20
**その頃トモさんは**
「いやぁ、昨日は見事でしたね。」
ギルド長のハムエンドがいつもの上品な笑顔でトモを迎え入れた。
「こちらこそ、無事に露店一日目が終わってほっとしています。手続きをありがとうございました。」
「いえいえ、こちらとしても有意義な一日でした。・・・特に酒。」
「でしょうね。」
トモは苦笑した。日本酒とウイスキー用意した分があっという間に消えた。
「商業ギルドとして、正式に契約していますが、追加をお願いしたい。」
「それは構いませんが、日本酒もウイスキーも俺1人で造っています。材料が無いと作れません。」
「なるほど。」
2人とも笑っている。イケオジのギルド長とイケメンのトモが向かい合うと場に妙な緊張が走る。
「では、材料の調達はこちらでしましょう。」
「それは助かります。」
「必要なものを教えて下さい。こちらでまとめて仕入れましょう。」
「ありがとうございます。俺1人で造っているので、1人で楽しむ分ならいいとして大量に必要ならば、酒を造るたびに街中を走って材料を買い集めるのは効率が悪いと思っていたんですよ。」
「それは確かに。」
「材料費は俺が払います。まぁ酒を納品すればその材料費も酒代に含まれますが。仕入れだけでもやっていただけるとかなり助かります。」
「トモさん、わたしはトモさんのお酒は長くお付き合いが続くと信じています。この件は対等に進めさせて下さい。」
「ええ、対等にやりましょう。」
「では、材料をこちらが手配する代わりに、日本酒とウイスキーは商業ギルドだけに卸していだけませんか。露店でかなり安く売っておられましたが、非常に勿体ないと思いました。」
「ほう・・・。商業ギルドならもっと高く売れると。」
「ええ、あれだけのお酒、何してももっと高く売れます。トモさんのためにもなるかと思います。」
「それでは、露店ではエールとハイボールを売ることにしましょう。」
「え?エールとハイボール?ですか?トモさんまだ新しいお酒をお持ちでしたか?!」
「日本酒とウイスキーと比べると非常に酒精の軽いお酒です。どこかで出そうかなとは思っていましたが、日本酒とウイスキーを商業ギルドが責任を持って売ってくださるということであれば、露店で気楽に飲める酒を出してもいいでしょう。」
「実に面白い。是非、それらを味見させてください!」
「ええ、構いませんよ。」
そこから2人は、エールとハイボールを飲みながら、卸値、納品量、納品頻度、材料の受け渡し量や時期を詰めていく。トモは酔っていようが曖昧な点は1個も残さない。ハムエンドも見逃さない。2人で緊張したようなリラックスしたような会合の後、新しい契約書が作成される。
「良い取引になりました。」
「こちらこそ。」
2人とも始終にこやかだった。だが、ハムエンドは内心で思っていた。この若者は絶対にただ者ではない。そしてトモも、思っていた。このおっさん、腹の中で三手先まで読んでるな。2人の視線が交わる。
「トモさん、エールとハイボールもとても美味しかったです。他にも追加で造られましたら是非教えていただきたい。」
「そうですね・・・。条件が良ければ。」
「これは、これは・・・。」
「では、精進いたしましょう。」
「ええ、よろしくお願いします。」
2人は固い握手を交わした。お互いにいろいろ思うところがあったかもしれないが、双方が満足する契約が出来たのだ、それでいい。
その頃、部屋の外では事務員のリタが書類を抱えてそわそわしていた。中から聞こえてくる笑い声、あのギルド長がこんなに楽しそうに大きな声で笑うなんて、明日雨が降るんじゃない?明日は洗濯したいのになぁ。そんなことを考えていた。




