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 **その頃ジュンさんは**


「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします。ジュンと申します。」


 ここは、街の小さな治癒院、この街には治癒院が一か所、教会でも治癒はしてもらえる。後、薬師がいて、薬の処方もやっている。前回薬師の助手をしていくつか薬の作り方を教えてもらったジュンは、今回治癒院の手伝いの街仕事を選んだ。回復魔法のレベルをあげたかったのだ。


「おお、来たか、助かるよ。」


 治癒院の先生は穏やかな目をした白髪のおじいちゃん先生だった。にこりと笑って迎い入れてくれた。その隣では助手の青年が忙しそうに動いている。


「ジュンさん、患者が多い日は一人では賄いきれない時もあるので、今回来てもらって助かるよ。」


「わたしは経験があまりないのでうまくできるか不安ですが、よろしくお願いします。」


「なあに、魔法は使えば使うほど熟練していく。そういうものだからいっぱい使ってくれるとわしも嬉しいし患者も嬉しいしジュンさんも嬉しいはずだ。よろしく。」


 先生の穏やかにジュンを受け入れてくれたので心の不安が少し減ったのを感じた。


「ジュンさん、最初の患者様が来られました。」


 助手から声を掛けられる。最初に入ってきたのは、畑仕事をしていて、手の平を切った中年の男性だった。


「鎌でやってしまいまして・・・。」


「少し拝見いたします。」


 ジュンは傷を確認する。血が滲んでいるが、それほど深くはない。これならば薬師に教えてもらった傷薬で十分だろう。

 綺麗な水を用意してもらって、傷を洗い、その傷に傷薬をすーっと塗るとたちまち傷が消えていく。助手が目を見開いている。


「よ、よく効くお薬ですね・・・。」


「薬師の師匠から教えていただいたのです。昨日から露店でも売るようにはなったのですが、まだまだ拙いものですが。」


「いえいえ、物凄い効果ですよ。売っているなら買いたいです!」


 ジュンが助手の顔を見ると、助手が少し困った顔をして、おじいちゃん先生に助けを求めた。


「小さな怪我がすっと治るような薬が売っているのなら有難い。わたしの仕事も減ると楽になるからねー。ここの治癒院にも1つ欲しいものだ。ジュンさん売っていただけますかね。」


「はい。もし良ければ使って下さい。」


 そう言って、ジュンさんは自分の収納に仕舞っていた小さな器に入った傷薬を冒険者の服のポケットから出したかのようにすっと差し出す。


「では、治癒院用にどうぞ。」


「この傷薬はおいくらですか?」


「1つ、3銅貨ですよ。」


「え?これだけ治せて?!」


「ええ、先ほど申しましたとおり、まだまだ修行中ですから。」


「ジュンさんは欲がないのう。だから回復魔法の使い手なんじゃろな。」


「それは先生もですよ。自分のことより人のためにと思う気持ちがないと回復魔法や治癒魔法は授からないのでしょう。」


 そんなこと話ながら、次々と患者様はやってきた。擦り傷、切り傷、火傷。初期の風邪、腹痛、頭痛。怪我は回復魔法のジュンが治療し、病気は治癒魔法の使えるおじいちゃん先生が診ていた。おじいちゃん先生の治癒魔法は町医者程度の病気怪我が治癒できるものだ。怪我しか治癒できないジュンより格上にあたる。ただし、即効性はなくじわじわと治癒する感じだ。大きな怪我は何回かに分けて治癒する、そんな感じで進めていた。


 少し外がうるさくなり数人の焦るような声がする。助手が聞き取りに出ると、どうやら屋根の修理をしていた大工が落ちて足の骨を折ったらしい。痛い痛いと唸るような声が聞こえる。ジュンが傍に行きその足を軽く撫でると、淡い光が足を包んだ。


「あ、痛くなくなった・・・。」


「本当か?立てるか?」


 さっきまで痛い痛いと唸っていた大工が呆けた顔で立ち上がる。


「骨折が、こんなに早く治るなんて、どうなっているんだ。」


「骨はくっつけましたが、今日は一日無理はしないでくださいね。」


「あ、ありがとうございました。」


 大工は何度も頭を下げて帰っていく。大きな怪我を治してなんとなく魔法の使い方を学んでいく。レンくんを助けた時には夢中で正直覚えていなかったけど、そうか、こう使うのか。ジュンは初めて使う魔法のように嬉しくなった。


 怪我を助けられたのも嬉しいし、喜んでもらえたのも嬉しい。そして自分の意思で回復魔法が使えるようになったのも嬉しかった。


 その後も、腰を痛めた老人、料理中に指を切ってしまった女性、転んで膝を擦りむいた少年、仕事中に火傷をした青年と立て続けに患者が続いた。1人1人にあった魔法が使えるようになりつつある手ごたえを感じた。


 最後の患者を送り出した頃には日が暮れかかっていた。


「今日はありがとうございました。」


 ジュンが頭を下げると、先生も助手もびっくりする。


「いや、こちらが感謝する方だよ。一日ありがとう。ほんと、毎日来てもらいたいものだよ。」


「仲間がいるんで、毎日は来られませんが、7日に1回ぐらいは顔を出させていただこうと思います。」


「ジュンさん、あの傷薬、もう少し買わせていただけないですか、あれがあれば助手のわたしでも治せる怪我があります。先生の負担が減らせそうです。」


「わかりました。傷薬3個ぐらいお渡ししますね。」


「それなら助かる。」


 カバンから出したことにして、昨日露店から帰ってから作った傷薬を助手に渡すと、先生の手助けができると、とても嬉しそうな助手が笑う。自分の作ったものが役立つのだというのも嬉しいものですね。


 にこやかに笑うおじいちゃん先生と宝物みたいに傷薬を持つ助手に見送られて治癒院を出て、冒険者ギルドに向かう。ヴァルドさんに任務終了のサインを確認してもらって、60銅貨をいただく。薬師のところでは30銅貨だったけど、今日は丸一日だったので多かった。


「よく頑張ったんだな。お疲れ。」


「ありがとうございます。」


 ヴァルドさんに労いの言葉をいただき、冒険者ギルドを出る。

 今日は何度も回復魔法を使った。使えば使うほど熟練度が増すというのがなんとなくわかった。そして、まだまだ分からい事が多いというのもわかった。


 お釈迦様の教えを学ぶことは好きだった。これこそ人生の指針、自分の目指すものだと確信していたけど、人を救うということ、極楽浄土、四苦八苦、こっちの世界に来てから考え直すことも多い、でも、今日、目の前の患者様をただただ治した。向こうの世界では病みかけた妻を守ることも助けることも出来なかったのに、人を助けられたことが素直に嬉しい。


 困っている人を助ける。それだけなのに奥が深い。


「人生、まだまだ面白いものですね。」


 そう呟いて、3人が待つ家に向かった。今日の夕食は何だろう。ハルの笑顔が頭に浮かんだ。ついでに酒盛りをするトモさんとレンくんの姿も思い浮かび少し苦笑したけれど、それさえも愛おしい時間だと思えるようになっている。


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