26 石積み
ヘルロウは岩の上に立って、高みから亡者たちを見下ろしながら、説明をはじめた。
よし、じゃあいよいよ『石積み』をはじめるぞ。
お前たち亡者はかつて、三途の川に架けるための石橋を創ったことがあったよな。
『石積み』は、あれが垂直になったものと考えるといい。
石垣の場合は、形の揃ってない石を組み合わせて積む方法もあるんだが、せっかくだから石橋に近い形で創ることにしよう。
時間はかかってしまうものの、そのほうがいろいろとメリットがあるからな。
これから、村にある掘割をぐるっと囲むように石を積んでいくわけだが、とりあえず最初の一角だけは俺が指示する。
あとは教えたやり方に従って、作業を進めてくれ。
まず、石を選別して、平均の大きさとなる石を決めるんだ。
これを『インデックスストーン』という。
そのあとは、その『インデックスストーン』に揃うように石を加工して、積石を量産する。
誤差がわずかな石であれば、加工せずに、そのまま使ってもかまわない。
またいくつかの石を組み合わせて『インデックスストーン』と同じ大きさにしてもかまわない。
さぁ、やってみろ。
号令一下、作業を開始する亡者たち。
ふと、ゴルバがヘルロウの元にやってきた。
「ヘルロウ様、ひとつお伺いしたき議があるでござる」
「なんだ?」
「拙者がヘルロウ様のご命令で、石を積み上げた家を創ったときは、石を加工などせず、そのまま積み上げただけでござった。今回は石を加工しているでござる。それは、なにゆえでござるか?」
「ああ、お前に頼んだ時は、形の違う石をパズルのように組み合わせる『乱積み』というやり方だったんだ。『乱積み』のほうが簡単にできるから、あの時はそうしたんだ。今回は村を守る外壁になるから、『乱積み』は適さないんだ。なぜだかわかるか?」
「……防御力の違いでござるか?」
「そうだ。形が異なると、それだけ部位による強弱の差が出てくる。そして隙間もできやすくなるから、外から侵入してくる敵にとっての足がかりとなり、よじ登りやすくなってしまうんだ。その点、加工して形を揃えていれば、強弱のムラがなくなる。隙間もなくなるから、外からは登りにくくなるだろう?」
「な、なるほど……! 城攻めをさせぬための配慮とは……!」
武士を気取るゴルバにとっては、ヘルロウの判断はいたく感じ入ったようだった。
そうこうしているうちに、石の加工が終わる。
ヘルロウはそれらの石を、順に積むように指示した。
亡者たちは、大きさのバランスを考えて積もうとしていたのだが、
「待て、石の大きさはすでに揃えているから、ここでまた石の大きさを考慮するのは効率的じゃない。大きさで悩むよりも、石の適正を見抜いて、配置するんだ」
好奇心旺盛なピンキーとダーツエヴァーが、「「石のてきせー?」」と姉妹のように声を揃えた。
「ああ、石は一見同じように見えるが、どこに積むといちばんいいのかは石によって違うんだ」
「それって、どうやって見分けるの?」
「うーん、こればっかり見た目じゃなくて、触った感触とか叩いた感触とかによっても違うから、一概には……。ようは石と触れ合って、『石の声』を聴いてやるんだ」
「えばーっ!? 石さんって、しゃべるのだ!?」
「ああ。言葉にはならないが、声はしっかりと上げているんだ。石だけじゃない、この世界にあるものすべてが、言葉にならない声をあげている。クラフトの素材選別においては、その声を聞き取れるようにならなくちゃならないんだ」
「ふぅ、それは精神論ですね。創造に携わる者……。たとえば創造天使などであれば、素材のステータスを視る天技を持っています」
「ミヅル、よく知ってるな。だが天技で得られるのは、素材のうわべだけの情報だ」
ヘルロウは、急に熱く語り出す。
心の地雷を、踏み抜かれてしまったように。
人間の世界を例にするなら、『身上書』を見ているようなものだな。
身上書に書いてあるのは、そのものがいつ、誰の元で生まれて、どんな学校を出て、どんな資格を得て、どんな仕事に就いていたか……。
わかるのは、そんな程度のこと……。
いわば、外見プラスアルファでしかない。
身上書では、そのものの内面までは読み取ることができないんだ。
今までどんな経験をしたのか、という所まではわかる。
しかしその経験でなにを感じ、どんなことを学び、これからなにをしていきたいのか……。
そんなのは、一切わからない。
身上書には、そんなものは必要がない、といったほうが正しいかな。
そのものを『部品』として使うだけなら……。
『少々動きが渋くても、動く歯車』として使うだけなら、それでじゅうぶんだからだ。
お前たち鬼や亡者に対して、なにも考えずに仕事をあてがっても、それなりの成果はあげられる。
しかし本当は、お前たちには『適正』というものがあるはずだ。
アローガに、弓矢の適正があったのがいい例だな。
俺はその『適正』を見抜いたからこそ、アローガを『狩猟班』の班長に任命した。
そのおかげで、狩猟の成果は上々だ。
他の鬼に任せていたら、こうはいかなかっただろう。
鬼にそういう違いがあるように、石にも違いがあるんだ。
いちばん下で、他の石を支えるのが、得意な石……。
まんなかで、上と下の石を繋ぎ合わせるのが、得意な石……。
いちばん上で、下の石たちのバランスを取るのが、得意な石……。
俺は石たちを、いちばん得意な場所に導いてやりたいんだ。
石たちと触れ合い、肌で感じ、心を通わせ合って……。
『ガッチリと噛み合った歯車』として、最大限のパワーを発揮させ……。
石たちを、輝かせてやりたいんだ……!
……やりたいんだ……!
…………たいんだ……!
………………んだ……!
……コホン、ちょっと話が長くなっちまったな。
と、とにかくそういうわけだから、お前らもそのつもりでやれ!
『石の声』が聴けるようになるまで、みっちり教えてやるからなっ!
次回、ヘルロウ包囲網における、最後のパーツが登場します!




