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第七章 慶應SFCでの戦い

バロス連合との一件から二週間後。


ヨーコが傍受した通信に、新たな動きがあった。


「慶應SFCの地球キャンパスが狙われてる」


「またか」と甚之助は呟いた。


「今度の相手は?」とヨーコがタブレットを見ながら答えた。「バロス連合じゃない。別のグループ——タールク星系の軍事組織。彼らが慶應SFCの研究施設に保管されているナノマシン技術を狙ってる」


「ナノマシン?」と駿は眉をあげた。「地球のナノマシン技術がそこまで進歩してたのか」


「慶應SFCの研究チームが三年前に開発した新型ナノマシン——生体組織の修復を格段に早める技術。宇宙での長期ミッションに欠かせない技術だから、タールク星系が欲しがるのは当然」


「いつだ」


「明後日の昼。講義の時間帯を狙ってる。学生が多い時間帯に強行突入すれば、地球側の対応が遅れると計算してる」


「人質戦術か」と甚之助は言った。硬い声だ。


「そう。だから——」


「行く」と駿は即座に言った。



地球に降りた三人は、慶應SFCのキャンパスに講義の三時間前から潜入した。


ヨーコが事前に学生証を偽造した——完璧な電子偽造で、大学のシステムにも正規の学生として登録されている。


「今日は普通の学生として潜入する」と駿は確認した。「強化スーツは鞄の中に畳んである。状況が変わったら着込む」


「タールク星系の連中の着陸ポイントは?」と甚之助。


「キャンパスから南東に三キロの農地。一時間後に着陸する予定」


「正確に把握してるな」


「盗聴してるから」とヨーコはあっさりと言った。


「倫理的には問題がある発言だが、まあいい」


「緊急事態に倫理論争してる場合じゃない」


「それもそうだ」


三人は普通の学生に扮して、SFCのキャンパスを歩いた。


ヨーコは眼鏡をかけ、大きめのリュックを背負っている。どこからどう見ても文系の大学生だ。


甚之助は……少し難しかった。


「お前、絶対に普通の大学生に見えない」とヨーコが言った。


「俺がいつも大学に行くとき、こういう格好だ」と甚之助は言った。確かにジーンズと大学のパーカーという普通の格好をしているのだが、着ている人間が二百センチ百二十キロだと、何を着ても普通には見えない。


「……目立つのは仕方ない。でも、動かないでいてくれたら目立ちすぎることはないかな」


「じゃあ図書館で待機する」


「それがいい」


甚之助が図書館に入った。


「あいつの役目は今日どこだ?」とヨーコが訊いた。


「タールク星系の連中が着陸したら、着陸ポイントで迎え撃つ役だ。俺たちが中で動いている間、外からの増援を止める」


「一人で?」


「甚之助だから大丈夫だ」


「……まあ、そうかな」



一時間後。


タールク星系の軍事組織が着陸した——予定より十五分早く。


「動き出した」とヨーコが駿の耳元に囁いた。二人は普通の学生に混じって講義棟の廊下を歩いている。「十二名。全員武装してる。二つのグループに分かれた。一方は正面から、もう一方は裏口から」


「挟み撃ちか」


「甚之助に連絡した。外周で二名を止めてる」


「残り十名がキャンパスに入ってくる。先に行動しよう」


駿は廊下の陰に入り、素早く強化スーツを取り出した。折り畳まれた状態から展開するのに十秒。全身に装着する——ヨーコも同時に動いている。


「行くぞ」



タールク星系の兵士は、人間に近い二本足の種族だが、全身を重力制御スーツで覆っている。重力を局所的に操作できるため、地面に縛られない三次元的な動きが可能だ。


「厄介だな」と駿は通信で言いながら、廊下を進んできた三人の兵士を見た。「重力制御スーツか」


「私が対処できる」とヨーコ。


「どうやって」


「重力制御スーツの制御周波数が解析できた。同じ周波数で干渉信号を送れば、制御を乱せる」


「それ、今できるか?」


「試みる」


ヨーコの前腕モジュールが起動した。指向性の強い信号が、最も前にいる兵士のスーツに向けて発射された。


兵士が突然、宙に浮き上がった。重力制御が誤作動して逆方向に働いたためだ。


「天井に貼り付いた」とヨーコは少し満足そうに言った。


「面白い。残り二人は俺がやる」


駿が動いた。


重力制御スーツを着た兵士は空中を自在に動けるが——着地するためには一瞬の静止が必要だ。その一瞬を駿の目は見逃さない。


一体目が降下してきた瞬間に、駿は身体を沈めながら相手の足を払った。重力制御スーツが着地動作中は制御の余裕がない。兵士はバランスを崩し、床に倒れ込んだ。


二体目が空中から駿に向けてエネルギー銃を撃った。


駿は横に跳んだ。エネルギー弾が床を焦がす。


着地した駿は即座に向きを変え、壁を蹴って空中に跳んだ。強化スーツのブースターが短時間の空中機動を可能にする。


兵士の上に回り込み——背中に着地しながら、スタン装置を押し当てた。


三体目が制圧された。


「講義棟の中はいまのところ三体。残り七体はどこだ?」


「研究棟の方に向かってる。ナノマシンの研究室を直接狙ってる」


「先回りする」



研究棟の廊下で、駿とヨーコは七体のうち五体と対峙した。残り二体は甚之助が外で食い止めているらしい(後で聞いたところ、二体が一体ずつになって、それをその場で取り押さえたとのことだった)。


五体対二人。


重力制御スーツの兵士が五体。


しかし——この廊下は狭い。重力制御の能力を最大限に発揮するには空間が足りない。


「廊下を選んだのは正解だ」と駿は言った。「ヨーコ、頼めるか?」


「わかった」


ヨーコが電磁干渉を仕掛けながら、駿が近接戦に持ち込む。


狭い廊下では数の優位が半減する。一度に向かえる人数が限られるからだ。


駿は先頭の一体を素早く制圧し、その体をシールドの代わりに後ろの一体に向かって押し込んだ。


倒れた一体が二体目を巻き込んで転倒する。


三体目が側面から来る——が、ヨーコがハッキングで重力制御を逆転させ、天井に貼り付けた。


四体目と五体目が同時に来た。


「甚之助!」


「今そこに行けない!」


「わかった!」


駿は二体に同時に向き合った。


一体が右から鋏のような武器を振り下ろす。もう一体が左から体当たりしてくる。


駿は一体目の攻撃を左腕のアーマーで受け流し、そのまま身体を回転させながら二体目のタックルを利用して——一体目にぶつけた。


二体が激突する。


その隙に駿は二体にスタン装置を当てた。


「……五体制圧」


「器用なことするな」とヨーコが感心した。


「ヒーロー漫画の必殺技みたいだろ」


「全然違う」


研究室の前に到着した。室内には研究者が数名——怯えて机の下に隠れている。無事だ。


「EDF(地球防衛軍)に匿名で通報した」とヨーコが言った。「あとはEDFが来るまで現場を維持するだけ」


「甚之助、状況は?」


「外はきれいだ。着陸船のエンジンも壊しといた。飛んでは行けない」


「完璧だ。ありがとう」


「当然だ」


それから二十分後、EDF(地球防衛軍)の部隊が到着した。


三人はその前に撤収した。


廊下には意識を失った兵士が並び、研究室の研究者は無事で、ナノマシン技術も手付かずだった。


EDFの隊員たちは混乱しながら現場を調べた。


「また謎の三人組か……」と誰かが言った声が、隠れて見ていた三人の耳に届いた。


「俺たちって有名になってきてるな」と甚之助は呟いた。


「いいことじゃないけどね」とヨーコは言った。


「まあな」と駿は笑った。「それだけ仕事をしてるってことだ」

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