11 禁断のクラフト
ヘルロウの新たなるクラフト、それはお湯を沸かすことから始まった。
お手製の大きめの石鍋に水を張り、カマドの上に載せて火を付ける。
水が沸騰するまでの間に、採ってきた葛を、葉っぱと根っこと蔓に分ける。
【葛の葉】 素材レベル:1
葛より分けた葉。
【葛の根】 素材レベル:1
葛より分けた根。
【葛の蔓】 素材レベル:1
葛より分けた蔓。
葉っぱと根っこは干し、蔓は束ねて水の中に入れる。
しばらく待つと蔓が煮えはじめる。
蔓が柔らかくなるまで待って引き上げる。
茹で上がった蔓を枯れ草で覆って発酵を促し、しばらく放置。
すると緑色だった蔓は茶色に変色する。
あとは水で洗いながら外皮を剥くと、白い筋のようなものが採れる。
鬼たちはすでにその場にはおらず、他の作業をしていたが、唯一、付かず離れずで手伝っていたアローガが、切れ長の目をさらに細くして見つめていた。
「……それは、なんなんどすか?」
手間がかかったわりにはたいした物が採れた様子が無かったので、やや残念そうであった。
「これか? これはな……『葛糸』だ……!」
【葛糸】 素材レベル:1
葛の蔓を発酵させ、中の繊維を取りだしたもの。
「く……葛糸? もしかして、糸を創りはったんどすか? 糸がそないな風にしてできるとは、うち、知らなかったどす」
「これは植物繊維といって、植物から採れる糸なんだ。これさえあれば、なんでもできるぞ。たとえばロープなんかは今までは芋の蔓を使っていて、耐久性と伸縮性に難ありだったが、葛糸でロープを創ればその問題もクリアできる」
ヘルロウは新しいオモチャを手に入れた子供のように嬉々としてた。
「それに……こんな物まで創れるようになるんだぞ」
新しい使い途を示すべく、そばにあった棒を取り、石のナイフで削りはじめた。
何を創るつもりなのだろうと、キョトンと見守るアローガ。
細く削った棒の両端に切り欠きを付け、できたばかりの葛糸をこよって、その切り欠きに結びつけると……。
「……あっ……!? あぁ~れぇ~~~~っ!?!?」
次の瞬間、絹を引っ掻いたような悲鳴が、村中を引き裂いた。
作業のため散っていた鬼たちが、どやどやとなだれ込んでくる。
「なになにっ!? なにがあったの!?」
「いまのは、アローガの声だったのだ!」
「拙者と等活地獄でペアを組んでいても、一度たりとも上げたことがないような、すごい悲鳴でござった!?」
「ふぅ、今度は何だというのですか?」
駆けつけた鬼たちは、ヘルロウの家の中で……とんでもない光景を目撃した。
まるで暴力亭主にぶたれた妻のように、なよなよと身体を折って地に伏すアローガと……。
そして仁王立ちのヘルロウを……!
しかし彼らの度肝を抜いていたのは、そんなことではなかった。
「……へっ、ヘルロウ様っ!? そそそそそ、それはっ!? うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?!?」
見えないパンチを受けたかのように、吹っ飛ぶ鬼たち。
折り重なるようにして倒れた彼らに、ヘルロウは肩をすくめた。
「まったく、揃いもそろって、大げさなヤツらだな……」
「おおお、大げさって! そんなものを見せられたら、こんな風にもなるよっ!?」
「ヘルロウ! な、なんというものを持っているのだ!? そんなものを持っていては、ダメなのだっ!」
「な、なんという所業! ヘルロウ様に、怖いものなどないというのでござるか!?」
「か、神を恐れぬ少年だとしても、まさかここまでとは……!」
鬼たちはヘルロウの手にあるものを見て、ワナワナと震えていた。
滅多なことでは取り乱さないミヅルですら、血の気を失っている。
鬼たちを阿鼻叫喚の渦に陥れていたのは、なんと……!
【木の弓】 武器レベル:2
木の棒を削り、両端に葛糸を付けたもの。
ただの、『弓』っ……!?
地獄ではそれよりもずっと物騒な金棒を振り回し、それよりもずっとおどろおどろしい器具で亡者たちを拷問にかけている鬼たちが、なぜ……?
なぜ何の変哲もない『弓』を、葵の印籠のごとく恐れるのか……?
「まぁ、しょうがないか。弓といえば『神の武器』だからな」
……弓の使い手として思いつく存在といえば、天国の『天使』であろう。
それとは逆に、地獄の『鬼』が弓を使っている姿は、あまり……というか、ぜんぜん想像できない。
それは、なぜか……?
弓というのは、『神が与えし神聖なる武器』とされているからだ……!
この世界においても、弓というのは神から認められた天使か、ごく一部の人間しか使うことが許されていない。
矢を遠くに飛ばすという行為が、『魔法』と同じであるとみなされているのだ。
なお地上では、『魔法』も選ばれた者しか使うことができない。
ヘルロウは大胆不敵にも、神によってのみもたらされる武器を、勝手に創り上げてしまったのだ……!
多くの者たちがそのことを知ったら、きっとこう声高に叫ぶことだろう。
……貴様は、神にでもなったつもりか……! と……!
だからこそ鬼たちは、こんなにも怯えていたのだ。
「へ、ヘルロウ君が神様の武器を創ったなんてことがわかったら、大変なことになっちゃうよ!?」
「そうどすえ! 地獄のエンマ様どころか、ゼウス様もお怒りになるどす……! それどころか、シャカ様だって黙っておられないはずどす!」
「だーっ!? シャカ様が怒ったら、この地獄ごとなくなってしまうのだ!」
「拙者たちはすでに、ヘルロウ様に忠義を誓った身……! この事は拙者たちだけの胸にしまっておくでござるから、今すぐそれを……!」
鬼たちは「殿中でござる」とばかりにヘルロウに這いより、足元にすがりついた。
しかし当の少年は、事の重大さを理解していないのか……。
それとも誰よりも理解しているかのように、シニカルに笑った。
「地獄にこんな村まで創っといて、もう今更だろ」




