04 生きていくために
ヘルロウはこの地獄に堕とされて間もない頃、クラフトの素材を求めて『三途の河原』の地面を掘ったことがあった。
しかし30センチも掘らないうちに、硬い岩にブチ当たってしまった。
その時ヘルロウは、地獄の底は『閻魔岩』という、この地獄で最も硬い岩で覆われていることを思い出す。
同時に、地獄の底というのは『すり鉢状』になっていて、エンマ城のある山に近づけば近づくほど、奥まで掘れるということを思い出した。
それらの知識はすべて、堕天する前に在籍していた『天使学校』で得たものである。
そしてヘルロウは、より深く地面を掘ることができれば、さらなる素材が手に入るであろうと思っていた。
『三途の河原』から引っ越しをし、今は地獄の外壁のそばに居を構えているのもそのためである。
今までは『ヘルロウ村』を立ち上げるための準備で忙しかったため、地面を掘るヒマがなかった。
しかし村での生活基盤ができあがり、亡者という新たなる労働力も得た。
さらに『スコップ』という、穴掘りに最適な道具が手に入ったのであれば……。
地獄を掘らずに、いられようかっ……!
「よぉし、ゴルバ、アローガ! お前たちの作業は『穴掘り』だ! 農作業にまわっている亡者を何人か選んで、『スコップ』を渡してやってくれ! 掘る場所は、村の外側だ! 村をぐるっと囲むように掘ってくれ!」
これにはふたつの意図があった。
ひとつ目はもちろん、素材の採取。
そしてふたつ目は、掘割の作成。
掘割というのは、ようは城のまわりなどにある、『お堀』のことである。
その言葉に真っ先に反応したのは、他ならぬゴルバであった。
「掘割……! エンマ城の回りにもあるでござる! ついにヘルロウ様は、城を創られるおつもりでござるか!?」
「こんな小さな村に、城なんて創ったってしょうがないだろ。まあ、掘割の役割は似たようなものになるかもしれないけどな」
ゴルバとアローガは張り切って亡者を引きつれ、張り切って穴掘りを始めた。
ヘルロウのクラフトしたものを元に複製した『スコップ』は寸分違わず、力のない亡者でも効率的な穴掘りを可能とする。
【木のスコップ】 素材レベル:1 ※マジックアイテム
獄技によって複製された、木製のスコップ。
性能は『木のスコップ』と同等。
村を囲む掘割が創られている最中、ヘルロウはそこに架ける跳ね橋を創り上げた。
【木の跳ね橋】 素材レベル:2
木材と芋づるで創られた簡素な跳ね橋。
村側にあるレバーを回すと蔓が巻き取られ、橋が上がる仕組みになっている。
「ヘルロウ様、掘割ができましたえ! うちが一番がんばったんどす!」
「よくやった。こっちもちょうど跳ね橋ができたところだ」
「ええっ!? いつの間に橋を……!? しかも上げ下げできる橋だなんて……! エンマ城にしかないものを、こんなに簡単に創り上げてしまうだなんて……なんというお人でござろうか!」
「でも、橋ってずっと使うもんやないんどすか? それを上げる必要なんてあるんどすか?」
「ああ、跳ね橋というのはふたつの用途があるんだ。まずひとつ目は、下を船などが通る場合、橋を上げることで全高の高い船でも通れるようになる」
「ふたつ目は、外敵を防ぐ用途にござる! 橋を上げておけば、慮外者の侵入を困難にするうえに、戦の時などには迎え撃つのが容易となるでござる!」
「なるほど、よくわかりましたどすえ。でもふたつとも、ヘルロウ様のお口からお聞きしたかったわぁ」
「くっ……!」
「だが掘割としてはまだ完成じゃないんだ。掘った穴のまわりを石で補強しなきゃならんのと、掘の内側を覆う外壁を創らなければ、完成とはいえない」
「じゃあ、次はそれをやればよいのでござるか?」
「いや、それはまだいい。どちらも石を積み上げなきゃならんからな。それはかなりの重労働になるはずだから、それこそ亡者たちが力を付けてからでないとな。……ところで、穴からはなにか出たか?」
今回の掘割のクラフトは、採掘の意味もある。
ヘルロウは期待を込めて尋ねた。
しかし鬼たちは、申し訳なさそうにしている。
アローガはヘルロウを失望させるのが嫌だったので、その報告の役割をゴルバに押しつけていた。
「それが、骨ばかりだったでござる。あとは、岩ばかりで……」
ゴルバが指さす先には、土と採掘したものがより分けられた山があった。
そこにはたしかに、岩と骨ばかりで、見るべきものはないと思われたのだが……。
少年の顔が、年相応にパアッと明るくなった。
「やった! やっぱり俺の予想は間違っちゃいなかった! エンマ城に近づくほどいいものが出土するってのは、本当だったんだ!」
鬼や亡者たちとってはゴミ以下でしかなかった山に、目の色を変えて飛びつくヘルロウ。
アローガは急に態度を変えた。
「そ……そうどすえ! ヘルロウ様によろこんでほしくて、うち、ぎょうさん掘ったんどすえ! その……骨みたいなのを……!」
「その骨が、そんなに価値のあるもでござったか!」
「違う違う。俺が喜んでるのは骨じゃない。いや、骨もたしかに役に立つから嬉しいけど、ずっと欲しかったものが、ついに手に入ったんだ……!」
サンタクロースからのプレゼントのように、両手で包み込むようにして、それを抱き寄せるヘルロウ。
羨ましそうに見つめるアローガの視線の先には……ちょっと赤みがかった小さな石があった。
「え、ええなぁ……うちもあんなふうに、ヘルロウ様に……」
「ヘルロウ様、それはいったい何なのでござるか!?」
「これか? これはな……人間が生きていくために必須の……五大栄養素以上に、大切なものなんだ……!」
【岩塩】 素材レベル:1
塩化ナトリウムでできた鉱物。
舐めるとしょっぱい。




