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第十三章 澪の選択

新学期から一ヶ月が経った頃。


澪は決断を迫られた。


「神楽坂さん」と内閣府の担当者から連絡が来た。「成果を報告してください。そろそろターゲットの特定が必要です」


「もう少し時間が……」


「時間は限られています。必要な情報を出せないなら、別の手段を使います」


「別の手段、というのは?」


「詳しくは言えません。ただ——あなたが関与しない形で行います」


つまり、もっと直接的な手段だ。


澪は通信を切った後、しばらく考えた。


(私がターゲットを特定すれば、彼らは捕まる。特定しなければ、組織は別の手段を使う——その方が危険かもしれない)


どちらの選択も、彼らに害をもたらす可能性がある。


(でも——)


澪はタブレットを開いた。


「東大地球防衛同好会」に関する情報。彼女が収集したデータ。


そして——彼女が直接会って話した、あの学生たちの顔。


駿の言葉が頭の中に残っていた。


「許可されていない方法でも——守るべきものを守れているなら、俺は正しいと思う」


(守るべきものを守る——)


澪は長い時間、考え続けた。


そして、決めた。


彼女はタブレットに向かって、別の通信を開いた。


「藤堂さん、話があります。今すぐ会えますか」



「アマテラス」の外縁部、一般客が来ない展望デッキ。


星の光だけが窓から差し込んでいる。


澪と駿が向き合った。


「どうした?急ぎで呼び出して」


「私のことを話します」と澪は言った。「本当のことを」


「聞く」


澪は話した。


内閣府の組織のこと。スカウトされた経緯。与えられた任務——東大地球防衛同好会のメンバー特定。


駿は最後まで黙って聞いた。


「……そうか」


「怒らないんですか」


「何に怒る?」


「私はあなたたちを追っていた。目的があって近づいた」


「それはわかってた」


澪が目を見開いた。


「知ってたんですか?」


「ヨーコが最初から解析してた。ネットワークトラフィックのパターンで気づいた」


「じゃあ——なぜ接触を」


「俺が確認したかった。お前が本当に敵なのか、それとも迷ってるのか。会って話してみれば、どちらかわかると思った」


「どちらに見えましたか?」


「最初から迷ってた」と駿は言った。「だから怖くなかった。本当に俺たちを捕まえようとしてる人間は、あんな目で見ない」


澪は少し目に力を込めた。


「……私は、ターゲットの情報を組織に渡すつもりはありません。でも組織が別の手段を使うと言ってる。あなたたちに危険が——」


「それを俺に話すために来たのか」


「はい」


「お前はこれからどうする?」


「……組織には偽の報告をするつもりです。ターゲットを特定できなかった、と。でもそれを組織が信じるかどうか……」


「組織がお前を信じなかった場合、お前が危険になる」


「それは——仕方ないです」


「仕方なくない」と駿は言った。「お前が危険になるのを俺たちは望まない」


「でも私はあなたたちを追っていた立場で——」


「関係ない。お前は俺たちに情報をくれた。それは事実だ。俺たちはお前を守る」


澪は少し言葉に詰まった。


「守る、というのは……」


「俺たちには情報収集の力がある。お前の組織の動向を監視して、お前が危険になりそうな時は事前に対処する。お前には何も言わなくていい。俺たちが勝手にやる」


「そんなこと——してもらえる?」


「したい」と駿は答えた。「正義のヒーローは、困ってる人を助けるものだ」


澪は——少し、笑った。


「……あなたって、変わってますね」


「よく言われる」


「でも——ありがとうございます」


「礼はいい。ヨーコに挨拶しに来てくれ。あいつが一番、お前のことを調べてた。直接話すのが一番早い」


「白坂さん——怒ってますか?私が近づいていたこと」


「怒ってないと思う。感心してると思う。あいつが解析して気づいた事案で、相手が自分から話しに来たのは初めてだから」



作業室での顔合わせは、最初少し緊張した空気だった。


ヨーコは静かに澪を評価するような目で見て——それから言った。


「あのネットワークパターン、どうやったの?自分で作ったの?」


「えっ、はい。小さな頃からプログラムが好きで……」


「それ、独自のアルゴリズムだよ。市販のツールじゃ同じものは作れない。天才だ」


「そんなこと——」


「本当のことを言ってる」とヨーコは言った。「あと、今後は私の解析網に引っかからないようにしてね。お前のネットワーク行動は私のデータベースに入った。隠す気なら新しいパターンを作り直した方がいい」


「……そのアドバイス、なぜ?」


「さっきから思ってるけど——お前、同好会に向いてる」


「え?」


「技術がある。自分で考えて動ける。間違ったと思ったら訂正できる。それだけあれば十分だよ」


「私は……でも、任務でここに来て——」


「それはもう関係ない」とヨーコは言った。「過去は過去。今後どうするか、が大事」


甚之助が腕を組んで澪を見た。


「お前、工学部だったな。何が得意だ?」


「機械制御系です。特に、小型機器の精密制御が……」


「俺のサポートができる」と甚之助は言った。それだけで、評価が終わった様子だった。


澪は三人の顔を順番に見た。


「……私、入ってもいいんですか?」


「鍵はかかってない」と駿は答えた。「ただし非公式だ。懸賞金が掛かってる。追われる。大変だぞ」


「知ってます」と澪は言った。少し胸を張って。「でも——守れるものがあるなら、守りたいです」


「それで十分だ」


東大地球防衛同好会、四人目が加わった。

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