21 委員長の決断
「オーベルジーヌ先生……。私がいない間になにがあったのか、説明していただけますか?」
委員長から問い詰められるオーベルジーヌ。
相手は委員長とはいえ、一介の生徒。
かたやオーベルジーヌは、この学校の風紀を司る、ベテラン教師だというのに……。
ナスビのような顔を、お盆に串刺しにされた精霊馬のように歪めていた。
そして、開口一番、
「めっ……メタトロン君! アテクシは何も悪くないザマス! 悪いのはフローズさんにフレイルさん……! いいえ、なにもかもヘルロウが悪いんざます!」
メタトロンと呼ばれた少年は、いつもうっすらとした後光をまとっている。
彼の表情は菩薩のように穏やかであったが、その光だけが取調室のデスクライトのように、
……カッ!
と目も眩むような輝きで、女教師に向けられた。
「ううっ!?」と怯んでしまうオーベルジーヌ。
メタトロンの声は、頭の中に直接響いているかのようであった。
……オーベルジーヌ先生。
あなたはかつて、百貨店で下着を購入しましたよね。
すでに天国では禁忌とされている、『悪魔のブラ』を。
そしてそれを店員に頼んで、ある住所に送らせましたよね。
ユズリハ先生の、家に……。
オーベルジーヌ先生の自宅に配送しては、百貨店の配達記録で足がついてしまうことがある……。
だからそれを防ぐために、ユズリハ先生を利用した……。
配送日の当日、オーベルジーヌ先生は、ユズリハ先生の家に張り込んで……。
荷物を受け取った瞬間を、押えたのでしょう。
ユズリハ先生が受け取った荷物を無理やり開けさせて、中から出てきた『悪魔ブラ』で、ユズリハ先生を脅迫する……。
それに『悪魔のブラ』は自分が処分するといって奪ってしまえば……。
『悪魔のブラ』を安全に手に入れられたうえに……。
いざとなったら、自分が犯した罪を、すべてユズリハ先生になすりつけることができる……。
現にあなたは、『美魔天使コンテスト』で『悪魔のブラ』の着用がバレてしまった時……。
ユズリハ先生に脅迫されて、無理やり着けさせられたものだと供述しましたよね。
ユズリハ先生は、もちろん否定していましたが……。
その時に、私が口添えしてさしあげたので、オーベルジーヌ先生は無罪放免となった……。
でも、勘違いしないでください。
私はオーベルジーヌ先生を、助けようとしたわけではありません。
このクラスを劣等たらしめていた、ヘルロウに続き……。
ユズリハ先生をも、追放するためだったのです。
……この意味が、わかりますか?
私が、この事実を公表すれば……。
オーベルジーヌ先生が、どうなってしまうのか……。
「もっ……もちろんザマスっ! だっ、だからこうして、このクラスの担任も引き受けたんザマスっ!」
そこまでわかっているのであれば……。
私に対して『言い訳』が無意味であることも、わかっているでしょう?
私がオーベルジーヌ先生に求めているのは、『誰が悪いのか』ではありません。
『還りの会』と同じで、『純然たる事実』です。
『誰が悪いのか』を判断するのは……。
委員長である、私の責務です。
オーベルジーヌは脂汗をしとどに垂らしながら、しどろもどろに説明をはじめた。
クラスが崩壊に至るまでの、その一部始終を。
フローズは、クラスの『美観』をひとりで背負ったプレッシャーで、心労がたたって入院中。
フレイルは、フローズが入院したあとも、例の髪切りイジメを続けていた。
フローズがいなくなったことをいいことに、今度はギャルグループではない女子にまで魔の手を伸ばしていた。
当初の目的である『美観の回復』ではなくなり、フレイルは完全にウサ晴らしのために、女子たちの髪の毛を切っていたのだ。
フレイルの手にしていたハサミが、バリカンに変わるまで、そう時間はかからなかった。
それが、ダメ押しとなる。
クラスでは大人しい文学女子が、坊主にされてしまったショックで不登校に。
さらにフレイルの取り巻きたちまでもが坊主にされてしまい、ついに……!
「うちらは一生懸命フレイルに尽くしてきたのに、フレイルはぜんぜんうちらのことをわかってくれない! それに、この仕打ち……! うちはもう、外を歩けねぇよっ! もう我慢できねぇっ! お前も同じようにしてやるよっ!!」
蜂起した取り巻きのひとりが、フレイルからバリカンを奪い取り……!
……ジャキィィィィーーーーーーンッ!!
赤い巻き毛を、バッサリと……!
「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ! あーしの命の次に大切な髪に、なにしてくれてんだよっ!? あーしのサルマネしかできねぇ雑魚のクセして、調子乗ってんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」
激昂したフレイルは、最悪の行動に出る。
ポケットから取り出したハサミで……。
……グサァァァァァーーーーーーッツ!!
天使中学始まって以来の、刃傷沙汰を引き起こしてしまったのだ……!
すべてを聞きおえたメタトロンは、表情ひとつ変えずに頷いた。
そしてまたの声を、響かせる。
……わかりました。
オーベルジーヌ先生への処分は、いったん保留としましょう。
それよりも、このクラスを建て直すことが先決です。
私が想像していた以上に、ヘルロウの爪痕は大きいようですね。
となれば、このクラスには、もう一度……。
『情操教育』を施す必要があるでしょう。
先日、私が参加していた『集会』においても……。
ヘルロウが要因による、『情操教育』の場が設けられることに決定いたしました。
ちょうどよいので、一緒に教育することにしましょう。
施術は大規模であればあるほど、植え付けられる意識は強固なものとなりますから。




