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Φ  作者: RPM
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-2- 盛者必衰・諸行無常

 赤茶けた砂の大地、折れ曲がった鉄塔、スモッグに霞む空――


 かつての緑と青に満ちた大陸はそこにない。


 ――地上はもう、ヒトの住むべき場所ではなかった。



 エリオット・ハワード。


 浮上島技術の開発者にして、のちのシグマ工業グループ会長。


 彼は自らの新技術をもって、人類を絶滅の危機から救ったのである。


 人々は皆、彼を称えて英雄と呼んだ。



 彼の設立したシグマ工業は、瞬く間に世界を席巻する巨大企業へと成長を遂げた。


 キッチンに立つ家政ロボット、通りを行き交う自動車、果ては戦闘機まで――


 その会社はΣ(シグマ)の文字通り、世のすべてを掌握したのである。



 ――しかし、「すべて」は一夜にして崩れ去るのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 新暦0021年 1月4日 18時30分 フロンティア島 シグマ工業本社屋地下


「――そろそろか」


 小さな呟きが暗闇にこだまする。


 その延々とも思えるような反響の中で、深紅の光が一つだけ佇んでいた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 同時刻 フロンティア島地上


 黒に染まった空から雪が舞い降りる、寒い冬の夜


 街灯の明かりが、うっすらと積もった雪を照らしている。


 そこへ幾重にも足跡を刻みながら、社員たちは帰路に就く頃だった。



 一人の男が、ふと足を止めた。


 ――地面が揺れている。


「おい、なんか揺れて――」


 その言葉は最後まで続かなかった。


 視界が白く染まる閃光。


 耳をつんざくような轟音。


 焼けつくような熱さ。



 彼が最後に見た景色――


 それは地面から吹き上がる無数の火柱と、頭上から襲い掛かる破片の数々であった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 [シグマ工業本拠地爆発 創設者エリオット・ハワード氏含む複数人死亡]


 ネットニュース、テレビ、新聞――あらゆるメディアがこぞって掲げた見出しは、世間を大いに揺るがした。


 そして英雄の死によって、世間は深い悲しみの底へと沈んでいった。


 街からは極彩色のネオンが消え、かわりに白黒の装飾品が通りを埋め尽くす。


 街の風景は、まるで旧時代の映画のワンシーンのようであった。



 彼への崇敬の念は、人々の間に重石のごとく横たわっていて――やがて砂のように消え去った。


 事故から三日後、ある匿名の「密告」が電子の海へと放たれる。


 なにかを注射され苦しむ人の姿、独房めいた簡素な部屋で生活を送る人々、戦闘試験を行うロボット達――


 それは、人々の信念を揺さぶるには充分であった。



 会社側はこれを全面否定した。


 しかし、それ以上のことは何もしなかった。


 ――いや、できなかったのである。



 あまりにも生々しい「密告」、そして二つの信念で惑い悩む民衆を前に、警察は再調査へと乗り出した。


 当然、捜査は難航した。


 会社の威厳のごとく立ち並んだビルの数々は、いまや瓦礫として捜査隊の前へと立ちふさがる。


 ――その姿はまるで、真実から会社を守らんとする執念の具現であった。



 しかしながら数か月にも及ぶ捜査の末、警察は一つの結論を出す。


 [シグマ工業において人体実験が行われていた事実を確認。なお被験者の多くは現在も所在不明。]


 人々は震撼した。


 自らの生活を支える基盤の下で、幾人もの命が弄ばれ、消えていったことに――



 シグマ工業は、一夜にしてあっけなく崩壊した。


 ――会社も、信頼も。


 市場からはシグマの製品が消え、集積所には数々の新品・使用済みの製品が積みあがる。


 一方で他社製品の値上がりは留まることを知らず、世界の経済機構は破綻した。


 シグマの与えた恩恵は大きく、そしてその崩壊の余波も大きかった。


 その日を境に、シグマ工業という名は忌むべき存在の象徴と化したのである。

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