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「ねぇねぇねぇ。今日は岩系のダンジョン行こうよ~。」
「あ?今日は街仕事じゃないのか?」
「えー。行こうよー。レベルがせっかく7になったから、金銀採りに行きたいよー。」
「あ、そうか、岩系ダンジョンの推奨はレベル7からか。レベル7無いと入れないんだったっけ。」
「マックスベアのお陰で死にかけたけど、レベルあがったじゃん、街仕事のお小遣いで買うのもいいけど、一度自分で採りに行ってみたい!!」
「そうですね。それもいいかもしれません。ツルハシ買いにいきましょうか。」
「まぁいいか。初めてのダンジョンは楽しみだな。ただし初めてだから要注意で行くぞ。」
「やったー!!」
飛び上がるように喜ぶレンくんを見て、ジュンさんもトモさんも苦笑している。可愛いな。レンくん。でも、岩系ダンジョンって硬いモンスターばかりなんだよね。倒せるんだろうか。
ストーンゴーレムとか、ロックゴーレム、メタルスライム、カーバングルやクリスタルバッド、ガーゴイルがいるという。剣より打撃が効くとも。採掘を主にするつもりなので、全員ツルハシ装備だね。打撃が効くならトモさんの空手も効くんだろうか。
草原ダンジョンの入り口は街中にあるけど、岩系ダンジョンは街から出て歩いて10分ぐらいのところにある。トスカミナ街のメインは草原ダンジョンだなと思った。でも、岩系ダンジョンの前に露店が出ていたり、道具屋があったり、そこそこ賑わいもある。
ドワーフや鍛冶屋が採掘に来る場所でもある。レンくんみたいな細工師のスキル持ちも来ているかもしれない。
冒険者タグでレベル7を確認されて、ようやく入る事が出来る。レベル7が無いとここは入れないのだ。
「さぁ気を引き締めていくぞ!」
いつもの通り、トモさんの声掛けに、レンくんが元気に返事をし、わたしとジュンさんは少しへっぴり腰で入り口に足を入れる。だって、初めての場所はちょっと怖いよー。
岩系ダンジョンの入り口は、完全に洞窟で、入ってからも少し大き目の洞窟だった。どこまで歩いても薄暗い洞窟だ。草原ダンジョンの広々とした明るい開けた場所の方が良かったなと少し思うけど、草原ダンジョンで米の欲しいわたしとトモさんの欲望にレンくんは嫌な顔せずについて来てくれた。今度はレンくんの欲望にわたしが付いていかねば!!
「そこ、行ったぞ!!」
トモさんから、鋭い声がする。ひゃー。何かが飛んでくる。小さいけど、素早い。何?
「クリスタルバッドみたいだ。ガラスの蝙蝠だな。ツルハシが当たれば倒せるぞ!」
わたしの前でレンくんも、トモさんも、ジュンさんまでもツルハシでクリスタルバッドを倒している。よし、わたしも頑張ってみよう。あれ、当たる。クリスタルバッドにわたしのツルハシが当たる!!!倒せている!わたし!!
「ハル、なんか調子いいじゃないか。」
「ええ、ツルハシと相性いいのかもしれません!!」
「ツルハシと?」
「ああ、なんていうのか、わたし太鼓の達人のレベルめちゃくちゃ高いんです!だから、叩くのは慣れているんです!」
「ああ。そういう意味か。じゃ、この洞窟頑張ってくれよ!」
「ハルさん、凄かったよ。僕はツルハシちょっと慣れないけど、一緒に頑張ろうね。」
「ハルさん、なかなか良かったですね。わたしも頑張らないと!」
みんなで少し薄暗い洞窟をひたすら歩く。クリスタルバッドと、ストーンラッドが出てくる。時々採掘ポイントが光っている!光っているんだ!!
採掘すると、銀、鉄、銅などが採れる。レンくんが大はしゃぎだ。
と、目の前をすっと何かがよぎる。え??何?見間違い?黒い影が目の端をちらつく。へ?
「な、なんかいる!!」
レンくんも気づいたようだ。トモさんがツルハシを構える。ジュンさんが子を守る母のようにきりっとしだす。レンくんの顔が高揚している。めちゃくちゃどきどきする!
ふと、一瞬、自分のそばを通ったそれにツルハシを叩きこむ。太鼓の達人と同じだ。リズムと速度と反射とここぞというつっこみ!そう、そこ!!!連打!!!ふぉぉ??
頭の中をレベルアップの音が続く。え?何かを倒した?
「は、ハルさん!!!それはぐれメタルだ!!!レアだよ。めちゃくちゃレア!!うわ。凄い!!経験値馬鹿ほど持っているやつ!!素早すぎて誰も倒せないって幻の魔物だよ。ほら、ギルドタグ見てよ!あっという間にレベルが10になっちゃったよ!!」
「え?レベル10?え?経験値たくさん持っている?え?はぐれメタル?」
「なんか、よくわからんが、よくやったなハル!」
経緯はわからなくても、結果が良ければトモさんは褒めてくれる。まぁいいのか。レア?なはぐれメタルが、わたしでも倒せてしまった。へへへ。
「ハルさん、頑張りましたね。とても素早い動きでしたよ。」
ジュンさんにも褒めてもらって、ひたすら嬉しい。自分も討伐で役立てる日が来るなんて、太鼓の達人極めておいて良かった!!その後もはぐれメタルまた出てこないかなと浮かれ気味のレンくんに気合を入れつつ、採掘ポイントでひたすらツルハシを振るのを繰り返した。
やはり、ストーンゴーレムの出る階まで行かず1階2階までしか足を運ばなかったけど、
この日はレンくんの欲しい銀がそれなりに、鉄と銅がたくさん、小さな宝石と少しの金が取れて終了。レンくんはとても嬉しそうだった。トモさんが冷静にダンジョン出てから鉱物買取屋に行き、鉄と銅をさっさと売ってしまったのはいつものことだ。レンくんは金銀と宝石だけで充分らしい。
とても面白かった!!
「これで露店で売るアクセサリーが作れるよ!!」
「あー。露店か。俺も日本酒も出来たし、売れる酒はあるな。」
「わたしも薬師の師匠から、傷薬なら売っても良いと言われているので、もう少し作ります。」
「わたしはクッキーとドーナツにします!!」
「おう、じゃ、家に帰る前に、街に戻って、露店で使うものを買って帰るか。」
「「「はい!!」」」
わたしは藁半紙のような紙を束で買った。これでドーナツやクッキーを包む予定。ジュンさんは小さな陶器製の器を買っている。傷薬を入れるんだろう。トモさんは柄杓を買っている。お酒は樽に入れて保管しているから、売る時は柄杓で欲しい人のコップに入れてあげるらしい。なんとなく形になってきたね。露店も楽しそうだ。
帰る前に、トモさんと初めて商業ギルドに入った。露店で売るお菓子や薬、アクセサリーにお酒の最終許可をもらうためだ。お菓子って普通にこの街に売っていないもんね。
「おや、トモさん、先日の露店の件ですか。」
「ああ、ギルド長、どうだ。明日から露店を出す予定だ。売りたいのはこれらだ。」
ギルド長を呼ばれる人は、品の良い素敵なおじ様という方で、着ている服もきちんとしていて仕事も出来そうっていう雰囲気がしている。トモさんとは何回は会っているせいか、仲が良さそうだ。
「わたしは商業ギルド長のハムエンドです。」
ハムエンド!?ハムエッグみたい。美味しそうと思ったのは口にはしなかった!
「「「よろしくお願いします」」」
わたしたちへの挨拶もほどほどに、トモさんはギルド長と話をしながら、商業ギルドのカウンターに、籠に入れたドーナツとクッキー。小さな器に入れている薬、無造作に並べたアクセサリーに小樽に入ったお酒を並べていく。
「おお、これは、これは。このお菓子とやらは、王都の貴族の家で出てくるようなものか?この街では見たことがない。味見しても良いか?」
「おお、いいぞ。」
その言葉を待っていましたとばかりに、ギルド長は手を伸ばす。
「なっ!!」
上品なはずのギルド長が目を見開いた。そしてあくまでも上品にでも、素早くドーナツを食べ終わった。食べている途中は話をしない。なんて上品!!
「トモさん、これは、凄いな。想像以上です!!」
「そうだろ。ハルのお菓子は旨いんだよ。」
「これのレシピは売らないですか?」
「んー。レシピ売ってもいいが、うちの露店が軌道に乗ってからだな。」
「まぁ仕方がないですか・・・でも、軌道に乗ったら、その時は必ずレシピを売っていただく約束ですよ。」
「次はこの傷薬ですね。どのぐらいまでの傷なら治るのですか?」
「これは、擦り傷、切り傷、アカギレぐらいですね。」
ジュンさんが丁寧に答えるが、ギルド長は試してみたいけど、自分の体に傷がないみたいで困っているようだ。それを見て、大人しく隣で見ていた事務員のお姉さんが、御者のマルクの手が荒れていますよ。と教えてくれた。ギルド長は御者をすぐに呼んでくるように言うと、何で呼び出されたかわからない御者のおじさんが挙動不審な感じできょろきょろしながら現れた。ごめんね!
「マルク、これを自分の手に塗ってくれ。」
「は、はい。ギルド長様!!」
すると、がさがさで荒れた手だったのが、あっと言う間につやつやすべすべに変わった。ギルド長も事務員のお姉さんも、手がつるつるになった御者のおじさんもびっくりしている。
「これは・・・本当にただの傷薬なのか!?」
「ええ、初級の傷薬です。」
「そ、そうなのか。この見本用はわたしが買い取ろう。」
「ギルド長!自分だけ!!」
事務員のお姉さんが、御者のつるつるつやつやの手を見た後だ、それは怒る。ギルド長が後で少しお前にも渡すからとなだめて納得してもらったようだ。
次はレンくんのアクセサリーを見入るギルド長。
「ほう。これは細やかな細工、いい腕しているね。この異国のコインのような模様。派手ではなく地味でもなくとてもいい。今まで見たことが無いがこういうのもいいな。これはどのぐらいで売るつもりですか?」
「うーん。材料費は2個分で1銀貨ぐらいだから、どうしようか悩んでいる。」
「2銀貨ぐらいでは売れそうですね。」
「最初の試作だから、1銀貨にするよ!!」
「そ、そんな安く売るんですか!」
「材料費は稼げているからぜんぜんいいよ。」
「わ、わたし買いに行きます!明日ですか!!」
「じゃ、明日売るから来てねー。」
レンくんが、にぱっ!と笑うと、事務員のお姉さんがぱっと顔が赤くなる。レンくんの笑顔は心臓に悪いと思う。可愛いからね。
「そして、酒か、この間頂いた酒も極上だった。いったいどんな酒を売るのですか。」
「まぁ飲んでくれ。これも極上だぞ。」
トモさんが、ギルド長が差し出したコップにお酒を注いでいく。日本酒の良い香りがすっと漂ってきた。この日本酒、トモさんに飲ませてもらったけど、本当にすっきりして味わい深くて喉を通るとほっと熱くなってめちゃくちゃ美味しかった。ギルド長も一口飲んで絶句している。そうだろ、そうだろ。
「と、トモさん、これは、商業ギルドに卸さないか?これを露店だけで売るなら騒ぎになりますよ!!」
「えー。樽をそんなに買ってない・・・。」
「い、いや、樽の問題なら、わたしが用意しますから!!!」
「材料は『穂草』なんですよ。」
トモさんがにやりと笑う。ギルド長はまさか家畜の餌の『穂草』がこんな美味しいお酒になるなんて想像もしていなかったっていう驚きで声も出ないようだ。
「これは、ハルに作ってもらったおにぎりだ。味見をどうぞ。」
日本酒の話をしていたのに、何故かおにぎりを出され、何がなんだかわからない状態のギルド長は、恐る恐る見たこともない食べ物を食べることにした。トモさんに敵対すれば損をする、ただその勘だけで覚悟を決めて食べる。
「え?何?食べたことが無いけど、お、美味しい・・・。」
「そうだろ、これは『穂草』を炊いて握ったもの。俺の故郷のソウルフードに近いものだ。これで酒も造れるんだ。」
ギルド長がはっとした顔をした。さすが商業ギルドの長にまでなる男だ、一瞬で『穂草』の価値をはじき出したのだろう。
「わかった、樽と『穂草』をトモさんに渡す。だからこの酒を造って欲しい。」
「取引は成立だな。詳細を詰めよう。」
黒い笑顔のトモさんは、ギルド長と一緒に奥の応接間に移動し、ちゃんと契約書を作るそうだ。残されたわたしたちは、事務員の女性、名前をリタさんだと教えてもらった。そのリタさんからお茶を出してもらって、ギルドのカウンターの内側のテーブルに座る。せっかくなのでとクッキーも出すと、蕩けるような顔をされた。このクッキーも自信作なんだ。わたしの隣でジュンさんもクッキーを食べだし、もちろんレンくんも遠慮していない。
リタさんに、露店はいつどこで出すのか問われ、明日の朝から中央広場の西側で出すことをお伝えする。絶対に買いに行きます!という気合の入った言葉をいただいた。
「良し、契約書も締結できたから帰るぞ。」
トモさんがさっぱりとした顔で奥から出てきたので、みんなで商業ギルドを後にした。家に帰ってから、露店で売る予定のドーナツとクッキーをやまほど作ったよ。家中甘い香りで寝る時少しうなされたのは内緒だ。後で、『浄化』使えば甘い匂いも少しましになったかなと思ったけど、まだそれは試していない。




