22 矯正施設
ところ変わって、天国の『入国管理センター』。
ここでは、天国に新たにやって来た者を審査するための施設である。
同センターは、災害や戦争のあとが繁忙期となる。
しかし最近は大きな災害や戦争はなかったというのに、職員たちは忙殺されっぱなしであった。
……その理由は、すでにご存じであろう。
そう、地獄の賽の河原にいた子供たちが、一切合切……。
ヘルロウの手によって、送りつけられていたから……!
この時ばかりは、彼らも完全にオーバーフロー。
落ちものパズルゲームの対戦でいえば、完全にオーバーキル状態。
入国管理センターは多くの死者を扱うことがあるので、施設はかなり広大に作られている。
普段はどれだけ多くの者が訪れても、大丈夫な設備と体制が整えられているのだが……。
大挙として押し寄せた子供たちは、施設に収まることがなかった。
行列は施設外に飛び出すどころか、街中まで席巻する始末。
入国審査カウンターでは、休みの者まで駆り出されて、職員総出で対応せざるを得なかった。
連日、24時間休まずに対応しても、行列は無限ループしているかのように終わりがなかった。
なんと、ヘルロウが賽の河原で子供たちを送り出してから……。
今の今までずっと、子供たちは行列をなしていたのだ……!
子供たちからは特に不満はあがらなかった。
なにせ、賽の河原で永遠ともいえる時間、石を積み続けてきたのだから。
それに比べたら行列での待ち時間など、たとえ何年かかったところで、彼らにとってはまさに天国であったのだ。
しかしそれも、ようやく終わりを告げる。
げっそりとやつれた入国審査カウンターの職員が、
「次の方、どうぞ」
と力なく手招きすると……。
最後のひとりとなった少女が、元気いっぱいに走り寄ってくる。
「はいっ! 私の名前はドロエといいます!」
ドロエは供養塔のキャップストーンを置く役割を果たしていたので、誰よりも先に天国に召されていたのだが……。
どんくさい彼女は、後続の子供たちにあれよあれよという間に抜かされてしまい、列のいちばん最後になっていたのだ。
しかしドロエはそんなことは慣れっこだったので、ぜんぜん気にしていない。
希望に満ちた瞳をキラキラと輝かせながら、自己紹介を続ける。
「私は天使学校に入学して、天使になりたいです! そして、ヘルロウ君みたいに……!」
職員は面倒くさそうにパタパタと手を振って、少女の言葉を打ち切った。
「あーはいはい。もういいですから、右側の通路に進んで」
「はいっ、ありがとうございます!」
自分の前にいた子供たちもみな右側に進んでいたので、またみんなと一緒になれると、ドロエは喜び勇んでパタパタと駆けていく
入国を許可された場合、入国審査カウンターの後ろにあるふたつの通路から、天国に入国することとなる。
左側の通路を進むと、入国管理センターから出て、天国の街へと繰り出すことができる。
いわば、そのまま天国に解き放っても、『問題なし』と判断された者である。
しかし、右側はその逆。
『問題あり』と判断された者の行先である。
通路は『矯正施設』と呼ばれる建物に繋がっており、そこで天国で暮すにふさわしい性格となるように、再教育を施されるのだ。
ちなみにではあるが、エンマ大王の裁きで送られてくる者に関しては、その審査も併せて行なわれている。
なのでほとんどのケースの場合は、入国審査カウンターでは審査の必要はない。
例外となるのは、エンマ大王の裁きを経由していない、特殊なケースで天国に送られてきた者である。
たとえば、シャカの力によって、地獄から『救済』された亡者や、天使たちが遊び半分で地獄に糸を垂らして、それを這い上ってきた者などである。
今回は『供養塔の完成』という、前代未聞のケースであった。
そのため、最初のうちは厳正なる審査が行なわれていたのだが……。
職員たちは途中で、考えることをやめてしまった。
なにせ、子供たちはみな洗脳されてしまったかのように、同じことしか言わないのだ。
「僕は、ヘルロウみたいに……!」
「ヘルロウみたいに凄い……!」
「ヘルロウみたいに、みんなを助ける……!」
「目標とするのは、ヘルロウ……!」
「ヘルロウ……!」
「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」
「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」
「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」 「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」
「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」 「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」
「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」 「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」「ヘルロウ」
「もう、ええっちゅーーーねん!!」
などと半狂乱になって叫びだしてしまう職員がいたとしても、無理はなかろう。
「ヘルロウ」はいまこの天国では、もっともホットなNGワードとされている。
ディスるならともかく、少しでもリスペクトしようものなら、一発レッドカード。
即、『矯正施設』行き……!
しかしこれは、問題を少し先送りにしただけに過ぎなかった。
なにせ賽の河原の子供たちを、みんな矯正施設送りにしてしまったせいで……。
今度は矯正施設のほうが、パンク状態に陥ってしまったのだ……!
莫大なる不良債権を押しつけられてしまったかのように、矯正施設の職員たちは、頭を抱えていた。
「いままでは一度にやって来るにしても、せいぜい数百人くらいだったのに……」
「な……何万人いるんだ!?」
「数える気も起きねぇよ! もう施設内はどこもかしこも、ガキでいっぱいだ!」
そこに、彼らの上司である局長が戻ってきた。
局長室までもを子供たちに占拠されているという有様に、彼が下した判断は……。
私が参加していた『集会』でも、ヘルロウのことが問題になっていました。
そこで『情操教育』の場が設けられることになったのですが、ちょうどいい。
その『情操教育』に、この子供たちも参加させましょう。
そうすれば、一気に清らかな思想を上書きすることができ……。
この施設で、ひとりひとり子供たちを矯正する手間が省けます。
かなりの人数増となってしまいますが、『情操教育』の施術は大規模であればあるほど、植え付けられる意識は強固なものとなるという、スケールメリットがあります。
そのため、かえって喜んでくださることでしょう。
『情操教育』の主催者である、あの方も……!




