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**その頃レンくんは**
レンは、1人細工師の工房の前に立っていた。
「ここかぁ。」
看板には、鍋、包丁の絵が描いてある。メインは鍋なのか?中から金属を叩く音が聞こえる。
「ごめんくださーい!」
「おう。」
返事とともに、50歳ぐらいの男が顔を出した。髭もじゃで暑苦しい顔だと思った。もしかしてドワーフかも?そう思うとちょっとうきうきしてきた。
「冒険者ギルドに依頼を出したやつか。」
「はーい。そうでーす。今日はよろしくお願いします!!親方?師匠?」
「俺はグスタフだ。こっちにこい。鍋の修理を頼みたい。」
レンはグスタフの後ろを着いていく。大きな工房の作業台には、鍋の他に、包丁、匙、金属製の留め具など、さまざまな道具が並んでいた。へー、こんなのを作っているんだ。あ、あれ!!
棚の上の、綺麗に掃除された場所に、小さな銀色の装飾品が置かれていた。
「これ、グスタフさんが造ったの?」
「・・・ああ。そうだ。」
「これ、売り物?」
「売れりゃいいんだけどな、高い材料が買えなくて二流品さ。」
「二流品?物凄く細工が細かくて綺麗だよ。そりゃなんか古臭い造形だけど、細工の腕は抜群だよ!僕、ここまで造れない。凄いなぁ。」
「そ、そうか。」
「何故二流品なの?」
「材料が安い。高級品の真似をしたが到底それには及ばない。本当は若い頃から立派な装飾品を造ることに憧れたが、ただの街の職人だ。高尚なものは作れない。材料費も用意できない。夢を見るだけだったが、時々諦めきれずに作ってしまうんだ。」
「んーと。誰に売るの?」
「え?」
「お金を持っている人には銀細工は安物に見えるかもしれないけど、町娘なら銀細工はお手頃だと思うよ。誰に売るかで材料は代えていいと思う。そして町娘に売るのなら、このちょっと仰々しい古臭いデザインではなくて、ほらなんていうのか垢ぬけた軽やかなデザインで造ればいいと思う。えっとこんな感じ。」
レンは、自分が作ったアクセサリーをちょっと見せる。昨日露店から帰ってからテンションあがったまま作ったんだよね。
「こ、これは、なんと斬新な。それでいてとても美しい。」
「でも、ここの留め金の部分や、細い鎖の作りはまだ甘いでしょう。頑張ったんだけど、まだまだ極められなくて・・・。」
「わしならもっと上手に作れる。」
「そうでしょ。グスタフさん、作ってよ!僕山ほどアイデアあるんだけど、技術が追い付かなくて作れないものがあるんだ。」
「そ、そうか、他はどんなものだ。」
「えっと、こんな髪飾りとか、腕輪とか、ピアスだよね。」
「わかった。作ってやる。ただ、このおまえのアイデアを俺に造らせてもいいのか。」
「いいよ!アイデアは山ほどあるんだ。僕は自分のアイデアを造りたいだけだから、誰が作っても気にしないよー。」
鍋を修理するはずだった2人は、ずっと装飾品を作るはめになってしまった。グスタフが銀を細く細く曲げる。レンがもう少し細くして!と我儘を言う。グスタフがそうかそれならばとそれに応える。町娘に合いそうな小さな石を付ける。そこじゃない、そこだと少し不細工になるから、こっち、こっち。レンがどれだけ我儘を言っても腕のいい職人のグスタフが応え、とうとう新しい細工物が出来上がった。
「やったー完成!!」
「おお、凄い。これ、俺が作ったのか、なんだ、この繊細で儚げで麗しい感じは。材料は安いのに、高級品に負けない迫力があるな。」
「僕のアイデアがグスタフさんの技術力でかさ上げされて完璧!ごっつい幅でどでかい宝石つけているのだけが装飾品じゃないよ!」
グスタフさんはしばらく黙って出来上がった装飾品を見ていたけど、ほんの少し口元を緩めた。
「そうだな。これも立派な装飾品に見える。」
レンが、また遊びに来るねーと元気に帰ったあと、グスタフは久しぶりに工房の灯りを消さなかった。何年も諦めていたものが今なら作れるかもしれない。レンがもたらした日本の繊細なシルバーアクセの洗礼を受けた職人の心に火が灯った夜だった。




