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021


 「…それでエドヴァルトだけが残ったと言うことですか」


 ミカヅチの雷でジンデ村のゴブリンたちを殲滅させた後、ヨハンは村から逃げてきた(本人は援軍を呼びに行くための戦略的撤退だと言い張っているが)魔法騎士団の部隊長に今回の出来事の経緯の説明するように求めていた。


「わっ、我らは共に来るように何度も言ったのだ!我らが精霊騎士殿だけを、おっ、置いて来たわけではないっ!」


 ヨハンの圧倒的な実力を目の当たりにして恐怖を覚えたのか、自分たちはエドヴァルトを見殺しにしたわけではないと必死に言い訳をしている。


 ヨハンはため息をつく。


 詳細を知りたかっただけで別に脅すつもりはなかったのだが、勝手に勘違いしてくれているのは都合が良かったのでそのまま誤解させたまま話をする事にする。


 「村に残って一緒に戦うという選択肢は無かったのですか」


 「ごっ、ゴブリンが千匹もいたんだぞ!まずは援軍を呼びに行くのが正しい判断だ!」


 どうしても自身の行動を正当化したい魔法騎士団の部隊長は、村でした言い訳と同じことを言うが、ヨハンはゆっくりと首を振る。


 「援軍を呼ぶのはあなた方でなくてもよいでしょう。この南部方面駐屯軍の魔法水晶を村の水晶とリンクすれば状況は確認できます。知らせるのは村の駐留兵で十分なはずです」


 「ぐっ…」


 反論の余地がない指摘をされて部隊長は苦しそうに顔をゆがめる。それを更に追い詰めるようにヨハンは続ける。


 「村人の事を第一に考えるなら魔法騎士は残って戦うべきでしたね。私の部下が残るべきと判断したなら、あなた方が協力すれば十分防げたはずですよ。事実として私の部下が奮闘したおかげで村の中にまではゴブリンは侵攻できていませんでしたからね」


 「けっ、結果論だ!判断としては間違っていない!」


 なおも虚勢を張って強弁する魔法騎士団の部隊長に、


 「あなたのその判断がわたしの部下を危険に晒したのです。結果として間違った判断でしたね」


 ヨハンは冷たく言い添える。


 その言い方に部隊長は自らの失態をこれ以上隠しきれないと悟ったのか、探るような目つきできいてくる。


 「…王都に報告するのか?」


 (こんな時でも保身か。呆れたものだな)


 エリートの魔法騎士にふさわしく、面子に異常にこだわるその姿が少々可哀そうになってきたヨハンは首を振る。


 「いえ、それはいたしません」


 「そっ、そうか!まあ、それはそうだな!あくまで結果として多少問題があっただけだからな!」


 ほっとして顔をほころばせる部隊長だが、ヨハンの次の言葉に硬直する。


 「が、あなた方は私の個人的な恨みを買ったと思っていた方が良いでしょう」


 (わっ、わたしはこの男の恨みを買ったのか?!)


 遠く離れた場所にいる千匹のゴブリンを殲滅できる実力をもった者に恨まれているというのは、相当なプレッシャーだろう。じりじりと追い詰められてすっかり怯えてしまっている部隊長に、

  

 「まあ、そのくらいにしておきたまえ」


 南部方面駐屯軍の司令官がとりなすように話に入ってくる。 


 精霊騎士も恐ろしい存在ではあるが、魔法騎士団は精霊騎士と違って数も多いので王国最強の戦力として扱われている。その両者に自分のテリトリーで揉めて欲しくないのだ。


 「それにしてもすばらしい才能だな。ヨハン君、君は実にすごい力を持っているのだね」


 司令官はおべっかを使うようにヨハンにすり寄っている。


 「恐れ入ります。司令官閣下。差し出がましいとは思いましたが、緊急事態でしたので私が対応させていだだきました」


 本来ならこの南部方面軍から援軍を送るのがすじだが、それでは間に合わないとヨハンが対処することを名乗り出たのだ。

 

 「私は精霊というものを初めて見たが凄まじいものだ。しかし、精霊は誰にでも使えるというものではないのだろう?」


 「こればっかりは一種の才能ですからね。それに私は精霊を使っているわけではないですよ。力を貸すようにお願いしているんです」


 そう、ヨハンは頼み事が上手いのだ。それこそ卑屈なほど自分を下に見る性格のせいで精霊に気持ちよく力を使ってもらえている。


 まあ、これは分かりやすく言っただけで実際にはただ卑屈に頼めばいいというわけでもなく、もっと複雑なやり取りがあるのだが。


 「見たところまだ余力があるようだが、精霊とは無限に使えるのかね?」


 「ずいぶん過大評価されているようですが、今回やったやり方は実はかなり制限があるのです。私の精霊で離れた場所に雷を落すのはその場所の上空に雲がないとできないんです。今回はたまたま雲があったからよかったのですが、快晴時には使えないし、屋内の相手は無理です。いろいろと制限があるんですよ」


 とりあえず無条件で使えるわけじゃないと知って司令官は安心する。あんなものを無制限に使われたら太刀打ちできる人間などいないだろう。


 「しかし、近距離なら雲がなくても雷を使えるのだろう?」


 「それはそうですね。私の目の見える範囲なら瞬時に攻撃できます」


 そう言って周りを見回すヨハンに、逆らおうという気力のあるものはいないのだった。



                      *



 

 南部方面駐屯軍の指令室から出てヨハンが一人になるとミカヅチが再び現れる。ゴブリンたちを始末した後、「じゃあの」とミカヅチは姿を消していたのだが、ヨハンが一人になったのを見計らってでてきたらしい。


 「お前悪い奴じゃの~。な~にが『雲がないとできない』、じゃ。お前はクゥーラと契約しとるからあいつに頼めばいくらでも自前で雲を用意できるじゃろうが」


 水系精霊最上位のクゥーラなら空に雨雲を呼ぶことなど簡単なのだ。つまり今のヨハンはやろうと思えば自分一人でいつでも今回したように雷による遠距離攻撃を行使できるのだ。


 「別に嘘は言ってないだろ。雲がないとできないのは事実なんだから。あんまり強いと思われるとロクな事がないからな。悪いと言われる筋合いはない」


 「いや、お前十分、強いと思われてたぞ」


 こいつは何を言っとるんじゃ?とばかりにミカヅチはつっこむ。


 「そうか?なかなか加減が難しいな」


 ヨハンの口調はさっきまでの堅苦しいものからすっかり砕けている。

 

 「なんか、おめえわしに対する態度が雑じゃないかのう?」


 「ただひたすらに拝み倒すようなヤツにお前は力を貸すのか?」


 「バカめ!そんな軟弱な野郎にこのわしが力を貸すかよ!」


 ミカヅチはわしを舐めるな、とばかりに鼻を鳴らしている。


 確かにヨハンは精霊の扱いがうまいのだった。

もうちょっとで2章も終わりです。

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