2
翌朝、部屋の外で小さくノックが聞こえる。起きてドアまで歩くと、ジュンさんが起こしに来てくれたようだ。昨日は疲れていたから寝過ごしかけたから助かった。ジュンさんありがとう。
服を着替え、お風呂場で顔を洗い、歯を磨く。冒険者っぽい服はゲームの初心者の服みたいでちょっと恥ずかしいけど、ちょっとわくわくする。二階でトモさんがレンくんを必死で起こしている声が聞こえてくる。頑張れトモさん!!
朝ご飯は、昨日仕込んでいたパン種からパンを焼く準備をする。冷蔵庫みたいなのもの、パン窯みたいなのもあるのだ。鑑定しながら使っている。
「んー。いい香り、ハルさんパンを焼いているのですか?」
同じ冒険者っぽい服なのに、すらりと長身のジュンさんが着ればモデルさんみたいだ。後に降りてきたトモさんもカッコいい。おかしいな同じような服なのに?あれ?サイズ、わたしは小柄でジュンさんはすらっとしていて、トモさんは細マッチョなのに、何故かそれぞれぴったりだ。自由に部屋を選んだはずなのに、恐るべき管理者さん!!服装も全員お揃いじゃなくて少しずつ違っていた。細かい配慮ありがとうございます。
「朝は、パンとポテトサラダと夜に食べた芋と干し肉のスープかな。卵でもあればもう少し美味しく作れるんだけど、残念です。」
「いや、粉と芋と干し肉しか材料ないんだから、それがパンになるだけで充分だよ。」
「ほんと、焼き立てのパンは嬉しいです。」
朝食が全部準備出来た頃に、眠そうなレンくんが起きてきた。顔がぼーっとしている。大学4年生だったんだよね。1限から授業行っていなかったなという感じだ。
「おはよー。僕が最後?ああ、いい匂い。パンの焼ける匂いっていいねー。」
「おい、レン、顔ぐらい洗ってこいよ。」
「うぉーい。」
レンくんがお風呂場にいき、他のみんなで席に着く。皿やコップ、お椀に箸とかまであったんだよね。当初の暮らしを準備してくれる約束は守ってくれているようだ。
「街は森を出て南に歩いて30分ほどでしたね。」
「人口3,000人規模らしいな。割と大きいよな。」
「ねぇねぇ。獣人とかエルフとかいるかなー。」
顔を洗ってやってきたレンくんのテンションが高い。でも実際、獣人とかエルフとかいるんだろうか。そうだとテンション上がる。
「獣人とかエルフはどうだろうな。行ってみないとわからないな。」
「まずは、レンくんがいうような冒険者ギルドがあるかどうかですね。物語のように行くといいのですが。」
「無ければ、どう稼いでいくのか街でヒントがあるといいですね。」
「管理人さんが言っていた、大金のある場所にも行きたいよね。ちょっと森の奥だけど。あの管理人さん、僕たちに残っている寿命まで生き延びて欲しいと願っているようだったから、それほど過酷じゃないと思うなぁ。」
レンくんはポジティブだ。そしてそんなレンくんの言葉にみんながほっとした。少し緊張がほぐれたような気がした。
わたしは街で食材が買いたい。部屋に可愛いものを置きたいから裁縫道具とか布とかも欲しいな。でも、現在の手持ちは銀貨8枚少ないよねー。
「おい、ハル、こっちの靴に履き替えてこいよ。こっち仕様の靴はベッドの下にあったぞ。スニーカーで行くと絶対目立つぞ。」
トモさんに指摘されて、はっとする。つい馴染の靴を履いてしまったけど、スニーカーは目立つね。さすがに。あのレンくんまでもちゃんとこっちの靴を履いている!恥ずかしいー。
そんな話をしながら、みんなで朝ご飯を食べ、今日も美味しいって褒めてもらえて嬉しかった。作ったご飯に毎回美味しいっていう感想がもらえるのが嬉しすぎる!
街に行く前に、念のため、トモさんとレンくんは長剣、ジュンさんは短剣をインベントリに収納していくことにした。後、倉庫を探して、それぞれリュックのような荷物入れも発見、水筒のような水入れもあったので、それぞれ水を入れておく。遠くから旅してきた人に偽装する予定なので、不自然に見えないように、干し肉とか大量にある芋も何個か入れる。
とりあえず異世界人だということは封印して、遠くの村から4人で来たという感じで行こうということになった。
家に鍵がついていないのがちょっと気になるので、扉を少し鑑定すると、悪意のある人や生き物は入って来られないというような結界があるようだ。安心した。
森を抜けること10分。足もとが木の根っこが多くて、歩きにくかった。レンくんが文句いっている。だけど、初めての異世界の街へ行くのだ。みんな変なテンションになっていて、歩きも少し早くなる。森を抜けると街へと続く道があって、見渡す限りの野原?わたしの膝ぐらいの高さで草が生えていて、風に揺れている。
全部雑草?いや、遠くの方で畑っぽいところも見える。でも、だだっ広い。気候も春の気配。うーん。なんか気持ちがいい。足元でゆらゆら揺れている草さえも可愛く感じる。雑草が生えている道は舗装されていない。小石が転がっているが、馬車も通るのだろう。広めに道として固められている感じ?
トモさんは鍛えているからぜんぜん疲れていないようだ。意外とジュンさんもさくさくと歩く。わたしもそうだけど、日本でそれなりに毎日通勤して仕事してきた人は、通勤というものには強いのかもしれない。文句はレンくんからだけだ。体力はあるはずなのに、まっすぐの道をだらだら歩くのは苦手みたいだ。ちょっと微笑ましい。だけど、街が見えだして一番元気になったのもレンくんだった。
「ああ、あそこ、門がある。門番の人がいるよ!!第一村人発見!!」
「レンくん、村人ではないですよ。街の門番さんですよ。」
ジュンさんが丁寧に訂正しているけど、レンくんが言いたいのはわかる。トモさんがそんなレンくんとジュンさんのやり取りをほっておいて、門番さんに近づく。
「俺たち、今日、この街に着いたけど入れるのか?」
「身分証は持っているか?」
「田舎の村から出てきたから持っていない。」
「なら、1人銀貨1枚だ。身分証は冒険者ギルドで発行している。こっちに手を置いてくれ。犯罪歴がなければ入れてやる。」
「おお、そうか。ジュンさん、銀貨1人1枚だ。出してくれるか。」
「わかりました。」
一番年長のジュンさんに代表して持ってもらっていた皮の巾着から銀貨を4枚取り出す。これで残り4枚となるが、街に入れないと話にならないのでここは省略できないところ。
トモさん、ジュンさんが門番さんに指示されて何かの上に手を乗せていっている。
「良し、次、手を乗せろ。」
門番さんちょっと偉そう。でも、街に入れるどきどきわくわくがあって、4人とも変な台の上に手を乗せ、犯罪歴がないことを確認してもらって、中に入る事が出来た。
「ようこそトスカミナ街へ、泊まるなら、冒険者ギルドの隣の踊る跳ね馬亭がいいぞ。」
あ。普通にいい人だった。
レンくんが門番さんに手を振っていた。初めての異世界の街に足を入れる。少し埃っぽい。足元は石畳。石造りの建物が思ったよりぎっちり立ち並んでいる。行ったことがないテレビで見ただけのヨーロッパの街並みみたい。あ。なんだろこの匂い。少し臭い。小さい頃に行ったことがある牧場のような匂いがする。
「おい、ハル、危ない!」
ぼっと歩いていたら、トモさんに声掛けられてはっとする。前から馬車が来る。急いで道の端に寄る。うわ。思ったより馬が大きい。石畳の上を馬車が大きな音で通り過ぎた。信号もないんだ。気をつけないと。でも、馬がいる。馬糞が道に落ちている。あれが牧場の匂いの原因かな。
「思ったより、建物は立派ですね。ヨーロッパのドイツかフランスの田舎の街に来ているようです。」
「へー、ジュンさんヨーロッパ旅行の経験あるの?」
「はい、昔新婚旅行で行きましたね。懐かしい思い出です。」
「え、ジュンさんバツイチでしたね。聞いて良かったんでしょうか。」
「ええ、もう離婚して8年ぐらい経っているので平気ですよ。まずは、冒険者ギルドへ行きましょう。」
「冒険者ギルドは街の中心地にあるらしい。こっちだ。」
わたしたちが雑談していた間に、トモさんが近くの人に冒険者ギルドの場所を聞いていたみたいだ。凄い。素早い!トモさんも仕事が出来る人だねー。
街の中心へ向かうといろんなお店が見えてきた。ほんとテレビの旅行番組で見たことがあるヨーロッパの街並みみたいだ。露店もある。見たことが無い野菜や果物も綺麗に並んでいるし、パンやも売っている。串焼きやソーセージみたいなのを焼いて売っているところもあり、いろんな香辛料の匂いもしている。異国の匂いだ。
それらを見ながらきょろきょろしていると、レンくんが小さな声で獣人、エルフの人はいないねーっと残念がっていた。そういえば、歩いているのは普通の人ばかりだね。
「あ、こっちだ。」
トモさんが見つけてくれた建物には看板があり、異世界の文字なのに『冒険者ギルド』って読めた。そういえば、門番さんとも普通に話せていたなと今更に驚く。そうか、管理者さんの配慮って思ったより凄いな。
「文字の意味がわかりますね。凄いですね。これ。」
ジュンさんも同じことを思ったようだ。一緒に驚いていたけど、既にトモさんとレンくんがギルドのドアに手をかけている。ああ、遅れないようについていかないと。
ドアを開けて中に入ると、荒々しいイメージはなく、まるで役所みたいだった。隣は酒場が併設されているようだったけど、酔っ払いはこっちにまで来ていない。受付の人がいて、皆割ときちんと並んでいる。年配の男性の受付より、若い女性の列が長くなっているのはわかりやすい。
トモさんは迷わず、年配の男性の列に行く。短く刈った髪に、太い眉毛、頬には古い傷後があり、黙っているだけでかなりの迫力があったけど、経験年数が長そうだ。その受付だけ誰も並んでいなかった。
「登録がしたい。どうすれば良い?」
その怖いおじさんは、わたしたち全員を順番に見ていった。目があっちゃった、やっぱりなんだかちょっと怖い。
「4人ともか、初めてか、説明はいるか?」
「ああ、全員初めてだ。」
「なら、先に説明する。登録してから『そんな話聞いてねえ』と言われるのは面倒だからな。」
ぶっきらぼうな口調だったが、今度は怖く感じなかった。
「まず、冒険者ギルドは何でも屋みたいなものだ。」
「何でも屋?」
「ああ、街の中の仕事もあれば、街の外の仕事もある。荷物運び、採取、薬草探し、迷子の捜索、店の手伝い、畑仕事の手伝いなんて依頼もある。それと魔物の討伐だ。討伐した魔物はギルドが買い取る。討伐依頼がなくても倒した魔物を持ち込めば金になるものもある。」
「スライムや角うさぎとかでも?」
レンくんが食い気味で聞く。
「もちろんだ、ただし、何でも高く売れると思うな。スライムや角うさぎ程度なら見習いが扱う魔物だ。危険はあるが、そこまで珍しくはない。」
「なるほど。」
「登録料は無料だ。」
「無料?」
「登録するだけならな。」
怖いおじさんは、机の引き出しから小さな金属板を取り出して皆に見せてくれた。
「これがギルドタグだ。身分証明書を兼ねている。」
みんなで覗き込む。3センチ×6センチぐらいあるかな、銀色だ。
「このタグに、登録した本人の情報が記録される。名前、登録情報、それから冒険者としての記録もな。」
「冒険者の記録?討伐した魔物情報か!?」
「ああ、そうだ。討伐した記録がそのまま残る。何故記録されるか仕組みは知らねえ、そういうものだ。」
「じゃ、嘘はつけない?」
「ついても無駄だ。自分は倒したといっても、記録がなければ認められない。逆に言えば、ちゃんと討伐をしていれば、きちんと記録が残る。」
おじさんの声が少し柔らかくなった気がする。
「地道にやった奴ほど、後になって効いてくる。それがギルドの記録だ。」
凄い技術だ。異世界不思議技術だ。わくわくする。タグの性能が凄い。ジュンさんが気になるようで小さな金属片を見つめている。レンくんは目がキラキラしてきた。トモさんはずっと事務的だ。
「仕事を紹介した時、依頼主から依頼料をいただき、おまえたちから紹介料を貰う。だから登録料は無料だ。」
「つまり、俺たちが仕事をすればするほど、ギルドも儲かるのか。」
「そうだ。だから、ギルドとしても仕事の出来る冒険者には長く稼いでもらいたい。無茶されて死なれると困る。」
「・・・意外と親切ですね。」
ジュンさんが思わず口に出してしまったのを聞いて、おじさんが少し顔をしかめる。
「意外とは余計だ。」
「す、すみません。」
レンくんがそれを見て笑う。
「次にランクだ。うちでは冒険者を、見習い、初級、中級、上級という具合に分けている。ランクが上がれば受けられる仕事の幅も広がる。報酬の高い仕事も受けられるようになるぞ。だが、上に行けば行くほど、儲かるだけではない。」
おじさんが一度言葉を切って、みんなの顔を見回す。
「あ、儲けるだけではなく危険が増えるっていうこと!?」
レンくんが元気に答える。
「ああ、そういうことだ。街の手伝いや、スライムや角うさぎ程度なら、登録したばかりの奴でも、朝から晩まで真面目に働けば、一日分の食費は稼げる。だから、最初から大金を稼ごうとするな。」
おじさんから圧を感じる。ひぇー。やっぱり怖い!!
「冒険者になったばかりの奴が、金になるからと身の丈に合わねえ魔物を狩りに行って死ぬ。珍しい話じゃねえ。・・・この世界は努力すれば強くなれる。冒険者だけじゃねえ、農夫だろうが、鍛冶屋だろうが、鍛えれば強くなる。働けば働いた分だけ、真面目に鍛えれば鍛えた分強くなる。経験を積めば人はちゃんと成長するんだ。」
さっきまでの圧は潜め、違う熱が混ざってきているような気がした。
「だからこそ、焦るな。強くなるには近道はねえ。」
そして、おじさんは少しだけ笑った。
「生きて帰ってくる、それが一番大事だ。だから、わからないことがあれば出発する前に聞け。知っていることなら教える。それがギルドの仕事だ。」
トモさんが頷いた。
「分かった。登録を頼む。」
おじさんは4枚のギルドタグを手に取った。
「名前を聞こうか。」
「俺はトモ。」
「わたしはジュンです。」
「僕はレン。」
「わたしはハルといいます!」
「よし、では血をもらう。少し指を切ってタグにつけろ。」
えーーー、切るの?自分で?無理―。1人焦っていたら、トモさんに手をむんずと掴まれていつのまにかナイフで切られて指をタグに押し当てられていた!あっと言う間だ!!
ああ、ジュンさんもレンくんもトモさんにやられているようだ。同じで良かった!その後ジュンさんが皆に回復魔法をかけてくれたので、傷は一瞬で消えてしまった。凄い。
登録手続きが終わったのか、みんなの手にタグがある。異世界生活の最初の一歩だ。武者震いをしてしまう。レンくんもテンション上がっているようだ。
「地味でもいい、遅くてもいい、ちゃんと帰ってこい。」
おじさんの声はだんだん強く優しく響いてくる。はしゃいだ気持ちを少し抑える。
「・・・俺はヴァルドだ、覚えとけ。」
きゃー。なんかカッコいい。シブい。憧れるー。口の端ですっと笑ったヴァルドさんの顔を見て少しテンションあがってしまった!
「ああ、分かったよ。これからもよろしく頼むぜ。」
そう言うトモさんもカッコいいな。
「わたしからも今後ともよろしくお願いします。」
「ヴァルドさん、よろしくー。」
「よろしくお願いします!」
みんなで礼をすると、ヴァルドさんは苦笑して手をひらひらさせていた。いい出会いだったね。
後の予定があるので、とりあえず登録だけしてギルドを出た。今日は食材を買う予定があるけど、次回は街のお手伝いしてみようかとかみんなで話す。レンくんは魔物の討伐をしたいそうだ。レベル上げってロマンだからねー。
それではと、みんなで次は街の市場に足を向ける。肉と野菜と果物と乳製品と卵が買いたい!!
「おばちゃん、これいくらぐらい?こっちのこれと一緒に買うから少し安くなれへん?」
「お兄ちゃん、それはちょっと無理だね。これでもかなり安いよ。」
「じゃ、この芋と物々交換はどう?」
「あれー。この芋はかなり良いね。丸まるしているし、大きい。わかった。こっちのこれとなら交換しよう。」
「おばちゃん、ありがと!!」
わたしが買い物している後ろで、ハルさんって思ったよりやり手だねと、レンくんがジュンさんたちと話している。やり手っていうのか、こういう掛け合いは楽しいんだよ。
無事に欲しい物が買えた。食料品は日本のスーパーに比べてちょっとお安めだったけど、粉と芋と干し肉しかなかった反動で結構買ってしまった。これは本気で稼がないとね。出来れば元手のかからないもので稼げないかな・・・。あ。歌。歌どうだろう。元手かからないよね!!
「ねぇみんな、歌を歌ってお金儲けしてみない?元手かからないしダメならやめればいいし。どうかな?」
3人にまじまじと顔を見られる。へ、変なこと言った??
「歌か、歌ねー。俺はソコソコ上手いけど、上手くいくのか?」
「歌ですか?わたしは普通ですね。お稽古で三味線やお琴は少し習いましたがあまり合わなかったのでそれほど極めていないんですよ。」
「僕は少しだけギターが弾けるぐらいかな。音痴ではないというぐらい。」
なんか三味線とかお琴とか違和感のある単語も出てきたけど、普通に出来るのであれば、異世界の音楽はこっちの世界の娯楽にならないだろうか。
「わたしは歌は大好きで、いつも1人カラオケしていました!小さい頃のクラブは合唱部でした!」
「へー。ハルさんの意外な趣味特技なんだ。」
「ハルが主旋律歌って、俺らがハモればどうにかなるか?」
「世代が違いますから、全員で歌える歌があるかどうかですね・・・。」
あれ、意外と受け入れられている?異世界効果?後で聞いたらとにかく何か稼がないといけないという気持ちはみんな持っていたから、何でも試せるものは試してみようという気持ちになっていたそうだ。そうだよね。異世界で何ができるかわからないまま生きていかなくてはならなくなってしまったのだ。なんでもやるよねー。
とりあえず、お試しということで、街の広場で歌ってみることにした。誰もが知っている国民的な曲ってわからなかったから、皆で何の歌知っている?って、つき合わせて決めた。
国民的アイドルグループの歌だ。グループメンバーは40歳前後で既に解散されたので、問題ないか。いや、異世界だし勝手に歌っても良いよね。
ということで、わたしが主旋律、トモさんが一緒にハモり歌ってくれることに、ジュンさんとレンくんは知っているところだけ歌い、知らない歌詞の部分はごまかしてハミングしてくれるらしい。まぁいきあたりばったりだけどゴーだ。
街の広場は露店が何件か出ていて、屋台も数件あって、良い香りがしてくる。広場の真ん中あたりで、歌いだす。
最初、何?という感じで人の動きが止まる。吟遊詩人でもない普通の人が歌を歌うって画期的なことだったそうだ。後で聞いた。今は好きな歌、誰かに届け!!
心を込めて歌う。楽しい。トモさんが思ったより上手い。ジュンさんもレンくんの声も邪魔しないし、なんなら声の厚みが出てとてもいい感じだ。いい。本当にいい。
歌い終わった後、一泊おいて、拍手があった。
「すごい・・・」
誰かが呟いた。それをきっかけに拍手が広がっていく。
「もう1曲!!」
「今の歌をもう一度聴きたい!!」
「なんて曲なんだい?」
凄い!好意的な反応だ。嬉しい!3人の顔を見ているとトモさんはクールだ。レンくんは笑っている。ジュンさんは少し恥ずかしそうだった。
「ハルは好きだっていうだけあって、声が澄んでいて上手いな。」
「凄く楽しそうでしたよ。」
「僕も歌っていて楽しかった!ねぇもう1曲歌ってみる?」
「じゃ、ちょっと趣向を変えて、いい日旅〇はわかる?」
「ああ、有名だな。」
「わたしもわかります。」
「僕もなんとなくわかるよ。」
「じゃ、次はこれで。」
わたしは大好きなこの曲を歌う。甘く切ないこの曲は自分も遠くて行きたいっていう時によく歌っていた。わたしの声にレンくんの元気な声が跳ね、ジュンさんの柔らかな声が寄り添い、トモさんの低音がハモってくれる。いい。気持ちいい。
全力で歌い終わると、さっきからずっと前列で聴いてくれていた女の人が銅貨を1枚、わたしに差し出してきた。
「素敵な歌をありがとう。」
「聴いてくれてありがとう。」
わたしがびっくりして頭を下げると、ジュンさんとトモさんがありがとうございますって礼をしている。気持ちよく歌わせてもらって、お金がいただけるなんて、幸せー。
最前列の男の子が、にこにこしながら大きな声で言う。
「なんか元気になる歌を歌って!!」
元気な曲?んんん。こども向け?
じゃ、ニチアサのヒーローものにでもしようか。みんな知っている?意外とトモさんとレンくんが知っていて、ジュンさんは知らなかった。じゃ、ドレミの歌とかならどう?それならばみんな知っているというので、そっちを歌うことにした。
歌うのは気持ちがいい。自分の体が全部楽器になっているかのように全身が震える、音を出す。それを遠くまで届ける。歌い終わるとリクエストしてくれた男の子がとても喜んでくれていて、こっちまで嬉しくなった。
他のリクエストも受けて、5曲で投げ銭は合計37枚の銅貨だった。日本円にして3700円は、たった3700円なのか、ただ歌を歌っていただけで3700円も貰えたのか、わたしの気持ちは後者だったけど、異世界来て、なんだかわからないままでいたけれど、自分の意思で歌ってお金が手に入って地に足が着いた気がした。ただただ嬉しかった。
街から家に帰る30分も、興奮やまず歌っていたら、3人から意外と能天気なんだなと評価された。ご機嫌のままだったんだよー。
家に着いたら、皆で作戦会議だ。
「普通の街で良かった。冒険者ギルドも悪くねえ。」
「食材も普通に売っていましたね。日本の野菜とはちょっと名前も形も違いましたが。」
「ギルドで討伐見てきたけど、スライム、角うさぎ、マッスルボア、シルバーフォックス、ヒトカゲ、マックスベアは常設だった!森で討伐したら報告しにいこう!!」
「歌、気持ちよかったですねー。」
みんなてんで勝手に話し出す。出会って二日目なのに、なんか話しやすい。
「大金がある森の奥にも行ってみたい。明日は討伐してみようか。」
「そうですね。わたしたちレベル1ですから、無理せずにレベル上げしたいですね。」
「絶対、レベル上げしたい!!魔法使ってみたい!!」
「わたしは足手まといになるかもしれないですね・・・。」
「ああ、そうだ。4人でパーティー組もうよ。えっと、申請を出せばいいはず、どうだ。これで。」
レンくんが何か捻りだしたのか、目の前に半透明のウィンドウが現れた。ゲームみたいだ。そこに、『レンさんからパーティーのお誘いが来ています。OKしますか?』とメッセージが書いてある。え?ってきょろきょろしたら、ジュンさんにもトモさんの目の前にもウィンドウが出ているようで、目を丸くされている。
「ほら、パーティー申請したから、OKよろしく!!」
「おう、OKだな。」
トモさんが恐る恐る半透明のウィンドウを指で触ったようだ。躊躇ない。信用しているのかな。ジュンさんも、わたしもOKの場所を触れたら、ウィンドウはすっと消えた。
「みんな、ありがとう!これでパーティ組めたよ。明日から楽しみだな。これでみんな平等に経験値が入るよ!」
そうか、ジュンさんや特にわたしは戦えないけど、平等に経験値入るようにしてくれたんだ。レンくん、なんて優しいんだろ。
「やっぱりゲームでも、戦士、僧侶、武闘家、遊び人、踊り子であったとしても、みんな平等だったよ。それぞれ役割が違うけど同じチームだもの。これだよ。これ。やっぱりね。」
レンくんはなんだか納得しているのか、うんうん1人頷いている。
「まぁ、ジュンさんは回復役だし、ハルは家事だし、戦えなくても協力はしているから、平等に経験値が入ることに問題はねぇな。」
「わたしも回復役頑張らせていただきますね。」
「わたしは明日、お弁当作ります!」
「ハルさん、美味しいものをお願い!」
異世界に来たのがこのメンバーで良かったなってちょっと思えた。美味しい夕飯も朝食も作ろう!!
「とりあえず、明日は討伐な、そして食材が続くまで討伐、食材が減ったら街に買い出しに行く。ギルドで報告する。インベントリにしまった魔物を売る、食材買って、時間が余れば、また歌ってくるか、街仕事でも試しにするか。」
「街仕事は1度体験しておきたいですね。」
「草取りとか、倉庫の片付けとかあったよ。」
「社会人の経験を生かすものでもあるといいな。」
「僕は畑に来る魔物の駆除の依頼があったからやってみたいかな。」
「わたしは調剤のスキルがあるので、薬師の方に教えてもらえるのであれば勉強したいですね。薬が作れて売れるのであれば嬉しいですね。」
「ああ、それでいけば俺は酒造か。材料買ってくれば作れるのか?」
「ああ、トモさん、スキルは意思の力でなんとかなるみたいですよ。作れると思えば作れると思います。何のお酒造ります?」
「そうだな。一番好きな酒はウイスキーかな。ハイボールが好きなんだ。」
「ああトモさんらしいって思いました!」
「ウイスキーですね。材料は麦でしたっけ?」
「おう、ちょっと待て、ウイスキーを造るって思ったら材料が頭に浮かんだ。大麦だな。大麦さえあればスキルで造れるみたいだ。ああ樽もいるな。」
「お酒って、売れるのかな。」
「酒は売れなくても、自分で飲める分は欲しいな。」
「出来たらみんなで乾杯しましょう。楽しみですね。」
「いいね。いいね。」
「大麦と樽は討伐の後に納品して金を貰ってから買いに行こう。金があまり残っていないからな。」
「お金が足りなければ、また、街で歌いたいです!」
「確かに足しにはなるな。ただ、街の仕事、簿記とか帳簿とか事務仕事あればいいんだけどな。」
「街の仕事はみんなでそれぞれの特技を生かすのもありだよね。」
そうだよね。わたしたち4人のうち、3人は社会人だった。何年も仕事してきたから、家事以外でも役立てるといいな。
作戦会議が長引きかけたので、わたしは夕飯の準備をしだした。ジュンさんやトモさんは一人暮らしの自炊の腕で皮むき等は手伝ってくれる。レンくんは実家暮らしだったので、その辺はぜんぜんダメだそうだ。
夕飯は、シチューと生姜焼きもどきだ。肉は魔物のマッスルボアで、ショウガっぽいものを見つけたのでこのメニューにしてみた。まぁまぁいい感じに出来たと思う。リンゴっぽい果物も買ったので、後日天然酵母のパンも作りたい。今日はナンみたいな平たいパンにしたけどね。
「ハルさんは、味付け上手ですね。お店で食べる生姜焼きっぽいです。とても美味しいです。」
「シチューも熱いけど、旨い。うん、旨い。大したもんだ。」
「ハルさん、美味しいよー。おかわりしたいぐらい美味しいよー。」
「えー。そう言っていただけると嬉しいです。」
こっちの世界のショウガもどきの味が本当に日本のショウガと似た味だったのが良かった、美味しくできて嬉しいー。シチューは美味しい牛乳が売っていたのがラッキーだった。芋と魔物の肉がごろごろ入っている。食べるスープだ。市場では乳製品が割と充実していた。それにしても美味しいって言ってくれて喜んでくれる人がいるのって嬉しい。
「食べ終わったら、今日は年齢が上から風呂の順番だな。」
「洗面所が風呂場と一緒じゃなければいいんですけどね。」
「まぁそれぐらいは妥協しよう。」
「では、今日はわたしからお風呂いただきますね。」
「僕最後かー。暇ー。スマホもゲームも漫画もないし、余った時間何していいかわからない・・・。」
「じゃ、レンくん、一緒に歌を歌いませんか?もし、また街で歌うことになったら、合わせておいた方がいいと思うんです。」
「ああ、歌、そうだね。それもいいかも。ハルさんは何の歌が好き?」
「わたしは案外演歌とか好きなんですよね。情念を入れて歌うと気持ちいいんだよね。」
「はぁー。演歌?今どき?ハルさん、変っているね。」
「でも、街の広場で演歌はわたしも合わないと思っているので、元気な曲にしましょうか。」
「俺らが、こっちの言葉がわかるように、異世界の人も日本語の歌詞って伝わっていると思うか?」
「ああ。どうなんでしょう。輪唱してみてはどうでしょうか?カエルの歌とかなら、一緒に歌えるかもしれません。あれが歌えたら伝わっているんじゃないでしょうか?」
「まぁなんでも歌ってみるのはありかな。」
「ハルさんは、流行の歌はどうですか?」
「流行の歌も一通りはわかりますよ。トモさんはどんな感じですか?」
「俺、絶対音感持ちなんだ。一度か二度聞けば覚えるから、ある程度何でもいける。」
「え。えー。絶対音感!憧れます!!いいなぁ。」
「カッコいいですねー。」
「アニメとかも大丈夫ですか?」
「ある程度有名どころなら大丈夫だ。」
「僕、好きなアニメありました!!歌っていたのは〇津玄師さんです!」
「あーあれ。異世界で受けるかどうかわからないけど、暇なら歌ってみるか。」
「はい!歌ってみましょう。」
ということで、わたしは、〇津玄師さんの曲も結構好きだったので歌いだす。だんだんこれも知っている、あれも歌えると楽しくなってきた。ジュンさんがお風呂から上がってくる頃には何曲も歌い続けていたけど、楽しい。
レンくんがもっと歌うというので、今度は髪を乾かしながらジュンさんも参加、トモさんは次にお風呂に行った。
ジュンさんは最近の若者の歌やアニメなどはちょっと苦手ということで、懐メロにしてみた。懐メロといっても80年代だ。あと、レンくんがぎりぎり知っている世代でジュンさんが若い頃流行った、〇ャニーズ系はどうだ。
「ジュンさん、レンくん、世界に一つだけの花知っている?」
「あ、それ学校で合唱曲として歌ったことがある!」
「それならば、わかります。」
「じゃ、3人で歌ってみましょう!」
この曲は歌詞もいいんだよね。3人で歌いだすと気持ちがいい。自分の声が自分の体に反響し、自分が音楽を奏でているといった瞬間が好きだ。ここからはしばらく〇ャニーズ系で、いってみた。
「お、楽しそうだな。風呂次はハルだぞ。」
「はーい。お風呂行ってきますー。」
わたしがお酢を持ってお風呂に行くと、リビングから歌が聞こえてくる。残った3人で次はキセキを歌っているような音律が聞こえる。あれもいい曲だよねー。そう言いながらわたしは湯舟につかりながら、津軽海峡の歌ってみる。このどんどん盛り上げっていく曲いいよねー。
お風呂から上がってみたら、レンくんが何やらダンスを2人に教えていたみたいだった。ダンスはしたことないという2人は、これはこれで楽しかったと言う。
レンくんが風呂に入りに行き、ジュンさんに髪を乾かしてもらいながら、レンくんがいなくなったので、懐メロをもっと昔の歌が歌えると、上を向いて〇〇〇や三百六十五歩の〇〇〇など提案してみた。
「ハル?おまえ、そんな古い歌が歌えるのか?」
「わたしおばあちゃんっ子だったんで大好きですよ。」
「ああ、その辺の歌なら檀家さんが歌って教えてくださったので、わたしも大丈夫ですね。」
「トモさんも大丈夫ですよね。」
「おう、有名どころは何でも歌えるぞ。」
「じゃ、いきましょう!!」
ということで、まるで一昔前の紅白歌合戦のようなレパートリーで歌っていく。
「声が重なると気持ちいいですね。」
「ああ、最初は暇つぶしという感じだったが、これはこれでいい時間だ。」
「本当楽しいです。」
「あー、僕がわからない曲歌っていたねー。」
ぷんぷんしながら、お風呂からレンくんが上がってきたようだ。ジュンさんに髪を乾かしてもらっている。今日はぎしぎししてなくていいわねと褒めてもらって、ちょっと嬉しそう。
「レンくんは生まれていなかった曲だったね。でも、有名だから紅白見ていたら聞いたことあったかも。」
「紅白はあんまり見てないー。あの時間お笑いとか違うのを見ていた。」
ああ、そうか最近の若い子はあんまり見ないんだ。わたしはおばあちゃんと一緒にいつも見ていたからなぁ。
「俺も最近は見てなかったかも。好きな曲を適当に流しながら読書したりしていたかも。」
トモさん、なんかおしゃれ。
「わたしは年末年始は実家に帰っていましたが、大晦日はお寺が忙しい時期なので、手伝いで掃除をして、檀家さんにご挨拶したり、除夜の鐘の準備をしたり、参拝者の誘導をしたりと落ち着いて座っていられなかったですね・・・。」
ああ、そうかお寺って大晦日大変そうだ。うちでは必ず見ていたから、紅白って日本人なら全員が見るものだと思っていたけど、違うんだなぁ。みんなで歌える歌って意外と少ないかも!暇な時に練習しよう!!
「じゃ、明日は討伐だ、今日も疲れただろう。早く寝ろよ!」
「「「おやすみなさい。」」」




