03 新たなる武器
ヘルロウの手のひらを覗き込む、ゴルバとアローガ。
ダーツエヴァーは視界の隅にも入れたくないとばかりに、背中を向けてしまった。
「ヘルロウ様、それは、いったい何なのでござるか?」
「なんや、芋虫みたいな種どすなぁ」
ヘルロウはそれをギュッと握りしめると、ニヤリと笑った。
「これはな……『葛』の種だ……!」
【葛の種】 素材レベル:1
ダーツエヴァーの手から鞘ごと出された種。
「クズ……? しょうもないもん、どすか?」
「地上では害草扱いされているところもあるが、コイツは凄いんだぞ」
「ヘルロウ様のおっしゃっていた、『えいよう』が豊富にあるということでござるか?」
「これは食用にもなるが、栄養面ではそれほど見るべきところはない。しかし他の栄養を引っ張ってくるのにいろいろと役に立つんだ。用途はその時に説明するとして、さっそく撒いてみよう」
ヘルロウはゴルバとアローガに出すはずだった命令をいったん保留にし、ふたりを引きつれて家を出る。
ダーツエヴァーはずっとふてくされていて、ついてこなかった。
ヘルロウは家の前に止めてある、『アウトリガー・リアカヤック』に乗る。
水陸両用であるこのカヤックは、ヘルロウ軍の遠出の足としてすっかり定着していた。
ちなみにではあるが、ピンキーとミヅルも、このカヤックを複数引きつれて『三途の川』へと向かっている最中である。
ヘルロウはカヤックを漕ごうとしたが、ゴルバがかわりをを申し出てくれたので、任せることにした。
マッチョ鬼のパワフルな漕ぎで『ヘルロウ村』を出発し、地獄の壁沿いを進んでいく。
ちょうど隣の『黒縄地獄』のあたりまで来ると、遠くに山々が見えるようになった。
地獄外周は河原と荒野が広がっているだけなく、山や谷、森や湖などの自然も存在する。
それどころか、餓鬼たちの集落もあるというのだが……。
それはさておき、村からだいぶ離れた所でカヤックを停めるヘルロウ。
キトンのポケットにしまっていた鞘から種を取り出すと、まずは地獄のある外壁に向かってひと撒き。
そして壁のない広々とした地面に向かって、残りを撒いた。
「これでよし、っと。あとはしばらく待てば葛が生えてるだろう」
「それだけどすか? 土を耕したり、水をやったりしなくてもいいんどすか?」
「ああ。葛は生命力と繁殖力の強い草だから、ほっといても大きくなる」
「壁に向かって撒いたのと、何もないところに向かって撒いたのは、なにか意味があるのでござるか?」
「葛は地面に沿って横に伸びたものと、壁に沿って縦に伸びたもので成長のしかたが違うんだ。それによって用途も変わる」
「壁が必要なんどしたら、村のそばにある『等活地獄』の壁ではあかんのどすか? 村から近いほうが、収穫も楽どすのに」
「葛は虫が好む植物なんだ。葛が生えたら、きっと地獄の虫どもが集まってくるだろう。地獄の虫には作物を荒らすヤツがいるから、畑に移りにくいように離れた所にしたんだ。でも中には益虫もいるから、ソイツは俺が捕まえて、畑に移すつもりだ」
ヘルロウは言いながら、遠い目をする。
その先には、砂埃にかすむ黄土色の山々があった。
「そして、虫が集まってくるってことは……他のヤツらも集まってくるだろうから、ここでいいんだ」
鬼たちはその言葉の意味がわからず、顔を見合わせあっている。
ヘルロウは次の作業の合図である、手をパンパンと打ち鳴らした。
「さて、ちょっと横道にそれちまったが、村に帰ろう。次はお前たちの作業の準備をしなきゃな」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
村にもどったヘルロウは、木材を使ってあっという間にあるものを創り上げる。
珍妙なモノを見るかのような鬼たちに向かって、ヘルロウは言った。
「これは『スコップ』っていう武器だ」
【木のスコップ】 素材レベル:1
同レベルの土を掘れる。石は掘れない。
「これが武器なのでござるか? 拙者にはとてもそうには見えないでござる。どちらかといえば、農具のような……?」
「ヘルロウ様がおっしゃるんやから、武器なんやろうけど……。なんや槍や棍棒に比べたら、弱そうな武器どすなぁ」
「ああ、そのふたつに比べたら、単純な攻撃力だけでいえば劣るだろうな。しかし使い方によっては、とんでもない武器になるんだぞ」
「まさか、そんな平べったい板がついた棒が、尖った槍や、太い棍棒より強いだなんて……。いくらヘルロウ様のおっしゃることでも、ありえないでござる」
「そう思うなら、ちょっと組手でもやってみるか? ゴルバ、お前は槍か棍棒で、俺から一本取ってみろ」
「いや、やめておくでござる。拙者は手加減というものができぬ性分にござるから、ヘルロウ様に怪我などさせてしまっては、申し訳が立たないでござる」
「……俺に負けるのが怖いのか?」
「い……いくら我が主とはいえ、武人である拙者を臆病者呼ばわりするのは、承服できぬ! そこまでおっしゃるのであれば、お相手つかまつろう!」
ヘルロウの挑発にあっさり乗ってしまったゴルバ。
木のスコップのヘルロウに対し、ゴルバは木の棍棒を用いて対峙する。
身長差では2倍以上、体格差ではそれ以上ある両者の戦い。
興味本位で集まってきた村の亡者たちの予想は、『ゴルバの圧勝』一択であった。
しかしその予想は、あっさり覆されることとなる。
スコップを下段に構えていたヘルロウは、その切っ先を地面に突き刺すと、
……ザッ!
すくい上げた土を、ゴルバの顔面めがけてぶっかけた。
「うわっぷ!?」
思いも寄らぬ攻撃方法に、ゴルバが怯んだ直後、
……バキィィィィィィィィィィィーーーーーーーーンッ!!
見事な胴打ちが、八つに割れた腹筋の側面をとらえていた。
「し……しまったぁ! ま、まさか、そんな使い方をする武器だったとは……! 一生の不覚でござるっ!」
ガックリと膝を折って崩れ落ちるゴルバ。
いざとなったらヘルロウの助太刀しようと、ゴルバの後ろで石の金棒を構えていたアローガは大喜び。
「あああ~~~! ほんに、ほんにヘルロウ様はとんでもないお人やわぁ! さすがうちが一生を捧げると誓ったお人……! うちはもう、なんどヘルロウ様に惚れ直せば気がすむんやろうか……!?」
金棒を取り落とし、もじもじくねくねするアローガ。
ヘルロウはなぜ、挑発をしてまでゴルバとの組手を行なったかというと……。
ずっと懐疑的だった鬼たちに、思い知らせるためだったのだ。
『スコップ』は武器であるということを……!
実際の用途はともかく、彼らに武器だと思い込ませることができれば、『獄技』での増殖が可能となる。
ヘルロウはこれで、スコップの量産を目論んだのだ。
木のスコップは、スプーン部分に平たい木が必要だったので、太い木の少ない地獄では創るのを控えていた。
しかし魔法で増やせるとなれば、話は別である。
スコップのかわりにツルハシでの代用もできなくはなかったのだが、これから本格的にアレをするとなると、やはりスコップでないと効率が悪い。
アレとは、もちろん……!
そう……!
『地獄を掘る』っ……!




