、庶民に紛れて外壁工事や、建築工事に従事したり、補修工事をして暮らしてみたが、いつまでたっても人が怖い。親しくなる前に、転移の魔法で更に飛んだ。
そうしているうちに、大きな魔法「建築魔法」「土木魔法」「豪炎魔法」「絶対防御」「護岸魔法」などが出た。異国の地で少し戦争にも関わったが、人が死ぬのに耐えられず、遠くへ飛んだ。
飛んだ先で、「建築魔法」「土木魔法」「護岸魔法」を使って工事に従事したり、魔物討伐をして渡り歩いた。いくつかの街で人助けもしたし、ある街では、ドラゴンが到来し、絶対防御で街を守ったこともあったが、英雄に祭り上げられる前に飛んだ。
蔑ずむ父の目、見捨てる母の目、侮る兄の目、心底呆れ果てた姉の目が自分を見る他人の目に投影されて、どこまでも怖かった。いつ何時見捨てられるのかと思うとずっと同じところに留まることが出来なかった。何年経ってもずっと逃げ続けた。
晩年、ダンジョンが見つかって活気のある街に辿り着いた。人の出入りが多い。わたしひとり増えても減っても誰も気にしないのが気にいった。でも、街に住むのはまだ怖い。森の奥に魔法で家を建てる。その家が実家に似ていて苦笑する。もうどこの国なのかも忘れてしまった故郷。親の顔も兄姉の顔も忘れてしまったのに、まだ、あれらに愛されてみたいという想いが残っているのか。辛い思いしか残っていない実家に似た館を見上げながら、それもわたしかと出奔して50年以上が経っていた。
そろそろ寿命も尽きるかという時、自分のありったけの魔力を館に込めた。「孤独を知る者、人を信じることができるようになるのか、この課題を解いたものに、我が遺産のすべてを譲る」そんな思いを自分の絶対防御魔法に込めた。
ついに、寿命が尽きたと思った後、ふと意識が飛んだ瞬間、トモが館のドアに触れたような気がした。眠ってさほど時間も経っていない気がしたのに、200年以上経っていた。トモの心は絶対零度・・・。いや、その氷が溶けかかっている?トモもかつて親から逃げた人間だ。わたしと同じ。でも、次元の狭間に落ちて、3人の仲間と出会った。トモの心が3人の人物のイメージを伝えてくる。
ジュン、推しがお釈迦様だという変人。上品で優雅で美人だけど、ポンコツ、回復魔法と調薬スキルがあり、超優秀だけど、おっとりいつでも落ち着いている。彼の心の物差しはお釈迦様なので、一般人とどこかズレている。でも、ズレているからこそ、世間一般の普通をもって、人を排除したりしない。ありのままのトモをそのまま受け入れている。
次に、ハル、彼はオトメンだという。初めて聞いた言葉だ。生活魔法と家事スキルを持ち、家のことなら何でもできる。料理は上手いし、掃除も洗濯も裁縫も家庭菜園も楽しそう。いつでも自分がしたいことをして、喜び楽しみ満足している。他人と自分を比べたりしない。好きな歌を歌い。自由で堂々としていて。強くて温かくて媚びたりせず、正直に生きていて、常ににこにこ笑い、いつでも楽しそうにしている。それがハル。裏表ない癒しの存在がトモのそばで家庭というものの温かさを与えている。
最後に、レン、彼は元気だ。いつでも真っすぐで過去に対して後悔も反省もしないかわり、未来の心配もしない。今、幸せならそれでいいと言い切る。お金はあるだけ使ってしまうし、疲れた時は疲れたといい、食べたいものがある時は、遠慮なくハルにおねだりする。甘えることが得意だけど、損得で人と見たりしない。自分の目で見たものだけを信じている。野生の直感があると思う。そんな彼がトモを信頼している。頼れる人だと認定している。
この3人のお陰でトモの孤独が癒されてきている。人を信じようとしている。その瞬間にわたしは出会えた。なんたる幸運!トモの中でわたしも同時に孤独が癒されていくのを感じている。こんなに温かい気持ちになったことがない。
トモに何故この世界に来たのか聞いてみたところ、元居た世界で次元の狭間に落ちたと言う。あ!わたしが若い頃、逃げ続けて自暴自棄になった時、ありったけの魔力を辺り周辺にぶつけたことがあった。その時、空がちょっと裂けた気がした。それを見たら背筋がぞくぞくして急にめちゃくちゃ怖くなって、逃げてしまった。その後しばらく大人しく暮らしたけど、あの裂けた空・・・もしかして次元を裂いてしまった?!
ああ、でも、そのお陰でわたしはトモに、ジュンに、ハルに、レンに会うことが出来た。若い頃の自分、グッジョブ!(トモの知識の中から見つけた。丁度良い言葉!)でも、このことは墓場に入るまで秘密だ。あ、もう既にわたしは墓場入りだ。ははは。これからも、ずっとずっと秘密だな。




