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ヘル・クラフト  作者: 佐藤謙羊
第2章
81/109

15 綻び4

 ヘルロウがかつて所属していた『天使中学』。

 そこには、人間の学校以上の『スクールカースト』があった。


 ヘルロウは落ちこぼれだったので、カーストでは最下位。

 本来ならばイジメられてもおかしくはなかったのだが、得意のクラフトで独自の存在感をアピールしていたのと、担任のユズリハ先生のおかげで奔放な学園生活を送ることができていた。


 クラスには派閥というものもあったのだが、ヘルロウはそのどれにも属していなかった。


 男子は複数の派閥が跳梁跋扈していたのだが、女子については、主にふたりの手によってまとめられていた。


 ひとりはギャルグループのリーダー、『フレイル』。

 赤毛の巻き毛ロングで、着崩した制服から南国の踊り子のような肌を見せつける、カリスマギャルである。


 もうひとりは才女グループのリーダー、『フローズ』。

 青い毛のストレートロングで、折り目正しい制服から、雪のような肌を覗かせる、クールビューティーである。


 フレイルは『美の天使』である。


 『美の天使』というのは、クラフトや天候を操るなどの能力はない。

 自分自身に磨きをかけ、その美しさで奇跡の体現者となるのだ。


 特に美しき者ともなれば芸術家のイマジネーションを刺激し、絵画や彫像となる。

 それが地上に広まることにより、信心が集まるというわけである。


 フレイルはその前段階として『モデル天使』を目指していた。

 芸術品には及ばなくても、カリスマモデルとして新聞などに取り上げられればじゅうぶんな功績となるからだ。


 かたや『フローズ』は『学問の天使』。


 これは人間や天使を教育する立場であり、学業でいい成績を残すことのみならず、知的で品行方正な振る舞いを求められる。


 簡単にいうとガリ勉優等生であり、フローズ自身はコミュニケーション能力に長けたタイプではない。

 むしろ『氷の女王』などと陰口をたたかれるほどに、他者を遠ざけるような態度ばかり取っていた。


 しかし幾つもの算術大会や弁論大会で入賞した実績を持っていたため、自然とリーダーのような扱いを受けていた。


 このふたりには、過去に因縁があった。

 フレイルのギャルグループが、クラスの大人しい文学少女をパシリにしているのを、フローズが止めたのだ。



「この子の時間を奪わないであげて。この子はその間にも、一冊でも多く本を読んでいたいの。あなたたちの買い物なんかよりも、よっぽど天国のためになる本をね。あなたたちのようなくだらない天使が本を読まないから、かわりにこの子が読んであげているといってもいいわ。そこのところ、わかってる?」



 このことがフレイルの耳に入り、両者の対立が始まる。

 クラスの覇権をめぐって、事あるごとに衝突していたのだ。


 その実力は拮抗していたのだが、ある出来事を境に、僅かずつではあるが、差が開きはじめる。


 それは、委員長のこの一言から始まった。



「最近、我がクラスの『美観』の成績が損なわれています。このクラスの美観は、かつてこのクラスにいた悪魔によって著しく貶められていました。しかしみなさんが美しくあったおかげで、全校でもトップの成績を保っていました」



 『美観』というのは、天使に求められる要素のひとつ。

 服装や立ち振る舞いなどが『美しい』かどうかである。


 これは校則に則っているか、とは別の要素とされており、『天使としての美しさ』で判断される。

 フレイルは制服を着崩しているが、トータルバランスが取れていれば『美しい』とみなされるのである。


 なんだか曖昧な要素であるが、簡単にいえば、肩にホコリひとつ付いているだけで『美しくない』とされてしまうのだ。



「悪魔がいなくなった以上、このクラスの美観は全校どころか、全天国でもトップに立たなければおかしいはずです。しかし最近はじょじょに落ちつつあり、今では平均クラスです。どうやら、みなさんに心の緩みが生じているようですね。特に、フレイルさん」



 委員長から名指しされ、「ハアッ!?」と眉を吊り上げるフレイル。



「このクラスの美観は、私とフレイルさんとフローズさんによって牽引されてきました。私は言うに及ばず、フローズさんも完璧な美しさを保っています。ですがフレイルさん、今のあなたには以前の美しさがないようです」



 フレイルはすかさず言い返そうとしたが、



「今もあなたの右肩に、0.5ミリほどのホコリが乗っていますね。以前はこんなことはなかったのに」



 ズバリ指摘され、真っ赤な顔で肩を払っていた。

 不意に、教員席にいたオーベルジーヌが口を挟んでくる。



「『美魔天使コンテスト』でグランプリを獲ったアテクシのクラスが、『美観』で劣るなど、絶対にあってはならないことザマス! フレイルさん、なにをたるんでいるザマスか!? あなたは『美の天使』なのでしょう!? 少しはフローズさんを見習って、美しくなるザマス! もちろん、他の生徒たちも!」



 フレイルはクッ! と唇を噛みながら、一番前の席にいるフローズを睨みつける。


 しかしフローズは一瞥すら返さない。

 喜ぶことも誇ることもせず、氷像のようにすました表情のまま、ただじっと前を向いていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 その日の放課後、フレイルは自分の取り巻きたちを呼び集めた。



「ねぇみんな、あーしってさぁ、そんなに以前と変わった?」



 フレイルのフォロワーのような格好のギャルたちは、ブルブルと音がするくらいに首を左右に振った。



「ううん、フレイルはずっとイケてるって!」



「そーそー! 『美観』の成績が下がったのは、何かの間違いだって!」



「フレイルは今のままでいいし! フローズのマネなんかしたら、ダサくなっちゃうし!」



 フォロワーたちは懸命によいしょしたが、フレイルはフンと鼻を鳴らした。



「そんなのわかってるって。あーしがなんにも悪くないのは。悪いのアンタたちなんだって」



 「はっ?」と声を揃える量産ギャルたちに向かって、さらに続ける。



「考えてみたんたけどさぁ、アンタら最近、あーしが髪切ったりしても何も言ってくれなくなったよね? 以前は1ミリでも切ったら、似合ってるって言ってくれてたのに」



「……そ、そだっけ?」



「あーしってさぁ、モデル体質じゃん? だからさぁ、いつも輝いた目で見られてなくちゃダメなんだよね。アンタらがそんな態度だから、あーしがこんなになったの、理解できてる?」



「ご、ごめん、フレイル! 今度からちゃんと言うようにするよ!」



「もしかして、あーしに興味なくなっちゃった?」



「う、ううん! そんなことない! フレイルってば、いつも最高にイケてるから、言うまでもないと思って!」



 するとフレイルはそのギャルの前に立ち上はだかる。

 軽い握り拳をつくって、ギャルの額をノックするように小突いた。



「コンコン、入ってますか~? あんまり入ってないみたいだけど、教えてあげる~。思っただけじゃダメなんですよぉ~。どんな思いも、言葉にしなきゃ伝わらないんですよぉ~? だからカレシもできないの、わかりましたかぁ~?」



「うぐっ……! わ、わかった、わかったよ……!」



 潤んだ瞳を隠すように、ギャルはうつむいてしまう。

 まわりの取り巻き達は、巻き込まれてはたまらないと目をそらしてしまった。


 ……彼女たちはなぜ、フレイルが髪を切ったことを、褒めなくなってしまったのか……?


 理由は単純であった。


 それは、気付かないから……!


 もちろん大きなイメチェンなどはもちろん気付いていたが、1ミリなど目の錯覚レベル。。

 それをいちいち察知するなど、変態の領域である。


 ……それでは彼女たちは、今までどうやってフレイルが髪を切ったことを察していたのか……?


 その理由も単純であった。


 ついこのあいだ堕天した、今ではギャルたちからは悪魔やら変態やらと呼ばれている、かつてクラスにいた男子生徒が、



「おっ、フレイル、髪を切ったのか。あと、肩にホコリついてるぞ」



 などと、声をかけていたから……!


 その変態悪魔的には褒めているわけでもなく、ただ単純に見たままを指摘しているだけであった。

 指摘されたフレイルも、「はぁ、アンタには関係ねーし」とにべもなかったのだが……。


 ふたりのやりとりに聞き耳を立てていたフォロワーたちにとっては、ご機嫌取りのための、貴重な情報源となっていたのだ……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘルロウはよくそんな小さな変化気づきましたね・・・すごいな まあその天使は外見綺麗でも中身がアレですが() [気になる点] この学校掃除のときはどうしてるんでしょう 掃除すれば埃や汚れが付…
[良い点] フレイル クズギャル天使ですか! さっそく亀裂がおきてるようで!(ニヤリ) 野良犬や 空気の読めない古代魔法とは違う 悪い子のようですかな! マイナスのヘルロウがいてトップだったのに 平均…
[良い点] 微細なホコリ1つで美観が減点される……本当に天使中学のヒエラルキーは世知辛い:-) しかし学問の天使の指摘通り、外見の美しさだけの天使ってどうでもイイ能無しに見えますね(笑) [気になる…
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