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第四章 ガラン族旗艦への潜入

太陽の反対側から地球軌道に回り込む軌道を取りながら、ガルダ号はガラン族艦隊の後方へと接近した。


「ステルス完璧」とヨーコが確認する。「ガラン族の探知システムに引っかかっていない」


「EDFは?」


「こっちも問題なし。太陽光の散乱が探知の邪魔をしてる。うまくいけば最後まで見つからない」


艦隊の後方、少し離れた位置に旗艦がある。大型艦の中でも特に大きく、全長四百メートルを超える巨体だ。表面は深緑の装甲板で覆われており、随所に砲塔が突き出ている。


「あれに乗り込むのか」と甚之助は言った。感想というより確認だ。


「指揮官がいる」と駿は答えた。「倒せば艦隊全体の指揮系統が崩壊する。EDFが残りを片付けてくれる」


「問題は侵入口だ」


「ヨーコ、旗艦の構造は解析できてるか?」


「ある程度。ガラン族の船は標準的な甲殻型の構造をしてる。前方に戦闘区画、中央に機関部、後方に指揮区画がある。指揮官は後方の最も保護された場所にいるはずだ」


「侵入口は?」


「物資搬入用のハッチが後方下部にある。小型船の係留用だから、私たちのガルダ号ならぎりぎり接続できるはず」


「ぎりぎり?」


「三センチの余裕がある」


「十分だ」と甚之助は言った。宇宙空間でのドッキングにおいて三センチは悪くない精度だ。


「俺が操縦する」と駿は言って、操縦席に移動した。


「さすがに緊張する」とヨーコは呟いた。


「お前でも緊張するのか」と甚之助。


「当然するよ。お前は緊張しないの?」


「……少しな」


「一番緊張してないのは駿だけか」


「ヒーロー漫画では、こういう場面でヒーローは絶対に緊張しない」と駿はコックピットから声をかけた。「だから俺も緊張しない」


「漫画を信じてるのか、お前」


「信じてる」


呆れたような沈黙の後、甚之助が低く笑った。


「そういうやつだから、俺たちはついてきてるんだろうな」



旗艦への接近は、想像以上にスムーズだった。


ガラン族の探知システムを完全に欺いたまま、ガルダ号は後方の搬入ハッチに近づいた。駿の繊細な操縦によって、誤差一センチ以内でドッキングが完了する。


「さすがだ」とヨーコが感心した。


「空間感覚に優れてるだけだ」


ハッチの電子錠——ガラン族の技術で作られているが、ヨーコはあっさりと解析した。四十五秒かかった。


「遅い」と自分で言った。「解析データが少ないから」


「初見でその速さなら十分だ」と駿は答えた。


ハッチが開いた。


内部は暗く、壁や床の素材が地球の船とは全く異なる。有機的な曲線を描く廊下に、生体発光する緑の光が点々と灯っている。空気は薄く、かすかに何かの化学物質の臭いがした。


「呼吸は問題ないか?」と甚之助が確認した。


「強化スーツの内部環境維持システムが動いてる。四時間は問題ない」と駿は答えた。「ヨーコ、指揮官の部屋はどこだ?」


「後方区画の最奥。ここから……二百メートルほど。でも途中に警備がいる。何体いるかはわからない」


「感知しながら進もう。静かに」


三人は廊下に踏み込んだ。


ガルダ号のエアロックが閉まり、外の宇宙空間との繋がりが断たれる。


三人きりで、敵の旗艦の中にいる。



廊下を進む。


フェイスシールドのスキャナーが前方の熱源を探知する。


「二体。前方二十メートル」と駿は囁いた。「向かい合って立ってる。定期的に振り向く」


「パターンは?」とヨーコ。


「十五秒ごとに左右に一回ずつ」


「それなら——」ヨーコは廊下の上部を見た。「天井を伝って通れる?甚之助は無理だとしても、駿と私なら」


「俺は先に行って待ってる」と甚之助は言った。「別ルートはあるか?」


「左の分岐路が機関室方向に繋がってる。そこを迂回すれば後ろから合流できる」


「よし。行く」


甚之助が静かに左へ消えた。


駿はヨーコに目で合図した。二人は天井の有機的な突起に手をかけ、猫のように這い上がった。強化スーツのグリップ機能が壁面に吸着する。


真下の廊下を、ガラン族の二体の警備が立っている。


駿とヨーコは、天井を這いながら二体の頭上を通過した。


全く音を立てずに。


振り向いたガラン族の視線の、わずか数センチ上を通り過ぎた。


向こう側に降りて立ち、二人は息を吐いた。


「きつかった」とヨーコが小声で言った。


「でも通れた」


「……駿はこういうの、本当に得意だよね」


「子どもの頃から忍者ごっこが好きだったから」


「ヒーローごっこかと思ってた」


「どっちも好きだ」


ヨーコが小さく笑った。


その笑顔を駿は横目で見た。


眼鏡の奥の、緊張の中に浮かぶ笑顔。


なんとなく、大丈夫だと思えた。


しばらく進んだところで、甚之助と合流した。三人揃って、指揮区画の扉の前に立つ。


「内部の状況は?」とヨーコがスキャナーを向ける。


「……一体だけ。でも大きな熱源がある。体温が——通常のガラン族より高い。指揮官クラスは身体能力も高いと聞いたことがある」


「エリートか」と甚之助が腕を鳴らした。「俺の出番だな」


「待て」と駿が止めた。「真正面から突っ込むのはリスクが高い。指揮官が警戒ボタンを押したら、全艦に警報が鳴る。その前に無力化しなきゃいけない」


「じゃあどうする」


駿は扉を見た。


「ヨーコ、この扉のシステムにアクセスできるか?」


「できる。でも何をする気?」


「扉を開けると同時に、部屋の内部通信系統を全部シャットダウンしてくれ。指揮官が警報を出せないようにする。その一瞬で俺が中に入って制圧する」


「タイミングが重要だね」


「ゼロコンマ二秒以内に制圧する。できるか?」


「私は問題ない。駿が問題ないなら」


「問題ない」


甚之助が低い声で言った。


「後衛は俺が担う。廊下での物音が出たら俺が対応する」


「頼む」


ヨーコが扉の制御パネルに手を触れた。


「三秒後。三……二……一——」


扉が開いた。


同時に、ヨーコの指から送り込まれた信号が内部通信系統に侵入し、すべての通信回路を同時にシャットダウンした。


駿は既に走っていた。


部屋に飛び込んだ駿の目に映ったのは——巨大なガラン族の姿だ。通常個体より一回り大きく、外骨格の色が深みのある青紫。複眼は赤く光り、全身から強い気配が発せられている。


指揮官だ。


指揮官は扉が開いた瞬間に反応し、武器に手を伸ばした。


しかし駿の方が速かった。


ゼロコンマ一秒。


駿は指揮官の武器を持つ腕を払い、相手の重心が乱れた瞬間に背後に回り込んだ。首の後ろ——外骨格の隙間、神経節のある場所——に、甚之助が設計した精密なスタン装置を押し当てた。


強烈な電気パルスが神経節に流れ込む。


指揮官は一声も上げずに崩れ落ちた。


制圧。


かかった時間、〇・九秒。


「任務完了」と駿は通信に告げた。「今すぐEDFに匿名通信を入れてくれ」


「もうした」とヨーコが答えた。「脱出する?」


「する。甚之助、廊下は?」


「騒ぎはない。静かだ」


「よし、ガルダ号に戻る」


三人は来た道を引き返した。


途中、ガラン族の警備二体が廊下に戻ってきたタイミングと鉢合わせになったが——


甚之助が両方の頭を同時にぶつけて気絶させた。


「力業だな」とヨーコが呟いた。


「シンプルが一番」


ガルダ号に乗り込み、ドッキングを解除する。


エンジンが起動し、静かに旗艦から離れた。


ステルス状態のまま、EDFの艦隊から距離を取りながら戦場を観察する。


「どうなってる?」と駿。


「ガラン族の艦隊——動きが止まった」とヨーコが解析結果を報告する。「群体意識の混乱。指揮官からの命令が届かなくなったから、他の個体がどう動けばいいかわからなくなってる」


「EDFは?」


「動き出した。混乱したガラン族に対して一斉攻撃開始。……効いてる。ガラン族の艦隊、撤退を始めてる」


「うまくいった」


窓の外、地球軌道上で戦闘が展開されているが——その距離から見れば、小さな光の点が増減しているだけのように見える。


しかし確かに地球は、また守られた。


「量子コア、どうする?」と甚之助が言った。


「EDFに返す。匿名の荷物として送る。向こうは困惑するだろうけど」


「また謎の支援者扱いか」


「それでいい。俺たちはあくまで非公式だから」


ガルダ号は静かに宇宙を泳ぎながら、「アマテラス」へと帰路についた。

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