第十五章 それぞれの答え
バロス連合の脅威は続いていたが、ひとつの峠を越えた感があった。
正体の暴露は一時的に防がれ、EDFとの関係も正式化に向けて動いている。
そんな少し穏やかな夜に、駿はヨーコを食堂に呼び出した。
「急に呼び出して悪かった」
「何?」とヨーコはトレーを持ったまま言った。「甚之助と澪は?」
「来ない。二人とは話がある」
「……二人で話?」
「ある」
ヨーコはトレーを置いて座った。眼鏡の奥の目が、駿を見ている。
「あの時に言ってたこと——自分の気持ちを整理したい、って話の結果?」
「そう」
「……どれくらいかかった?」
「三ヶ月」と駿は答えた。
「長いな」
「俺なりに真剣に考えた」
ヨーコは少し、緊張した様子で待った。
「俺はヨーコのことが好きだ」と駿は言った。「恋愛という意味で。幼稚園から今まで、ずっと一緒にいたから——気づくのが遅かったけど、それは恋愛の感情と同じものだと思う」
「……思う、というのは確信がない?」
「俺の感情の仕分けが苦手なのは変わらない。でも、ヨーコがいない状況を想像したとき——それが嫌だという感情がある。ヨーコが笑っているのを見ると、何か温かいものを感じる。それが恋愛じゃないとしたら、何が恋愛なのか俺にはわからない」
「……漫画みたいな告白じゃないね」
「漫画みたいにはできない。俺の言葉で言うとこうなる」
ヨーコは少し考えた。
それから、眼鏡を外した。
素の顔で駿を見た。
「私は——ずっと待ってた。幼稚園の頃から。だから、三ヶ月くらい待てる」
「ありがとう」
「お礼はいい。それで——どうするの?」
「どうしたいか、お前が決めていい」
「私が?」
「俺はヨーコがどうしたいかが一番大事だ」
ヨーコは少し黙った。
「……付き合う、とか、そういう言葉を使わないと確定しないんじゃない?」
「じゃあ使う。俺はヨーコと付き合いたい」
「……わかった」とヨーコは言った。「私も」
「それで、どう変わる?」
「変わらない」とヨーコはあっさりと言った。「今まで通り。ただ——その今まで通りが、少し違う意味になる」
「それで十分だ」
「うん」
ヨーコは眼鏡をかけ直した。
「……甚之助に言ったら何て言うかな」
「「ようやくか」と言うと思う」
「同感。澪は?」
「あの子はまだ俺たちの関係をよく知らないから——素直に喜ぶかもしれない」
「うんと可愛い反応だったら教えて」
「お前が自分で見ろ」
「……まあそうね」
二人は並んで食事を続けた。
何も変わっていないように見えて、少しだけ変わった関係が、そこにあった。
◆
翌日の作業室。
甚之助は昨夜の展開を聞いて——
「ようやくか」
と言った。
澪は——
「え、えっ、そうなんですか!?おめでとうございます!」
と素直に叫んだ。
ヨーコが赤くなった。
「大声出さなくていい」
「すみません!でも、ずっとそんな感じがしてて……あ、余計なことを言いました、ごめんなさい」
「いや」とヨーコは言った。「まあ、ありがとう」
甚之助は作業を続けながら、それだけで満足そうな顔をしていた。
◆
その後も、四人の活動は続いた。
バロス連合の次の動き、タールク星系の別の組織、そして新たに地球に目を向けてきた星系——脅威は絶えない。
しかし四人は、それぞれの場所でそれぞれの役割を果たした。
駿が前線で戦う。
甚之助が装備を作り整える。
ヨーコが情報を解析し道を開く。
澪が精密な制御で全体を支える。
四つの歯車が噛み合って、同好会は動く。
クロス少佐との関係は徐々に深まり、EDFとの公式な連携が現実味を帯びてきた。ブラッカーは情報提供者として活動を続け、バロス連合との関係を整理しながら、徐々に彼らの信頼できる存在になっていった。
懸賞金は、地球側のものが少しずつ減額されていった。宇宙人側のものはむしろ増えたが——彼らはそれを気にしなかった。
◆
ある夜。
「アマテラス」の展望デッキで、四人が並んで星を見ていた。
「地球、見えるな」と甚之助が言った。
青い球体が、窓の外に輝いている。
「綺麗だ」と澪が呟いた。
「あそこを守ってる」と駿は言った。
「宇宙ステーションの上からも守ってるよね」とヨーコが言った。
「そうだな」
「宇宙人も守ってるの?」と澪が聞いた。
三人が少し驚いた様子で振り向いた。
「どういう意味だ?」
「えっと……いつも宇宙人と戦ってるけど、でも宇宙人が全員悪いわけじゃないじゃないですか。ブラッカーさんも元々は宇宙人側の依頼を受けてたけど、今は助けてくれてるし……宇宙人の中にも、バロス連合に脅かされてる星系の人たちがいると思って」
しばらく沈黙があった。
「……面白い視点だ」と駿は言った。
「変だった?」
「変じゃない。俺は考えたことがなかった。地球を守ることしか考えてなかった」
「でも駿さんが守ってることで、結果的に他の星系も助かってる場面があるんじゃないかと思って」
「……そうかもしれない」
「なら、守る範囲が広いだけで、やってることは変わらない」
「宇宙防衛同好会にしなきゃいけなくなるな」とヨーコが呟いた。
「語感が悪い」と駿は即座に言った。
「東大地球防衛同好会の方がいい」
「そうだ。名前は変えない」
「でも、守るものは広げてもいいかもしれない」と甚之助が低い声で言った。「俺はそれで構わない」
「俺も」とヨーコ。
「私も」と澪。
「俺も」と駿は最後に言った。
「じゃあ決まりだ」と甚之助は言った。「名前は変えない。でも、守れるものは守る」
「それが俺たちのルールだ」
星が輝いている。
地球が輝いている。
宇宙が、広がっている。
東大地球防衛同好会は今日も存在する。
非公式で、追われる立場で、懸賞金が掛けられて——
それでも。
守るべきものがある限り、彼らは動く。




