第十二章 甚之助の過去
その夜、作業室で甚之助が珍しく手を止めた。
駿が気づいた。
「どうした?」
「いや……」と甚之助は低い声で言った。「昔のことを思い出してた」
「昔?」
「俺がなんでここにいるのか。なんで駿に付き合って地球を守ってるのか」
「言いたくなければ言わなくていい」
「いや、話す」
甚之助は道具を置いて、壁にもたれた。
「俺は十二歳のとき、地球で育った。田舎の町だった。その町が——宇宙人の探査船の攻撃で壊れた」
駿は何も言わずに聞いた。
「攻撃じゃなかったかもしれない。事故だったかもしれない。でも——町の半分が崩れた。俺の家も、俺の友達の家も」
「……誰かが」
「死んだ」と甚之助は言った。淡々と、しかし重く。「友達が一人。俺の幼なじみの男子。俺のそばにいた。俺が機械をいじってるのを見てた。次の瞬間には——いなかった」
沈黙。
「EDF(地球防衛軍)が来たのは、半日後だった」と甚之助は続けた。「探査船はすでに去っていた。EDFにできたのは——瓦礫の撤去だけだった」
「それで」
「武器を作ることにした。誰かが守れなかったなら、俺が守れる武器を作る。EDFじゃなくても、誰かが使ってくれれば——また同じことが起きる前に止められる」
「だから俺に付き合ってるのか」
「お前が『俺たちがやらなきゃ誰がやる』と言ったとき——俺は同じことを思ってた。だから付き合うことにした」
「そうか」
「後悔してない。今も」
「ありがとう」と駿は言った。
「礼はいい」と甚之助は言った。「ただ——お前に一つ言っておきたかった」
「なんだ」
「俺が武器を作るのは、誰かを傷つけたいからじゃない。守りたいからだ。その点は忘れないでくれ。俺はお前たちの作戦に使われる道具を作ってるんじゃなくて——俺自身が守りたいものを守るために作ってる」
「わかってる」と駿は言った。「最初から」
甚之助は少し驚いたような顔をした。
「……そうか」
「甚之助の作るものには、そういう意志が込められてる。使ってれば感じる」
「そんなことがわかるのか」
「IQ三〇〇だぞ」と駿は笑った。
「それは関係ない」と甚之助は笑い返した。
◆
ヨーコが作業室に戻ってきた。二人の雰囲気を察して、少し首をかしげた。
「何かあった?」
「昔話をしてた」と甚之助は言った。
「私も聞いてよかった?」
「別に隠してない」と甚之助は答えた。
ヨーコはそれ以上聞かなかった。代わりに、タブレットを作業台に置いた。
「神楽坂澪の件、もう少し調べた」
「どうだった?」と駿。
「内閣府の外郭団体に繋がってる線が出てきた。表には出てない組織。公式な活動はないけど、諜報活動への関与を示す間接的な証拠がいくつか」
「やはりそういうことか」
「でも——その組織への関与度が低い。スカウトされたばかりで、まだ経験が浅い状態だと思う」
「彼女自身の意志は?」
「……読めない。でも今日、私が盗聴してた彼女の報告書に——今日の会話の内容が含まれていなかった」
「含まれていなかった?」
「書いた途中で消した。私が観察してた内容と一致しない」
「つまり——彼女は俺との会話を報告しなかった?」
「そう見える」
三人は少し考えた。
「様子を見続ける」と駿は言った。「ただし——より注意深く。彼女が動いた場合は俺に即時連絡してくれ」
「わかった」
「甚之助は?」
「俺は変わらん。とりあえず新型のグレネードを仕上げる」
「頼む」
「……それより、お前」と甚之助は駿を見た。「ヨーコとの話、どうなった?」
「え?」とヨーコが顔を上げた。
「なんだ、いつの話だ」
「先週、二人でいたとき——ヨーコが何か話してたよな。俺、薄い壁越しに少し聞こえた」
「全部聞いてたのか!」とヨーコが叫んだ。
「全部じゃない。ちょっとだけ」と甚之助は申し訳なさそうに言った。しかし表情はさほど申し訳なさそうでもない。「まあ、俺が言えることは一つだ」
「……なんだ」
「早く結論を出せ。グズグズしてると俺が代わりに告白するぞ」
「何を言ってる!」とヨーコが立ち上がった。
「嗚呼、落ち着けって」
「甚之助には関係ない!」
「まあまあ」と駿が割り込んだ。「俺はちゃんと考えてる。急かさなくていい」
「お前が急かされてどうする」とヨーコは赤い顔のまま言った。「私の話だ」
「二人の話だろ」
「……そうだけど」
甚之助が腕を組んでにやりとした。
「まあ、俺は何も言わん。ただ——二人がどうなろうと、同好会は続けるからな」
「当然だ」と駿は答えた。
「当然」とヨーコも言った。
三人の間に、温かい空気が流れた。




