11
昨晩、レンくんから預かった冒険者用の服を修繕した。血が付いた場所は生活魔法の浄化で一瞬で綺麗になった。ジュンさんの服も新品みたいになった。それにしても、マックスベアにざっくりいかれていたところを縫っていて思ったんだけど、わたしたち防具って着ていなかった!初心者の布の服っぽい冒険者っぽい普通の服だ。そりゃ怪我するよ!!
「ねぇトモさん、防具買わない?」
「あ、防具か。昨日のあれか、そうだな。今後レベル10のところを目指すならいるな。」
「今日は草原ダンジョンの2階が目標だけど、レベル10の森だけではなく、レンくんが行きたいって言っている、岩系ダンジョン行くなら必要だと思う。」
「わたしたち、平和な日本にいたから、防具なんて思いつかなかったですね・・・。盲点です。」
「今日は草原ダンジョン行く前に、昨日お前が解体したマックスベアとシルバーフォックスを納品しにいく。マックスベアにどれぐらいの値が付くか楽しみだな。」
「防具買うお金が足りなければ、どこかで稼がないとね。」
「アンデッドダンジョンの宝箱は実入りがいいと聞いたな。」
「アンデッドはでも人気ないとか。剣や打撃はで倒しにくいと聞いていますね。」
「確かにアンデッドに剣や打撃は効きづらいと聞いたが、『浄化』や『聖水』は効くらしい。『浄化』はハルが得意だ。『聖水』も作れるかもしれない。」
「えーわたしが『聖水』ですか!?」
「ああ、俺がウイスキーからハイボールが造れたように、おまえも『浄化』と『給水』で『聖水』いけるかもしれない。欲しいと心の底から思うんだ。絶対必要だと思えば大丈夫だ!!」
トモさん、変に熱いところがあるんだよねー。まぁウイスキーを炭酸もレモンもなくハイボールに変えることが出来る人だもんね。どんだけハイボール飲みたかったんだ。
でも、防具は欲しい。またレンくんには怪我して欲しくない。『浄化』と『給水』か、出来るのかな。やってみる?でも『聖水』って、ジュンさんの方がいけるんじゃない?昨日黄金色の輝いたジュンさんは聖女みたいだった。神々しくて美しかったな。あっ!?
「ジュンさん、ジュンさんも一緒にやってみませんか?」
「え?何ですか?」
「わたしが『給水』で水を出して、『浄化』しますが、そこにジュンさんの回復魔法もたしてみるのです。昨日のジュンさんは光り輝いて聖女みたいでした!」
「え?回復魔法を水に?ですか?それとわたしは男なので聖女はちょっと・・・。」
「聖女ダメですか?じゃ聖人?いやとにかく神々しかったんです。だから『聖水』も行けるかなと。」
「そうなんですね。わたしも防具は必要だと思います。ダメ元でやってみましょう。」
そこで、陶器製の壺を目の前において、『給水』で水を入れてみる。毎日の畑仕事で水はどんどん使っているから、結構出せるようになったんだ。それに『浄化』、『浄化』も毎日卵にかけているから鍛えられているはず。さぁやってみよう。
「『浄化』!!」
「『回復』!!」
壺の中の水がほのかに光った気がした。トモさんが水を覗き込んでにやりと笑う。
「おー。『聖水』になっているぞ。」
「本当?わたしも鑑定してみる!」
「わたしも見てみます。」
ジュンさんとわたしも壺の水を鑑定してみると、「『聖水』レベルはまだ低い」と読み取れる。でも、『聖水』なんだ。やったー!!
「やってみるものですね・・・。」
「ジュンさん、やりましたね!」
「これで、アンデッドダンジョンで、ハルが『浄化』、ジュンさんは『回復』使って、俺とレンがこの『聖水』を使って進めばなんとかなるんじゃないか。まぁまずは、剣や打撃がある程度通用する1階の敵から様子見だけどな。」
「その、今更聞くのもなんなのですが、そもそもアンデッドって何なのでしょうか?」
「ん?アンデッドをジュンさんは知らないのか?ざっくり言えば死んだはずなのに動いている連中かな。」
「死んでいるんですか!?」
「スケルトンとかゾンビとか、ミイラとかリッチとか聞いたことがねぇ?」
「ゾンビぐらいならば映画で少し存在は知っていますが、あまり日常生活で意識してきたことはなかったです。皆さん、死んでから生き返って活動されているのでしょうか?」
「魔法で動かされているやつもいると思う。リッチとかは魔術師が死んでも怨念で自分の意志を持っているっていう設定だったと思う。」
「意志を持つ死んだ人?」
「ああ、でも、ひとまとめでいえば、一度死んだ者だな。気になるのか?」
「ええ、一度お亡くなりになっているのであれば成仏させてあげたいなと思いまして。」
「アンデッドを成仏!?その発想は無かった!!」
「わたしの回復魔法でなんとかなるのであれば、一度お亡くなりになった人を回復魔法で成仏できるのであれば、苦しみから解放してあげることもできるのでしょうか。」
「あー。どうなんだろうな。ダンジョンは魔力だまりから発生しているのではないかと聞いた。魔力が1か所に溜まって、ダンジョンが形成された。その余った魔力が魔物を作る。その魔物がほっとくと溢れて人間に敵対するから討伐する。討伐すれば魔物の魔力を得て経験値が貰えてレベルがあがる。そんな感じだと街の人に聞いたぞ。魔力だまりの魔力が魔物を作っているのであれば、この地に存在したものを象ってというのか真似て形を作っているのかもしれない。例えばスライム、実際にこの世界には存在しているから、ダンジョンにもいる。そんな感じだと思う。」
「存在しているものを真似る。真似ているだけの存在であれば、ダンジョンのアンデッドを倒すことは悪くはないですね・・・」
「ダンジョンがなんなのか、たぶんこの世界で解明されていないだろう。そこにあるから、危ないから、レベルがあげられるから、お宝があるから、魔石を得られるから、生きていくために倒すというぐらいなんだと思うぞ。」
「何となくわかってきました。この世界には魔力があり、そのせいで、魔力だまりができ、魔力だまりでダンジョンが形成され、魔物がこの地にあるものを真似て現れる。それが溢れて人間に害を与えるから討伐するっていうことですね。」
「そうだ。以前、ダンジョンから魔物が溢れるスタンピードというものが発生して、街を飲み込んで大変なことがあったという話も聞いたぞ。だから、ここの街の者はせっせと討伐に勤しむらしい。」
うわぁー。凄い、トモさん凄い!ジュンさんがダンジョンを知らなかった!というのもちょっとびっくりしたけど、ゲームしていなかったら普通の日本にダンジョンって出てこないもんね。それをトモさんがいつの間に街で情報収集していた!凄い!トモさん!はぁ、わたしも勉強になった。ためになった!ダンジョンで魔物を討伐する明確な理由がわかって今後の心構えが変わったよ!
「街を人を守るために、ダンジョンで魔物を倒す。魔物は一度お亡くなりになったものではなく、死んだものを真似したただの魔力の塊だと思えばやる気が出てきました。トモさん、説明ありがとうございます!」
「トモさん!!わたしもとてもとてもよくわかりました!トモさん素晴らしいです!!」
「あ、いや、え、そんなに褒められることか。いや、まぁ、ここで暮らしていくなら、ダンジョンでの討伐も無理しない程度で頑張っていこう。」
褒められて少し照れているのかぎくしゃくしたトモさんがなんだか可愛いと思ったのは内緒だ。言えばきっと絶対零度の冷えた目で睨まれる・・・。
「ええ、無理はしないこと。生き延びることが大事ですね。」
「ああ、無理だったら、街仕事でも、露店販売や歌でも歌って過ごしのもありだしな。」
「んんーみんな、おーはーよー。」
「おお、レン起きたか。おはよう。」
「「おはようございます!」」
「んー、アンデッドダンジョンのこと話していたの?アンデッドもいいけど、レベル7になったし、岩系ダンジョン行こうよ。僕は金銀を採掘しに行きたい!!」
「あー。採掘系か・・・。レンはアクセサリーを作って売りたいんだよな。」
「うん!作っているとめちゃくちゃ面白くてアイデアが湧いてくるんだ。日本でもシルバーアクセ好きだったんだ。あと、自分のお小遣いも欲しいから街仕事もしたい。」
「ああ、そうですね。討伐は共同財産にして生活費に使っちゃっていますものね。」
「討伐は大変だから、週2回ほどにするか、で、週2回街仕事でこっちは小遣い。残る1日は露店でもするか。露店も自分のものを売るから全部小遣いでいいか。」
「こっちの世界は週の概念があるかどうかもわからないけどねー。」
「わたしたちは5日働いて2日休むっていうのが一番体に馴染みます~これでいいと思いますよ。」
「週2回の討伐で稼いだ分で生活費が出せるかどうかだな。」
「街で買い物としては、食費は安い方だと思うよ。ただ、服とかはそこそこのお値段するみたいだった。布から作ればちょっと安く済むけど。家賃光熱費が無料だからいけるとは思う。でも、防具買うなら足りなくない?」
「防具は共同費と自分たちの小遣いから半分ずつかな。」
「僕もそれでいいと思う!!」
「わたしも賛成です。」
「俺もそれでいい。」
「歌はどうします?時々歌って小銭貰っていますよね。」
「ああ、あれはハルの作るお菓子代にすればいい。稼ぎとすれば、ちょうどそんなもんだろう。」
「では、みんなで食べるスイーツは歌を歌ってもらったお金にします!!」
「はいはーい!!僕、頑張って歌うよ!!」
あまりにも必死なレンくんの物言いにみんなで笑ってしまった。レンくんには美味しいお菓子をたくさん作ってあげよう。先日死にかけたレンくんに美味しいものをお腹いっぱい食べさせて幸せにしよう。それに、わたしはその幸せの顔を見るのが好きだ。家事冥利につきる。
「さぁ朝ご飯食べたら冒険者ギルドでマックスベア等を納品後に、草原ダンジョンへ行くぞ!」
「「「おー!!!」」」
◇
いつものように、歌を歌いながら街まで歩く。いいウォーキングになっていると思う。そしていつものように、トモさんが率先して冒険者ギルドの中に入っていく。
この時間冒険者ギルドは人が多い。朝の受注をする人が多いからだと思う。でも、何故か強面のヴァルドさんの窓口に並ぶ人は少ない。
トモさんは迷わずヴァルドさんのカウンターにマックスベアの魔石と毛皮を置いた。
「ヴァルドさん、これ納品お願いします。」
ヴァルドさんは魔石と毛皮を見て、わたしたちの顔を見た。
「これは、マックスベアだな。どうした・・・。」
「マックスベアの場所まで行ったわけじゃない。やつがハチミツを取りに浅い森まで出てきたところを俺たちが遭遇してしまったんだ。」
「な!何故逃げなかった!」
「やつは出会い頭にレンを襲ったんだ。かなりの血が出て、それで頭に血がのぼって許せなくなった。」
「お前たちは、冒険者になって日が浅い、実力もまだねえ、魔物の本当の強さもわかってねえだろ。・・・死んだら、金も素材も何の意味もねえ。」
「分かっている・・・。」
「だったらなおさらだ。今回は治せる怪我だったかもしれないが、次はどうかわからん。」
ヴァルドさんは怒っているようで、凄く心配してくれている気持ちが伝わってくる。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいで、トモさんもそれを感じたのだろう。
「次は、もっと慎重に動く。」
「よし、マックスベアは銀貨10枚だ。この魔石も毛皮も丁寧で綺麗に処理されている。良い解体の仕事だ。この毛皮は良い防具になるだろう。」
「マックスベア銀貨10枚・・・」
「おい、ハル、銀貨10枚だからって、次勝てるかわからないんだぞ!」
「あ。はい!」
「・・・本当にわかっているのか?」
うんうんと高速に頷いておく。隣でトモさんが苦笑している。
「マックスベアの肉や胆嚢や睾丸もあれば買ってやる。薬が作れる。欲しいやつがいるんだ。」
「あ、あります!全部売ります!!」
「おう、もう無茶はするなよ!生きて帰ってこい・・・。」
ヴァルドさんの声はぶっきらぼうだけど、優しかった。それにはトモさんも気づいたようで、少し照れたようにしていた。
マックスベアの魔石と毛皮を合わせて銀貨10枚だった。日本円にして10万円。うむ。いいお値段。レンくんが死にかけたけどねー。ヴァルドさんには心配されてしまった。
毛皮がお高かったし、爪も胆嚢も睾丸まで高く売れた。毛皮は防具に仕立て上げられるって言われた。そうか、じゃ、わたしの裁縫のレベルがあがればもしかしてわたし防具作れる?いや、防具はこっちの世界のものを買おう。こっちの世界の流行り知らないからね。防具って日本になかったもの、どんなものを作っていいのかさっぱりわからないや。いずれ作りたいのであれば勉強しないとね。
そんなことを考えながらヴァルドさんに教えられた草原ダンジョンへ向かう。街の南に入り口がある。ここを起点として街が造られたらしいけど、その後、岩系ダンジョンやアンデッド系ダンジョンも見つかって、こんな感じになったらしい。
「草原ダンジョンに入るなら、冒険者タグの提示を。」
草原ダンジョンの入り口で、そう言われて、みんなでタグを受け付けのいかついおじさんに見せる。雇われ兵士?門番みたいなものかな。1階がたとえスライムしか出なくてもダンジョンは冒険者のものらしい。
「確認できた、3階より深く行くならレベル7以上になる。今確認したら、レベル7はあったが、無理はしないように。」
「ああ、俺たちは今日、用があるのは2階だ。」
「そうか、2階は湿地帯がある。気をつけてな。」
「おお、ありがとさん。」
いつものように、トモさんが先頭にたって、手続きしてくれる。本当助かる!それにしても異世界初ダンジョン。どきどきしてきた。入口は何かテーマパークのアトラクションのようだ。光が中から漏れている。その光の中に4人で歩いていく。いつも元気なレンくんもトモさんの服の後ろを握っている。そういうわたしもジュンさんと手を繋いている。だって、得体の知らない場所なんだよ!
入口の光の中に入ると一瞬ふわっとした。目の前は真っ白だったけど、しゅっと目の前の景色が変わる。草原だー。凄いー。はっとして後ろを振り返ると、ぽかっと浮かぶ黒い入り口。え?帰りはこの暗いところへ足を入れるのか・・・。えー、ちょっとやだ。また誰かについて行こう。
それにしても、どこまでも草原、ダンジョンの中で地平線って言っていいのかわからないけど、360度全部草原だ。これを見たらさすがに草原のダンジョンって名前つけるわ。
遠くでちかりと光っている場所がある。あそこが2階への階段がある場所らしい。
一面の草原でスライムと戦う人が思ったより多い。それも子どもたちだ。へー。子どもがスライム退治なんだ。
「俺たちは2階へ行きたいから、1階は襲ってくるやつだけを倒して先に進むぞ。」
「わかった!でも、思ったより子どもが多いねー。僕ちょっと聞いてくる!!」
あ、レンくんが駆けて行ってしまった。ダンジョンなのに何故こんなに多くの子どもがいるんだろうって思ってしまったので、レンくんが駆けていったのはよくわかる。あ、レンくんが駆けて戻ってきた。
「あの子たちも冒険者だって。この街は10歳から冒険者ギルドに登録できるんだって。それで、レベル1でもダンジョンの1階まで入っても良くて、スライム倒してお小遣い稼ぎをしているみたい。スライムの魔石って銅貨1枚でしょ。銅貨1枚でパン1個買えるしね。家で使う火の道具や水の道具にもスライムの魔石使うから、いくらあってもいいんだって。凄いねー10歳から働いているんだよ!!」
「そうか、じゃスライムはあまり討伐しない方がいいか。」
「いや、この草原って歩いたら端から端まで1時間以上かかるぐらい広くてスライムはそれこそ分単位でポップしてくるからどれだけ捕っても無くならないらしい。だから、どの家にも火や水の魔道具があるらしい。凄いねー。」
いや、凄いのはレンくんだろう。あっという間に子どもたちからこれだけのことを聞き出せたのだから、レンくんのコミュニケーション能力の高さに驚く。
「2階の階段までは、徒歩20分ほどらしい。おら、歩くぞ。」
トモさんはヴァルドさんからいろいろ聞きだしていたらしい。強面のヴァルドさんは最初ちょっと怖かったけど、心配してくれたり配慮してくれたり、今は頼りにしている。マックスベアを納品した時はぎりぎりと責められてしまったけどね・・・。
「あー。あったよー。ここが2階への階段だー。」
何匹かスライムを倒しながらも2階の階段らしきところへたどり着く。光っている入り口。先は見えないのはダンジョンの入り口と同じだ。やっぱり少し怖い。
「レンと俺が先に入るから、ジュンさんとハルは後ろから着いてこい。」
「2階は角うさぎしか出ないって聞いているけど、僕も気をつけるよ!!」
「ダンジョンだから、森のマックスベアみたいなことはないとは思うんですけど、やはり最初のところは少し怖いですね。」
光の中にレンくんとトモさんが消え、わたしとジュンさんはまた手を繋いで光の中を進む。2階への階段といいつつ、光の先はすぐに湿原地帯だった。
「あー。こんな風に景色も地形も全部変わるんだ。びっくりするねー。」
「ほんとうだ。全部湿地帯だ。でも、この階も何も遮るものがなくて、遠くまで見渡せるのがいいね。湿原なのに、視野が開けているだけで気持ちがいい。尾瀬にいるみたい。」
「尾瀬はいいけど、ここは気持ちいい?足元水が多くて大変そうだよ・・・。」
「まぁまぁ。足元は気をつけて歩きましょう。視野が開けているのは魔物に急遽襲われることがないから良しとしましょう。」
「そうだね。マックスベアのこともあるから、気をつけないとね。」
「そうだな。2階は角うさぎしか出ないと言われているが、先日のこともある。気をつけて、米を探そう!!」
「そうだ、米!米を探しましょう!!」
「トモさんもハルさんもお米にテンション上がっていますね。」
「米ってどんな感じで生えているのかな。」
レンくんがきょろきょろしだす。湿地帯は視野が開けているけど、ところどころに水が溜まっている、池?沼?のある端っこに何か集中して生えているところがあるようだ。あれかな?あれっぽい?みんなでそっちへ歩いていく。うむ。鑑定をかけると、『穂草』と出た!これ!これ!!わたしが飛び上がって喜ぶと、トモさんがにやにやしている。イケメンなのに相変わらず笑顔が黒い。なんか悪いこと考えているのかなぁ。美味しい日本酒出来るといいね。
「ジュンさん、ここら辺全部ウインドカッターで切ってしまって下さい。ここらへん、全部米です!!」
「はいはい。わかりました。全部行きますから、みんなは避けて下さいね。」
ジュンさんのウインドカッターも随分慣れてきたのか、狙い通りバシュっといった。辺り一面刈り取れて、めちゃくちゃ嬉しい。このまま自分のインベントリに収納していく。
「ハル、実だけじゃなくて、全部持って帰るのか?邪魔じゃないか?」
「トモさん、藁は上質な灰が作れるのです。灰は掃除に使えるし、灰汁はアク抜きにも使えるのです。あと、肥料に使ったり、畑に敷くことも出来ます。縄も作れるし、藁細工も作れるんですよ!」
「おお、そうか、結構使えるんだな。」
「ええ、捨てるところないんです!」
「ハルさんは、いろいろ詳しいね。どこで習うの、そんなの。」
「わたしはお婆ちゃんっ子だったんです。大抵は田舎のお婆ちゃん仕込みですね。」
「そうなんだ。いいお婆ちゃんだね。」
「ええ、大好きなお婆ちゃんでした!・・・お婆ちゃんは3年前に亡くなったのですが、お婆ちゃんは極楽浄土にいるのかなぁ・・・。」
「ハルの婆ちゃんなら、異世界転生しているんじゃねぇか?」
「え?」
「だって、俺たちだって、今異世界いるだろう。だったら、ハルの婆ちゃんが異世界で転生していてもおかしくないだろ。」
「確かに・・・。」
「80歳のお婆ちゃんが異世界転生しました。魔法はダメだけど、前世の知恵を持って美味しい料理つくって楽しく生きていきます!っていうような感じになっていたりね。」
トモさんがジュンさんが刈り取ってくれた米を収納しつつ、レンくんが、そんなことを言って笑う。
「それ、お婆ちゃんっぽいです。無自覚に無双してそう。そうだったらいいな。」
「ええ、そうだと素敵ですね。」
「そうだよ。お婆ちゃん、どっかの異世界できっと楽しくやっているよ!」
久しぶりにお婆ちゃんのことを思い出した。亡くなった時、もう会えないんだと思うと寂しくて苦しくて悲しくて思い出すのも辛かった。だけど、あれから3年。思い出すのは笑顔のお婆ちゃんの顔ばかりだ。お婆ちゃんに教えてもらった数々の料理や保存食。わたしこっちの世界でちゃんと作るよ!お婆ちゃんも異世界転生していたら楽しんでね!!
米は山ほど収穫できた!こんなに生えているとは思わなかった。結構な量を歩いて、あちこちの米を根こそぎ刈り取る。ダンジョンは今日狩っても明日には同じところにまた生えているんだそうだ。なんて素敵!米が人にも食べられるとわかれば、食糧問題が解決するんじゃない。と思ったりしたけど、この異世界、スラムがない。この草原ダンジョンがあるせいか、食べられないぐらいに貧しい人はいないようだ。
ダンジョンも悪いことばかりじゃない。そもそも、ダンジョンは魔力だまりが魔力を消費するために形成されているってトモさんが言っていた。ダンジョンに良いも悪いも意志さえ無いのだろう。海があるように、山があるように、ダンジョンはただあるんだろうな。この世界の自然のひとつ、そういうものかもしれないね。
自然のひとつとしてダンジョンがあり、畑以外の場所で食材が採れる不思議を、街の人は不思議に思っていない。生まれた時からダンジョンがあれば狩場のひとつ、採取場のひとつという感じなんだろうな。山に山菜を採りに行くのとおんなじなんだろうな。この街の人はたくましい。調味料の種類は少ないけど、素材の味が濃いので普通に街の食堂の料理は美味しかったりする。そんなに生活に困っていないなっていうのがここ何回か街に来ての感想。
だから、露店でのスイーツは売れるかもしれない。そんな野心だね。歌を歌えばちゃんと投げ銭くれるし。いい街だ。管理人さんがわたしたちに生き延びて欲しいと切に願ったのがわかる。いいところに落としてくれてありがとう。
さて、米を収穫した後、角うさぎやスライムを狩りながらダンジョンから出る。ダンジョンの中はいつでも昼間らしいけど、外はちゃんと時間が経っている。不思議だ。外に出ると初夏っぽい気候で風が気持ちいい。調べていないけど、こっちの世界四季があるんだろうか。
「広場で串焼き買って食べない?一度食べたかったんだ。」
レンくんが、はしゃぎながら提案したので、みんなで賛同しながら広場まで行って、結構並んでいる串焼き屋の屋台で注文する。塩だけの味付けみたいだ。
「え、旨い。これ普通に旨い。」
「ほんと!おじさん、この串焼き美味しいよ!!」
「おう、俺の串焼きはこの街一番だからな!」
「本当美味しいです~。塩だけなのになんでだろう。」
「ははは、それは秘密さ。真似できない美味しさが自慢さ。」
「うー。わたし、絶対もっと美味しい串焼き作ってみせます!」
「おいハル、何対抗しているんだよ・・・。」
「あ。すみません。食のことになるとちょっと興奮しちゃって、それぐらい美味しいです。」
「はは、面白い兄ちゃんだな。お前が美味しい串焼き作れたら食べさせろや。」
「わかりました!いずれ、是非!!」
「ハルさん、面白い!」
「わたしも美味しい串焼き出来たら食べさせてくださいね。」
「あー。俺も。」
「俺はモランだ、ちっこい兄ちゃん、対決楽しみに待っているぜ!」
おかしいな。わたしこんなに負けず嫌いで好戦的じゃないんだけど、なんか塩だけの串焼きがこんなに美味しいだなんて負けた気がして、ものすごく悔しくなってしまった。それに勝負を面白いと思う自分もいた。どうしたら勝てるんだろうと思う自分がいる。料理に勝負なんてと思ったけど、わくわくしている。
爽やかに笑う、串焼き屋のモランさんに、こっちも思いっきり笑顔で言った。
「近いうちに必ず!!」
にかっと笑うモランさんに頭をぐりぐりされた後、全員で笑って終わりになった頃、こっちをずっと見ている女の人がいた。25歳ぐらいかな?わたしと同じ年ぐらい?前に歌っていた時に最前列に居たような気がする。おかっぱ頭のクラスの委員長みたいな真面目そうなイメージの人だ。
何か言いたげな顔。
「あー。お姉さん、前に歌っていた時、前にいたねー!」
レンくんがその女の人にいきなり話かける。
「え、ええ、ええ、え、覚えてくれているんですか??!!」
「うん、僕、綺麗な人は覚えているんだ。」
あー。この来るもの拒まず、去る者追わずで恋愛上級者のレンくん!!普通にそこいっちゃうのー。女の人真っ赤になっちゃったよ。
「えっと何か用ですか?」
ジュンさんが助け船を出すと、真っ赤な顔の女の人は必死に自分に言い聞かせているようだ。落ち着け落ち着けと小さな声がする。
「あの、また歌を聞きたいです。今日は歌われないのですか?」
「ああ。歌!今日はどうする?歌う?まだ少し時間あるよね。」
「歌か、いいぞ。俺は。」
「わたしも歌っていいです。あー。今日は大物有名バンドの歌はどうでしょう。だんだん夏っぽい季節になってきましたよね。海の歌や夏の歌が多いあれです。『真夏の果〇』とか物凄く好きなんですけど、いけます?」
「わたしそれは大丈夫です。わかります。」
「僕も知っている。有名だもの。」
「じゃ、いきましょうか。」
ということで、サザ〇の歌を何曲か続けて歌ってみた。有名どころの懐メロ、ぜんぜん古くなくて、今聞いても新しい。馴染む。明るく切なく何とも言えないメドレー。好き!
今日も最前列で聞いてくれた女の人が、拍手喝さいだ。涙ぐみながら聞いてくれている。そして、何故かわたしに投げ銭をお渡してくれる。ジュンさんやレンくんにぼっと赤面しつつ、お金はわたしだ。不思議だ。トモさんには少し距離を置いている。トモさんは圧のある貴公子風だからなぁ。慣れるまでちょっと怖いかも。
それにしても、今日もたくさんの人が歌を聞いてくれた。歌うたびに人が増えているのが嬉しい。おかっぱの女の人はリエナさんだと自己紹介があった。そのリエナさんを取り巻く同じ年代の女性の一団が、熱を持った目でジュンさんとレンくんを見つめている。2人とも顔がいいからねー。いや、トモさんも顔はとってもいいんだけど。どっちかというと2人なんだな。不思議。
「また、歌いに来るねー。今日は聞いてくれてありがとー。」
「「「ありがとうございました!」」」
みんなでお礼を言って帰ることにした。今日の投げ銭は48銅貨だ。50人近くの人が聞いてくれたんだなと思うとまた嬉しい。サザ〇の曲はやっぱり良かった~。家に帰るまで、ずっとエンドレスで歌ってしまった。
お米も手に入れたし、今日も良い日だった!!




