エピローグ
黒い屋根と白い壁。
黒鉄の柵の向こうには馬車が行く。
時に行商、時に子ども。
声が聞こえて、賑やかしい。
風には緑が含まれて、そっと髪を撫でていく。
光を帯びて赤橙。深く染まれば紅の色。
花の香乗せたさえずりは、かつての夢を語りゆく。
応えるものは、黄味がかった小雀の声で。
優しい光の中にあるものは、愛しいものへの子守歌。
紅花色の髪が風に揺れ、その緑の瞳が振り返る。
「今、帰ったよ」
うっすらと微笑みを浮かべたふたつの瞳が映すものは、
未来を自由に飛ぶための、翼を得た天使の姿。
「今眠ったところです」
アークジバン王国にはかつて非情極まりないとされた王がいた。
しかし、歴史上そのような王が存在したとは誰も語らなかった。
なぜならば、利権と甘い汁ばかり追いかける貴族を一掃したのもその王だったからだ。
そして、歴史を読み解いていく過程で必ずひとりの男がふと浮上するのだ。
ハウエル・バーデンダーク卿。
元は爵位すらない貴族の端くれ出身の男だ。どうやって王に気に入られたのかも不明のまま、彼は突如現れ大きな領地を任され、歴史上にその名を残した。
「お前は分かりやすくて良い」
特に何かを成したという事実もないのだが、王はたびたび彼と話しこんでいたという日記も発見されている。
しかも、アークジバンにとって重要な局面になると、突如現れる名前。
だが、バーデンダーク卿は、特に評価が大きかったわけではない。重要な書類の印にも、内政事業にもその名が挙がってくることのない人物だった。
学者の誰もが彼をこう評する。
腹心というよりも、いわば身内のように目を掛けられていただけの成り上がり貴族。
非情な王が彼を信頼するその一点は、おそらく人間の感覚の指標だったのではないか、彼が難色を示すものが民の意見として取り入れられていたのではないかとも言われていた。
だが、爵位に付いた後の彼の功績・褒賞のなさから、またはその存在感のなさから、実際はこう語る者も多かった。
王は、王妃の機嫌の取り方を尋ねていたのではないか、と。
「そうだ、チェリロッサにお土産なんだ」
「ふふふ、チェリーには、まだ髪が生えていませんのに。ウェルは、ほんとうに気が早くていらっしゃいますね」
彼は愛妻家としてよく語られる人物でもある。
最後までロゼッタとハウエルにお付き合いくださりありがとうございました。
来週の金曜日の夜にセドリック語りを活動報告でしようと思っています。ご興味がありましたら……。














