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第2話 流れの外側



帰還の報告は、簡潔に済ませた。


「対象は残留体。対話可能。処理は保留」


それだけ。


余計なことは言わない。

言えば、崩れる。



通信は、すぐに重くなる。


「……保留だと?」


低い声。監査官だ。



「規定では、残留体は即時終端だ」


「はい」


凪は短く答える。



「例外は認められていない」


「はい」



沈黙。



「……理由は」



凪は、わずかに目を伏せる。


言葉を探す。


だが。



「……ありません」



それが、一番正確だった。



通信の向こうで、息が止まる気配。



「……理解不能だな」



当然だ。


凪自身も、理解していない。



ただ一つ、確かなことがある。



終わらせなかった。



それだけ。



「一時帰還しろ。判断は本局で行う」


「了解」



通信が切れる。



凪は、その場に立ったまま、動かなかった。



「……行くの?」



背後から声がする。


振り返らなくても分かる。



「……ああ」



澪は、まだそこにいる。


壁にもたれたまま。


さっきと何も変わらない姿で。



「戻ってくる?」



凪は、少しだけ間を置く。



「……分からない」



正直に答える。



澪は、小さく頷く。



「そっか」



それだけ。


引き止めない。



「……待つよ」



静かな声。



凪は、振り返らない。


そのまま、歩き出す。



背中に、何も残らないはずだった。



なのに。



確かに“何か”を置いてきた感覚がある。



――流れていない。



その違和感を抱えたまま、


凪は、帰還する。





終端管理局。


白く、無機質な空間。


音は吸われ、気配は削がれる。



ここには、流れがある。


正確で、無駄のない流れ。



凪は、その中に戻る。



だが。



「……遅かったね」



廊下の途中で、声がかかる。



観測官、たまき



壁に寄りかかり、凪を見ている。



「珍しいよ。君が“保留”なんて」



軽い口調。


だが、目は笑っていない。



「……報告は上に上げた」



凪は、それだけ答える。



環は、少しだけ肩をすくめる。



「見たよ。簡潔すぎて、逆に怖い」



一歩、近づく。



「で?」



凪をまっすぐ見る。



「何を見たの?」



沈黙。



凪は、答えない。



環は、少しだけ目を細める。



「……ああ」



何かに気づいたように、息を吐く。



「見ちゃったんだ」



それ以上は聞かない。



「気をつけなよ」



すれ違いざまに、言う。



「流れから外れると、戻れなくなる」



凪は、足を止めない。



「……知ってる」



短く返す。



だが。



本当に、知っているのかは分からない。





執行室。


任務記録が並ぶ場所。



凪は、自分のログを開く。



【対象:残留体】

【処理:未了】



その一行だけが、浮いている。



本来あるべき“終端”が、ない。



「……異常記録として登録されます」



背後から声。


事務官だ。



「例外案件として、上位判断待ちになります」



淡々とした説明。



凪は、画面を見たまま、動かない。



「……削除は可能か」



ふと、問う。



事務官は、わずかに首を振る。



「未処理の記録は、削除できません」



当然だ。



終わっていないものは、


消えない。



凪は、目を閉じる。



――やっと、会えた



声が、残る。



――答え、もらってないよ



消えない。


流れない。



ただ、そこにある。



「……凪」



再び、環の声。



振り返ると、少しだけ真面目な顔をしている。



「上が呼んでる」



短い言葉。



判断が、下る。



終わらせるか。


残すか。



そのどちらか。



凪は、目を開ける。



そして、静かに歩き出す。



流れの中心へ。



だが。



その足取りは、


ほんのわずかにだけ、


流れから外れていた。

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