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「レベル11に上がったね!ねぇ最初に管理人さんに教えてもらっていた宝物探しに行かない?」
「あー。そういえばそんな話もあったな。」
「レベル10が推奨の場所でしたっけ?」
「そうそう、レベル10が推奨だったから、レベルが10以上になるのを待っていたんだ。」
「でも、どうでしょう。前のマックスベアの件もありますし、まだ早いんじゃないでしょうか。」
「そぉ?んー。じゃ、強くなりに行きたい!」
「冒険者ギルドで教えてもらうとか?」
「ううん。騎士団で公開訓練があるから混ぜてもらおうよ!!」
「「「「えー!!」」」
「な、なんで騎士団?」
「えっと前に街歩いている時に、迷子猫を助けるために木に登っていたら、落ちそうになった時に助けてくれた人が騎士団の人で、話しているうちに仲良くなって、今度遊びにおいでって言われているんだ。」
「へー。騎士団か、最近酒の注文も多いな。」
「トモさんのお酒?」
「そう、商業ギルドからの納品先が高級レストランだけだったのが、そこで飲んで美味しかったからと、騎士団へも納品先が増えたみたいだ。」
「おお、トモさんのお酒凄いねー。」
「それにしても騎士団。んー。」
「わたしは騎士団で回復魔法使わせてもらえるのなら行ってみたいです。」
「あー。俺も空手は長年やってきたが、剣を使い方はわからない。教えてもらえれば戦う術が増えるな。」
「わ、わたしは騎士団の掃除やご飯作りしましょうか。」
「まぁ行ってみて無理なら冒険者ギルドの訓練所でも借りようか。」
「「「さんせーい!」」」
4人で街まで歩く、レンくんが言うには、騎士団は草原ダンジョンの近くに稽古場があるらしい。草原ダンジョンで何かあったら対応できるようにしているらしい。まぁこの街はダンジョン中心の街、住んでいる人もダンジョンを攻略しようとする冒険者とその家族が多いけど、この街唯一のお貴族様が領主様で、やはり領主様がダンジョンに何かあった時責任を取らないといけないようで、騎士団を持っているらしい。騎士団は万が一に即駆け付けられるように訓練もしているらしい。
そうだよね。ダンジョンほったらかしにするのは危険だと思う。レンくん曰く仲良くなった騎士団の人から聞く限り、この街の領主様は真面目でまっとうな人らしい。良かった。
草原ダンジョンの入り口から少し離れた場所にその建物はあった。街の騎士団が使う稽古場である。広い敷地の中には木造の訓練所があり、その奥には騎士たちの詰所や倉庫らしき建物も見える。
「ここが騎士団か。」
門の前で、レンくんが見上げた。
「もう少し、お城のような感じのものを想像していた・・・。」
「騎士団の稽古場に城建ててどうするんだよ。」
トモさんが笑う。ジュンさんは少し緊張しているように見える、わたしはわくわくどきどきしている。
「あのー。すみません、マーベルさんに遊びにこいよって言われたレンです。入ってもいいですか?」
稽古場にも門番はいる。はやり誰でも自由に入れる場所ではないようだ。
「ああ、レンというものが来たら入ってもらってもいいと聞いている。いいぞ。」
「あ、ありがとうございます!!」
レンくんが満面の笑顔で答えると、門番さんは少し顔が赤くなったような気がした。レンくんの笑顔は破壊的な魅力があるからねー。
「おじゃまします~。」
門に一歩入ると、訓練所の方から一人の騎士がこちらに歩いてきた。
「あ、マーベルさん!!」
「ああ、やっぱりレンか、遠くから見てもおまえだってわかったよ。」
「遊びにこいって言われたので来ました!!」
「本当に来たのか、それも4人で?」
「ちょっとお願いがあるんです。僕とトモさんに稽古をつけて欲しいんです。もちろんタダとは言いません。」
「稽古か・・・で。タダじゃないとは?」
「ジュンさんが回復魔法が使えます。そしてハルさんは美味しいご飯が作れるんです!!最後に、トモさんは今街中で噂の美味しいお酒の生産者です!!」
「おお。交換条件とすればかなりのものだな。良し、団長に聞いてやる。少し待ってろ。」
マーベルさんが団長のところに許可を取りに行ってくれている間。広い訓練場からは剣のぶつかる音が聞こえてくる。真面目に騎士たちが稽古しているようだ。
「どうなるかな?」
「いや、結構いい感触だったぞ。」
「うまくいくといいねー。」
ほんの数分でマーベルさんが戻ってきた。にこにこしているのでいい報告みたいだ。
「団長の許可は取った。レンとトモの稽古をつける、回復魔法は好きなだけ試してくれ。ハルとか言ったな。後で食堂に案内する。そしてトモ、露店で売っているエールとハイボールをひと樽くれ。もちろん酒には金を払う。」
「やった!交渉成立だね。」
「ああ、だが騎士団の稽古は厳しいぞ。ついてこれるか?」
「大丈夫、僕もトモさんも体育系だから!」
「ん?体育系が何かわからないが、とにかくついてこい!回復魔法の使える君も一緒に。」
「あ、わたしジュンと申しますよろしくお願いします。」
「あ、わたしは食堂に行ってもいいですか!」
「ああ。君は美味しい料理を作ると聞いた。こいつに案内させよう。」
マーベルさんが若い騎士団員さんに声をかけてくれた。トモさん、レンくんは稽古に、ジュンさんは回復役として救護班へ、わたしは若い騎士に食堂に案内してもらった。
お互い自己紹介をした。彼の名前はジルクくん、年はレンくんと同じ22歳だった。擦れていないのか素直でちょっと田舎の子みたいにほっぺが赤い。よく聞くと近隣の村から試験に合格して騎士団に入れたと言っている。思ったより優秀な子かも。
案内してもらった食堂は広い。正式な団員は全員で35人、あと、事務員や料理人に雑務をする人とかいて、全員で50人ほどの大所帯だそうで。腕が振るえるのがわくわくする。
「ハルさんは、料理人ですか?」
「いえいえ料理人ではないです。ただ料理が大好きなだけです。」
「そうなんですか!大好きって胸を張って言えることがあるって素敵ですね!」
ジルクくんに褒められててれてれしてしまう。ジルクくんは食堂で料理人にこのハルさんが今日のお昼を作ってくれると説明をしてくれた。料理人は少しふっくらしているおばちゃんで、豪快に笑うと、今日は、わたし楽でいいわ。好きに使ってと言ってきた。
「おばちゃん、ありがとうございます!」
「ああ、いいよ。お手並み拝見だよ!」
今日は、50人分のお昼だから、ハンバーガーを作る予定。街を歩いている限り、ハンバーガーは見たことがない。美味しいのに!!って思っていたから、作ってみることに。
家事スキルのあるわたし、高速で高レベルで思った以上に料理が作れる。アッと言う間に本当に作れてしまう。ハンバーグもチーズもレタスっぽい葉っぱもトマトっぽい野菜も準備。バンズもソースもマヨネーズも準備して、合体させては積んでいく。
「んん。これは美味しい!美味しいよ。あんたが作る料理は凄いよ!こんなの見たことが無いのに、なんて美味しさだよ!!」
あ、勝手におばちゃんが出来上がったハンバーガー食べている・・・。まぁいいけど。
「あのー。おばちゃん、あんたじゃなくて、ハルです。」
「そうか、ハル、ハルの料理の腕はさすがだ。50人前作りたいと言うだけのことはあるよ。合格だよ!!あと、あたしもおばちゃんじゃないマルシェだよ!」
「はい、マルシェさん、褒めてくださって、ありがとうございます!!」
「うん、良い返しだ。いい子だね。」
途中からマルシェさんもバンズに挟んでいくのを手伝ってくれたから、わたしはスポーツ飲料もどきを作ることにした。みんな激しい稽古の後に来られるから水分補給は絶対必要だね!!
「な、なんだい。これは。喉をすっと通って体に水分が広がっていくようだよ。少し甘くて少ししょっぱくて、少しすっぱい?」
「さすが、マルシェさん、味覚が鋭いですね!これは水と塩と砂糖と柑橘類の汁を入れているんです。汗を流した後の水分補給にぴったりなのです。」
「知識もあるんだねー。これはいいよ。レシピ教えておくれ。」
「はい。いいですよ。」
しばらくマルシェさんにスポーツ飲料もどきとハンバーガーのレシピを説明していた。
**その頃稽古場では**
トモの場合
「よう、おまえ強そうだな。」
トモを見て、ガタイの良い団員が近づいてきた。トモより頭ひとつ大きい。肩幅も広い、腕も太い、胸板も厚い、いかにも力自慢といった感じで、ちょっとにやにやしている。
「俺はダグだ、剣か、格闘技か?」
「俺はトモだ。空手という格闘技だな。」
「おまえ、強いな。立ち方が普通じゃねぇ。」
「そうか?」
「空手が何かわからんが、拳で戦うっていうやつだな。よし、おまえの実力を見てやる!手合わせするぞ!」
そういうと、じりじりと間合いを詰めてくる。マックスベアと対峙した時より怖くはない。
「おい、ダグが今日来たばっかりの奴に絡み始めたぞ!」
「誰か審判をしろ!」
「ルールは?」
「武器なし、殺しなしだな。立っていられなくなった方が負け。」
「了解。」
先に動いたのはダグだ。大きな体が一気に前に出る。速い。トモは瞬時に一歩後ろに下がった。ダグの拳が空を切る。今度は横から拳が飛んでくる。トモは体をわずかに沈めて躱す。次はトモの拳がダグの胸元に入る。
「ぐっ!やるな!!」
ダグが心底嬉しそうに笑う。
「面白え!」
再び踏み込む。今度はダグが避ける。騎士団で鍛えるせいか、足腰が強い。喧嘩仕込みの荒々しい打撃に騎士としての身体能力が備わっている。捕まれば面倒だ。
ダグが右拳を振り上げる、トモは半歩横へズレる。拳が頬を掠る。その瞬間トモの体が回った。回し蹴りだ。ダグが一瞬止まる。
「効いた!」
にかっと笑ったダグに、しっかり蹴りが入ったのにびくともしない相手に苦笑するトモ。これは長くなるな。
2人の拳が交差する。ダグが体を捻る。トモが受け流す。今度はフェイント、しかしトモにはそれが見えていた。ダグが全力で踏み込んできた。トモはそれに合わせて滑るように動いた。ダグの体は前につんのめる。トモはその肩を後ろから軽く押す。ダグの体のバランスが崩れ、膝をついた。
「ああ、俺の負けだ!!くそ!!ああ、楽しかった!トモおまえやるな。」
「ぎりぎりだな。ダグおまえも強かった。」
「また。やろうぜ。」
「おう。」
「ダグが負けたぞ!!」
「珍しいもん見たな!」
「ダグ手を抜いたんじゃねぇか!」
「うるせい、全力でやったぞ!」
ダグが怒鳴る。でも、その顔は楽しそうだった。そしてトモも、そばにいた団員もみんな笑っている。強いやつとの試合は楽しい。トモの体が久しぶりに喜んでいた。
レンの場合
木剣を打ち込む音、走り込みをする足音、遠くでは盾を構えた団員に真剣で打ち込む練習をしている人たちもいる。その一角でレンはマーベルから一本の木剣を渡された。
「これってどうやって持つんですか?」
「レンは持ったことがないのか?」
「剣道はやったことがあるんだけど、竹刀とは持ち方違うんだと思うんだけど・・・」
「剣道?」
「僕の住んでいた場所で習った剣術かな。こうやって構えるんだ。」
レンは、両手で木剣を握り、体を正面に立てる。足を開き、背筋を伸ばす。それを見てマーベルは感心したように頷く。
「ただの素人っていうわけじゃないな。体の軸がしっかりしている。」
「剣道は12年間やったんだ。最近は時々道場に顔を出す程度だったけど。」
「なるほど、じゃ、俺の構えを見ろ。こうだ。」
「こうか。」
「そう、こうして振り下ろす。」
レンも同じように構えた。踏み込んで木剣を振り下ろす。
「ちょっと違うな・・・。レンの姿勢はとても綺麗だ。だが、戦いは醜い。様式美ではなく経験則が大事になる。まぁ基礎が出来ているなら応用は簡単だろう。少し打ち合うか。」
「はい!」
レンが振り下ろし、マーベルが受ける。その瞬間、レンは剣を止めず、手首を返して横へ流し、マーベルの剣を押しのけた。
「おお、いいぞ。そうだ!」
マーベルが更に打ち込み、レンは踏み込む。今度はマーベルが後ろに下がる。
「レンは筋がいいな!」
「え、本当!嬉しい!!」
「ただし、足の動きが少し流れている時がある。剣を振ることに意識が向き過ぎている時がある。」
「足?」
「そうだ、剣だけで戦おうとするな。足が止まれば次の一手が出せなくなる。踏み込んだ後、前足に体重が乗りすぎている。次に動くための余裕を残せ!」
「そうか、剣道だと、打ち込んだ後に残心を取るけど、剣術では打ち込んだ後も人は動き続けるからか・・・。」
「そうだ。勝つまで終わらない。だから足を止めるな。」
「はい!」
マーベルとレンの打ち合いは長く続いた。剣道と剣術は似ているようで違う。決められた部位を打つ競技とどこを狙ってもいい戦い。正面から一撃を決める技と、相手の動きに合わせて続く戦い、その違いに戸惑いながら、少しずつ魅せる技を戦える技術に置きなおしていく。レンは小さい頃、ヒーローになりたいと思った男の子だ。今もそれは心の中に残っている。鮮やかな憧れのまま。
ジュンの場合
トモとダグの手合わせが終り、ひとしきり騒ぎが収まった頃、ジュンは稽古場の隅に設けられた救護班用の机の前に座っていた。
「今日は一日よろしくお願いします。」
そう言ってきたのは三十代半ば、ジュンと同年代の男性だった。
「俺はボルクです。以前は騎士団にいました。今は救護班で手伝いをしています。」
「ジュンです。よろしくお願いします。」
ボルクの横には20代半ばハルと同じぐらいの青年がいた。
「俺はラウルです。薬師のスキルがあります。調薬もできますし、湿布を作るのが得意です。」
「それは心強いですね。」
ジュンが微笑むと、ラウルは少し照れたように頭を掻いた。
「あ、あの、俺はジュンさんの傷薬使っているんです。」
「え?」
「露店で売っているやつです。あれはとてもいいです。切り傷、擦り傷、軽い火傷、なんでもすぐに治ります!!とても効くので助かっています。」
「お役にたてて良かったです。」
「では、今日はよろしくお願いします。」
救護班には、応急処置が得意なボルクと湿布作りが得意なラウルしかいない。専属の回復魔法師はこの街には治癒院の先生と、教会所属の人と、上級冒険者の仲間の1人だけだ。だから回復魔法持ちのジュンが今回参加してもらえるのは諸手を揚げての歓迎ムードだった。
「どのような方が治療に来られるのですか」
「木剣の打ち身、打撲、捻挫といったものがほとんどです。いつもラウルが湿布貼って、俺が包帯で固定して終わりだな。」
そんな話をしていると、左腕を押さえてきた団員がやってきた。
「木剣が当たりました。」
「見せて下さい。」
ジュンが腕を見ると、少し腫れている。痛そうである。
「これは打撲ですね。ちょっと触ります。」
ジュンが腕に手を添えると、怪我人の体を淡い光が包み、どんどん光っていく。
「あ、腫れがひいた・・・。痛みもない・・・。ありがとうございます!」
「随分簡単に治せてしまうんですね!!」
ラウルが興奮している。怪我が治って帰ろうとしていた団員が突然立ち止まった。
「ん?」
「おい、どうした何かあったか?」
「痛くない。」
「ああ。左腕治ったんだろ。」
「いえ、違うんです。古傷のあった右の大腿が痛くないんです。」
「え?古傷?」
「ええ。昔、訓練で負った古い傷です。普段は気になりませんが、少しひきつっていたのが、今、感じられません。」
「治ったのか?」
「わかりません。夜、服を脱いだ時に確認してみます。」
不思議そうな顔をしながら稽古に戻っていく団員の次に、顔に傷がいった団員がやってきた。
「頬を少し切りました。真剣を避けられずに掠りました。」
「では、治療しましょう。」
先ほどと同じように、怪我人が淡く光る。そしてどんどんその光が強くなり怪我が治っていた。
「薄い切り傷だったので、跡形もなく治りましたよ。」
団員が頬を撫でて喜ぶ。礼をして下がろうとしたところ、
「あれ?肩が軽い。」
「どうかしましたか?」
「いえ、以前肩を痛めてから、絶えず痛みが残っていたのですが、今、痛くないんです。」
「そ、そうか。でも、治ったのなら良かったな。」
「はい。しばらく様子を見てみます!」
晴れやかに帰っていった団員を見送り、救護班3人で顔を見合わせた。
「ジュンさん、古傷治せたのですか?」
「古傷を治したのではれば、今日が初めてですね。びっくりです。」
「試してみますか?」
「ええ。治せるのであれば治したいです。」
「俺の古い傷でもいいか。」
ボルクはそういうと、右手を見せた。そこには指が1本無かった。
「俺は元団員だったが、訓練中の事故で指を失って、戦えなくて救護班に居る。」
「治してみますか?」
「ああ。やってみてくれ。」
ジュンの魔法がボルクの体を包み込む。何故か怪我をしている一部だけではなくジュンの回復魔法は相手の体全体を包んで淡く光る。どんどん光る。ボルクが自分の手を見ながら、目を見開いている。いつの間にか指が復活している。
「・・・動く・・・。俺の指。」
震える声だった。何度も手を握る。開く。握る。
「じゅ、ジュンさん!!欠損が治りましたよ!!!」
「ええ、ボルクさんの指が治って良かったです。」
「いや、違うんです。欠損ですよ!欠損。王家の専属回復師より凄いかもしれないんですよ!!」
「俺、団長のところ行ってくる。」
ボルグは自分の手を何度も見ながら、団長のところへ走っていった。しばらくして団長が一緒にやってきた。初めて会う団長はイケオジ、圧のある美形のトモさんなんて可愛いぐらいの圧があったが、歴戦の強者オーラを醸し出しているイケオジだった。
「君か、露店でかなりの効き目のある傷薬を売ったり、時々街の治癒院で手伝いをしていると回復師は君か。」
「あの、回復師とは名乗っていませんが、お手伝いしたり傷薬は作っています。」
「治癒院では一日どのぐらいの患者を診るんだ。」
「えっと、25人ぐらいでしょうか。」
「25人診たら疲労はあるか?魔力欠乏になったりしないか?」
「しないですね。街の治癒院なので大した怪我の方もいらっしゃらないので大丈夫です。」
「そうか、今日指の欠損を治したと聞いた。腕や足はいけるのか?」
「今日初めて欠損を治しましたが、普通の怪我を治すような感じで特に違和感はありませんし、今も疲れていなので、できると思います。」
団長はボルクを見る、ラウルは興奮している。3人は何度も頷きあっている。
「腕や足を失ったものも騎士団にいました。退役していますが、治せる可能性があれば復帰できるやつも多い。可能性があるのであれば試したい。」
「ええ、いいですよ。わたしで役立つならご協力いたします。」
ジュンはそういうと、にっこりと微笑んだ。微笑むと美人度が増すジュンの笑顔に一瞬どきっと心を奪われそうになりつつ、欠損が治療できるかもしれないという可能性に心が弾む。
「「「ありがとうございます!」」」
団長にボルク、ラウルがジュンに頭を下げる。ジュンはそんな大げさなことだと思っていないので、少しびっくりした。そんなジュンの様子を見たボルクが出来るだけ明るく言う。
「とりあえず、今日は飯に行きましょう。もうお昼です。」
団長もラウルもジュンも同意して全員で食堂まで歩いていくことにした。
◇
マルシェさんにレシピの説明を終わった頃、稽古の終わった団員さんたちががやがやとうるさいぐらいの声で食堂に入ってきた。
「おばちゃん!飯!!」
「おばちゃんじゃないよ!マルシェだって何度も言っただろ!!」
「悪い悪い。マルシェさん、お腹すいたー。」
「今日は、このハルが作ったご飯だよ。とーっても美味しいから驚くんじゃないよ!」
「おお、そういえば、トモとレンとジュンの仲間がお昼作っているって言っていたっけ。」
「トモもレンもジュンも凄かったから、ハルとやらも凄いのか?」
「まぁとにかく食べてみよう。もう腹ペコペコだ。」
「その前に、これを飲んで見てください!!」
ハルがみんなにスポーツ飲料もどきを配って飲んでもらう。
「な、なんだ。これ。水か?いや。水とはちょっと違う。旨い。」
「カラカラの体に染み入るようだ。」
「いくらでも飲めそうだ!おかわり!!」
「お、ハル、これはスポーツ飲料もどきか?」
「ええ、トモさん、みんな喉乾いているかなと作ってみました。」
「喉はカラカラだ。ちょうどいいぞ。ありがとう!」
「ハルさん、これもいいけど、お腹もぺこぺこです。」
「大丈夫ですよ。ハンバーガーをたくさん作りました!!」
ハルはそういうと、机の上にずらっと並んだハンバーガーを指さすとトモさんもレンもジュンさんも歓声をあげつつ、そそくさと取りに行き、すぐさまかぶりついた。
「うめー。ハルの作るものは全部旨いな!」
「ハルさん、最高です!!」
「ハルさん、これもいつもどおりとても美味しいです。」
初めてみるハンバーガーに、少しおどおどしていた団員も、トモさん、レンくん、ジュンさんが躊躇わずに取って、幸せそうに食べているのを見て手を伸ばし始めた。
「う、旨い!!なんだこれ肉に野菜にソースか?旨い!!」
「噛むと肉汁が口の中に広がる!!」
「パンに肉も野菜も全部挟むなんて見たことなかったけど、食べやすくて旨い。」
「お、美味しいー。」
机の上に山ほど作っておいたハンバーガーは瞬く間に減っていく。1人3個は作ったんだけど、団員の食欲は凄かった!
「さすが、食堂でご飯作りたいっていうだけの奴だな。」
へへ、褒められちゃった!!にこにこしてしまったら、トモさんに頭を撫でられた。ジュンさんからもナデナデされた。大変いい気分になりました!
「トモさんとレンくんの稽古はどうだったんですか?」
「おう、なかなか手ごたえあって良かったよ。」
「僕、ものすごーく強くなれそうです!」
「わたしもいい経験させていただきました。」
3人ともいい笑顔だ。詳しくはまた聞こう。今日はこの後、草原ダンジョンで『穂草』採って帰ろうかっていう話になる。マーベルさんから明日も来いよとか言われているけど、トモさんとレンくんが、毎日にはなぁとか悩んでいる。ジュンさんは行きたいようだ。マーベルさんに慣れるまでとりあえず5日間ぐらいは毎日来いと言われたので、とりあえず続けることにした。
◇
騎士団の訓練所を出て草原ダンジョンの前を通ると、3人の冒険者が大量の『穂草』を持ち運んでいるのに出会った。彼らはトモさんを見つけると、拝み倒すかのようにこれで酒を造ってくれと平伏せてしまった。困ったのはトモさんだ。少し思案して、材料を預かると、酒は商業ギルドに渡しておく。これは覚書だ、今回はこれをギルドに渡すといい。他との兼ね合いもあるから、今後は商業ギルドを通してくれと頼むと、冒険者の顔がみるみる喜びに満ちてきた。
酒が飲めるー!!と喜んで飛び跳ねて帰るおじさんたちに苦笑する。トモさんのお酒の人気は凄い。トモさんのスキルならあっと言う間に酒は造れるみたいだ。でも、すぐに造れるというと価値も下がるし、山ほど造らせようとするだろうからと調整しているそうだ。今回みたいに血走った眼で大量の『穂草』を抱え込んでいる人に取り囲まれると怖いね。もう少し商業ギルドから酒を回させるかと思案していた。
街の真ん中まで戻ってくると、リエナさんがニコニコ笑っている?隣はお友達、歌っている時によく見る顔だ。ああ。いつもの少年もいる。みんな期待に満ちた顔でこちらを見ている。これは歌うしかないのかな。
「稽古終わって疲れていない?歌える?」
「一曲ぐらいならな。」
「じゃ、はーい。皆さん、今日はちょっと疲れているので1曲だけです!!」
歌は、昨日レンくんに強請られて寝る前にみんなで歌った曲だ。夜の星を見上げる歌だ。懐メロだけど、日本人なら皆知っているだろうということで、練習したのだ。
歌い終わった後、少し広場がしんとしたので、失敗しちゃったかと思ったけど、その後拍手が起こった。良かった。この歌も受け入れてもらえた。物凄く感激しましたとうるうる目を潤ませたリエナさんをはじめ、今日はいつもより感動してくれた人がお多かったみたい。一曲でも満足してもらえて良かった。いつものとおりハルが投げ銭を受け取ると、歌ってくれてありがとうーという少年の声を聞きながら家に帰った。今日はここまで満足いく1日だった!!




