第九章 地球防衛軍との対立
「地球防衛軍(EDF)が正式に動き出した」
翌週、ヨーコがそう告げた。
「俺たちを追うためにか?」
「そう。今まではどちらかと言えば放置してたEDFが、正式に『無許可活動グループの調査』を開始した。コードネーム——お前たちの好きなやつで聞かせる——『ゴールデン・トライアングル』だって」
「俺たちのことか?」
「三人組だから三角形。金色は懸賞金の色かな」
「ひどいコードネームだな」
「同感。で——問題は、EDF(地球防衛軍)の調査担当者が優秀なことだよ。担当官はジュリア・クロス少佐。元諜報部門のエース。バロス連合を単独で摘発した実績がある」
「バロス連合を?」と甚之助が驚いた。「本当か?」
「本当。やり手だよ。今は私たちを追ってる」
「EDFと直接対立は避けたい」と駿は言った。「俺たちと目的は同じだ。地球を守ること」
「でも方法が違う。私たちは無許可で動いてる」
「そこは認める。しかし、EDFの動きが遅い現状では——」
「少佐は早い。今すでに私たちに関する情報を集めてる。この前の慶應SFCの件でカメラ映像を解析したら、強化スーツの特徴から同じグループだと断定されたらしい」
「装備の特徴か——甚之助、スーツのデザインを変えられるか?」
「外観なら変えられる。一週間あれば」
「やってくれ」
「ただし——」とヨーコは続けた。「クロス少佐はただ追ってるだけじゃない。今朝、EDFの通信に割り込んで盗聴したら——彼女は私たちに接触したがってる」
「捕まえるためじゃなくて?」
「違う。会いたがってる。彼女の個人メッセージに、こういう記述があった——」
ヨーコがタブレットを見せた。
「『謎の三人組は地球に貢献している。しかし無許可の活動は法的に問題がある。交渉の余地があるなら、協力関係を構築したい』」
三人が沈黙した。
「……EDF(地球防衛軍)との協力?」と甚之助は言った。
「可能性としてはある」とヨーコは言った。「でも、私たちの正体を明かすことにもなるかもしれない。それが問題」
「正体を明かさずに協力する方法はあるか?」
「あるかもしれない。仲介者を使う。ブラッカーとか——」
「あいつは宇宙人側の依頼を受けてる」
「でも情報を俺たちに流してくれた。利害関係は複雑だけど、使えるかもしれない」
「ブラッカーに打診してみる」と駿は言った。「俺たちとクロス少佐の間を繋いでもらえるかどうか」
「危険じゃない?」
「ブラッカーを信用する、という賭けだ。でも——警告をくれた時点で、ある程度は信じていい相手だと俺は判断してる」
「……わかった。やってみる」
◆
ブラッカーへのコンタクトは、ヨーコが匿名の経路を通じて行った。
返答は翌日来た。
「協力する。ただし条件がある——俺のバロス連合との依頼を無効にする手伝いをしてくれ」
「バロス連合との縁を切りたいか?」とヨーコは通信で聞いた。
「俺も限界がある。奴らは私が思ってた以上に危険な連中だ。足を洗いたい」
「わかった。交渉する」
◆
一週間後、三人はブラッカーと「アマテラス」の外縁部にある小さなバーで会った。
強化スーツは着ていない。普通の服装だ。
ブラッカーはすでに来ていた。
「座れ」
三人が対面に座る。
「初めて正面から会うな」とブラッカーは言った。
「初めまして、と言うべきか」と駿は答えた。
「俺はお前たちが東大の学生だと確信してる。証拠はない。でも、まあ確信している」
「それが仮に本当だとしても、俺たちはそれを認める立場にない」
「わかってる。仕事の話をする」
ブラッカーはグラスを手に持った。
「クロス少佐との仲介は引き受ける。ただし俺の条件——バロス連合のデータを俺に使わせてくれ。やつらがどこに弱みを持ってるか、お前たちなら知ってるはずだ。そのデータがあれば、俺はバロス連合に取引を持ち掛けられる。依頼を返却して、俺の身の安全を確保する」
「要するに、バロス連合の弱みを握りたいということか」
「そう」
「ヨーコ」と駿は振り向いた。
「……先週、バロス連合のシステムに侵入したとき、財務データとかいくつか取得した」とヨーコは言った。「いくつかのデータは、彼らが対外的に隠したいものがある」
「それを渡せるか?」
「渡してもいい。でもこちらの条件も聞いてもらう——クロス少佐への仲介が成功したあとも、バロス連合の動向を俺たちに共有し続けてほしい」
「情報提供者になれということか」
「そう」
ブラッカーは少し考えた。
「悪くない条件だ」
「それから——」とヨーコは続けた。「懸賞金。俺たちへの懸賞金を追うのをやめてくれ」
「バロス連合からの依頼は断る。地球EDFからの懸賞金は、EDFとの交渉で状況が変わるかもしれない。それは保証できない」
「EDF(地球防衛軍)からの分については——交渉次第でどうにかなると思ってる」
「なら条件に同意する」
◆
クロス少佐との接触は、「アマテラス」の郊外エリアにある中立的な施設で行われた。
ブラッカーが仲介役として同席した。
クロス少佐は三十代半ば、短く整えた黒髪と鋭い目を持つ女性だった。軍の制服は着ていなかったが、姿勢から叩き込まれた訓練の名残が見える。
「会えてよかった」と少佐は言った。
「こちらも」と駿は答えた。今日も強化スーツは着ていない。
「お前たちが東大の学生かどうか、俺は訊かない」と少佐は言った。「ただ、お前たちが地球を守ろうとしていることは認める。ガラン族の件、慶應SFCの件——調べれば調べるほど、連中の行動は緻密だ。無許可とはいえ、これだけの成果を出してる組織は珍しい」
「組織と呼ぶほどのものじゃない」と駿は言った。
「そうか。では聞く——EDFと何らかの形で連携する気はあるか?」
「連携の内容による」
「俺たちはお前たちの正体を問わない。正式な部隊として登録する必要もない。ただし——情報共有を行ってほしい。こっちが把握している脅威を共有し、お前たちが把握している情報を共有する。それだけでいい」
「私たちへの懸賞金は?」
「俺の権限で一時停止できる。ただし上層部への承認が必要で、説得材料が必要だ」
「つまり俺たちに成果を出せということか」
「そうとも言える。ただ、お前たちは既に十分な成果を出している。俺はそれを上層部に報告する。承認が下りれば——懸賞金は解除できる」
駿は甚之助とヨーコを見た。
二人ともうなずいた。
「同意する」と駿は言った。「ただし条件がある。俺たちの正体は引き続き明かさない。どんな状況でも」
「それで構わない。俺には必要ない情報だ」
「それと——俺たちは独自の判断で行動することがある。EDF(地球防衛軍)の命令系統には入らない」
「その点は困るな」と少佐は言った。「でも——現実問題、お前たちを組み込む制度がない。だから、実質的には独立したまま協力するという形になる。それは俺も望んでいる」
「わかった。情報共有は行う」
「よかった」
少佐が立ち上がった。
「最後に一つだけ——」少佐は静かに言った。「お前たちは地球を守ってる。それは本当のことだ。でも、お前たちにも限界はある。無理をしないでほしい。お前たちが倒れたら、守れるものも守れなくなる」
「心配してくれるのか」
「当然だ。俺も地球を守りたい。目的は同じだ」
◆
施設を出て、三人は「アマテラス」の通路を歩いた。
「うまくいったな」と甚之助が言った。
「まだわからない。少佐が上層部を説得できるかどうか」
「でも最悪の事態——EDFとの真正面からの対立——は避けられた」とヨーコは言った。「それだけでも十分じゃない?」
「十分だ」と駿はうなずいた。
夜の「アマテラス」を歩く。
星が窓の外に広がっている。
三人がいる宇宙ステーションと地球と、遠く離れた星々と——すべてがこの宇宙の中にある。
「ヒーローって、孤独だよな」と駿はふと言った。
「急に何だ」と甚之助。
「漫画の中で、ヒーローは一人で戦うことが多い。正体を明かせないから、周りから理解されない。懸賞金を掛けられて、追われる」
「……お前が言うな」とヨーコが言った。「一人じゃないだろ」
「そうだな」
「私たちがいる」
「ああ」と駿は答えた。「本当に良かった」
三人は並んで歩いた。




