10 班分け
ヘルロウの栄養作戦によって、亡者たちはみるみるうちに壮健なる姿を取り戻していく。
骸骨のようにこけていた頬、あばら骨の浮き出ていた胸は少しずつふくよかに。
逆にぽっこりと膨らんだお腹はしぼみ、スッキリと。
曲がっていた背骨はシャッキリ、濁っていた瞳はピッカリと……!
まさに目の醒めるような変りっぷりに、鬼たちも驚いていた。
「わあ……! すごいすごい! みんな、すごく素敵になったね!」
「今までは、餓鬼のように醜かったというのに、えらい変わりようどすなぁ!」
「ふぅ、これが亡者本来の姿なのですよ」
「えばーっ! そういえば、三途の渡しに来たばかりの亡者たちは、みんなこんななのだ! 栄養がなかったから、餓鬼みたいになっていくだなんて、知らなかったのだ!」
「ううむ、腕はまだ枝のようでござるが、老木というより新緑のようなみずみずしさ……! そしてなにより、目に力がある! ヘルロウ様のおっしゃっていた通り、これはヘルロウ村の大きな礎となるでござる!」
亡者たちが精気を取り戻してくると、村全体が自然と活気に満ちてくる。
ヘルロウは満足そうに頷いた。
「まだまだ完全ではないが、これならいろんな作業を任せても大丈夫だろう。今までは畑を耕すくらいだったが、これからはお前たちの力で、この村を大きくしていくんだ!」
少年がハッパをかけると、大人も子供も老人も、男も女も、そして鬼も、
「おおーーーーーーーっ!!!!」
大いなる鬨の声で応えた。
それからヘルロウは、労働力として使える100人の亡者たちを、20人ずつの5班に分けた。
まず第1班は、『農耕班』。
これは、今までずっと行なってきた、畑でサツマイモを栽培する作業をする班である。
それまでは、労働力である100人すべてをここに費やしていたが、それを5分の1にまで減らしたのだ。
となると、必然的にひとりあたりの作業量が増えていくのだが……。
パワーアップした亡者たちは、体調不良や身体の故障を訴えることなく、それらの作業を難なくこなすことができた。
つぎに第2班は、『漁猟班』
これは毎日、三途の川まで出かけて行って、魚を獲り、水を汲んでくる作業をする班である。
魚は言うまでもない貴重な栄養源である。
そして亡者たちは栄養を摂取することによって身体の代謝が再開したので、より多くの水が必要となったからだ。
そして第3班は、『家事班』。
これは食事の準備を筆頭とし、村の掃除やゴミの処理などの、皆が村で快適に暮すための作業を行なう班である。
今までは食事メニューが『焼き芋』しかなかったので食事の準備は適当だったのだが、これからは干物の下ごしらえや芋の蔓を剥くなどの『調理』が必要となってきたためである
さらに第4班は、『拡張班』。
これは村に新しい家を建てたり、家具や設備などを作る班である。
この班がいちばんの重労働だったので、亡者の中でも力のある者たちが選ばれた。
そして、最後の班は……。
と、その前に……。
その班が誕生するキッカケとなった話から、先にすることにしよう。
「うん、思ってたとおりだ。やっぱり地獄でも『葛』は育つんだな」
ヘルロウは以前、葛の種を撒いておいた村のはずれにいた。
栄養を得た亡者に負けないほどの見事な躍進っぷりだったので、またしても満足そうである。
同行していた鬼たちは、地獄の一部を浸食するかのように伸びている、葛の葉に唖然としていた。
「わぁあ……! すごい! これが『葛』っていうの!? まるで、緑のじゅうたんを敷き詰めたみたいだね!」
「壁なんて、緑色の壁紙みたいどす。壁を伝って伸びるやなんて、不思議な草どすなぁ」
「色のない地獄に、ここだけ色彩がある……不思議なものですね」
「えばーっ!? これはもしかして、わたしが捨てたハズレ種!? 大きくなったらこんなにかわいい葉っぱになるだなんて、知らなかったのだ! アタリ種だったのだ!」
「ヘルロウ様にかかれば、なんでも百発百中でござるなぁ! それにヘルロウ様がお育てになったものだから、上味であるに違いないでござる! 拙者、さっきから腹が鳴りっぱなしでござる!」
期待に満ちあふれた瞳の鬼たち。
彼らはごちそうを食べてからというもの、すっかりヘルロウに餌付けされてしまっていた。
「いや、これはまだ食べない。食べることはできるが、それは最後の最後だな」
すると鬼たちは、目に見えて落胆した。
「ええっ!? 食べないのぉ!? じゃあ、なにに使うものなの!?」
「これで、新しい『食べ物』を手に入れるんだ」
「だーっ!? どういうことなのだ!? 食べないのに食べ物を手に入れるだなんて、意味がわからないのだ!」
「一種の禅問答ですね。心を無にすれば、食べなくても食べた気分になれるというやつです」
「ミヅルの言っていることはいつも奇っ怪でござるが、それは拙者もわかりもうした! 『武士は食わねど高楊枝』ということでござるな!」
「いや、そうじゃない。俺はそういう、ど根性的な精神論が大嫌いなんだ。まあそれはいいとして、適当に摘んで帰るぞ。虫が付いているはずだから、それらは全部取り除いて、この虫かごの中に入れてくれ」
「だーっ!? 気持ち悪いから嫌なのだ! わたしは虫さんを見るだけで、虫さんが走るのだ!」
「でもダーツエヴァーちゃん、この虫さんなんてかわいくない?」
「えばーっ! 丸っこくて赤くてかわいいのだ! これはなんという虫さんなのだ?」
「さあ? ヘルロウ君、知ってる?」
「それはテントウムシだな。ナナホシテントウと言って、アブラムシやハダニを食べるんだ。生物農薬になるから、連れて帰ってもいいぞ」
「えばーっ! とっても気に入ったのだ! ナナホシテントウさんを、いっぱい集めるのだ! みんなでお家に帰るのだ!」
ヘルロウは鬼たちに指示して、リアカヤックいっぱいの葛の葉と蔓を収穫。
虫はより分けて、益虫のみ虫かごに入れて持ち帰る。
【葛】 素材レベル:1
マメ科の植物。
【ナナホシテントウ】 素材レベル:1
テントウムシ科の昆虫。
赤色の鞘翅に七つの黒い点があることからこう呼ばれる。
鬼たちを引きつれ家に戻ると、さっそくクラフトを開始した。
それは、またしても地獄の歴史を覆すこととなる……。
そして天国への挑戦状ともとれる、とんでもないクラフトであった……!




