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「今日は街仕事の日だ。俺は昨日の露店の件で、再度商業ギルドから声がかかったから行ってくる。」
「街仕事ですね。わたしは一度治療院へ行って、街の回復魔法を見せてもらいに行くつもりです。」
「わたしは前回行った黄金の翼クランが気になっています。」
「僕は、細工師に弟子入りできたら行ってみたい!」
「おう、じゃ、街まで一緒に行こう!」
街までの道も慣れた!森の中を10分ほど歩く、森の端だけど木漏れ日が美しい。葉の重なり合う音がさやさやと聞こえ、空気も美味しい。この道を歩くのはとても好きだ。森を出て街まで20分、ここは草が生えているが田舎道といった長閑な道だ。大通りの馬車通りの主道に合流してからもてくてく歩く。主道でもあまり人と出会わない。歌を歌った帰りはこの道を歩きながら帰るけど、ほぼ誰にも会わない。気楽な行き帰りだ。
街に着くと、いつもの門番さんに冒険者タグを見せて中に入る。門番さんからは『レベル着実に上がっているな、頑張っているな。』と声かけられたりもする。この冒険者タグは本当に不思議でレベルが上がれば連動して表記が変わる。謎システムだ。魔法や魔道具がある世界、まだまだ理解しきれていないものがあるのだと思う。
「さぁ、街仕事もそれぞれ受注したな。今日は現地解散。街仕事終わったらそれぞれ帰宅な。夕食までに戻ればヨシだ。」
「「「はーい!!」」」
冒険者ギルドのヴァルドさんに街仕事の手続きをしてもらったので『行ってきます』と手を振って冒険者ギルドの前で解散。
トモさんはその足で商業ギルドへ、ジュンさんは治癒院に行くそうだ。レンくんは細工師のお手伝いへ、わたしは黄金の翼のクランの仕事がやっぱり出ていたので行くことにした。
この街に来てから2度目の街仕事、2度目なので迷わずに黄金の翼のクランの前に来た。前回は呼んでも、呼んでも人が出てこなかったけど、今日はどうだろう。
「すみませーん。」
大きな声を出すと、奥から前回と同様大きな人がのそっと出てきた。
「ああ、お前か、お前なら大丈夫だな。今日もよろしく。こっちだ。」
のそのそと歩く大きな人の後ろを着いて行くと、部屋?らしき場所へたどり着く?ここ?
「今日はこの物置部屋を片付けて欲しい。ドロップ品とか各自が買ってきた防具とか何だかわからないものがわからないだけ入っていて、足の踏み場もねえ、欲しいものも使いたいものもどこにあるのかわからなくなってきてな。片付け頼む。後、そうだ、名前を言っていなかったな。俺の名はカリンナだ。」
こんな、ぬっとした大男がカリンナさん!なんて可憐なお名前、つい驚いてしまったけど、カリンナさんの目が、驚いて当然だろうなと悟っているのが見えた。ごめんなさーい。
「えっとわたしはハルです。今日も頑張ります!!」
「ああ、ハル、よろしくな。」
今日は名前を教えてもらった。一歩前進!
物置小屋と言われた部屋は10畳?20畳?物がありすぎて大きさがわからない。中にぎっしり物が置いてある。汚部屋の片づけ動画のようなぐらい凄い。異世界なので段ボールとかペットボトルはないが、ダンジョンドロップ品なのか、魔物の毛皮、爪、牙みたいなものから、大小の魔石の数々、割れたランプ、大小剣に、欠けたナイフ、くさび帷子みたいな防具、盾、聖水っぽい液体の入った瓶、金属の宝箱のような箱、干からびた薬草っぽい草のなれの果て、何に使うかわからない木材や鉱物、よくこんなに貯めたね・・・。
汚部屋を片付ける動画みたいに、全部出しを最初にするけど、他に置き場所がないので、誰も見ていないのを確認して自分のインベントリの中に全部収納していく。どんどん入れるだけだめちゃくちゃ楽。
そして、部屋全体を掃除する。家事スキルと生活魔法を使えばあっという間にぴかぴかになる。その後、インベントリに収納した散らかっていた物を、素材、防具、武器、薬品と分類して並べていく。ゴミは前回教えていただいたクランの建物の裏にあるごみ処理場に持って行く。
この枯れた薬草でも、ジュンさんなら傷薬作りそうってちょっと思ったけど、もう水分がまったくないし、勿体ないけど処分した。
ついでに、前回めちゃくちゃ綺麗にした台所も見に行ったら、案の定腐海にはまだなっていなかったけど、腐海になりかけのように物が積み重なっていた。危険!時間も残っていたので、台所も片付ける。やはり綺麗になっていく過程が好きだ。掃除片付け自分は好きだなってつくづく思う。
「ハル、お前凄いな。物置小屋見た、完璧だ。よくぞこの速さであの美しさ。前回も思ったけど、今回もやっぱりお前が来てくれて良かった。」
無口キャラのはずのカリンナさんが結構な量話すのでびっくりした。でも、褒めてくれているのでひたすら嬉しい。
「台所は今日の仕事として依頼していなかったが良かったのか?」
「ええ、前回ほど汚れていなかったので、簡単でした!」
「前は料理もありがとう。あれは旨かった。クランのメンバーも早い者勝ちで食べた。・・・なぁ、ハル、おまえ、俺たちのクランに入らないか?」
「褒めて下さるのは嬉しいですが、わたしは仲間がいるのでクランに入るのはごめんなさい。」
「そうか、仲間がいるのか、じゃ、裏切れないな。そこに居づらくなったら、いつでも来てくれ。」
今日は台所でカリンナさんにオムライスを作って食べてもらった。『穂草』をこんな風に食べるなんて、初めてだ。思ったよりもぜんぜん旨い!と驚かれた。大好きなお米、こっちの世界の『穂草』普及作戦成功!
「おい、カリンナ、物置小屋がめちゃくちゃ綺麗になっているんだけど、誰か依頼受けてくれたのか?」
オムライス食べてもらっていたら、どこからか以前、チャーシュー食べて悶絶するぐらい気にいってくれた鍛えられた体を持つお兄さんが入ってきた。
「あ、なんだ、変わってもの喰ってるな?あ、おまえ、前に台所を掃除してあの旨い肉を料理してくれたやつだな。カリンナずるいぞ、なんか旨そうなものをお前だけ喰っているのか?!」
「食べます?すぐに作りますよ。でも、これ『穂草』使っていますが、大丈夫ですか?」
「『穂草』家畜の餌か、だが、食にうるさいカリンナが旨そうに喰っているからいいぞ。俺も喰う。」
ということで、オムライス追加。『穂草』はすぐに食べられるご飯として既に炊いた状態でインベントリに仕舞っているし、調味料も全部わたしのインベントリに収納されている、あとは卵だけここで貰って浄化した後は、家事スキルがあればあっと言う間だ。熱々を召し上がれ!
「な、なんだ、この赤いソースも旨いし、『穂草』が赤い?肉と丸ネギ入りか?ああ、なんか旨い!前の肉も旨かったが、これもいいな。おまえ料理上手だな、物置小屋もお前が片付けたんだな。よし、黄金の翼に入団しろ!!」
「いえいえ、褒めて下さるのは嬉しいですが、わたしには大事な仲間がいます。今はその仲間と一緒に生きていくために模索しています。仲間と一緒がいいんです!」
「・・・。そうか、残念だな。いつか困ったら仲間ごとでも受け入れるぞ!ああ、俺はマスカリーノだ。いつでも来い!」
「ありがとうございます。わたしはハルです。自分の家事スキルが役立つのは嬉しいです。またギルドに依頼を出してくだされば受注させてもらいます!」
「そうか、ハルか、これからもよろしくな。」
依頼書に完了のチェックを入れてもらって、本日終了。大好きな掃除や料理が出来て満足。『穂草』のオムライスを褒めてもらって大満足!
でも、ふと思い返す。わたし黄金の翼のお2人にクランに入れって言われたのに、秒で断っていた。仲間がいるからダメって言っていた・・・。いつの間に、ジュンさんもトモさんもレンくんもわたしの仲間になっていたんだ。
たまたま一緒に巻き込まれただけなのに、たまたま一緒にいるだけなのに、こんなにも離れたくないって思ってしまうなんてなんだか不思議だ。もうずっと一緒にいたみたいだ。そして今後もずっと一緒にいるんだろうなって思えた。わたしの中の足りなかったピースが埋まった気がする。でも、何故に足りないピースを感じられたのが運命の女性ではなったのか、そこだけがちょっと残念・・・。
冒険者ギルドでヴァルドさんに街仕事完了の結果報告をして、銅貨30枚を頂いた。日本円で3000円、自給1000円ぐらいだけど、この世界、人件費は安い、でも食料も安い。贅沢しなければ十分生きていけるんだよね。
街仕事は自分のお小遣いということで、街でぶらぶらウィンドショッピングする。やだ、楽しい。ちょっとした露店の装飾品や綺麗なレースやリボンに心ときめく。心ときめくといえば、お菓子の型が欲しい。シフォンケーキやパウンドケーキの型欲しい。そう思いながら街を歩いて職人さんが多い区画までやってきた。何やらいろんな音が聞こえる。活気があるっていうことかな。
金物屋さんとかあるといいのかな、鍛冶屋さんだろうか。考えながら歩いていると自分より小柄なおじさんとぶつかりそうになった。
「あ、すみません、お怪我はないですか?」
「おお、ちょっとぶつかりそうになっただけじゃ、大丈夫じゃ・・・あ?おまえ、昨日、露店で酒売っていなかったか?」
「昨日?酒?あ、売っていたのはトモさんですが、一緒にいました!」
「そうか、あの酒はどこで買える!毎日露店はしないのか!」
がんがんと揺さぶられる・・・うぉーこのおじさん力持ちー。
「ちょっと待って下さい。酒はトモさんが売っているのですが、少しは商業ギルドに卸すって言っていました。わたしたちの露店は7日ごとに1回です。」
「なんじゃ、露店は1巡りに1回のみか、でも、商業ギルドか、急いでいくか、じゃ!」
小さなおじさんは風のように去っていってしまった。トモさんのお酒のファンか、これはたくさん造らないといけないだろうな・・・。
トモさんのお酒のファンがこれからどんどん増えそうだ。そう思って歩き出そうとしたところ、さっきのおじさんと同じぐらいの小さなおじさんが手前の店から顔を出してきた。
「ビルドの大きな声がした。おまえが酒を売っているやつを知っているのか!」
えー、またお酒関係だー。こっちのおじさんもせっかちなのか、どんどん近寄ってくる。トモさんに聞いてよ!!
「ええ、お酒を造っているトモさんはわたしの仲間です。」
「そうか、そうか。是非紹介してくれ。わしも酒が買いたい。」
「そうですね。昨日露店だったので、後7日後に露店で売ると思います。あと、さっきのおじさんにも言いましたが、商業ギルドでも売ると思います。」
「おまえは酒を持っていないのか?なんかおまえから酒の匂いがするぞ。」
えー。わたしの収納にトモさんのお酒がちょっと入っているのは確かだ。料理の試作に使いたいので少しわけてもらったのだ。えー。時間停止機能付きのインベントリの中に入っているのに、何故匂いが??!!
「どうじゃ、物々交換でもしないか?ちっこい坊主が欲しいものがあれば、交換してやるぞ。」
「えー。交換って、おじさんこそ何と交換できるんですか?!」
「あー。わしは鍛冶屋で金物を作っているな、欲しい鍋とかあれば作ってやるぞ。」
「ん?金物屋?鍋?あー。お菓子の型が作れますか?」
「なんじゃ、お菓子の型とは?」
「ちょっと絵に描きます。ほら、こんなの。」
小さなおじさんは藁半紙に描いた図を見てくれた。ちょっと下手だけどなんとなく感じ取ってくれたようだ。
「よし、作ってやる。だから酒をくれ。」
わたしの背より小さいが丸々としたおじさんはハントと名乗った。そして2人で欲しい型と欲しい酒の量を調整していった。どのぐらいなら出すのか?そのうち、作った型でどんなお菓子を作るのかという話になり、菓子も食べてみたいという話になり、お菓子の型、丸い普通のケーキ、シフォンケーキとパウンドケーキ3個とトモさんの日本酒とウイスキーが各1本、出来上がったお菓子の味見ということになった。
手付金として、わたしが持っていた日本酒とウイスキーが入った調味料用の小さな壺を渡す。300mlぐらいしか入っていないから、ほんと味見だけど、酒精が強いからそこそこいい気持ちにはなれるんじゃないだろうか。
「おお、これが露店で売っていた評判の良い酒か。昨日は評判を聞いてから駆けていったが、既に売り切れておって、落ち込んだものだ。次の日でも手に入れられて感激じゃ。」
大事に壺を抱きかかえ、店に帰るようだ。
「坊主の欲しいといった型は作ったことがない形だが、わしは天才じゃから、明日の夕方には出来とると思う。明日、約束の酒を持ってこい。型を渡そう。」
「はい、わかりました。明日楽しみにしています!」
「わしも楽しみじゃ!!」
2人して笑顔で別れ、市場に戻って来ると、ウイスキーの麦と日本酒の材料の『穂草』を購入し、人通りのいないところまで担ぎ上げて持ってきて、誰もいないことを確認して収納に保管する。4人中収納持っているのをトモさんだけにしているから、ここは慎重に。収納はそんなに珍しくないスキルだけど、4人中2人持っているのはおかしいからね。
あ!?でも、黄金の翼の二人にはバレているかも??!!どこからご飯やケチャップを出したのか冷静に考えたらわかるよねー。あの2人美味しい料理に気づいていなかったような気もするけど、バレていないといいなぁ。『穂草』食べて欲しくてついつい作ってしまったけど、今後は気をつけないと!!
収納バレたかもと少し焦ったけど、小さいおじさんハントさんにお菓子の型を作ってもらえることになった!楽しみが出来た。卵やバターを多めに買って帰ろう。トモさんやジュンさんやレンくんも街仕事無事に終了したかなぁ。




