14 熱視線
「なんだ、アローガはピンキーやミズルとお揃いの水着が良かったのか。ならウサギをたくさん狩って毛皮を手に入れてくるんだな。そうすれば、ピンキーやミズルの水着もウサギの毛皮になって、お揃いにできるぞ」
ヘルロウはそうやって、アローガをなぐさめるついでにやる気を出させようとしていた。
しかしそれは火に油どころか、ニトロを注ぐような愚行であった。
「うっ……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!!!」
とうとうアローガは爆発したように泣き叫んだ。
崩れ落ちるばかりか、地面を転げ回り、全身でイヤイヤを始めてしまった。
「な、何が気に入らないっていうんだよ……!? いったい、どうすりゃいいんだ!?」
ヘルロウは大きな駄々っ子を前に、新人パパのように困惑しきり。
ピンキーは、子育てをしてこなかった夫を見る妻のように、ジト目であった。
「……ずっと思ってたんだけど、ヘルロウ君って、どっかおかしいよね」
「な、なんだよそれっ!?」
「私への初プレゼントも水着だったし、しかもサイズがピッタリだったし」
「それのどこがいけないんだよ!?」
すると、他の鬼たちも話に加わってきた。
「そういえば、小生のパンツもシンデレラフィットでした。特に股間のあたりが」
「だからそれのどこがダメなんだって!?」
「だーっ!? そんなこともわからないだなんて、ヘルロウはへっぽこなのだ!」
「ダーツエヴァーまで、俺がおかしいっていうのか!?」
「そういえば……! 最近ヘルロウ様の視線を感じるでござる! 特に股間のあたりに……!」
「股間って、見ちゃいけないものなのかよ!? 普通、他人の股間がどうなってるか、気になるもんだろう!?」
鬼たちはずっと感じていた。
ヘルロウの倫理観が、かなり独特であることを。
しかし、まさかここまでとは……!
鬼たちは処置無しとばかりに、「あちゃあ……」と手で顔を覆ってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
アローガの機嫌が直るまでは、それから数日を要した。
ヘルロウは、なるべくアローガの身体を見ないようにするという、見当違いの対応をして、さらに鬼たちを呆れさせたりもしたが……。
なんにしても、ヘルロウはようやくアローガと口をきいてもらえるようになった。
鬼たちが勢揃いするなかで、ヘルロウはアローガと向き合うと、改まった態度で切り出した。
「いろいろ悪かったな、アローガ。これからは亡者だけでなく、お前たち鬼の気持ちも理解できるよう、努力するよ」
「もういいんどすえ。うちもつい取り乱してしまって、はしたない姿をお見せしてしまったんどすから」
「そうか。じゃあ仲直りってことで、さっそく頼まれてくれるか? お前に、『狩猟班』の班長になってほしいんだ」
「『狩猟班』、どすか……?」
「ああ。今この村は、『農耕班』『漁猟班』『家事班』『拡張班』の4つの班に分かれて仕事をしてるよな。そこに新たに、肉や毛皮を手に入れるための『狩猟班』を作りたいんだ」
「この前したように、ウサギを狩るんどすな」
「その通りだ。お前はこの村いちばんの弓使いだし、それに矢は木の武器だから、お前の獄技を使えばいくらでも出せる。これ以上ないくらいの適任なんだ、やってくれるか?」
「もちろん。ヘルロウ様の頼みなら、断るいわれはあらしまへん。でも、うちからもお願いがあるんどす」
「なんだ?」
「うちのことを、もっと見てほしいんどす」
「へっ? 見ちゃダメなんじゃなかったのかよ?」
「そんなことはあらしまへん。うちのことを、もっといっぱい、それこそ四六時中、ジロジロ見てほしいんどす」
「なんだかよくわからんが、見ていいんだったらそうするよ。実は鬼の身体にはずっと興味があって、どんな風になってるのか気になってしょうがなかったんだ。それじゃ、さっそく……って、いててててててて! なにすんだよ、ピンキーっ!?」
「なに胸に顔を近づけて凝視してるの!? いやらしい!」
「本人がいいって言ったんだぞ!?」
「見ていいからって、そこまで見ていいわけないでしょ! それに最近のヘルロウ君って、失礼だわ! 私のこともぜんぜん見てくれないんだもん!」
「そういえば、小生への熱視線も、最近では激減していますね」
「拙者も、主に目をかけてもらえいないようで、寂しいでござる!」
「だーっ! ヘルロウは、わたしたちのことをもっとよく見るのだ!」
「お前ら、この前と言ってることが全然違うじゃねーか!? 人のことへっぽこだとか言っといて!」
「ずっと見られてきてたのに、急に見てもらえなくなっちゃったから、なんとなく嫌になって……」
「はあっ!? なんだよそれっ!?」
「と……とにかく! これからヘルロウ君は、そこそこ私たち鬼を見ること! でも、あんまり見ちゃダメだからね!? わかった!?」
ピンキーがぴしゃりと言いつけると、鬼たちは一斉に「さんせーい!」と手を挙げた。
「いったいぜんたい、どいうことなんだよっ!?」
ヘルロウは混乱した。
『見てもいいけど、見てはダメ』などと言われたたことなど、これまでになかったことだからだ。
どんな難題に直面しても余裕だったはずの少年が、習ったことのない計算問題を解かされているかのように、頭をかきむしる。
テストの最中、まわりがカリカリとペンを走らせるなか、ひとりだけ取り残されたように頭を抱えるヘルロウ。
しかしこれは、彼だけの問題ではなかった。
鬼たちの、そして『ヘルロウ村』だけの問題でもなかった。
なんと……!
この問題は、彼が想像すらしなかった場所にも、影響を及ぼしていたのだ……!
じわじわ、じわじわと……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「そういえばさぁ、このまえ堕天したヘルロウって、あたしのことジロジロ見ててキモかったんだよね。もしかしてあたしに気があったのかね? まぁあんな落ちこぼれ、土下座されたってお断りだけどね」
「そりゃ、アンタだけじゃないし。あいつ、みんなことジロジロ見てたし」
「うわぁ、キモっ。堕天してせいせいしたし」
「って、ちょっとぉ! あたしの肩にホコリが付いてるっしょ!?」
「それがどうしたん?」
「ホコリが付いてると、『美観』で減点だって知ってるっしょ!? なんで教えてくれなかったっしょ!?」
「知るかよそんなの。そんなのわざわざ教えるのって、あの変態のヘルロウくらいのもんだし」
「あいつ、自分はひどい格好でクラスの『美観』をひとりで落としてたクセに、人のホコリとかには目ざとかったよね」
「そーそー! あいつ、あたしが1センチ髪切ったのにも気付いてたし! カレシですら気付かなかったのに!」
「うわぁ、マジキモい! やっぱあんなヤツ、堕天させて正解だったし!」
次回から、プチ天国ざまぁです。




