27 神殿建築ギルド
それからヘルロウは徹底的に、亡者たちに『石積み』の技術を伝授した。
石の声を聴く方法、適材適所を見分ける方法、弱い石どうしを組み合わせて強度を得る方法、などなど……。
それらはスパルタではあったが、亡者たちは少しずつコツのようなものを掴んでいった。
ヘルロウは、天国から地獄へと追放されてしまったのだが……。
そんな花咲かぬ地においても、彼はあきらめずに種を撒き続けた。
そして少しずつではあるものの、芽吹きつつあったのだ。
天国と地上が今まさに手放さんとしている、『ヘルロウイズム』という名の花が……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
所かわって地上。
場所は、『ヘルロウイズム』をとっくの昔に手放してしまった、とある『神殿建築ギルド』。
『ギルド』というのはこの世界における、『会社』や『組織』を表す言葉である。
『神殿建築ギルド』というのは、神が地上に降り立つための神殿や、人間が神に祈るための聖堂などの建築を専業にしている、いわば『企業』である。
この世界では神と天使、そして人間とは陸続きといっていいほどに身近な存在なので、地上には多くの『神殿建築ギルド』が存在する。
その中でも代表的な五つのギルドは、『五大神殿建築ギルド』と呼ばれていて、
ロックスター神殿建築ギルド
ロックロール神殿建築ギルド
ロッククライム神殿建築ギルド
ロックフェラー神殿建築ギルド
以上、四社と……。
そして、ヘルロウが堕天した際、『ヘルロウイズム』を真っ先に手放してしまった、とあるギルドである。
その、罪深き名を語る前に……。
そのギルドが、いかにして生まれたかを、先に語ろう。
……これは、ヘルロウがまだ天使であった時代……。
彼が、地上に石積みの技術を広めた頃の話である。
ヘルロウは当初、とある神殿建築家にのみ、石積みの技術を教えた。
なぜならば、その建築家一家は何者かに騙されて全財産を失い、一家心中をしようとしていたからだ。
建築家は『人並みに暮らせるようになるまで』というのを条件に、ヘルロウの石積みの技術を独占する。
おかげで、その建築家には次々と仕事が舞い込み大繁盛。
ついには大規模な、神殿建築ギルドを立ち上げるに至る。
建築家は人並みに暮らせるどころか、富豪の座にまで登りつめる。
立ち上げた神殿建築ギルドは、世界一の座を手にするまでに至る。
しかし彼は、ヘルロウの石積み技術を公開することなく、独占し続けた。
だがその技術はなぜか流出してしまい、あっという間に世界じゅうの神殿建築ギルドに広まってしまう。
ヘルロウの石積み技術は、『ヘルロック』と呼ばれ、神殿の石積みにおける世界標準となった。
その技術を最初に教わった建築家は、優位性を失ってしまい、世界一の座から転落。
しかし往生際の悪い彼は、自分の名を冠していた神殿建築ギルドの名前を変更する。
ヘルロック神殿建築ギルド
と……!
彼は声高に叫んだ。
「ヘルロックを最初にこの地上に持ち込んだのは、このワシじゃ!」
と……!
そしてなんとか五大神殿建築ギルドにしがみついていたのだが、その矢先、あの事件が起こってしまう。
ヘルロウの、堕天……!
すると建築家はなんと、真っ先にギルド名を変更
舌の根も乾かぬうちに、
「ワシは、こうなることはわかっとったんじゃ! だからこそワシは、真っ先にヘルロウと決別した! その心意気をギルド名に込めたんじゃ!」
新たなる名は、なんと……!
ノーヘルロック神殿建築ギルド……!
「ワシは、『ヘルロウ改革』をここに宣言するっ! ギルドの中からヘルロウ的要素を全て追い出し、ワシなりのやり方を貫くことに決めた! 悪魔に囚われていた暗黒時代を、ワシの手で変えてみせるんじゃ!」
一家心中を救ってもらったヘルロウを悪魔呼ばわりし、さんざん甘い蜜を吸った過去を、暗黒時代呼ばわり……!
そして建築家は改革に着手する。
ギルドの体制から組織構成、従業員の作業手順から休日の過ごし方、石材の選別方法から調達コストに至るまで、何から何まで……!
ヘルロウから教わったものを、悪い膿でも吐き出すかのように、すべて唾棄っ……!
これは現代に例えるなら、まさに『働き方改革』である。
現代のほうの効果のほどはともかくとして、彼の改革は大成功を収めていた。
増収増益っ……!
まず彼は、ヘルロウの堕天にかこつけて、ヘルロウ派であった従業員たちを閑職に追いやり、反ヘルロウ派の者たちで組織を固める。
そして建築の際には、利益率の高い、高価なブランド石材をフルに使って、高額の建築費をせしめた。
その金を神々にお布施としておさめ、魔法を授けてもらう。
そして建築作業を、職人たちによる手作りではなく、魔法を使った効率的かつ安価な方法へと変えてしまったのだ。
おかげで売り上げは上昇し、コストは削減……!
新しい企業理念は内部には不評であったが、外部にはウケて、次々と仕事が舞い込み……!
『ノーヘルロック神殿建築ギルド』は、再び世界一の座へと、返り咲いたのだ……!
……しかし、もう説明は不要であろう。
栄華のあとには、必ず転落が待っていることに……。
これもあくまで、壮大なる『前フリ』にすぎないことに……!
『ヘルロウイズム』を捨ててしまった者たちに……。
未来など、ありはしないことに……!
……さて、そろそろ話を現在へと戻そう。
場所はもちろん、地上にある『ノーヘルロック神殿建築ギルド』
社屋と資材置き場を兼ねた、巨大な倉庫の一角に、全従業員が集められていた。
朝礼台がわりの木箱の上にいたのは、バーコードハゲにチョビヒゲに小太り、成金スーツの中年男であった。
見るからに、このギルドの総責任者っぽい彼は、大きく咳払いをひとつ。
勿体つけるようにためを作った後、従業員たちに向かって、でかい地声を張り上げた。
「うぉっほん! ……いつもより二時間早く出社して、諸君らに集まってもらったのは、大切なお知らせがあるからじゃ!」
ちなみに『働き方改革』で、従業員は定時より一時間早く出社するように義務づけられている。
なので、今日は従業員たちは三時間早く出社していることになる。
しかも腹立たしいことに、このハゲ社長が来たのは昼過ぎであった。




