13 初めての狩り
ゴルバの操縦するリアカヤックに乗って、ヘルロウ一行が向かった先は……。
以前、葛を植えた草原。
その数百メートル手前であった。
「よし、ここからは歩いて葛のところまで行くぞ」
「えっ? ここで降りちゃうの? 近くまで乗っていけばいいのに」
「リアカヤックで近づくと、音で気付かれるからな」
「気付かれる……?」
ヘルロウは、まだ事態を飲み込めていない鬼たちを引きつれて歩きだす。
なるべく岩陰を選んで、そこに隠れるようにしてコソコソと進んだ。
そして葛草原が遠くに見えてきたところで、足を止める。
「ここからなら見えるだろう? 草の中に、白いのがいるのが」
ヘルロウにそう言われて、鬼たちは目を細めて草原を凝視する。
「あっ、ほんとなのだ! 白くてモコモコしたのがいるのだ!」
「あれは地獄に生息しているといわれる『ジゴクケダマ』だ」
「わぁ、地獄って、あんな生き物もいるんだ……!?」
「拙者も、初めて見たでござる!」
「三途の渡しから地獄門までは亡者の通り道で、荒野が広がってるから、生き物の姿はほとんどない。でもそこから外れると、生き物がいるんだ。あのジゴクケダマは、あそこに見える山から来てるんだろうな」
ヘルロウは草原ごしに見える、蜃気楼のような遠くの山を指さした。
「あんな遠くから、どうしてわざわざこんな所にまで来ているんどすか?」
「それは葛の葉だよ。馬やウサギ、そしてケダマは葛の葉を好んで食べるからな。でも、この地獄に葛の葉なんて今まで無かったから、ヤツらにとってはさぞやごちそうだろうな」
「ふっ、サツマイモを初めて食べた私たちのようですね」
「そんなところだな。そして葛の葉には虫が付いているから、今度はその虫を食べに他の動物も集まってくるだろう。鳥がいれば矢羽根が獲れて良かったんだが、今はいないみたいだな」
「獲れて、って……。ヘルロウ君、もしかして弓矢を創ったのは……」
「アイツらを狩るために決まってるだろう。ケダマの肉はたんぱく質やビタミンが豊富に含まれてるんだ。あと少しではあるが、『脂質』も得ることができる」
タンパク質: 魚、ケダマ
炭水化物:サツマイモ
脂質:魚、ケダマ
ミネラル:魚
ビタミン:芋の蔓、ケダマ
「ケダマの肉はなかなかイケるぞ。それに毛皮が手に入るから、衣類も創ることができるようになる。地獄では上位の鬼だけに許された、あったかい毛皮が着られるようになるんだ」
「肉……」と喉を鳴らすオス鬼陣。
「毛皮……」と目を輝かせるメス鬼陣。
しかし、ちびっこ鬼だけは、
「だーっ!? あんなにふわふわモコモコしてて、かわいいものに矢を射るだなんて……! やめるのだっ! 絶対にダメなのだーっ!」
しかし、ふと振り返ったウサギの顔面が、ゴルバ以上のコワモテだったので……。
一瞬にして手のひらクルリ。
「だーっ!? なんて気持ち悪い顔なのだっ!? あんな気持ち悪い顔の生き物は大嫌いなのだ! いますぐ撃ち殺すのだーっ!」
ともかく全員の賛同が得られたということで、みなを代表してアローガが狩りを行なう。
ヘルロウに教えられたとおり、身を低くして射程内まで近づき、しゃがんで弓を構えていた。
そして、
……ストォーーーーーンッ!!
正鵠、ふたたびっ……!
ケダマは警戒心が強い動物なので、いちど撃つと蜘蛛の子を散らすように、飛び跳ねながら逃げていく。
そのため獲物を回収したあとはしばらく身を潜め、再び集まってくるのを待って、さらに射るというのを繰り返した。
矢でケダマを仕留めるのはかなり難易度が高い。
ヘルロウは収穫ナシも覚悟していたのだが、アローガ無双によって、蓋を開けてみれば……。
合計5匹ものケダマを、ゲット……!
【ケダマの肉】 食料レベル:2
高タンパク低脂肪の肉。
ビタミンも豊富に含まれている。
【ケダマの毛皮】 素材レベル:1
毛脚が長く、やわらかい手触りの毛皮。
ケダマの肉は串焼きにされ、亡者たちに振る舞われた。
100人で分けると試食レベルだったのだが、それでも肉は大好評。
たったのひと口で、またしても失神者が続出する事態にあいなった。
そして毛皮のほうは、ヘルロウに託される。
もちろんそれは『クラフト』されたのだが、できあがったものはというと……。
【ケダマファー・ビキニ】 道具レベル:3
ケダマの毛皮を使って創られた、上下セットの女性用ビキニ。
「ほら、これをやろう。お前のビキニもだいぶくたびれていたみたいだからな」
ふわふわのビキニを手渡されたアローガは、まるでサプライズで、指に結婚指輪をはめられたかのようであった。
「う、うちが……うちがヘルロウ様から、こんないいもの頂けるやなんて……! ゆ、夢じゃ、夢じゃないんどすか?」
「ああ、今回はお前が大活躍したからご褒美だ。ありがとうな。これからもその調子で頼むぞ」
とうとう、長年のプロポーズを受けたかのように泣き出してしまうアローガ。
「うっ……! うち、生きてきてこんなに嬉しいことは、初めてどす……!」
仲間の鬼たちの反応は様々であったが、皆一様にほっこりとしていた。
「アローガが泣くだなんて、初めて見たのだ! 鬼の目にも涙なのだ!」
「ううっ、先を越されてしまったでござる……! 拙者もいつかヘルロウ様から、御寵愛を……!」
「そんな素敵なビキニをもらえるだなんて、いいなぁいいなぁ! よかったね、アローガちゃん!」
しかしそのほんわかムードは、ある空気の読めない鬼の一言によって、台無しに。
「ふぅ、その程度の褒賞なら、小生たちはすでに通り過ぎたあとです」
瞬間、夫の浮気を聞かされたかのように、ピタリと涙は止まる。
「……なんどすえ?」
「小生とピンキーを見て、なにか気付きませんか?」
「そ、そういわれてみれば……。ふたりが着てはるのは、地獄から支給されている標準の水着ではないどすなぁ。……ま、まさか……」
さきほどまでの幸せな表情はどこへやら、青ざめた顔でミヅルのパンツとヘルロウのキトンを交互に見やるアローガ。
「そう、そのまさかですよ、小生たちの水着は、ヘル……」
「わああっ、ミヅル!? それ以上言っちゃダメっ!」
慌てて水色の口を塞ぐピンキー。
「知ったらアローガちゃんがスネちゃうと思って、ずっと黙ってたのにっ!」
こっそりと耳打ちして釘を刺したところで、もう手遅れであった。
衝撃の事実に、アローガは打ちのめされたようにぺたんと座りこむ。
「ヘルロウ様と、お揃いの水着やなんて……! まさか、ペアルックやったなんて……! そ、それやのに……うちはまだ、こんな毛皮止まりやなんて……! うっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
そしてとうとう、わんわん泣き出してしまった。
「ほんに、ほんにいけずやわぁ! うちがこれほどまでにヘルロウ様を思うてるのに! わあんわあん、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
いつもは凛とした京美人の号泣に、亡者はもちろん、鬼たちもオロオロ。
その問題を引き起こしてしまったヘルロウは、
「な、なんだよ!? もっと高級な毛皮じゃなきゃ嫌なのか!? しょうがないだろ、いまはそれくらいしかないんだから! これでも、ミヅルやピンキーの水着より、ずっといいんだぞ!?」
まるでトンチンカンな説得で、さらに火に油を注いでいた。




